「シモン、こすぷれって一体何ですか?」
「………はい?」
昼休み。いつもならカミナ達と一緒にワイワイ騒ぎながらの昼食タイムなのだが、
その彼らがまた職員室に呼び出しを喰らってしまった為、今日はニアと二人。
彼女の手作り弁当に舌鼓を打ちながら不意に投げ掛けられたこの質問に、
シモンはぽろっと箸を落としながら固まった。
ちなみにここは教室のど真ん中である。勘弁して頂きたい、マジで。
自然とシモンは声のボリュームを落として話し始めた。
「…に、ニア?…えーと…何だって?」
「キヤルさんから聞きました。愛する者同士が、更に深い繋がりを持つには、
こすぷれというものが不可欠である、と」
「(…キヤル…)」
彼女の兄上様は何をしているのか。あの子はどこへ向かっているのか。
今度キタンとじっくり話し合う必要がありそうだ…なんてことを考えながら、
シモンは頭を抱えて項垂れた。
おかしい、さっきまで実に楽しく爽やかなランチタイムを満喫していたはずなのだが。
どこでどう間違ったらこうなるのか。
「いや、あのね…ニア。そのー…それは絶対必要というわけじゃ…」
「でもシモン。私はもっとシモンとの繋がりを深いものにしたいと思っているの!」
「(ぁぁ…滅茶苦茶嬉しいのに手放しで喜んじゃいけない気がする…!)」
両手をきゅっと握りながら、真っ直ぐこちらを見つめる彼女。
こうなってしまったら、もう『こすぷれ』がどんなものであるか理解出来るまで
彼女は引かないだろう。ニアに0から知識を教え込むのがどんなに難しいことか、
シモンは骨の髄まで思い知っている。故に、悩む。苦悩する。
…あ、いや…実際教える行程についてはやぶさかではないわけだが。
そりゃあ、シモンも男の子である…至って健康な。
そりゃあ、彼女にコスプレさせて、あんなことやこんなことをしてくれたら嬉しい。
嬉しいに決まっている。
しかし…何か『越えてはいけない一線』というやつを感じてしまうのだ。
もうそこを踏み越えてしまったら、戻って来れないような気がするのだ。
別にそこまで気にしなくても良い問題なのだが、シモンにとっては違う。
ニアに対して、言うなれば『そういうアレ』丸出しなことを求めてしまうのは、
何となく後ろめたいのだ。
彼女の肉親に知れたらと思うと、それもまた実に恐ろしい。
きっと自分は生きて彼女に笑顔を向けることは出来なくなってしまうだろう。
「シモン…」
「(ぁあ〜…ちょっと待ってくれニア…その目はやめてくれ、その目だけは!)」
駄目ですか?という風に眉を寄せながら潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくるニア。
これはひどい。
「………な」
「な?」
「ナース…さん…とか…」
「ナースさん?」
後日、ニアは身を以て『コスプレ』とは何かというのを知ることとなる。
ついでにナースという単語の意味も。