あれから数日、アディーネは積もりに積もった苛立ちをヴィラルに食らわせていた。完全に八つ当たりである。  
それも甘んじて受けておくしかない。  
罰ならば気が済むまで受けます――確かにあの時言ったのだ。戦士に二言は無い。  
つまる所、気が済むまで罰を受けなければならない。  
 
「――ヴィラル」  
椅子に腰掛けたアディーネの人差し指がヴィラルから、自身の目の前の床へと順に指す。  
目の前、では無く、指先はどうみても床に向いている。  
目的の分からぬ命令のまま足元に跪いたヴィラルをアディーネは見下ろした。  
「アディーネ様、これは?」  
ただ忠実に従うヴィラルを眺め、瞳に苛立ちとは無縁な楽しげな色を乗せて、  
徐にアディーネはヴィラルの股の間にヒールを脱いだ足を乗せる。  
「不公平じゃないか」  
「っ、アディーネ様?」  
一瞬その意味を受け取れずに、しかし徐々に掛けられていく重みが、ヴィラルの予想を現実に変えていった。  
「ぐああッ!」  
痛みに身を捩ればすかさず尾がヴィラルを打つ。鼻血が散った。反動で踵が食い込む。  
手加減を知っているのかいないのか。雄のみが知る痛みは永遠に解らないだろう。  
「ったく、アタシだけ痛い思いをするなんて真っ平御免なんだよ」  
せせら笑いながら圧迫される。  
不規則に襲いくる刺激――爪先でなぞられ、  
軍服の繊維でかりかりと引っかかる不可解な感覚に快感が上ってくる。  
足裏に伝わる抵抗と硬度を増したモノにアディーネは眉を顰め、不快感を露わにして更に踏みつけた。  
「ひ…ぐぁッ!お止め、くぅ…!」  
「あっはははははは!聞こえないねェ!」  
掠れた声での懇願はアディーネを満足させただけらしい。  
哄笑と共に爪先を踊らせて、踵で、土踏まずで、薄い布地に浮かび上がる性器を嬲る。  
ヴィラルの中心は益々猛り熱を持ち始める。  
自問する。獣とは。生命の危機に陥った際、子孫を残そうと性欲を働かすと聞く。  
今がその時なのか。俺は獣なのか。否、獣でも出来損ないでもない、優れた獣人だ。  
俺は、変態なのか?  
「さっさとイっちまいな」  
絞り取られるように踏みつけられたまま精を放つ。  
腰を跳ね上げ、行き場のないそれは軍服の中で暴れ回り、纏わりつく液体が布地を湿らせた。  
 
アディーネは、この事実が認められないとでも感ずるように放心しているヴィラルの顔を上げ、  
頬を撫でるともう一つ何かを企んだような顔をする。  
「これで終わりとは思わないことだね」  
おもむろに爪先で、今も先端から液を垂れ流している肉棒を引っ張りだし、  
吐き出された白濁液の残滓ですっかりまみれたそれに爪先を滑らせた。  
「き、汚い、ですッ」  
「ああ汚いさ。その汚いモンをアタシの中に入れたのはどこのどいつだってんだ?  
汚いのがテメエにお似合いなんだよ!」  
滑らかな肌が妖しく肉棒を擦り、  
指でぐちゅぐちゅと泡立った音を鳴らして射精直後の敏感な部分に刺激を与える。  
それだけで屈辱的且つ気が狂いそうな程の快感が押し寄せてくる。  
「う…っく、あ…」  
抵抗できず、獣のように呻く事しか叶わない。  
再び訪れる絶頂の予感に合わぬ歯を噛み締める。  
唐突に足の圧迫感が消え去るのを感じ混乱したままアディーネを見上げた。嗜虐的な瞳がヴィラルを見下ろしている。  
「イきたけりゃ、テメエで勝手にイきやがれ!」  
アディーネは椅子の上でふんぞり返った。柔らかな足がこちらに伸びており、好奇の視線に曝されている。  
これ以上耐えることも困難で、投げ出された足にそろりと怒張を擦り付ける。  
最早上官に対する礼儀も知らず、むしろそれが更なる快感を呼び、  
自らのもので汚してしまうことに背が粟立つ。  
達してしまうのに時間は掛からず、二度目だというのに一度目と何ら変わらない勢いで降りかかる精液。  
喉をひゅうひゅうと通る空気が辛い。  
「嘗めな」  
白い足。欲液にまみれた足。何が良くて自分の出したものを嘗め取らなければならないのか。  
しかし熱が去った後の罪悪感がヴィラルを苛み、自らを納得させアディーネの足に熱い舌を這わす。  
アディーネが吐息を震わせる。そっと表情を盗み見ると、平静を装ってはいた。  
わざとらしくゆっくりと嘗め取る。指先を口に含んだまま、アディーネに問う。  
「楽しい、ですか」  
 
答えの代わりに尾で頬を打たれ、アディーネの方が顔を歪めた。  
ヴィラルの尖った歯がアディーネの指先に擦り傷を付けていたらしく、肌に桃色の線を引いていた。  
「あまり動くと大事な足に傷が付きます」  
「…続けな」  
楽しい。虐げられている身の、ささやかな逆襲が。  
止まっていた鼻血が再び流れ出てアディーネの足に滴った。構わず舌で拭う。  
嘗めとった先から汚れていくものだから手間が掛かる。  
血の味が本能を呼び起こし、しかしこれ以上はと欲望を無理矢理抑え込み、  
自身の替えの軍服があったかどうかをぼんやりと考えた。  
 
 
 
 

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