それはごく普通の日常。
ごく普通の朝。
ごく普通の朝食の風景。
…のはずだった。
「シモン、なかだしってなんですか?」
「ぶはーっ!」
あまりにも唐突すぎるニアの質問に、シモンは味噌汁を吹き出した。
「シモン、汚いですよ」
シモンの寝間着に垂れた味噌汁を拭きながら、ニアがちょっと怒った顔をする。
「だってニアがいきなり変なこと言うから…」
こちらはこちらで、テーブルに飛び散った味噌汁を拭いているところだ。
互いに拭き終わったところで朝食が再開され、ニアは会話を続ける。
「何が変なんですか?」
「いや、その、朝食の時に言うことじゃないだろう……せめて夜、とか」
朝イチでそういう関係の言葉を聞くのは、さすがに勘弁して欲しかった。
勘弁して欲しかったのだが、やはり気になるものは気になるわけで。
「ところで、どこでそんな言葉聞いたの?」
「あら、シモンとリーロンさんが話していた時、私も一緒にいたじゃないですか」
「うっ……あの時か」
それはシモンがニアを救うべく、リーロンに助けを求めた時のこと。
シモンの螺旋遺伝子でニアの胎内を満たせば助かるとのことだったのだが…
その時にニアも一緒にいたため、『なかだし』という単語を耳にしてしまったのだ。
「シモン、あの時は答えてくれませんでしたよね。私には言えないことなのですか?」
「いや、そうじゃないけど…て言うより、実はもうニアにはたっぷりと『中出し』してるわけで…」
「え?そうなのですか?全然気づきませんでした!」
そう言いながら、ニアは自分の身体をじろじろと眺めている。
どこか変わったところがないか確かめているのだろう。
「…特に、何も変わったところはないみたいですね」
「いや、別に今したわけじゃないから…あ、早く食べないと、もうこんな時間だ!」
話を切り上げたいシモンだったが、ニアはそれを許さない。
「はぐらかさないで、シモン。『なかだし』って具体的にはどういうことなのですか?
今、ここで答えてください!なんなら実際にしてもらっても構いません!」
「だから朝っぱらからそれはマズイよ!帰ってきてからなら…俺は……お、俺は……」
と、帰ってきてから『中出し』について説明し、実践することを想像してしまったシモン。
その下半身は若さ故か、反応してしまっていた。
「シモン…」
「ご、ごめんニア…」
「なぜ謝るのですか?」
怒っているわけではないらしい。
「その…シモンのそれが……その、大きくなってしまうことと、『なかだし』というのは、関係があるのですね?」
純粋に好奇心から訊ねているに過ぎないようだ。
「ま、まぁそういうことになるかな」
「あの時、シモンが私をアンチスパイラルの呪縛から助けてくれた時…シモンのそれは、
とても立派で、えーと…そうです!雄々しかったです!」
いきなりシモンのナニを褒め始めるニア。
シモンはニアが何を言いたいのか分からず、困惑している。
「は、はぁ。どうも……ニア、自分がなに言ってるか分かってる?」
「つまり、あの時もシモンは私に『なかだし』してくれたのですね?」
大きくなる=『なかだし』と関係ある。
あの時も雄々しいくらいに大きかった=あの時も『なかだし』した。
ニアはこういう結論に達したようだ。
実際、それは間違ってはいないわけで。
「うん…まぁ、最後の方は絞りとられたと言うか…ブータの尻尾がなかったら枯れてたと言うか…」
ボソボソと答えるシモンの言葉を聞いて、ニアの顔が輝く。
「分かりました!『なかだし』と言うのは、シモンの…シモンの……それを…私に……」
言葉に詰まるニア。恥らっているのもあるだろうが、単語が出てこないというのもあるようで。
続く単語を知るために、ニアはシモンの一点を指差す。
「ん?」
「あの、『それ』はなんというのですか?」
ニアが指差すのは、大きくなったままのシモンのナニである。
「そう言えば、あの時はじっくりと見たりはしませんでしたし、ほとんど触ったりも…」
『なかだし』から興味が移ったのか、顔を近づけてまじまじと見つめながらそっと手を伸ばすニア。
「ニ、ニア…?」
「えい!」
「はぅっ!」
いきなり握られ、シモンは呻き声を上げる。
「あ、凄い…硬くて…熱いです」
寝間着越しとは言え、その凄さは十分にニアの手の中に伝わってくる。
一方のシモンは、突然の奇襲に声も出ずにいたが…
「(ニ、ニアの手は優しくて気持ちよくて…って、そうじゃない!)…だ、だから朝からそれは勘弁してくれ!」
なんとか我に帰り、ニアの手を振り払って脱兎の如く逃げ出す。
「あ、待って!」
シモンを追いかけながら叫ぶニア。
そのまま二人は家の外まで出てしまう。
「待ってくださいシモン!あなたの『それ』は、いったいなんという名前なのですか!?
教えてください!とても立派で、雄々しくて、硬くて、熱くて…その名前が知りたいのです!」
ニアの甲高い声が大声で発せられる。隣近所まで聞こえそうな勢いだ。
シモンは顔を真っ赤にしながら、負けずに大声で叫んだ。
「大声でそういうことを言うなぁ!」
それからしばらくの間、ニアとシモンは近所の方々と会うたびに、クスクスと笑われることになるのでした。
…シモンがキチンと冷静に説明していれば、こんなことにはならなかったのにねというお話。