これは、愛と性欲に支配された男と女の物語である。
人類の英雄であるシモンは、地球政府の総司令の座についている。
普通ならば警備の厳重な官邸に住むところであるが…
『官邸みたいな堅苦しい所に済むのは嫌だ。俺はニアと二人だけで自由に暮らしたい』
と強引にロシウを説得し、カミナシティでも最も治安のよい地域にそれほど大きくない家を建てた。
外に出れば取材だの警備だのがうっとうしいが、少なくとも家にいる間だけは二人だけで静かに暮らせるので、
シモンもニアも満足していた。
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ある朝。
「シモン、ふぇらちおってなんですか?」
「ぶはーっ!」
あまりにも唐突すぎるニアの質問に、シモンは口いっぱいに頬張っていたご飯を全て吹き出した。
「シモン……汚いです」
「ご、ごめん!すぐに取るから!」
顔中ご飯粒だらけにされて、さすがのニアも目を閉じて眉間にしわを寄せている。
シモンは慌てて、ニアの顔についたご飯粒を取っていく。
ついでにニアが目を閉じたままなのをいいことに、それを口に入れていく。
「…シモン」
「は、はい!」
「取ったご飯粒を食べないでください」
「す、すいません!」
ご飯粒を全て取り終わって、顔をタオルで拭いたニア。
既に怒りは収まりつつあるのか、その表情はいくらか和らいでいる。
「本当にごめん!でも、ニアが変なこと言うから…」
「…私、また何か変なことを言いましたか?」
そう。「また」である。
つい数日前、ニアは朝食中に「なかだし」とは何か質問してきた。
その質問で始まった会話から派生したとある事柄のために、シモンは昨日も近所の若奥様に笑われてしまった。
――奥さんにあっちのこともちゃんと教えてあげなきゃだめですよ?大事なことなんですから…
(適当に言葉を濁して立ち去ったが、あれはかなり恥ずかしかった。
近所の奥様連中の噂話のネタになっているかと思うと、俺はともかくニアが可哀想でならない。
だから、今度はキチンと教えなくては)
だがその前に、やはり気になることがひとつ。
「…ところで、どこでそんな言葉聞いたの?」
「キヤルさんに聞きました」
シモンはテーブルに突っ伏してしまう。
「『フェラもしたことないのかよー』って驚かれたんですけど…どんなことなのかは教えてくれませんでした。
フェラがフェラチオという言葉を短縮したものだということは教わりましたけど」
(キ、キヤル…ニアに変なこと吹き込まないでくれ)
だが、知り合いにまでそっち方面のことでからかわれているという事実が、シモンの心に火をつけた。
(俺がもっとしっかりしないとニアが笑われる。こうなったら、ちゃんと教えるぞ!)
シモンは、ここしばらくは見せた事のない気合の入った顔で、ニアを見つめた。
「ニア、分かったよ。ちゃんと教えてあげるから」
「シモン……」
久しぶりに見た熱いシモンの表情に、ニアはいつの間にか完全に怒りを忘れていた。
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シモンの説明が終わった。しかし。
「…分かったか、ニア?」
「全然わかりません!」
「な、なんだってー!」
恥ずかしいのを我慢して説明したのに…とシモンはガックリ。
もっとも、『ダンセイノセイショクキヲコウコウデアイブスル』だの『オオラルセックスノイッシュデアル』だの『シャクハチトモイフ』だの、
そんなことを言われてもニアに理解できるはずもなかったのだが。
ともかく、シモンの苦労は全て無駄となり、ただ恥ずかしさだけが残ったのである。
「もっと分かりやすく説明してください」
「う……」
真剣な眼差しで見つめられ、シモンはどうすればいいか考える。
(兄貴、俺はどうすればいい?これ以上噛み砕いて説明するのは恥ずかしくてできないよ!)
(シモン、男は気合だ!説明するのが無理なら実践で理解させるしかないだろ!)
(えぇ!?今ここで?それはちょっと…これから仕事だし…)
(馬鹿野郎!仕事がなんだ!そんなことはデコ助に任せとけばいいんだ!それよりも大事なことがあるだろう!
いいかシモン、忘れるな!おまえのドリルはニアを突くドリルだ!びびってんじゃねぇ!)
心の中の兄貴は、生前と同じくとても頼もしかった。
「シモン、どうしたのですか?」
「…はっ!あ、いや…分かったよ。……『分かりやすく』説明するから」
シモンは再び、気合を込めた熱い表情でニアを見つめた。
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さて、その時ブータはどこにいたかというと。
二人が食事をしているテーブルの下で、ブータ用に用意されたエサを食べているところだった。
「ぶぃ?」
二人の様子に異変を感じたブータが、エサを食べるのを止めて顔を上げる。
そこでブータが見たものは!
「ぶみゅー!?」
下半身を露出するシモン、そして彼の下半身ににじり寄るニアの姿であった!
「ぶぅぃ?」
二人は一体何をしているのか?
気になったブータは、テーブルの脚の陰に隠れて様子を覗い始めた。
「シモン、これを…咥えるのですか?」
ニアがシモンのモノを見つめている。
彼のモノはブータの記憶にあるカミナのそれよりも大きい。
「あぁ。歯を立てないようにね」
シモンはいつになく凛々しい顔をしている。
だが、顔は凛々しくても下半身を出しているので全然かっこよくない。
「大きい…間近で生で見ると迫力が違いますね…」
そんな事を呟きながら、ニアが恐る恐る手を伸ばし、そしてそっとシモンの竿の部分を握る。
「熱い…それにビクンビクンしてます……これが、男の人の……なんですね…」
ニアの細くてしなやかな指が、シモンの太くて硬そうなモノに絡みついている。
「まずは、どうすればいいのですか?」
「まずは……」
シモンがなにやら説明し始める。
ニアはそれを聞いて頷き、シモンのモノを握った手をゆっくりと上下に動かしていく。
そして、ゆっくりと顔を…いや、口を近づける。
あぁ、これは男女の営みというヤツの一種だとブータは理解した。
そして、それを覗き見るのはあまり褒められたものではないことも。
「ぶぃ…」
ブータはテーブルの脚の陰に横になると、そのまま目を閉じた。
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教えられた通りに、ニアはシモンのモノを一心にしゃぶり続ける。
「んっ、んむっ、はむ……」
「っ、そうそう、舌を使って…その調子」
「れろれろ……ちゅばっ」
「これが『フェラチオ』だよ。わかった、ニア?」
「ふぁい、わふぁりまひは」
口の端から透明の液体を垂らしながらそう答えるニアを、シモンはとても綺麗だと思った。
フェラチオとは何か。
それをニアに身体で教えたシモン。
ニアはフェラチオをするのは初めてなので、当然ながらそれほど上手ではない。
だが、最愛の人に口でされているという精神的な興奮が、シモンをいつもより早く絶頂に導く。
「う…ニ、ニア…もう、出そ……っ!」
(出るって……?)
ニアが何か思うより早く、彼女の口内にシモンの精が吐き出された。
「!? ぷぁっ、な、なに…きゃあっ!」
いきなり口の中に出され、驚いたニアは口内からシモンのモノを抜いてしまったのだが、それがマズかった。
勢い良く吐き出されるシモンの精液が、ニアの顔を汚していく。
それだけではない。髪や身体にも容赦なくぶっかけられ、ニアを白く染めていく。
「シ、シモン!…止めて、んっ!」
精液の放出を押さえようと手を当てるが、それで止まるはずもなく。
ニアは上から下まで余す所なく汚されてしまった。
ひとしきり精液を放出して、シモンのそれはようやく大人しくなった。
我に帰ったシモンは、慌ててニアに詫びる。
「はぁ、はぁ…ご、ごめんニア」
「もう、シモン!いきなりこんな…出すなんて酷いです!それに身体中にいっぱいかけて…全身ベトベトです!」
「ほ、ホントにごめん!我慢できなくって…」
ごめんごめんと謝りながらも、下半身は普段より大きいままだ。
説得力に欠ける謝罪であるが、こればかりはどうにもならなかった。
「それに、変な味がします。喉に引っかかる感じもするし…」
「の、飲んだの?」
「好きで飲んだわけではありません!喉の奥に出されて、仕方なく飲み込んだんです!」
「ご…ごめん」
さっきから謝ってばかりのシモン。
しかしニアは、精液に汚れた顔のままニコリと微笑んで言った。
「いいのです。別に怒っているわけではありません」
「…は?」
どう見ても怒っていたのだが、本人が怒ってないと言うからには怒っていないのであろう。
シモンはほっとため息をつく。
ニアは指に付いたままの精液を弄びながら言った。
「これにシモンの螺旋遺伝子が含まれているのですよね? 私をアンチスパイラルから解放してくれたものが」
「そういうこと、なのかな」
「それを思えば、怒ることなんてできませんから」
微笑みながらそう言って、ニアは指に付いた精液をぺろりとなめる。
「(な、なんか今の仕草、凄いエッチに感じるぞ)」
シモンの下半身がピクリと反応する。
さらに、精液まみれのままの姿もシモンの嗜虐心に火をつけた。
「(ここまでコトに及んだんだし、この先までやっちゃっても問題ないよな?既にそういう仲なんだし)」
萎えかけていたシモンのモノが、再びムクムクと大きくなる。
「(それにニアも怒ってないみたいだし…最近してないし…)」
ついでに目もギラギラさせ、息も荒くなる。
「シモン…?」
「ニア……俺、もう我慢できないんだけど、いいよね?」
「はい?」
シモンは上半身の衣服も脱ぎ捨てて全裸になると、ニアに覆いかぶさるように倒れこんだ。
「ちょっ、シモン…あっ、ダメ……あんっ…ひぁっ…」
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夜、ブータが目を覚ますと。
「あなたは自分の立場を何も分かっていない!あなたは総司令で、人類の英雄なんです!
それが政庁にも顔を出さずに平日の朝から一日中みだらな行為をして…大衆に示しがつきませんよ!
それにニアさんもニアさんです!シモンさんを抑えていただかないと!
全く、二人だけで家に置いておくから、こういうことになる!自由に暮らしたいなどというあなたの頼みを
聞いたりせずに、ちゃんと総司令専用の官邸に住んでいただくべきでした!」
裸に上着を羽織っただけの姿で床に正座したまま、ロシウに怒られるシモンとニアの姿が。
寝ていたブータは知らないことだが、一日中政庁に顔を出さなかったシモンを心配したロシウが、
何かあったのかと一人でシモンの家を訪ねてきたのである。
その時シモンとニアは、ダイニングのテーブルの上で十数回目の行為に及んでいる最中だったわけで…
「すまない、ロシウ」
「すみません」
うなだれて謝罪するシモンとニア。
それを見てロシウはとりあえず今日はここまでと思ったのか、
「本当に、お願いしますよ!今度こんなことがあったら、政庁の一室に監視付きで住んでいただきますからね!」
そう言い捨ててダイニングを出て行った。
そして、バタン!と大きな音を立てて、玄関のドアが閉じられる。
シモンとニアはしばらく正座したまま固まっていたが、やがてどちらからともなく立ち上がった。
「ニア…」
「シモン…」
二人は上着を脱ぎ捨てると、互いの肩を抱き寄せて口付け合う。
「邪魔者もいなくなったし、続きをしようか?」
「はい!」
――ダメだこの二人…早くなんとかしないと……
愛の営みを再会する二人を見上げながら、そう思うブータであった。