「ええい、くそっ」
熱い湯船に浸かりながらレイテは両手で自分の頬を叩いた。
らしくないことは自覚しているが、どうにもこうにも思い切りが付かないのだ。
そのために気合付けと思って顔を張ったのに、まだこうやって湯の中でゆるゆると引き伸ばしを繰り返している。
歯医者に連れて行かれる子供のようで実に見苦しい。
こんな時いかなる障害だろうと突破するシモンのドリルのような心が欲しいと思う。
「よし、行こう……」
腹を括ってレイテはカンカンに熱した湯船から上がる。
真っ赤に火照る肌のまま裸でずんずんと廊下を進み、手荒な手つきで寝室の引き戸を開けた。
「おう、おか……」
水滴を垂らしたまま部屋へと入って来たレイテを見て、マッケンは石像になった。
ついでにその下半身は石像になった。
「お、おお、おとうちゃん」
「な、ななな、なんだおかあちゃん」
レイテはその豊満な胸の前で腕を組み、腹の底から御近所中に響くような大声で。
「こっ、ここ、こっ、子作り、し、しし、しよ、しよよ、しよう」
硬く眼を瞑って顔を真っ赤にしながら、そんな言葉を吐いた。
ぽろりとマッケンの咥えていた煙草が落ちる。
――翌日マッケン邸から小火が出たと聞き、心配してやってきたシモン達は何時になくしおらしい可愛いレイテさんを見ることになるがそれはまた別の話。