…夜空を切り裂き飛び立っていく、緑の炎を見つめる少年の目の輝きに、シモンは始めて地上を  
見た日の自分を思い出す。  
   
 突然、背後で大きな銃声が響く。  
 振り返ると、さっきシモンが、表の品書きの値段を見て入るのをあきらめた食堂から、  
「こ、このアマ、ぶっ放しやがった!」  
「クソォ、待ってやがれ、すぐ戻ってくるからなァ!」  
と、絵に描いたような捨て台詞を吐きながら、絵に描いたようなゴロツキが二人転がり出てきた。  
 その後から、ショットガンを腰溜めに構えた、スラリと背の高い女性がゆっくりと歩み出てくる。  
 長い髪を無造作に束ね、化粧っ気もほぼゼロだが、闘志に輝く切れ長の目が印象的だ。  
 
「ちきしょう…」  
 シモンの耳に、少年の悔しそうな言葉が響く。  
「あいつら、1年位前にこの町に流れ着いた奴らでさ、『俺たちがお前らを守ってやる』とか  
 勝手に言って住み着いちまって、結局自分たちがやりたい放題なんだ。  
 父ちゃんが、みんなの先頭に立ってあいつらを追い出す運動をやってたんだけど、結局ヤツラ  
 に殺されちまって…母ちゃんが後を継いだんだけど、みんなビビって辞めちまったんだ…」  
なるほど、これだけの騒ぎにも、家々の窓やドアは固く閉ざされたままで、通りをチラリと覗く  
人間さえいない。  
 やがて遠くから、銃を空中に連射する音や、大きなエンジン音に混じって、  
『やっちまえぇ』『ぶっ殺せぇ』『あのアマ、ヒイヒイ言わせてやる!』  
と口々に叫ぶ声が、風に乗って近づいて来た。  
 
 シモンが少年に告げる。  
「なあ、ボウズ。お母さんに、晩飯一回で、何にでも風穴をブチ開ける穴掘り屋を雇う気は無いか、  
 聞いてくれないか」  
「エ、おじさんもしかして、あいつらとヤル気?!うーん、止めといた方がいいと思うけどなあ」  
シモンは、彼を上から下までジロジロ見回す少年の視線に頭を掻いていたが、やがて彼の目をジッと見つめ返して言う。  
「…いいかボウズ。大事なのは、出来…」  
「かあちゃーん!あのさあ…!」  
「オイオイ」  
シモンは、彼の言葉の途中で母親に向かって駆けていってしまった少年に苦笑する。  
 おおげさな身振り手振りで話す少年の言葉を聞いた母親が、闇を透かすように、形の良い眉を  
ひそめて彼の方を睨んでいるが、こちらに向いていた銃口はゆっくりと下がっていった。  
 
 シモンが、夜空に描かれた緑色に光る螺旋を仰ぎ見る。  
− そうさ。大事なのは、出来るかどうかじゃねえ −  
シモンの担いだドリルが、ゆっくり回転しながら金色の光を放ち始める。  
「やるかどうかだよな、ニア、兄貴」  
(ここでOPのイントロ。死んでもアフロ禁止)  
シモンが、食堂の明かりに向かってゆっくり足を踏み出す。  
 

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