急速に体が冷たくなっていく。
視界がどこまでもぼやけていく。
瞼は重くただ只管に眠い、きっとわたしは死ぬのだろう。
「――――ぬな!――死――な、死ぬな!」
誰かが遠くで叫んでいる。
五月蝿いな、と思ってわたしは賢明に重い瞼を開いた。
「ヴィ……ラ、ル」
そいつはわたしと同じプラントで作られた獣人だった。
昔からいけ好かない奴だったが、喧嘩だけは滅法強かった。
戯れに体を重ねたこともある間柄で、互いのことはよく知っている。
だがこんな風に無様な涙を見せるような奴ではけっしてなかったと思うのだけど……
――唐突に死に掛けた心臓が跳ねた。
「ごふっ、げ、げふっ」
「しっかりしろ、お前はこれくらいでくたばるようなメスではないだろう!」
懸命にわたしを介抱するヴィラルを見て、わたしは唐突に気付いたのだ。
わたしはヴィラルに惚れていたのだと。
「馬、鹿……」
だからこそ、ヴィラルの前では無様を晒せない。
「ふぐっ!?」
「行って、こい」
わたしはヴィラルの顔に一発拳骨を食らわすと、未だ火砲飛び交う戦場を指差した。
そうだわたしの惚れたヴィラルと言うオスは、死にかけたメスを前にじくじく泣いているようなオスではない。
「――――ュ」
今ので全ての力を使い切ったのだろう、最早ヴィラルの声さえも聞こえない。
それでもヴィラルが戦場に向かって駆けていく音だけは、何故か鮮明に聞き取ることが出来た。
落ちて行く瞼、急速に襲ってくる睡魔。
緩いまどろみのうちで見上げる空には天に輝く数え切れない那由多の星々。
そのうちの一つが緑色の光の尾を引いて流れるのを見て、わたしはその星に願いを掛けた。
――どうか最期には普通の女の子らしい、幸せな夢を見れますように。
――――Fin――――