「喜べ、螺旋王が此度の戦功に我らに子を成す力をお授けくださるそうだ!」  
 きつくきつく私を抱きしめるヴィラルを私は力いっぱい抱き返す。  
 たくさんの闘いを乗り越えて傷だらけになったその体を。  
「だから、だから……」  
 顔を真っ赤にしてヴィラルは言う。  
「オ、オオ、オレと番になってくれないか?」  
 その言葉に、思わず私は笑ってしまった。  
 だって私はずっと昔からヴィラルのことが大好きだったのだから。  
 
 私たちは遠い北の果ての草原に小さな家を建てた。  
 そこで来る日も来る日も愛し合った。  
 まるで獣のようにヴィラルは私を犯し、私はヴィラルが力尽きるまでその精を搾り取った。  
 幸せな日々だった。  
 食べて、寝て、そして交わる。  
 私にとってはただそれだけで幸せだった。  
 だからこの幸せが永遠に続けばいい、そう思った。  
 そんな折、一つの噂が風に乗って聞こえてきた。  
 ――螺旋の英雄、カミナ死す  
 
 
「カミナが死んだ……?」  
 その時の顔を私はけっして忘れない。  
 心の奥底に眠る大切な何かを握り潰されるような苦しげなヴィラルの顔。  
 ヴィラルはきっといつか私の元から去っていってしまう。  
 何故か私はそう直感した。  
「お、おい?」  
 嫌だと思った。  
 けして離したくないと思った。  
 だから強く強くヴィラルを抱きしめ、その白い頬をぺろりと舐める。  
 肌に感じるぬくもり、草原に押し倒して犯すようにして私はヴィラルと交わった。  
 いつになく積極的な私にヴィラルは驚いたようだが、それでもちゃんとヴィラルは私を愛してくれた。  
 空に輝くのは満天の星。  
 ――あの日、ヴィラルの腕のなかでわたしが息を引き取った時と同じ数え切れないほどの星が夜空には輝いていた。  
 
 
 あれだけ交わっていればやがて子も出来る。  
 すっかり心配性になりおもつや哺乳瓶を片手におたおたするヴィラルを可愛らしいと思いながらわたしは腕の中で小さく寝息を立てる新しい命のことを考えていた。  
 優しい目許がヴィラルにそっくりな愛らしい女の子、あまりにも幸せで恐くなる。  
 この幸せな夢がいつか覚めてしまうと言う事が、わたしは堪らなく恐ろしい。  
 
 そしてその時はやってきた。  
 見上げれば天に輝く螺旋の光、ヴィラルのことを呼ぶ光。  
 ヴィラルが本来居るべき戦場。  
 失いたくないと思いながらも、わたしは無言でヴィラルを促した。  
 ヴィラルは空を見上げ、夢から覚めたようにして呟く。  
「そっか……」  
 わたしの愛したヴィラルはきっとこんな場所で朽ちていくのを選ばないと思うから。  
「オレも……甘い夢を見たものだな」  
 ヴィラルはわたしたちに向かって微笑すると、獣のように笑って天を見上げた。  
 緑色の一筋の閃光となってヴィラルは天へと帰っていく。  
 わたしは一言も発せずに、去っていく背中を見送った。  
「ママ、パパいっちゃうの?」  
「ええ、きっとそこがパパの帰るべき場所だから」  
 やがて夕暮れの空に輝きだす数多の星々。  
 その輝きの一つにヴィラルがいると信じて、わたしはゆっくりと目を閉じた。  
 背中に感じる心地よい草の感触と、腕の中の小さな小さなぬくもりを感じながら。  
 
 
 ――――END――――  
 

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