「シモン」  
「……はい」  
「これは一体何ですか?」  
小首を傾げて問いかけるニアの表情には、いつもどおりの無邪気な好奇心しか見て取れない。  
皮肉や嫌味、断罪の意図は彼女にはまったくない。それはよくわかっている。  
だからこそシモンは石のように固まるしかなかった。  
 
自室のベッドの下からニアによって発掘された、アダルトDVDを目の前にして。  
 
 
 
 
(どうしようアニキ……俺、死にたい)  
もし天上のカミナがこのときのシモンを見ていたならば、彼の口からエクトプラズムが立ち昇るのを視認できたかもしれない。  
シモンの様子を不思議そうに見つめるニアが、このときばかりは恨めしかった。  
頼むからいっそ罵倒して。罵って。  
おそらくこの後始まるのであろうニアによる質問攻めという名の公開処刑タイムを思い、シモンの意識はすでに涅槃の彼方へと旅立とうとしていた。  
 
シモンとて男である。エロ本やエロDVDは見る。当たり前である。そこに理由を求めることはナンセンスであろう。  
ありがちな例え方をするのであれば、ニアが主食で問題のブツは文字通りオカズ。  
いや、オカズにもならないオヤツ、嗜好品だ。同列にして比較すること自体がこれまたナンセンス。  
恋人がいようがいまいが、見るときは見る。それが男というものなんです、いやホント。  
 
「ボイン大好き! エッチないたずら」  
「いやああああ」  
「巨乳カルテG どどい〜ん」  
「わああああああ」  
「はちきれおっぱい大集合! 巨乳大運動会」  
「頼むからタイトル読み上げるのやめて、ニア!!」  
 
ニアの口から卑猥な単語がぽんぽん飛び出るというのに、萌える余裕もない。  
ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせながら、ニアは熱心にジャケット裏のあおり文句を読んでいる。  
「ええと、よくわかりませんが……このDVDはエッチなものなんですか?」  
「そ、そうです……」  
一応「エッチなこと」経験済みのカテゴリーに所属する以上、ニアにもこのDVDの存在意義は最低限理解できたらしい。  
これが出会った当初のニアなら「シモン、この人たちは何故裸でお馬さんごっこをしているのですか?」などと問いかねない。  
「シモンはこれを見たんですか?」  
「はい……」  
「何故エッチなDVDを見るんですか?」  
「……み、見ると楽しいからなんじゃ、ないかな……? ……多分」  
「楽しいのですか……?」  
 
眉根を寄せてうーんと考え込むニアに、怒っている様子はない。純粋に理解しがたい、のであろう。  
他人の性行為を見て何が楽しいのかと。それならばニアとそういう行為をしたほうがもっと楽しいのではないか、と。  
(ニアとするのとは全然話が違うんだよ……って言っても、納得できないだろうなあ)  
とはいえ、ニアにこれらのブツの正当性を説くのはあまりに不毛かつ困難である。  
彼女がもし捨てろといえば、おとなしく従うしかない。  
恋人のご機嫌とエロDVDを秤にかけて、後者を優先できるほどのオス度はシモンにはなかった。  
(さようなら俺のDVD……何度もお世話になりました)  
 
「シモン」  
「はい……」  
「私もこれ、見てみたいです」  
「…………へ?」  
「今から一緒に見ましょう」  
 
 
「…………えええええええええええ!?」  
 
 
 
 
(……なんでこんなことになるんだろう)  
テレビを前に正座するシモンの心境は、さしずめ死刑執行前の重罪人といったところだった。  
肝心の執行人は、シモンがそんな心持ちになっているなどとは夢にも思わないといった様子でパッケージからディスクを取り出している。  
『見ても面白くないよ!』『そんなのよりこっちの映画見よう』『それより今から買い物に行かない?』等々、  
口下手のシモンによる決死の説得を「でも、これが見たいんです」の一言であっさり封じ込めたニア。  
彼女の瞳にこれから映し出されるであろう、桃色肌色汁まみれの光景を思うと早くも気が遠くなる。  
 
アニキ、遠からず俺もそちらに行きそうだよ。シモンは真っ白になりゆく脳裡の片隅で、かの男へ向かって小さく呟いた。  
 
「シモン、どれがお勧めですか?」  
「どれでもいいよ……」  
「じゃあ、この『ボイン大好き! エッチないたずら』にしますね」  
「だからタイトルを読み上げるのはやめて、ニア……」  
 
件のDVDは、もはや手垢のついたパターンの――良いようにいえば定番設定である、家庭教師ものだった。  
巨乳家庭教師が生徒の家を訪れるシーン(シモンはさっさと早送りしたのであまりよく見ていない)を、ニアは真剣な眼差しで見つめている。  
何かの奇跡が起こって、そのまま生徒役の男が真面目に机に向かい続けてはくれないだろうか。  
もしくは襲い掛かった生徒役の男を女優が平手で張り飛ばして、いつの間にか栄光への道をひた走るプロレス映画にならないだろうか。  
無論そんなトンデモなミラクルが起こるはずもなく、画面の中の女教師と生徒は当たり前のようにベッドへとなだれ込んでいった。  
 
 
「この女性の方、すごく声が大きいですね……」  
「そ、そだね……」  
演技だからね。  
 
「先ほどから男性の方が仰ってる、おま○ことかクリちゃんって、なんのことですか?」  
「ニアは一生口にする必要のない単語だから。覚えなくていいから」  
「そうなんですか?」  
そうです。  
 
「あっ! 女性の方、男性の方のアレを……食べてる?」  
「食べてない食べてない」  
舐めてるだけだから。  
 
「飲んじゃいました……」  
「……」  
 
「すごい体勢。あんな格好でも……その……」  
「……」  
挿れられるんだよね。すごいよね。人体の神秘。  
 
「とっても、激しい動き……すごい……」  
「……」  
 
 
ニア、お願いだから実況やめて。俺そろそろ死ぬ。  
 
 
 
 
さほど広くもないシモンの部屋に、文字通りそのまま「ギシギシアンアン」とでも表現できそうな音声が響き渡る。  
画面の中の二人はシモンの絶望をよそに、くんずほぐれつの絡み合いをこれでもかとニアに見せ付けている。  
当たり前だがシモン自身は勃つどころの話ではない。  
 
ニアに男としての恥部を見られたのは無論ショックだ。  
が、それより何よりニアに「シモンはこういうことをしたがっている」と誤解されるのではないかと思うと、  
シモンは胃に重いものを感じないではいられなかった。  
 
違うから、あれあくまでファンタジーだから。女教師が好きなわけでもないし、ナースに襲われたいなんて願望もないから。  
ラインナップが巨乳ばっかりだからって、そういう不満をニアに抱いてるわけじゃないから。  
あんな足のつりそうな体位をニアと試したいと思ってるわけでもないし、フェラとかニアに悪くて頼めないから。  
 
 
きっかり120分の視聴を終えたのち、シモンは恐る恐る傍らのニアを見遣った。  
顔が赤い。当たり前である。  
瞳が欲情に潤み、ピンク色の唇の中で小さな舌がもの欲しげに蠢くのをシモンは見逃さなかった。  
(こ、興奮したんだ……)  
一瞬絶望を忘れニアの表情に鼻の下を伸ばし、体育座りのスカートの奥にちらりと覗く下着を見遣る。  
もしかしてもう濡れてたりして……と不埒な妄想をしたところでニアにこちらを見られ、びくりと身体をすくめた。  
「あ、あの……なんだか、すごかったですね」  
「だ、だよね」  
恥ずかしげに笑うニアは、何かを言いたそうにもじもじとしている。  
 
早く何か言ってくれ。このままの空気じゃ俺、いたたまれません。  
シモンは天で自分を見守っている――否、『そんなもん見られたからって動じるんじゃねぇ、シモン! つーかそれ今度俺にも見せろ!』  
とでも激を飛ばしているであろうカミナに向かって祈った。  
ニアの口から普通の少女が発するであろう非難の言葉が飛び出すことはあまり想像できない。  
そもそも拒否反応を示すのであれば途中で視聴を打ち切るというものだ。  
 
しばらくの後、恥ずかしげに俯きながらニアはシモンに訊ねた。  
 
「あの……シモンも、ああいうこと、したいんですか?」  
 
 
 
やっぱりかーーーー!! やっぱりそういう風に受け取ったかーーーー!!  
すごいよ俺、ニアの思考パターンが少しは読めるようになってるじゃないか!!  
 
――などと喜ぶ余裕は無論なかった。  
「ちちちちちち違うよ違うよ違うから! ニアとはあんなことしたいなんて全然思ってないから!」  
「えっ」  
ニアは傷ついたように瞳を見開き、今度は顔を青くして言った。  
「じゃあ、私以外の人とするんですか……?」  
「ちがーーーーーッ!? なにその斜め上にかっ飛んだ発想!!」  
ぜいぜいと息をし、シモンは言い聞かせるようにニアの肩を掴んだ。  
「だ、誰ともしないよ! なんていうか、あれはその……あくまで参考?」  
「参考……?」  
「そ、そうだよ。ニアにあんなやらしいこと、させらんないし」  
 
すでに十分やらしいことをしておいてどの口が言うか、と自分で突っ込まないでもなかったが、半分はシモンの本音だった。  
ニアと睦み合う関係になってからしばらく経つが、シモンの中にはどこかニアを汚しきれない感情が依然としてある。  
馬鹿らしい逡巡なのかもしれない。当のニアにこんな気持ちを告白したら怒られるかもしれない。  
が、破瓜の痛みに震えながらシモンを受け入れてくれたニアを見た日から、背中に爪を立てられるたび、  
与えられる快楽に耐えて彼女が顔を背けるたび、行為の最中で意識を手放すたび、心の隅でニアに対する小さな罪悪感を感じないではいられなかった。  
もちろん、ニアとこういう形で愛し合うようになったのは合意の上でのことだ。  
そうなったことに後悔はないし、互いへの気持ちがより強まったと断言できる。  
ニアを誘うこと自体についても、若干の気恥ずかしさはあるものの自然の行為だと思っている。  
 
だが、快楽と性愛に流されるまま、現状以上の過激な行為、新たな刺激をニアに求めるのはためらわれた。  
今のままで十分気持ちいい。もっともっとと求めて、ニアに負担をかけるのは嫌だった。  
エロDVDさながらの過激なプレイ――大人のおもちゃだの、緊縛プレイだの、ローションだの、コスプレだの、ニアに求められるわけがない。  
 
……というより、誘う勇気もない。  
 
ほら、やっぱ引かれたりしたらやだし。  
 
 
 
「私はああいうこと、シモンにしなくてもいいんですか?」  
「しなくていいしなくていい!」  
「そうですか……残念です」  
「え?」  
 
「私はシモンと、ああいうのしてみたいなって思ったから」  
「へ」  
 
 
 
予想もしなかったニアの言葉に、シモンはゼンマイ仕掛けの人形のようにカクカクとぎこちなく口を動かした。  
「あ……ああいうのって、どういう?」  
「さっきの……お二人みたいな」  
そういうとニアは頬を赤くして俯いてしまうが、それでもぽしょぽしょと言葉を続けた。  
「シモンがいつも私を大切にしてくれてるのは知ってます。でも、あの、ああいう風にちょっと乱暴に扱われるたりするのも、いいかなって……」  
「へ」  
「もっと新しいこと、いろいろしてみたいです。……シモンと」  
語尾はほとんど消えるような声だった。それはそうであろう。ニアの口から出たのは明確な「お誘い」の言葉だ。  
 
視線を落としたままニアは言葉を紡ぐ。  
「さっきのお口でするの、とか」  
シモンはごくりと生唾を飲み込んだ。  
「私、いつもシモンにお任せしてばかりで、自分から何かできるなんて思いもしなかったから」  
そりゃそうであろう。最低限の性教育を受けただけでは、フェラチオなどという行為が存在することを知る由もない。  
女性であるならなおさらだ。  
「シモンさえよければ……ええと……」  
俺さえよければ何。早く言って、ニア。  
いつしかシモンの目は血走り、呼吸は自然と荒くなる。続くニアの言葉を待ちきれず、すでに下腹部のものは半勃ち状態だった。  
 
顔をあげ、ふるふると震える睫毛に縁取られた瞳でニアはシモンを見つめた。  
「シモンは……本当にしてほしく、ないですか?」  
 
してほしくないわけ、ない。  
今までそれらの行為を要求しなかったのはニアに悪いと思っていたからであり、同時に自分の手でニアをこれ以上乱すことをどこか恐れていたからだ。  
だがニア自身は、そんなシモンの躊躇など知ったことではないのだ。  
多分シモンが想像していた以上に、ニアは積極的で好奇心旺盛で、勉強熱心なのだ。……性的な意味で。  
外見どおりの清楚なイメージを、もしかしたら過剰に彼女に押し付けていたのかもしれない。  
 
「……してほしい」  
 
素直に告白したあと、二人揃って顔を赤くして俯く。  
悲しいかな、下半身の愚息はすっかり戦闘態勢の形状と化していた。  
 
 
 
 
腰にタオル一枚巻いたままの姿で、シモンはニアのシャワーが終わるのをそわそわと待つ。  
あと数分もすれば、ニアが。あのニアが。あの口で。あの舌で。  
 
タオルの下のそれは、やがて与えられる快楽を待ちかねて文字通り爆発寸前だった。  
赤黒く膨張した生殖器兼排泄器官を、あの可憐なニアの唇が咥えて、しゃぶって、舐めてくれる。  
それだけじゃない、ひょっとしたら……飲んでくれたりして。  
 
ニアとの行為にどこか及び腰になっていたシモンは、今このときにおいてはどこかに消え去ってしまっていた。  
否、頭の片隅には「本当にいいのか?」と訴えてくるものがないではなかったが、その声も「ニアが自分からしたいと言った」という  
事実の前には聞こえないも同然だった。免罪符の効果は絶大だ。  
血走った眼光は、バスルームの扉の向こう側を今にも射抜かんばかりである。  
 
「……お待たせしました」  
しばしののち恥ずかしそうに現れたニアは、湯上りの肌に白のブラとショーツの上下という出で立ちだった。  
タオルを巻くかどうか悩んだ挙句のこの姿なのだろう。  
とことこと歩いてきたニアは、ベッドに腰掛けるシモンの前に跪くようにすとんと座る。  
ちょうど彼女の視線の先に、これから極楽へ導かれる予定のソレがある。さすがに気恥ずかしさを感じずにはいられない。  
 
(でも……早くしてもらいたいし)  
「ニア、えと……じゃあ、これ取るから」  
「は、はい」  
何度も行為を重ねている以上、ニアにソレを見られるのは無論初めてではない。が、こんな至近距離で見せ付けたことはなかった。  
気恥ずかしさから意味もなく斜め上の空間に視線をやりながら、シモンはタオルを取る。  
 
「……!」  
 
……聞こえた。  
 
自分の下半身付近で、明らかに悲鳴を飲み込んだようなニアの声が聞こえた。  
恐る恐る視線を下にやると、そそり立った剛直を目の前にしたニアの表情は……明らかにこわばっている。  
男であるシモンとて、この膨張した男性器の形状を見てお世辞にも「美しい」だの「ラブリー」だとは思えない。  
むしろどこからどう見ても「今からお前をヒイヒイ言わせてやるぜ」といわんばかりの凶悪さだ。  
ニアの瞳には奇怪な異物としてしか映らないだろう。  
(うああ、やっぱりかああ!)  
「ど、どーする? やっぱやめとく!? 俺も、別にそんなどーしてもしてもらいたいってわけじゃ」  
彼女の方から先に「やっぱりヤダ」などと言われたらきっと精神的にしばらく立ち直れない。期待に浮かれていた分なおさらだ。  
ニアのことを気遣って出た言葉ではなく、ただの自衛の台詞にすぎない。  
 
「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけです」  
「え……」  
 
シモンの動揺に反して、ニアはソレに顔を近づけしげしげと眺め始めた。  
「明るいところでじっくり見るのは初めてで、びっくりしちゃいました」  
「そ、そっか」  
「こんなに大きいものが、私の中に入るんですね……」  
 
大きいですか。そうですか。  
何気ないニアの感想に男としての自尊心をくすぐられ、シモンは口元がにやけるのを必死でこらえた。  
別に誰かと比較して出た台詞ではないことはわかっているが。というか比較できるような経験があっても困る。あるわけないけど。  
「さわってもいい?」  
「う、うん」  
 
恐る恐る手を伸ばし、ほっそりとしたニアの白い指先が幹に添えられた。  
小さく息を呑んだニアの瞳には、好奇心と――明らかに興奮の色が浮かんでいる。  
感触を確かめるように指がソレを撫で擦るように動くと、幹を伝う先走りの汁が絡んで汚す。  
 
ニアの指先が添えられている。見下ろすシモンにとっては、ただそれだけでもこれ以上ないほど扇情的な構図だった。  
 
初めて会ったときはいつのまにか手を握られていて、その柔らかさと温かさを後で思い出したりした。  
絶望の淵から這い上がったときの戦いでは、その柔らかな両手越しにラガンの操縦桿を握った。  
螺旋王との戦いの後、柄にもなく肩を抱いたとき、自分の手にそっと手を重ねてくれた。  
 
 
その手が! いま!  
 
俺のちんこを触ってる!  
 
つーか手コキしてる、あのニアが!!  
 
 
何らかのコツを掴んだらしいニアは、好奇心のままにシモンの性器を愛撫する。その瞳にもう恐れやとまどいはなかった。  
「先のほう、すごくパンパンに膨れてますね……ここも、触っていいんですか?」  
「い、いーよ……」  
先走りの汁を亀頭に塗すように指の腹で愛撫し、もう片方の手は陰嚢を包むようにやわやわと撫でる。  
与えられる刺激そのものももちろんだが、なにより手淫に夢中になるニアの表情そのものがシモンに背徳的な興奮を与えた。  
ニアの顔が次第に性器に近づく。興奮した甘い吐息を肉幹の付け根に感じた次には。  
 
(おおおおおおお!)  
 
小さな赤い舌が、かすかに震えながら脈打つ肉棒の表面を這っていた。  
ちる、ちる、ちゅ。  
猫がミルクを舐めるように、小鳥が餌をついばむように、そして――やがては、氷菓子を夢中で頬張る子供のように、  
ニアの舌が、丹念な動きでシモンへ快楽を与える。  
先走りが口周りから顎を汚し、ニア自身の唾液と絡まりてらてらと光る。  
羞恥に頬を染めながらも、ニアは構わず肉棒の先端をゆっくりと口に含んだ。口内に溜まった唾液は生暖かくそれを包み、  
やがてそのままニアの動きに合わせて潤滑油となる。  
じゅぷ、じゅぷ、と性愛の液と空気が混じりあった音をあげ、時折ニアはそれをすすり上げた。  
幹の付け根の黒い茂みが白い鼻先をかすめ、白い指先が戯れるようにくしゃりと茂みに絡む。  
 
シモンは快楽に耐えるように、ぎり、と奥歯を食いしばった。  
(やばい……気持ちよすぎて吹っ飛びそう……!)  
ベッドに座っていたはずの腰は、気を緩めると「もっと深く咥えろ」と言わんばかりに前へ前へと突き出そうとしてしまう。  
雀の涙ほどに残った理性でなんとか腰を前後に動かすことこそ我慢しているものの、両手はすでにニアの頭にしっかり添えられて、  
彼女が身を引くことを阻んでいる。  
フェラチオそのものによる快楽と合わせて、視覚的な興奮も予想以上のものだった。  
足元にかしずくように座ったニアが自分の股間に顔を埋め、モノをしゃぶる。うっとりしたような目と視線が合うと、  
恥ずかしそうに目を伏せるものの肉棒に吸い付くことは止めない。  
あの清楚な佇まいのニアが、だ。  
男として、これほど征服欲が満たされる構図はなかなか他にないだろう。  
 
ニアに変なことをさせられないなどとのたまっていたのは、どこのどいつだ。悦楽に流されるままの自分をシモンは罵ったが、  
その間にも絶え間なく与えられる口淫の甘い刺激によって、理性は端から溶かされゆくままだ。  
 
――いいじゃないか、この子は俺のものなんだから。俺のことが好きなんだから。嫌がってもいないのに、遠慮する必要なんてないさ。  
普段は理性と生来の慎重な気性の下に隠しているはずの、ニアに対する確たる自信がむき出しにされるようだった。  
 
DVDを見つけられたときは死ぬかと思ったが、今は別の意味で天国への扉をくぐりぬけようとしている。  
気のせいか扉の向こう側でカミナが手招きをしているような気がしないでもない。  
 
限界が近い。意味もなく天を仰いだ口は、声にならない声を発しぱくぱくと動く。  
ニアの手に包まれていた陰嚢がぐぐ、と硬度を増し、そして。  
 
「……っ!」  
 
熱を帯びて吐き出された欲望は、そのままの勢いでニアの口内へと注ぎ込まれる。  
放たれたものの味に顔をしかめながらも、少女は全ての熱が放たれるまで健気にもシモンから口を離さなかった。  
口の中のものをもてあました様子で、しかし先ほどのDVDの内容から飲み込むものと考えたらしく――必死に飲み下そうとし、  
ニアは小さくむせた。  
「だ、だいじょうぶ? ニア」  
絶頂の余韻を味わう間もなく、我に返ったシモンは慌ててニアの顔を覗き込んだ。  
やはり無理があったらしく、添えられた手を伝って飲みきれなかった白濁の液がぽたぽたと落ちた。  
とっさにティッシュを引っつかみ、ごしごしと口元、手、液の滴り落ちた胸元を拭う。  
「あ、ご、ごめん」  
恥ずかしそうに身をすくめたニアに気づき、胸から手を引いた。何度も触っているから恥ずかしくないとかそういう問題ではない。  
 
「……全部飲み切れませんでした」  
「そこまでがんばらなくていいよ! ……すごく気持ちよかったし」  
 
小さな声で照れくさく告白すると、不安げだったニアの表情が明るいものとなる。  
「私、うまくできてました?」  
「た、たぶん。下半身吹っ飛ぶかと思った」  
「よかった!」  
「うん……ニア、それよりさ」  
「はい?」  
「……口だけで終わるんじゃ、あまりにあんまりだよね?」  
そう言うと、シモンは自らが腰掛けるベッドを指差した。  
 
 
 
白いシーツの中、じゃれるように絡み合いながらニアは問う。  
「ねえシモン、次はどんなのがいい?」  
「どんなのって?」  
「私がシモンにしてあげること」  
今はそんなの考えられる状況じゃないよ、とシモンは心の中だけで答えた。  
シモンにとって今最大の関心事は、後ろから抱きしめるように揉んでいる、小ぶりな乳房のふよふよした感触である。  
「ね、シモン……、っ!」  
中指でくりくりと乳首を押しつぶし、からかうように摘む。耳元から白い首筋へと舌を這わせながら、シモンは思う。  
攻められるのもいいけれど、やっぱり攻めるほうが性に合っている。  
ニアにあまり主導権を明け渡すのも考え物だ。  
 
「ずる、いっ……!」  
甘い声で抗議するニアの耳を食み、囁く。  
「ニアも俺みたいに勉強すればいいんだよ、いろいろ」  
「勉強……?」  
「そうしたら俺がニアに何をしてほしいか、俺に聞かなくたってわかるようになるだろ?」  
 
もちろんこれはシモンの本気のリクエストではなく、その場をごまかすための台詞だったのであるが。  
この言葉を真に受けたニアは当然のごとく彼女なりの方法で「勉強」をし、そんな彼女からの初々しくも過激な誘惑に  
シモンが長い間抗えるはずもなく。  
 
 
俗に言う四十八手を始めとして、かつてシモンが忌避していたエロDVDさながらの様々な倒錯的なプレイを極めるのにも、  
さほど時間はかからなかったという話である。  
 

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