ふぅ、と大きなため息をついて、ロシウは軽く肩を回した。山積  
みだった仕事も一段落つき、次の波がくるまで束の間の休息である。  
肩から首にかけての筋肉がぎしぎしと音を立てているようだ。少し  
動かすだけでも随分疲労が溜まっているのを感じる。  
ロシウの表情を見かねてか、傍らにいたキノンが  
「あのっ、よかったらわたし、マッサージとか、しましょうか?」  
と、遠慮がちに申し出た。自分から言い出した割に、視線を落とし  
てもじもじしている。顔が真っ赤だ。不思議に思いつつもロシウは  
「頼むよ、キノン」と応諾した。それだけ疲れていたというのもあ  
るが、むかしギミーとダリーが肩たたきをしてくれたことを思い出  
したからだ。今となっては懐かしい、どことなくくすぐったい記憶  
だ。  
「この前姉に教わったんです。ダヤッカさんが疲れているときは、  
よくマッサージをしてあげるそうです」  
言いながらキノンはますます顔を赤くした。この時点でロシウがあ  
ることに気づいていれば、おそらく彼は拒否しただろう。だが彼は、  
「そうか。ダヤッカさんのお墨付ということだね」とにこやかに微  
笑んだ。  
 
薄着になってソファに寝転がるように、とのキノンの指示に、ロシ  
ウは最初難色を示した。しかし、衣服の上からではマッサージの効  
果が十分に得られないこと、バスタオルで覆うから心配いらないと  
理路整然と説明され、大人しく従うことにした。下着一枚などとい  
う下品な格好を他人に晒すことは、彼自身非常に抵抗を感じたもの  
の、キノンの説明も一理あり、なによりマッサージをしてもらう立  
場であれこれ文句をつけるのは失礼にあたると思ったからだ。  
ソファにうつ伏せになると、ふわりと薄手のタオルが掛けられた。  
「失礼します」とキノンの声がして、腰のやや下辺りに柔らかな重  
みを感じた。  
「重くないですか?」  
重いよと返事をしそうになって、「いや、平気だよ」と答えた。それ  
が女性に対してのマナーであると、以前ヨーコに注意されたことを  
思い出したのだ。  
キノンは重心を前に移し、肩甲骨に手を押し当てた。ゆっくりと手  
の平に力を入れる。円を描くように筋肉を揉みほぐす。贅肉のほと  
んどついていない大きな背中を、背骨に沿って上から下へ押してい  
った。パン生地をこねるように、との姉の言葉を思い出し、しっか  
り体重をかけた。重労働である。次第に息が上がり、じわりと汗が  
浮かんだ。  
 
「気持ち、いい、ですか?」  
はっ、はっ、と短い息継ぎが混じる。ロシウが満足そうに頷いたの  
を見て、キノンの胸に安堵が広がった。  
くるりと向きを変えて、脚部のマッサージに移る。ふくらはぎから  
はじめて上へと進める。太ももの内側をすっと撫でたとき、ロシウ  
がびくりと反応し、何かを言いかけたが、キノンは無視して続けた。  
これからが勝負どころである。  
仰向けになったロシウに、キノンはタオルを掛けずに、そのまま跨  
った。彼女の尻の感触を下腹部に感じ、さすがにロシウは慌てた。  
身を起こそうするロシウの肩を押さえつけ、「わたしに任せて」とキ  
ノンは囁いた。体が熱を帯びているのは、マッサージという労働の  
せいだけではなかった。  
肩に置いた手を、鎖骨をなぞりながら身体の中心へ移動させた。触  
れるか触れないか、といったソフトなタッチのまま大きく円を描い  
て胸の外側へ、再び肩に戻り、腕をするすると辿っていく。持ち上  
げた指先に、キノンはちゅっとキスをした。ロシウが抵抗しないの  
を確認し、その指先を自分の胸のふくらみに押し当てた。  
「……さわ…って…?」  
躊躇しつつも彼の指先はその提案を受け入れた。すでに彼女の尻の  
下で、彼の分身はその提案がなされるのをずっと待っていたのだ。  
 
彼の指先が、柔らかなふくらみの、その頂にある小さな突起を探り  
当てたとき、彼女の短い吐息の中に艶を帯びた声が混じった。  
「…は…ぁ、……っ」  
続けようとする彼の手をたしなめるように、キノンはロシウの腕を  
戻した。  
「肩、すごく凝ってますね…」  
そう言うとキノンは体をずらし、腕を伸ばして肩のマッサージを始  
めた。撫でて温めてから、凝り固まった筋肉を揉み解していく。  
じんわりと肩が温かくなってくる。圧し掛かっていた肩の重みがほ  
ぐれていくのがわかった。一心不乱にマッサージしているキノンを  
見つめつつ、ロシウは別の衝動を堪えなければならなかった。  
キノンの手が首筋に当てられた。ぞくぞくっと身体が反応した。リ  
ンパ腺の流れを整え、血行をよくするのだと彼女は言って、耳の後  
ろから首、肩へ手の平を押し当てながら滑らせた。細いしなやかな  
指が、ロシウの顎をなそり、喉仏を撫でる。その度にロシウはひゅ  
っと息を呑んで耐えた。  
ふと、彼女の手が耳の後ろで止まった。鼻先に吐息がかかるのを感  
じてロシウは目を開けた。間近にあった彼女の顔は、しかし、目が  
合うと恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。  
 
無意識だった、とは言い訳だ。この時点で理性の糸がぷつんと切れ  
てしまった。ロシウは腕を曲げ、自分のみぞおちにその重みを預け  
ている彼女の臀部に手を置いた。彼女の体のラインに沿って腕を持  
ち上げていく。裾から手を滑り込ませ、素肌に触れた。キノンは体  
を震わせてロシウの頭部にしがみついた。背中を撫でるだけで彼女  
はびくんと身震いし、彼の耳元に甘い声を届けた。  
彼女を押しやり、衣服を剥ぎ取った。きれいなお椀型の胸がぷるん  
っとこぼれた。引き寄せて口付ける。舌を絡ませ、唾液を交換し合  
う。唇を吸い、歯の裏側を舌でなぞる。その体勢のまま彼女の臀部  
に手を伸ばし、最後の一枚を剥ぎ取ろうとした。  
「………っ、はぁ…、まだ…」  
とキノンは言って、ロシウの手を引き離した。上半身を起こしてく  
るりと背を向ける。体を移動させ、再び下腹部に位置どった。  
「足のマッサージ、まだ…終わってませんから」  
腕を伸ばしてロシウの膝に手を置いた。前屈の姿勢になり、キノン  
のふっくらとした胸が、彼の屹立した分身を包み込んだ。生地をこ  
ねるようにキノンが動くと、ぽよんぽよんと胸が揺れ、何度となく  
分身を刺激した。  
たまらなくなってロシウがキノンの足首を掴んだとき、彼女は彼の  
分身を捕らえていた。下着をずらして一物を取り出すと、大きな胸  
でそれを挟んだ。舌をのばして先端を刺激する。おっぱいと擦れあ  
うたびに硬度と熱を増していった。ロシウは小さく呻いた。性器に加  
えられる刺激はもとより、視界に映る、大きく足を開いて男の上に  
跨り、腰をくねらせる彼女の姿が扇情的であった。  
 
「あ…ん、はぁんっ……んむ、ぅっ」  
キノンは、彼の肉棒をしごきながら、おっぱいに添えた指で自分の  
乳首をいじった。尖った先端を彼の熱棒に擦り付けた。快感が体を  
貫く。キノンはロシウの下着を脱がせ、自分もまた脱ぎ捨てた。顕  
わになった花弁はとろとろに濡れそぼり、広げた指の間から蜜が糸  
を引いてこぼれ落ちた。  
「くち…で、してください」  
ねだるように下の口がひくひくと動いている。ロシウは彼女の尻肉  
を掴み、さらに大きく花弁を開いた。きゅっと締まった菊門、ピン  
ク色の襞で覆われた膣、真っ赤に充血した小陰唇、ぷっくりとふく  
れたクリトリス。女性の部分をじっくりと鑑賞してから、蜜の溢れ  
る泉に吸い付いた。じゅるじゅると隠微な音を立てて吸い、舌を襞  
の中へ侵入させる。  
「あぁああっ!…や、はぁん…っ、ぁぁああっっ!!」  
堪らずキノンは嬌声を上げた。口を大きく開いたせいで、彼女の口  
は彼の分身を離してしまった。手を添えてもう一度咥える。丁寧に  
筋を舐めあげ、カリをぐるりと舐めまわした。我慢汁を舐めとり、  
彼の先端に口付けた。小さな穴に吸い付き、ちゅぅっと音を立てて  
口を離す。柔らかなカサに唇を押しあて、ゆっくりと飲み込んでい  
く。喉の奥まで咥えてから一気に口から引き抜く。  
 
「んむ、ぐぅ…っん、ぅぅう」  
幾度も繰り返さないうちに、口の中の彼は、びくびくっとその身を  
痙攣させ、精を放った。最後の一滴までも吸い尽くすように、口内  
の圧力を高めたまま、キノンは根元からゆっくりと口を離した。最  
後にじゅぽんっと音を立てて解放されたそれは、まだ硬度を保った  
ままで、反動でぶらぶらと揺れた。キノンはごくりと飲み込んで、  
口元を手で拭った。体を反転させて、ロシウに覆い被さる。自身の  
女の部分も、愛液と彼の唾液とでもうびしょびしょだった。  
「気持ち、よかったですか?」  
あれだけ大胆な行動をとっておきながら、キノンは恥らうように目  
を伏せた。甘えるように顎に軽くキスをする。「うん…すごく」とロ  
シウが観念して答えると、彼女はぱぁっと顔をあかるくした。  
「だから、次は僕の番だ」  
言うが早いか、上下を入れ替える。体が軽い。先刻までの、錆付い  
て油の切れた機械のようだった不快感はどこにもない。重石をつけ  
られたような肩の疲れも消えている。  
「さすが」  
と言って、ロシウはにやりと笑った。  
「ダヤッカさんお墨付きのマッサージだけはある」  
茶化すような響きに、キノンはさらに顔を赤らめて、小さく「ばか」  
と呟いた。  
本当はもっとすごいこと―――ローションや縄やいくつかの大人の  
おもちゃも用意し、男をイカせるツボなるものも教わっていたのだ  
が、それはまた、次の機会までとっておこう、とキノンは心に決め  
て、ゆっくりと目を閉じて体を委ねた。  
 

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