ヨーコとシモンの夜  
 
 
 
扉は開いていた。  
その夜…彼女はシモンの部屋に入ると、部屋の主の断りもなく、後ろ手に鍵をかけた。  
「?」  
ベッドの上に腰かけたまま、呆けたように中空を見つめていた少年は、目玉だけをギョロ  
リと彼女の方に向ける。  
「ヨーコ、何を…」  
「黙ってて」  
少女は、いつになく落ち着き払った声で言った。  
それから、大して広くもない部屋で、彼女は扉の前に立ったまま無言だった。  
(俺を責めているのか)  
そう思わなくもなかった。  
3日前、カミナは自分のせいで死んだ。  
事実はどうあれ、少なくともシモン自身はそう思っている。  
あの日、シモンはヨーコがカミナと両想いだった事を知った。  
そして、幼い頃から実の兄のように慕っていたカミナはシモンの淡い恋心と共に…呆気な  
く、露のように消えたのだ。  
少年が背負うにはあまりにも大きな、罪悪感と後悔だった。  
「…」  
ヨーコは言葉を発さないまま、ゆっくり…1歩、2歩とシモンの方へ歩み寄る。  
 
(殴られる)  
シモンは、そう心の中で身構えた。  
心当たりはある。  
まず、カミナを死なせた事。  
そして、その後の自分が腑抜けになってしまった事。  
ラガンも、どういうわけか動かなくなってしまった。  
敵戦艦の奪取と引き換えに、グレン団はリーダーを失っている。  
事態は決して好転などしていない。  
今こそ、自分たちにできる精一杯を為さなければならないというその時に、だ。  
頭では分かっている。  
分かってはいたが、しかし、少年ひとりの心には、どうにもならなかった。  
(いっそ、頬を引っ叩いてでもくれれば…)  
自分の中のカミナを、吹っ切ることができるだろうか?  
しかし、ベッドの前に来たヨーコは、シモンの予想だにしない行動にでるのだった。  
「!?」  
ヨーコは、ベッドに座っていたシモンの体にいきなり飛びつくと、その頭を抱き締め、あ  
どけない顔立ちからは想像もできない豊かな乳房を、少年の顔一杯に押し付けたのだ。  
「…???……んっ…んん!?」  
服の胸元からのぞくむっちりとした谷間が、素肌でシモンをいっぱいに覆い被さった。  
「ぐっ……む、ぅうっ……」  
口も鼻もヨーコに塞がれ、呼吸ができない。  
ベッドの上に押し倒された姿勢のまま、シモンは手足をバタつかせ、何とか逃れようとし  
た。  
「静かに」  
声を上げるどころか、呼吸ができずにもがくシモンの耳元に、ヨーコはそう囁いた。  
 
「………ぐっ」  
その声を聞いて、シモンは暴れるのを止めた。  
それから数秒のあと、ヨーコはやっと抱きしめる腕を解いてくれる。  
「…ぷはぁっ!ぜぃはあっ、はぁっ、はぁっ……、な、何を…っ」  
涙目になって荒い呼吸をしながら、シモンは抗議の声を上げるが、その言葉はすぐにヨー  
コの唇に塞がれてしまった。  
(え………っ?)  
シモンには、急すぎて理解ができない。  
目を白黒させながら、ヨーコと己がベッドに横たわってキスをしている事実にようやく気  
がつくと、今度はそこから味わった事のない甘美な感触が流れ込んできた。  
………ぬるっ…  
(!!?)  
唇を合わせながら、ヨーコの小さな舌が、上下の歯の間を割って入りこんでくる。  
「ん…んぅうっ……」  
ぴちゃ、ぴちゃ、くちゅ…  
濡れた粘膜が互いに絡み合う妖しい音だけが、薄暗いシモンの部屋をしばし支配する。  
シモンは既に、目を半開きにして蕩けていた。  
それから何秒、何十秒経っただろうか。  
ヨーコはようやく、当惑するシモンの唇を解放した。  
ふたりの唇からは、唾液の糸が細くきらめきながら、やがて垂れ落ちた。  
「……」  
「……」  
しばし、ディープキスの余韻に浸りながら…ヨーコは言った。  
「もう、忘れよ?」  
「えっ…」  
 
「忘れてやるんだ。あんな奴…『十倍返しにしてやる』なんて言ったくせに…。帰ってこ  
ない奴なんか」  
「ヨーコ…」  
カミナが死んだ後も、彼女は悲しみをひた隠しにして明るく振舞っているのを、シモンは  
知っていた。  
そのヨーコに隠れていた、闇。  
潜んでいた影。  
シモンには、生気に溢れたふくよかな彼女の肢体から、微かに死の香りが漂って見えた。  
「ね?シモン。それとも…私とじゃ嫌?」  
「い、嫌じゃないけど…」  
ヨーコはふっと微笑んで、「ありがとう」と言った。  
「死んだ事を後悔させてやるんだ。生きている、私と…シモンで」  
言うが早いが、少女はまるで獣のようにシモンの首筋に噛みついてくる。  
「うぁっ」  
思わず、声が出た。  
噛まれるという行為に…単純な痛みと、原始的な恐怖と、性的な倒錯が一度にシモンの脳  
内を駆け巡った。  
「ごめんね。痛かった?」  
ヨーコは、噛みついて赤くなった部分を、今度はまるで愛撫するかのように吸ったり、舐  
めたりした。  
そうした彼女の一方的な行為に翻弄されながら、シモンは、己の体の中心部が徐々に熱を  
持ち始めてくるのを自覚する。  
シモンは童貞だった。  
カミナは、口では百戦錬磨などとうそぶいていたが、本当は女性経験など皆無だった事を  
知っている。  
 
そして、本来ならば、カミナがヨーコとこうなっていたハズなのだ。  
(カミナのアニキ、ごめん)  
少年はひとり、心の内に呟いた。  
(俺、アニキを置いて卒業するよ…)  
シモンも、所詮は一匹のオスである。  
もう、目の前の女以外には何もなかった。  
 
 
「あ、あ、あ…」  
全裸のままベッドから這って降りようとするシモンの背中に、後ろからヨーコが抱きつい  
てくる。  
「…どこに行くの?」  
「も、もう無理。…止める。止めて、ヨーコ…」  
「どうして?」  
キョトンとした表情で、彼女は言葉をつないだ。  
「さっきまでは、あんなに素敵な声で鳴いてくれたじゃない。それなのに、もう飽きてし  
まったの?」  
そう言って、ヨーコは自分の上唇に付着した白い体液をペロリと舐めとった。  
「…ふふ、美味しいよ」  
先ほど、シモンがヨーコの指技に成す術もなく吹き上げた精液だった。  
「ほら、もっと気持ち良くさせてあげるから」  
シモンの痩せた体をそっと自分の傍に引き寄せて、ヨーコは無邪気な顔で再び可憐な右手  
を彼の肉棒に添えた。  
シモンのペニスは既に精気を失い、だらりと頭を垂れていた。  
 
先端からは、だらしなく半透明の液体が滴っている。  
あのキスの後、シモンはもう何度射精したか、それすらも分からなかった。  
まず乳房にペニスを挟まれ、驚く間もなくスベスベの素肌に擦られ、瞬く間に1回。  
直後、ヨーコは射精して間もない敏感なうちに彼の肉棒を頬張り、そのまま激しいフェラ  
チオで1回。  
立て続けに2回出した後も、ヨーコがもつ極上のボディラインは、なおもシモンを屹立さ  
せた。  
そして、いよいよヨーコは、ただでさえ露出度の高いショートパンツとブラジャーを脱ぎ  
すて、ロングニーソックスだけを履いたままの姿で、シモンの上に跨ったのである。  
騎乗位の状態で、ヨーコは迷う素振りもみせず一気に腰を落とし、根元まで挿入すると、  
後はリズム良く腰を上下させて、つい先ほどまで童貞だった哀れな少年を3回目の射精に  
導くのだった。  
…かろうじて、そこまでは覚えている。  
それからは、意識も記憶も途切れ途切れで、まるで悪夢のように断片的な切れ端だった。  
とにかくそれから、ヨーコはシモンを決して赦さず、抱きついたり、噛んだり、舐めたり、  
吸ったりしながら凌辱を繰り返すだけだった。  
凌辱。  
それは愛し合う男女の営みなどではなく、血に飢えた獣が獲物を喰らうが如く、暴力的な  
セックスである。  
誰も知らない。  
シモンは、ヨーコに淡い恋心を抱いていた。  
その気持ちは誰に知られる事もなく終わりを迎え、それが間接的にカミナの死を招いた。  
男の死は女の自暴自棄を生み、今こうしてシモンを呑み込もうとしている。  
それともヨーコは、カミナを死なせた自分を責めたてるつもりでこうしているのだろう  
か?  
 
(まるで…)  
息も絶え絶えになりながら、少年は一人思う。  
(まるで、螺旋のようだ)  
このままでは、ヨーコに吸い尽くされて殺される。  
…そんな生命の危機感が、シモンを我に返らせた。  
「も、もう駄目だ…ヨーコ。助けて…」  
彼女はシモンの背後から手を伸ばして、彼のしおれた肉棒をさすっているが、一向に勃起  
する気配はなかった。  
射精しすぎて、尿道が痛い。  
何度も精液を吐き出したためか、睾丸につながる精巣挙筋がまるでひくひくと痙攣を起こ  
しているかのようだった。  
「助ける?助かりたいって、どういう事?」  
ヨーコの表情から、妖気のような青白い炎がともった。  
「逃げるってこと?シモン…私から」  
一段と低くなった彼女の声に、少年は本能的な危険を察知しベッドから飛び降りようとし  
た矢先、ヨーコの反射神経がそれに勝った。  
「あうっ!むぐぐっ…」  
シモンはベッドから降りることもできず、むっちりとしたヨーコの太ももに顔面を挟まれ  
たまま、呻き声を上げた。  
シモンがヨーコの股間に顔を埋めているのと同様に、シモンのペニスはヨーコの目の前に  
あった。  
「…」  
彼女は、硬度を失った男の生殖器を無造作に掴むと、人差し指の先端で亀頭の裏筋をくり  
くりと掻きだした。  
「!!!くぅううううっッッ!?あぁあああっ!」  
 
痛みとも快感とも言い知れぬ強烈な刺激に、シモンは小鳥のように泣いた。  
「あ、あくっ!ひ!ひぃっ!む、無理だ、ヨーコ!も、もう勃たない!何も出ない!あぅ  
あぁあああっッ!」  
「逃げようとしたでしょ?シモン。私から…」  
ヨーコは怒りとも悲しみともつかぬ表情のまま、しかし声だけは穏やかに優しくシモンを  
問い詰めた。  
「だ、だって…もう…」  
シモンが何か言い訳しかけた時、彼は突如として下半身を電撃のように突き抜ける「違和  
感」に悶絶した。  
「ぎぃやぁああああああああああああッッッッ…!?」  
ずぶ…ずぶ…ずぶ……ッ!  
裁縫用の指サックを装着し、唾液でたっぷり濡らされたヨーコの右人差し指が、ゆっくり  
と…シモンの菊門を割って入るのだった。  
「こ、これは…ヨーコ!ちょ…やめ…ぁあああああっ!お尻に何か入れないでぇっ!あぐ  
ぐぐぐ!!」  
ずぶ、ずぶ、ずぶぶ……  
第一関節、第二関節…と、ヨーコの指は緩徐に、しかし確実にシモンの直腸内に侵入して  
くる。  
「うふふ…、締め付けてくる。シモンのは、ここかな?」  
大体のアタリをつけると、ヨーコはシモンの肛門に挿入した指を腹壁の方向に少しづつ曲  
げていく。  
腸壁が無遠慮に圧迫され、挿入された当人は臓腑を吐き出しそうになった。  
そして…  
……………………コリッ…  
「!!!!!????あっ!えあぁああああっ!!!!!」  
 
前立腺という生殖器官を、体の内側から直に圧され刺激される未知の感覚。  
これまで女性の肌の温かささえ知らなかった少年が味わうには、余りにも無慈悲な快楽だ  
った。  
コリ、コリ、コリ……  
直腸内に入った指が、腸壁のむこうにあるクルミ大の器官を弄ぶ。  
びくっ、びくっ……  
先ほどまで、何をしても萎えきったままだったシモンのペニスが、強制的に勃起させられ  
ていくのだった。  
「ほら…シモン。勃ってきたよ?」  
無理矢理そうさせておきながら、しかしヨーコは笑顔である。  
「あ…あ…」  
「気持ちいいでしょ?シモン」  
「ひ、ひぃ…」  
返事とも悲鳴ともつかぬ少年の声に、ヨーコは満足気に頷いた。  
そして、指を差し入れたまま腰を上げると、淫蜜に濡れた己の秘所にシモンの肉棒をあて  
がった。  
「これからは…ずっとこうして可愛がってあげるね、シモン」  
グジュッ!  
ヨーコの秘所が、シモンを一気に飲み込んだ。  
「くぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…っ!!?」  
熱い焼きゴテでペニスを包まれたかのような感覚に、声にならない声を上げながら、シモ  
ンはただヨーコという暴君の望むまま、彼女の要望に応えるだけの肉玩具に成り果ててい  
た。  
(それは、アニキに代わりに?)  
薄れゆく意識の中、シモンにはもう分からなかった。  
 
果たしてヨーコは、カミナに対してもこんな振る舞いをしたのだろうか?  
アニキの前では、可愛らしい少女としてその腕に抱かれていたのではないか?  
シモンには、もう分からなかった。  
言える事は、ただひとつ。  
(俺は、アニキにはなれない…)  
ヨーコの真意がどうであれ、所詮自分にはカミナの代わりなどできはしない。  
それだけが、シモンの確信だった。  
(けど、もういいんだ)  
シモンは、微笑んだ。  
(今はこうして、ただヨーコとつながっていれば)  
彼女はシモンに跨ったまま、長い髪を振り乱して腰を打ちつけている。  
くちゅ、ちゅく、ちゅっ……  
「ほら…。シモンのおちんちんが、またヒクヒクいってきた。もうすぐだね♪」  
(あたたかいから)  
その瞬間、シモンのペニスは射精のわななきを繰り返した。  
もう、吐き出すものも出しきって、再び絶頂を迎えても、肉棒はただ痙攣を繰り返すばか  
りだった。  
 
 
                               終  
 
 

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