心の準備をしておいてよかった、とダリーは密かに胸を撫で下ろした。
予感はあったのだ。次の休みは、ギミーと二人そろって帰ってきてほしい、とやけに強い
口調でロシウに頼み込まれた。それで察しないほうがおかしい、とダリーは思う。
「結婚することになったんだ」
と、ロシウは夕飯がもう半分はなくなったころにやっと切り出した。夕飯にキノンが同席
していることからだって十分察しはつくのに、ギミーときたら椅子をひっくり返しそうな
勢いで驚くのだ。あやうくため息をつきそうになって、ダリーは慌てて笑顔を作った。
「おめでとう、ロシウ、キノンさん! 式は挙げるの? いつごろ?」
「っはー、マジで!? で、なんてプロポーズしたわけ?」
二人の矢継ぎ早の質問に、顔を赤くしてしどろもどろに答えるロシウは、幸せそうだ。
心の準備をしておいて、本当によかった、とダリーは再び思う。おかげで、なんとか笑顔
を取り繕って、こうして祝福の言葉をかけられるのだから。
「キノンさん、ロシウはこんなだから苦労すると思うけど、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げるギミーに、キノンがえぇっ、こちらこそ、なんて頓珍漢なやりとりをし
ている。
「もう、ギミーったら調子に乗りすぎよ」
ダリーがたしなめると、和やかな笑いが食卓を包む。
もっとはやく生まれていたら。
もっとわたしがおとなだったら。
ロシウの隣で、彼だけを見つめ、彼を理解しいたわり、支え、そして彼を愛することがで
きたのは、自分だったのかもしれないのに。
笑顔の裏で、胸がきりきり痛むのを、ダリーは自覚せずにはいられなかった。
「……ロシウ、遅いね」
時計をちらと見上げてダリーが呟いた。キノンを家まで送ると言って出て行ったきり、ロ
シウは戻ってこない。
「つーか、戻ってこないんじゃねーの」
雑誌に目をやりながら、ギミーがぞんざいに答えた。ぎくりとして体が強張った。自分で
も嫌になるほど動揺してしまっている。結婚するのだから、婚約者なのだから、そうなる
ことは当然なのに。
「…………っ!」
"そうなる"がどうなるのか、光景を想像しそうになって、さらにダリーは自己嫌悪に陥った。
胸に重石を載せられたように苦しい。涙がじんわり滲み出そうになる。
「いい加減諦めろよ」
いつの間にかギミーが隣に立っていた。憐れむような瞳で、じいっとダリーを見つめてい
る。
「ロシウはさ、お前のことなんて妹くらいにし」
「そんなことわかってる!!」
声を荒げたダリーをなだめるように、ギミーは肩を抱いた。
「ダリー、ほんとにわかっ……んんっ!?」
なおも続けようとするギミーの口を、ダリーは無理やり塞いだ。自分の唇で。両手で彼の
頬を掴み、食らい付くように唇を押し当てる。
ダリーに押し倒されそうになるのを、ギミーは一歩下がって踏みとどまり、ようやっと彼
女を引き剥がした。
「はぁ、はぁ……っ、なに、考えてんだよ…!」
唾液まみれの唇を、ギミーはぐいと手で拭った。
「ひょっとして、初めてだったの?」
動揺するギミーに、ダリーは冷ややかに答えた。「こんなこと、なんでもないじゃない」と
冷笑すら浮かべて続けた。
「わたし、知ってるんだから。ギミーがわたしの着替えやお風呂、のぞいてること」
言いながら、ダリーは身につけているものを一枚、また一枚と脱ぎ捨てていった。まだ幼
さの残る身体は、透き通るように白い。首筋も二の腕も、腰も、太ももも、触れれば折れ
てしまいそうだ。
髪の色と同じピンク色のブラとショーツだけになったとき、ダリーは
「……見たかったんでしょ?」
と、ブラの紐をすこしずらして、いじわるそうに微笑んだ。
「ばっ、ばっかじゃねーの! そんなお子さま体型、だれが見たいなんて……っ!」
「ここ、こんなに硬くして言うセリフ?」
「ば、ちが、てか、さわんなっ」
隙をつかれて、ギミーは後ろのソファに押し倒された。ズボンの上から急所を掴まれ、完
全にダリーに制圧された形だ。ダリーが余裕たっぷりに見下ろしているのも、ギミーには
気に食わない。
「おま、お前、ダリー、自棄を起こすなよな。ロシウが結婚するからって……」
「ロシウは関係ない!!」
一矢報いることには成功したらしい。だがそれはさらに彼女の行動をエスカレートさせた
だけだった。
ギミーのズボンをずらし、硬くいきり立ったモノを取り出すと、ダリーはそれを細い指で
包み込むように握った。ギミーが自分を払いのけようと力を込めたのを感じ取り、ダリー
はさらに強く、手の中のモノを擦りあげた。
(いまごろロシウもキノンさんと……)
胸に浮かんだやるせない想いを振り払いたくて、ダリーは熱心に手を動かし続けた。亀頭
から溢れ出た液が手を濡らし、べたべたになっている。
うぅっ、とギミーが小さくうめいたかと思うと、手の中のそれはびくびくと脈打ち、勢い
よく白い液体を吐き出した。液体は腹部や胸を汚し、ダリーはその饐えたにおいにむっと
眉をしかめた。
「……気持ちよかった?」
ぐったりと横たわるギミーをみて、ダリーは幾分気が晴れた。"なんでもないこと"だと自
分に言い聞かせることで、精神的なショックを和らげようとしていたのかもしれない。
少し冷静さを取り戻すと、自分の愚かな行動に青ざめた。心配して気遣ってくれた彼に対
し、八つ当たりをしてしまったのだから。慌ててギミーの上から退こうと、ダリーは腰を
あげた。
視界が反転して、天井が目に映った。腕をつかまれ、ソファに押し倒されたのだ。ギミー
の荒い息遣いが聞こえる。電灯の陰になって、彼の表情ははっきりと読み取れない。
「ギミー? …あ、あの、ごめんなさい、わたし……」
「いまさらごめんで済むわけないだろ」
言うが早いか、ダリーの体を覆っていた下着を剥ぎ取る。小ぶりだけれど、形のいいおっ
ぱい、先端はきれいなピンク色で、つんと固く尖っている。下に目をやれば、髪と同じ色
の茂みが見える。細い腿をぎゅぅっと閉じて、その茂みの奥を守ろうとしているのが分か
る。
ギミーは無意識のうちに舌なめずりをした。
「やだっ、いた…いっ」
手を彼女のおっぱいに押し当てると、コリコリした突起が手のひらに当たった。力を入れ
て、手のひら全体で包むようにして揉みしだいた。搗きたての餅のように、やわらかで、
なめらかで、しっとりしていて、手に吸い付くよう。その感触にギミーは夢中になった。
ふと思いついて、先端の突起を指でつまんで、つまみ上げた。
「…………っっ! ぁ、ぁ…っ!!」
ギミーの手をどかそうと、必死の抵抗を続けていたダリーから力が抜けた。固く閉じてい
た口元から、熱い吐息が漏れた。その吐息の中に、微かではあるが、堪えきれずに甘い声
が混じったことを、ギミーははっきりと耳に捕らえた。
「いやだって言ったくせに、感じてんの?」
「ちが…っ! やぁ、あぁぁっっ」
くりくりと乳首をいじられて、ダリーは声をあげて反応してしまった。
「だ…めぇっ、ぁぁあ、ん、んぁ、っ」
ギミーはおっぱいを口に含み、舌で攻めてくる。なんとかその顔を押し返そうと、ダリー
は彼の顔に手を伸ばした。自分の意思とは裏腹に、体は彼の愛撫に反応し、びくびくと痙
攣してしまう。睨みつけようとした眼は潤み、拒絶の言葉を口にするはずの唇からは、女
の濡れた声が零れた。
「もういっぺん、さっきのやつ、やってくれよ」
え?と聞き返す間もなく、ダリーの手はギミーに導かれ、彼の張り詰めたモノを握らされ
た。さっき出したばかりだというのに、彼のソレば、いまにもはちきれんばかりだ。
「…い、いやよ。 もうおしまい! はやくそこを退いて」
声が少し湿っぽい。屈辱と後悔が涙となって溢れそうになるのを、ダリーはぐっと堪えて、
精一杯の拒否を示した
「ふーん、あっそ」
とギミーは不満げに言って、くるりと背を向けた。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、
突然口に何かが侵入してきた。熱くて硬いもの。それが何かを認識する間もなく、足を強
引に開かされた。閉ざされていた自分の奥底の部分に、はぁっと息がかけられた。
「むぐ、ぅぅん、ぐぅっ」
足と腕とでがっしりと押さえ込まれ、身動きひとつままならない。口に押し込まれたモノ
は、さらに怒張し、息苦しいほどだ。こじ開けられた秘密の場所は、いまや白日の下に晒
され、彼の指と舌とで犯されている。くちゅくちゅと卑猥な音がする。
「ちゃんと舌つかってくれよ、ダリー」
熱に浮かされたようなギミーの声が下のほうから聞こえた。ようやくダリーは自分の置か
れた状況を理解した。拒絶することも、抵抗することも叶わないなら―――受け入れるし
かない。ダリーは目を閉じて、ゆっくりと舌を彼の肉棒に絡ませた。血管の盛り上がりを
辿り、カサの周囲をなぞり、亀頭の先端をチロチロと舐めた。
彼女の下腹部では、蜜を滴らせた花弁が広げられ、花びらを摘むようにギミーの指が動い
ている。どこをどうするとダリーが反応するのか、実験でもするかのように、ゆっくりと
手をすすめていった。ぷっくりと膨らんだ豆を軽く擦ると、
「んんんんんんっっっ!!!」
と声をあげて、ダリーが体を大きく反らせた。
「へぇ、ここ、そんなにいいんだ?」
揶揄するように、ギミーが嗤った。肉棒を押し込まれていて、ダリーは返事さえすること
ができないでいる。独占欲と支配欲を満たされ、肉棒はさらに硬く張り詰めていく。
ギミーは指にたっぷりと蜜を掬い取り、彼女の敏感な部分を弄んだ。滑らすように撫で、
時折つつてやる。面白いように蜜が溢れていく。口を塞がれているせいでくぐもった声し
か聞けないが、鼻を抜けて出る声は、甘くて切なくて、どうしようもなく淫靡だ。
「俺も…そろそろ、限界、かも」
すっとダリーの口を塞いでいたモノが出ていった。と思いきや、すぐにまたずんっと奥ま
で押し込まれた。何度となく喉の奥にあたるのが苦しかった。口内を散々犯した後、ソレ
はびくびくっと身を震わせた。どくどくと脈打っているのがダリーにも感じられた。びゅ
っと勢いよく何かが放出され、口を満たした。
饐えた匂いが鼻につき、口中が苦味で一杯になる。吐き気がする。吐き出そうにも、体の
向きを変えることさえ難しいことに、ダリーは気づいた。どさりとギミーの体重が圧し掛
かり、顔を横に向けることもできない。
「……ぅんん、んっ、く ……げほっ、げほっ」
無理やり飲み込んだものの、後味の悪さにダリーはむせた。気だるそうにギミーが脇に体
を寄せた。ようやく体の自由を取り戻し、ダリーは口を濯ぐために立ち上がった。
「……さきに仕掛けてきたのは、お前だからな、ダリー」
ダリーは、がらがらとうがいをした水を、シンクにべっと吐き出した。気まずそうな、申
し訳なさそうな、情けない様子で、ギミーが話しかけてきた。
「……。最低」
そう吐き捨ててまた水を口に含む。何度うがいをしても、喉の奥にまだあの味が残って
いるような気がする。
ちらりとギミーを見やると、彼は捨てられた子犬のような顔している。気が小さいくせに、
無鉄砲で向こう見ずなんだから、とイライラしながらダリーはうがいを続けた。吐き出さ
れた水が、弧を描いて排水溝に流れ込んでいく。
「俺、さ、こんなでもけっこう……本気だから」
「わけわかんない」
「だからっ! お前のこと……ほんとは、こんなふうじゃなくて、もっと、ちゃんと…」
ぱっと振り返ってまじまじとギミーを見つめた。目を見れば分かる。冗談でも、おちゃら
けでも、ましてや嘘ではないことが。
「なに言っているの、ギミー。わたしたち…」
「わかっている。けど、どうしようもないだろ」
「…………ギミー…」
手を伸ばしたダリーに、ギミーはくるりと背を向けた。本当の気持ちを、まっすぐ彼女の
目を見て言える自信はなかった。
「……つまり、その…つまんないことで自棄起こすなよな」
この俺が本気で惚れちまうくらい、いい女なんだから、と下を向いてぼそぼそと、ギミー
は続けた。耳も首筋も真っ赤になっていることは、後ろにいるダリーにもはっきりと分か
った。
「そんだけ。じゃ、おやすみ」
ひょいと片手をあげて、ギミーは部屋の敷居を跨いだ。ダリーが返す言葉を探している
間に彼の姿は壁の向こうへと立ち去ってしまった。去り際に小さく、ごめん、と声がした。
「……謝るのはわたしのほうよ、ギミー」
ぽつりとつぶやいて、ダリーは裸のままの自分の胸にそっと手をあてた。さきほど彼に激
しく弄られたその場所は、軽く触れるだけで敏感に反応した。自分で自分を抱きしめるよう
に、両の腕をきゅぅっと交差させた。胸が締め付けられるように痛い。その痛みが失恋の痛
みでないことを知って、ダリーは声もあげずに泣いた。
おわり