「ちょっと、何なのよ。急にこんな所に私を呼び出して」  
「来てくれたんだ」  
不機嫌そうに腕を組む女との距離を少しずつ詰めていくのは柔和な笑みを称えた男の姿。  
「あんたからの手紙だと知ってたら破いて捨てて、ここにもこなかったわよ、シモン」  
「はは。相変わらずだね。ツインテル子は」  
 
苦笑にも取れるその笑いは女には嘲笑されている風に見えたのか、眉間の皺をより一層深めた。  
「そういう笑い方やめてくれない?キモイから!」  
「弱ったな。俺は普通に笑ったつもりなんだけど…」  
「もーっ、あんたマジウザイ」  
「毎日毎日…俺を貶す事が仕事みたいだね」  
シモンは声を荒げる女の腕を無遠慮に掴むとぐいっと自分の方に引き寄せた。  
「きゃっ。何っ──んぅ…っ」  
抗議する間も与えず女の唇を自分のそれで塞ぐ。  
咄嗟の事で事態を飲み込めずにいるのか、女は抵抗せずに、身を硬くし目を剥いてる。  
その間シモンは何度と角度を変え啄ばむ様に口付けを続けた。  
舌を差し込もうとした所で我に返った女によって突き飛ばされようやく離れた。  
「…っ…いきなり何すんのよぉ…!」  
「何って、キスだけど?」  
「そういう事言ってんじゃないの!こんな、いきなり…」  
たじろぎながらも不快感を顕にし憤慨する女をシモンは可笑しそうに眺めた。  
「ツンンテル子の唇って意外と柔らかいんだな」  
「はあ?!」  
「それに暖かい」  
「何、言ってんのよ、あんた…」  
 
「暴言を吐く以外にも使い道がある事を教えてやろうと思ってさ」  
「あんた…ただじゃおかないわよ、この変態が!」  
「何とでも言えよ。今日はお前が何言おうと、俺は引かない」  
 
思わず後ずさる女を逃がす前と強引に捕らえ、羽交い絞めにすると「ひっ」と嬌声をあげた。  
腕の中でじたばたと暴れる存在に、まるで宥める様な声色で囁きかける。  
「馬鹿だな、男の力に適うわけないだろ」  
「や、やめ…や…だぁ…」  
女の瞳に涙がじわりと滲むのを目の当たりにし、シモンは嬉しそうに微笑んだ。  
「ふーん…。お前みたいな女でもそんな表情するんだ…」  
「離し…なさいよ…、あんた、後で…絶対…殺してやる…」  
女の声に覇気は感じられない。  
小さな肩は小刻に震え、いつもツンとすました顔は見る影もなく歪み、心なしか青ざめている。  
「──じゃあ、どうせ殺されるなら徹底してやらないとな。未遂程度で命捨てたくないしな」  
「狂ってるわ…」  
地面に縫い付けるようにシモンに伸し掛かられると女はとうとうしゃくり上げて泣き出してしまった。  
「普段は糞生意気な女だけど──そういう表情は意外とそそるな」  
子供みたいに泣きじゃくる女を見下ろし妖艶な笑みを浮かべると細い首筋に唇を寄せた。  
 
 
首筋に掛かる熱い息に女の身体は震えた。  
快感のためではない。この先自分の身に起こりうる事を思い恐怖によって齎されたそれはなかなか止まらない。  
シモンの熱い舌が纏わりつくようにして這う。女の肌を味わうようにえらく緩慢に辿ってゆく。  
───くやしい。  
女は奥歯を噛み締め思う。  
いつも馬鹿にし見下していた相手にまるで抗えない現状が何とも歯痒く腹立たしい。  
それを怖いと思ってしまう事が、涙が溢れ身体まで震えてしまい、相手にもそれを伝えてしまっている事が。  
───くやしい…。くやしい。くやしい!  
───よりによって、何でシモンなんかに…!!  
 
シモンは身を庇うようにして縮こまっている女から服を強引に剥いでいく。  
その間も舌は女の首筋で遊んだままだ。  
鎖骨付近から徐々に上へ滑らせ、耳たぶを口に含み軽く歯を立てる。  
「や…」  
女の鳴き声に嫌悪以外のものも混じっている事にシモンは気づき、目を細めた。  
 
「思ったより胸小さいな」  
「なっ…」  
身に纏うものが股間を覆う布だけにされてしまった後、唐突に降って来たシモンの言葉に女は身を瞠る。  
シモンの顔をまじまじと見てしまった女にシモンは恋人に送るような甘い笑を作ってみせ、女の胸を鷲掴んだ。  
「…っ!」  
「でも感触は悪くない」  
目を見合わせたシモンが浮かべた、イタズラを思いついた少年のような無邪気でやんちゃな表情に女は唖然とした。  
この男は自分のしている事を理解しているのだろうか、そんな疑問が思考の隅に浮かぶ。  
手のひらに吸い付くような肌さわりを堪能するように弄る指は最初の無骨な触れ方とは打って変りどこまでもソフトだった。  
強引に揉みしだいても女の身体は感じない事をシモンは知っていたのか、驚くほど優しく丁寧に女の胸を撫で上げる。  
時折先端で主張し始めた先端の尖りを掠め、その度に女の唇から吐息が漏れた。  
 
「や…あ…ッ!」  
シモンが胸の突起を摘み上げると女は悲鳴にも似た声をあげた。  
「感度もいいんだな」  
嬉しそうに言うシモンを女が睨み付ける。  
うっすらと紅をさした瞼と頬。涙が滲んだ瞳に浮かぶのは憤怒の色──だけではなかった。  
そこに宿る確かな欲情の兆し。  
女の意識は少しずつ傾きこちらに流されてきている事をシモンは確信し、口元をにやりと歪めた。  
強弱をつけながら突起を指先でこね回し、口に含む。  
「…ああ…っは…んぁ…っ」  
舌先で転がすように舐めると女は一際甲高い声で鳴いた。  
暫く胸を玩んでいたシモンだが、顔を上げ女の様子を確認する。  
女の表情からは先ほどまでの怒気は感じられない。  
変わりに快感に染まりつつある蕩けた瞳がそこにあった。  
 
──本当に、これが…。  
混濁した意識の中で自身の胸元から見上げるようにして様子を伺ってきたシモンと女は目を合わす。  
──これが…シモン…。  
いつも自身なさげに、他人と波風立てる事を避け、何を言われても言い返すこと一つ出来ない。  
弱気で、いかにも人畜無害な感じで、頼りなさげにひょろっとしていて…。  
 
(──……していなかった──)  
 
自分を抱いた腕は予想外にずっとごつく、  
筋張った大きな手の感触がすっかり雄である事を、身体に直に伝えられ女は気づく。  
今目の前にいるのはいつも女が馬鹿にしていた、穴掘り以外に能力のない頼りなさげな男ではなかった。  
穴掘りによって鍛えられたせいか肩幅は意外なほど広く、逞しい。  
 
(やだ…私…何で…)  
途端に自分の中から昂揚と込み上げてくるものが何なのか女には理解できなかった。  
ただ、一つだけ分かるのは、不快に思っていた男の手が、だんだん心地良いものに変わりつつあるという事だった。  
 
再び胸の突起に吸い付くと、空いた片方の手で女の腹部を撫でた。  
くすぐったかったのか女の身体が跳ねる。  
シモンは気にせず円を描くように腹部の上で暫く遊ばせた手を中心に向けて下降させていった。  
唯一残っていた布が摘まれる感触に、そのまま脱がされるのだと女は思った。  
だが女の予想に反し、シモンは股の布をぐいっといっきに上に引っ張った。  
 
「ん…っ」  
下着が秘部に食い込む刺激に女が眉根を寄せた。  
それが苦痛に歪められた訳ではない事をシモンは知っていた。  
女の胸から顔を離すと、下着を引っ張っている手とは反対の手で布地の上から膨らみに触れた。  
「…ああっ」  
「濡れてる」  
くすりとシモンが笑う声に、ただでさえ上気し赤くなっていた女の頬はますます色味を増した。  
羞恥心や快感などがない交ぜになって女を襲う。  
下着越に膣口をなぞり、やがてある一点でシモンの手は止まる。  
見つけた──そのシモンの呟きは女の耳には届いていなかった。  
「あああ…ああはああああっ」  
肉芽をぐりぐりと擦られる刺激に、女は狂ったように喘ぎ身悶えた。  
布地に隔てられていてるのにも関わらず、あまりにも強烈なそれは女の精神を谷底へ堕とすには充分だった。  
 
虚ろな表情で口を半開きに喘ぐ女の姿にシモンはそろそろ頃合だと判断し、  
布の下に手をスライドさせ直接淫肉を愛撫する。それにより女が零した吐息はどこまでも甘いものだった。  
布越しに散々弄繰り回し尖りきったそこを再び捕らえ、中指と人差し指で挟み込む。  
「いや…ぁあぁぁッ……」  
瞬間、女の唇は戦慄き身体がえび反りになった。女の背中を凄まじい快感が駆け抜ける。  
「凄い、洪水だ」  
シモンは感嘆の声をあげると、たっぷりと愛蜜を指に塗し女の反応が1番良くなるそこを執拗に攻めた。  
「…や…ッ、ああぁっ……っ…」  
2本の指で奥に押し込むように擦ったかと思うと、圧力を抜きコリコリと優しく転がす。  
自分でも触れたことのない箇所を、他人の…それも今まで見下していたた男の手によって開拓されていく。  
「…んああ…あ…はぁ…あぁッ」  
未知なる感覚が女を襲っていた。広がっていく甘い痺れに苛まれ、意識の隅に追いやられていた恐怖が俄かに戻ってくる。  
──これは何?  
(…な…なんなの…、…この…感じ…)  
初めて指技を受ける媚肉は、熱を帯び敏感さを増していき女は戸惑いを覚えた。  
今自分は間違いなく強姦されようとしている。それも相手はシモンだ。  
これ以上ないくらいに屈辱的な目にあっているはずなのに、何故漏れる声はこんなにも狂喜に満ちているのだろう。  
拒むどころか相手を求め始めてさえいる自分を女は自覚していた。  
四肢の力が抜け、手足の動かし方を脳が忘れてしまったかのようにシモンにされるがままになっている。  
(……このままだと私、どう…なっちゃうの……?)  
 
肉芽を嬲っていた手がいきなり止まり、そのまま下着から引き抜かれた。  
突然愛撫から開放され不思議そうにシモンを見やると、目が合い微笑まれる。  
その表情にドキッと心臓が跳ねた。  
(──…シモンって、こんな風に笑う奴だったけ…?)  
困ったような情けない顔で微苦笑する様が印象強かった男の、  
柔和ながらも精悍さが漂う笑顔に女は一瞬見惚れてしまう。  
 
「物足りない?」  
「─へ?え?」  
急に投げられた言葉の意味が分からず、ぽかんと口を開けた女だったが、直ぐに理解し声を荒げた。  
「な、何馬鹿な事言ってんのよ、そんな訳ないでしょ…!…さっさと私の上からどいてくれない?」  
甘美な余韻を残しつつも強烈な刺激が無くなり、少しだけ余裕ができたのか、女はいっきに捲くし立てる。  
けれど不自然に泳いだ視線や裏返った声が、女の動揺を明確にシモンに伝えていた。  
シモンは殊更に不敵な笑みを浮かべ、図星をつかれ顔を火照らした女の耳元に囁きかけた。  
「──安心しろ、満足させてやる」  
「なっ…!」  
女の口が文句を繰り出そうとするよりも早く、シモンは女の下着を剥ぎ取ると脚を両手でM字型に押し広げた。  
そのあまりに素早い動きに女は一驚を喫する。  
「いやぁ…っ駄目…ッ」  
冷たい外気に脚の付根部分を撫でられ、自分の今の状態を嫌でも思い知る。  
布一枚の差でここまで心許なくなるものなのかと女は唖然とした。  
身包みを全て剥がれてしまった自分と、服を着たままのシモン…その事実がさらに女を追つめた。  
「見ない…で…」  
「今更?もうばっちり見ちゃった後だよ。それに──」  
シモンの顔が恥丘に息が掛かりそうな程の至近距離にある。それはあまりに官能的で耐え難かった。  
「ツインテル子のここ、溢れそうだよ。ひくついて男を誘っている」  
シモンの言葉に余計に羞恥心を煽られ女は目は泣きそうな顔で唇を噛んだ。  
艶潤なピンク色の媚肉はすっかり濡れそぼり、てらてらと光っている。  
「これだけ塗れているなら大丈夫だな」  
シモンは指をぐっと埋め込んだ。  
「ひ…ぃああああああああっ」  
「すご…纏わりついてくる…」  
指を奥まで慎重な手つきで侵入させると内壁を擦るように数回動かし、女の中の感触を楽しむ。  
数回指を抜き差ししただけで、淫らな水音が二人の耳に響いてきた。  
「いや…ッ、いや、いやぁ…ッ…やめ…てぇ…ッ…」  
女はかぶりを振って泣き叫んだ。  
一体何が嫌で自分は拒否の言葉を紡いでいるのか。それすらも分からずにいる状況で。  
「あ…ぅあ…ッ…くぅ…」  
なんとか我を保とうと女は最後の手段で唇を噛み締めてみる。  
だが咽喉の奥から漏れ出てしまう切ない喘ぎが男の欲情を煽るだけだった。  
 
次第に早くなっていく指の動きに混濁したものが女の思考を包み、押し寄せてくる快楽の波にあっという間に呑み込まれてしまう。  
シモンは己の指の動き一つに反応し、淫らに喘ぐ柔らかな肢体をじっくりと堪能する。  
女の中を弄っているのとは反対の手で剥き出しとなっている肉芽を摘んでみた。  
それが引き金となり、ついに女の理性は欠片一つ残さず飛び散った。  
「あッ…あああ…んあ…」  
「うわ…ツインテル子、エロ…」  
溢れ出した蜜がシモンの手首の方にまで伝ってくる。  
女はシモンの指の動きに合わせ腰をくねらせより強い快感を望んだ。  
「今からそんなんだと、後でもたないぞ…。本番はこれからだってのに…」  
シモンの言葉など耳に入ってない様子で女は一心不乱に腰を振り続けた。  
思わずシモンから苦笑が漏れる。  
やがて女は弓なりに身体を反らすとびくびくっと振るえ、声にもならない声をあげた。  
そしてぐたりと事切れたように地面に沈み込む。  
初めての絶頂をむかえた事に女は自分では気づいていないだろう。  
恍惚とした女の表情に、シモンは満足げに指を抜く。  
 
するすると布が擦れる音に女は意識を僅かに取り戻す。  
おぼろげな視界の端に映った光景を、霞がかった思考では把握する事ができなかった。  
 
女が事態に気づいたのは膣口に硬いものが押し付けられる感触を受けてからだった。  
服を全て脱ぎ捨て女と同じように全裸になったシモンが、雄の欲望を女の秘部に宛がっている。  
「…!シ、シモ…」  
それを見て女はいっきに青ざめ背中を強張らせた。  
(…何よ、これ…っ、こんなの、入るわけない…!)  
シモンの股間で反り返った男根。そのあまりの大きさと棍棒のような硬度に女は怖気つく。  
ただでさえ経験のない自分のそこが、怒張しきった男の質量に耐えられる訳がないと女は思った。  
縦裂をなぞるそれを挿入されまいとシモンの胸に両手を置き、押し返そうとするがままならない。  
畏怖し力なく震える女の手を一瞥すると、シモンは女の瞳を覗き込むように見つめた。  
「怖いのか?」  
「…え…?」  
「なんかツインテル子がそんな風にしおらしい感じだと、新鮮だな。…いつも高圧的な態度ばっか見てきたし」  
「…な…ッ!」  
──それはこっちの台詞よ!  
揶揄するように見下ろしてくる男に女はそう言い返そうとしたが、何故か言葉が喉に引っかかったまま出てこなかった。  
新鮮…どころの話じゃない。目の前にいる男が自分の知るシモンとはとても同一人物とは女には思えなかった。  
表情も仕草も態度も…意外と逞しい身体つきも。何もかもがそれまでの“シモン”という男の認識を覆していき、  
いつの間にか此処にいるのがシモンである事を忘れ去っていたような妙な感覚さえ沸き起こる。  
 
「ほら、先端が入ったぜ」  
意識を逸らされている間にシモンが挿入を開始し、女はぎょっとした。  
柔肉が亀頭により割り開かれ、ヌメヌメと煌き潤いきった媚肉に少しずつ摂りこまれていく。  
充血したピンクの襞肉が先端を包み込んだ。  
「んあッ…はぁ…」  
途中まで埋められたところでシモンの腰が一旦止まる。  
「…きつ…」  
女の中は予想外に狭く、快感を通り越して痛いほどにシモンは締め上げてきた。  
肉根の侵入を拒むような抵抗に負けじと腰を押しし進める。  
「…力抜けよ、ツインテル子…」  
「そ…そんな事…」  
──言われても──最後の方は言葉を発する事が出来ず、唇から息が抜けただけだった。  
侵入が深まるにつれ徐々に息苦しくなっていく感覚に、力をどう抜けばいいのか。  
…そもそも、自分がどこにどう力がを入れているのかすらも分からない状態に女は追い込まれていた。  
シモンは苦しそうに息を吐くと、グッといっきに腰を振り下ろした。  
「…うぐ…あ…」  
女がぐぐもった悲鳴を上げた。そして、首を折り仰け反る。  
半ば強引に怒張を蜜壷に埋め込まれ、破瓜の痛みに冷や汗がどっと吹き出る。  
内部に湛えられていた愛蜜が迸り、お互いの股間を、太腿を濡らした。  
女の口が、酸素を求める金魚のようにパクパクと動く。  
熱くぬめった粘膜が棹に絡みついてくる。そして、締め上げてくる。  
シモンの肉棒は、その圧力を跳ね返すかのように、血液を湛え膨らんでいく。  
身体を引き裂かれるような、身体の内側から押し広げられるような圧迫に女の眉がひどく歪む。  
「……や…ッ…抜い…て…、お…願…ッ…」  
「悪いけど…」  
シモンがおもむろに腰を揺すりだした。ゆっくり棹を抜き刺しする。  
「いっ、痛…ッ…うっ……」  
「──もう、止まれないんだ…っ」  
 
それまで女は、シモンは自分と違いこの行為に対しずっと余裕があるのだと思っていた。  
自分一人がシモンに玩具にされいいように翻弄されている、と。  
だけど叫ぶように放たれたシモンの声には、余裕の色など微塵も感じなかった。  
──まやかしでもいい。シモンは今、私を求めている──そう思った瞬間不思議と満たされた想いが女の中に流れ込んでくる。  
 
最初は気遣うように緩慢だった腰の動きが、制御しきれないといった感じに一突きごとに速度を増していく。  
事前の愛撫で大分解れていたとはいえ、始めてその身に雄を受け入れる痛みは、女の予想遥か上をいっていた。  
シモンの腰が前後に激しく動き、愛液に濡れ鈍い光を放つ肉棒が亀裂より出入りする。その度に肉と肉がぶつかり合う音がパツンパツンと鳴り響く。  
「…ッ、うぅっ、くうぅ……」  
律動に合わせ膣中をピリピリと走る痛みに、女の顔が苦痛に歪む。  
だが、その奥に痛みだけではない疼きが芽生えようとしている事を女は感じていた。  
(…痛い……だけど……)  
十分に潤ったそこはシモンの怒張に擦られるたび蠢き、男と女の劣情を駆り立てた。  
「うあ…ッ…ああっ……」  
痛みと疼きが二重螺旋を描き駆け上がっていく。  
 
 
肉棒を引き込むように吸い付いてくる秘孔。  
そのあまりの気持ち良さにシモンは何度と飛ばされそうになる意識を何とか繋ぎとめていた。  
棹に刻まれた血管の隅々にまで熱い粘膜が絡み付いてくる。  
「…く…」  
シモンが苦渋によく似た呻き声をがあげた。直後、肉棒が女の中でさらに反り返り、女の上壁を刺激する。  
 
知ってか知らずか探り当てられたGスポットへの刺激に女は目を見開き仰け反った。  
「…っ…ああああぁぁああぁ…ッ…」  
そして、眩暈にも似た浮遊感が女を襲う。  
シモンの怒張が蜜壷の内壁を擦る度に気が遠くなる。意識と一緒に肢体がぐらぐらと揺れた。  
「ひあッ…んはぁあああぁぁ」  
意識が溶解し、甘媚な刺激が全身を支配した。  
「シ…モンっ…あ…あああッ…シモ…ン…ぅ…ッ」  
気がついたら自分と交わっている相手の名前を女は連呼していた。  
「シモ…ン、シモン、シモン…っ、…ああ…ッ」  
無意識にシモンの首に両手を廻し縋りつく。  
 
「…も、限界…出…る」  
シモンは自分の名を唱え続ける女を抱え込むように包んだ。  
腰を手前にぐっと引くと、怒張を勢い良く女の最奥に打ち込んだ。  
子宮を突き上げられ、女の身体が戦慄いた。  
「ひいっ、いっ、あっあああぁぁぁ……」  
背中を大きく退け反らし四肢を痙攣さると、シモンの砲身をきつく締め付け、果てた。  
その刺激を受け、身体中の血液がその一点に集中したかのようにシモンの怒張がドクンドクンと膨れ上がる。  
「…う…うあぁ…」  
先程よりも高い呻き声と共に、シモンは女の中に熱い滾りを解き放った。  
自身の中が熱い濁流に埋め尽くされていく感覚を、女はぼんやりと受け止めていた。  
 
 
 
「信じられない!中に出すなんて…サイッテー、サイアク」  
「ごめん、ごめん」  
シモンは非難の声をやんわり受け流しながら、行為前に脱ぎ捨てた服に袖を通していく。  
「ごめんごめん、じゃないわよ!」  
女は自分の服を掻き集めながら憤慨し怒鳴るが、シモンは全く気にする様子を見せない。  
それが女をますます苛立たせた。  
(何よコイツ、本当にシモンなの…!?実は中身が別人と入れ替わっってんじゃないの?)  
意識がはっきりと覚醒した今、シモンと重なり合っていた時よりも女は信じられない気持ちでいっぱいになった。  
(でも…)  
女はふとある事を思い出す。  
(そういえばコイツ…、シモンって…)  
皆が音を上げ手を止めてしまう場面でも、一人だけドリルを回し続ける姿が頭に浮かんだ。  
(他の誰が諦めた場所でも、シモンだけは…掘って掘って、掘り続けて…)  
ひたすら穴を掘り進めて行くその後姿は数年の月日を経て、  
少年時代のそれよりもずっと頼りがいのある雄勁なものになっていた事に今更ながら気づく。  
(絶対に最後まで、掘りぬいちゃうんだよね…)  
それしか能がないと仲間達と散々馬鹿にしてきた部分が、途端に格好良く思えてきて、  
せっかく引いた熱がまた込み上げてきそうになり、女はそれを振り払うようにぶんぶんと頭を振り回した。  
不意に視線を感じた女が顔を上げると、服を着終えたシモンが腕を組みながらしみじみと見ていた。  
「…何?」  
忌々しげに視線を返す女に、怯むことなく淡々と告げる。  
「いや、ツインテル子が髪降ろしてるとこ、始めて見るような気がして」  
「…勝手に見ないでよ!」  
「あ、待て。そのままでいなよ」  
「…はあ?」  
いつの間にか解けていた髪を女が慌てて纏めようとするのを、シモンが制止した。  
訝しげにシモンを見上げる両の瞳を真っ直ぐ見据え、満面の笑みをつくる。  
 
「髪、そうやって降ろしている方が可愛いよ」  
「──!」  
女の顔はみるみるうちに、行為の最中と勝るとも劣らないくらいの紅に染まった。  
 
──くやしい。  
──よりによって…、よりによって…。  
 
───シモンなんかに…!!  
 
確信めいた予感が女の中に湧き上がる。  
例えこの先どうなろうと今日というこの日を忘れる事はけしてできないだろう、と。  
……誰よりも穴を掘ることが得意な男に、身体どころか心までもを奪われてしまったこの日を。  
 
 
 
 
 
 

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