「っ…は……っ…ン……」
侵入者を拒むかのように硬く閉ざされた冷たい扉。
そこに手をついて、小刻みに肩を上下させる女の姿。
うっすらと涙が浮かんだターコイズブルーの瞳はどこか虚ろで、視線が定まらない。
女の名前はダリー。
肢体の中心部分から迫り上がってくる感覚に、ダリーは自身の太股を擦り合わせるようにして耐えていた。
このままでは気が狂ってしまう──そう思わずにはいられない。
早く楽になりたい。とある衝動が思考に霞をかけて行く。
「お願…い……」
「もう我慢できないのか?」
「…ん…も…ダメ……」
「焦るなよ、ダリー。まだまだこれからだぜ」
今にもはち切れんばかりに切羽詰ったダリーとはまるで対照的に、余裕ある声。
そのどこまでも落ち着いた響きはダリーをさらに追い詰めた。
薄桃色の唇から切なげな吐息が漏れる。そして、──
「…ギミぃ…」
か細い声で紡がれたその名は、紛れもなく彼女と血の繋がった実の兄だった。
「ダリー、まだだ…まだ…」
身体を震わせながら懇願するダリーを尚も焦らす言葉。
脚の付根から侵食するようにして全身を駆け巡る疼き。
神経全てがそれに支配されているかのような錯覚にダリーは陥った。
「──ギミー…!お願い…だからぁ…っ、早く…っ…。このまま…じゃ、私…おかしくなっちゃう…っ…」
「──…分かったよ、ダリー」
──これ以上は無理だ──妹の身体がさすがに限界に来ている事を悟る。
ギミーはそっと手を伸ばすと捻るように触れた。
刹那、水音が鳴り響く。
「ダリー、出たぜ!あ〜すっきりした」
晴れ晴れとした顔で扉から出てきたギミーを、ダリーは上目に睨みつけると言い放った。
「──あんたいっつもトイレ長すぎなのよ!!!」
もしもトイレがたった一つだけだったら。