「セックスって一体なんですか?」  
グレンラガンの調整をしていたリーロンの元にやってきたのは、珍しいことにニア一人。  
彼女は螺旋王の娘であり、王女である。  
それも箱入り娘だったらしく、俗世――つまり存在を隠された人間達については疎い。  
だが上品な振る舞いは、姫に恥じない教育を受けていたのが伺える。  
しかし螺旋王に棄てられた。しかも箱に入れられてというから洒落にならない。  
だけどスポーツは習わせておいて、性教育は学ばせないなんて。  
テッペリンの教育とは保健体育がセットじゃないのかしらとリーロンはこめかみを押さえた。  
グレンの中のロシウが気づいていないことを横目で確認して、小声で聞いた。  
「…それは他の人にも聞いたの?」  
「はい、ヨーコさんに」  
ふわふわとした少女は首を傾げるばかり。質問を投げかけたのがヨーコならばまだ良い方だった。  
キヨウに聞いてしまったら、怪しい知識を植え付けられてしまいそうだ。  
レイテなら雄しべと雌しべの小難しい話から始まるだろう。  
うっかりアーテンボローにでも聞いてしまったら、主砲を誤爆してしまうかもしれない。  
男は人の皮を被ったケダモノというのだから。予想するに、背伸びをしている癖にウブな所があるヨーコが困って盥回しにしてきたというところか。  
「もしかして、聞いてはいけないことでしたか?」  
「いーい、ニア。これは女の子が軽々しく言っちゃダーメ。セックスはね――」  
相づちを打ち、目を丸くしたり、ころころと表情を変えながら熱心に聞き入っている。  
そしてすっきりとした表情で、全てを受け止めて去っていった。  
丁度グレンの中からロシウがひょっこりと頭を覗かせ、去り行くニアの後ろ姿を追う。  
「ニアさんですか?どうしてこんな所に」  
「乙女の秘密よ。さあ、今日は終わりにしましょ」  
キリが良いところで止めて、明日に備えなければならない。あの子のことだから、今夜にでも実践にかかるだろう。  
「――頑張んなさい」  
 
 
「シモン、一瞬にセッ…ええと、眠りませんか?」  
「せっ…?え!?ニア、それはまずいんじゃ!」  
「同じ場所で眠り、温もりを分かち合いたいのです。駄目ですか?」  
「…ニアがいいなら、いいよ。狭いかもしれないけど…」  
「ありがとう、シモン。…気持ちいい。シモンはとても暖かいのですね――」  
 
 
翌朝、ニアがシモンの部屋から出てきたことで、艦内はある噂で持ちきりになった。  
そこで致したのかどうか。  
部屋の主は『一緒に寝ただけ』、当の本人は『温もりを分け合った』と言っているが、真偽の程は定かではない。  
「間違ってはいないんだけど、もう少し噛み砕いておくべきだったかしら?」  
 
 
 

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