眼前に閉じた瞼があった。長く湿ったように見える艶のある睫の意味を、
ミハエルは数秒の間、理解できずにいた。しかしすぐにぬるりと口内に
侵入してきた存在に、「彼女」の舌の柔らかさに、たちまち現実が流れ
込んできた。思わず顎を浮かせる。
ごくり、と喉を鳴らし、唾液を嚥下し――そのまま酔った。
唇を何度も重ね合わせ、舌を絡ませることを続けていた。
格納庫にはクラシックが流れている。セレモニーの始まりを告げるささや
かな旋律だった。美しい女性に唇を奪われ、恍惚としながらミハエルはそ
の音楽を聴いていた。まるで、別世界に来てしまったようだ。
いつしか、ミハエルは彼女に縋りつくような格好になっていた。
ファサリナは彼の背を辿りながら、膝を曲げ、深いスリットから片足を
露出させた。ニーソックスから覗く白磁の太腿を、彼の体に擦り付ける。
と、すぐに効果は現れた――ファサリナは愛しさに自然と唇を歪ませた。
「いけない子ね」
そう、艶やかな微笑を与えると、彼はすぐに真っ赤になってしまう。
女性に、このような変化を見られたのは初めてのことなのだろう。瞬きを
激しくし、慌てて距離を取る。半開きの唇からだらしなく垂れる唾液が、
この初な潔癖そのものの少年に余りに不釣合いだった。それがファサリナ
の体の奥に、じっとりとした熱を持たせるのだ。