『うふふふふ』  
 
闇のしじまに聞こえてくる声は幻聴だ。  
 
『んぅ・・はぁ・・あっ・・あんっ』  
 
幻聴ですよ。  
僕はベッドにもぐりこみ、春先の薄い毛布で両耳を塞ぐ。  
ぎゅっと目を閉じる。  
目を閉じると、なおさら鮮明になって、薄暗がりの月光に照らされた白い肌とはだけた制服が、細い指が、幻聴に重なり淫靡に蠢く。  
「はぁ、はぁ、はぁ・・」  
 
『うふふ・・あっ・・いい子。そう・・上手よ・・』  
 
『ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ』  
 
彼女の高揚した甘い声に、獣の蜜を舐めるぴちゃ、ぴちゃ、という音。  
彼女の求めに従順に、獣が蜜を舐める。  
彼女の指が、やさしく獣を撫でる。  
 
『ふ・・、んぅっ! ああっ! ああっ!』  
 
幻聴です。  
聞こえるわけが無い。  
青みを帯びた月光が差し込む厩舎で起きている出来事が、僕の潜り込んだ自室のベッドの中にまで響いてくるわけがない。  
幻聴なんです。  
 
『あっ、あっ、いいっ、イイわっ、そうよ・・いい子ね』  
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・」  
なんで聞こえてくるんです。  
なんで耳から離れてくれないんです。  
考えるな。  
思い出すな。  
彼女の上気した頬と吐息が聞こえてくる。  
 
『うふふ・・いい子ね、・・健司・・』  
 

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