★                   ★            
 
 ――時間は少し遡る。  
 
「ライブラリに侵入者、だと?」  
「はい」  
 
 その歳にしては随分貫禄のある身体を揺らし、準竜師の地位にある男――芝村勝吏は、  
その報告をもたらした自らの副官を見やった。  
 剣呑な視線に動じもせず――いつもこんな視線だからだ――ウイチタ更紗は頷いた。  
 
「……捕えろ。生死は問わん」  
「よろしいのですか?」  
「何がだ?」  
「侵入者の正体は判明しております。名は――芝村舞」  
「………………は?」  
 
 滅多に見れない主人の唖然とした表情に、思わず緩んでしまいそうになる頬を  
懸命に引き締めながら、ウイチタはコンソールを操作し、映像を出した。  
 監視カメラの映像がモニターに映し出される。  
 
「一瞬だけですが、この後姿……この髪型に体格は、見紛いようが無いかと」  
 
 一瞬、ほんの一瞬だけ、映像にはポニーテールの少女の姿が映っていた。  
次の瞬間には不自然に映像が途切れ、少女の姿は消えている。  
 
「……ハッキングによるダミー映像への切り替えか」  
「はい。データ上にも、ごくごく僅かですが、痕跡が。そうと知って調べなければ  
 区別がつかないレベルのものですが」  
「こんな事ができるのは……確かに我が従妹殿しかおるまいな。まあ、最後の詰めが  
 ちと甘くはある辺りも、我が従妹殿らしいと言える……クククッ」  
 
 準竜師は笑みを浮かべ、呟いた。  
 
「……しかし……」  
「どうした、更紗?」  
「……一体、何の為に? あのライブラリは、確か勝吏様の私的な文章が所蔵されて  
 いるだけで、特に価値のあるものは無いと聞いておりますが……」  
「………………」  
「………………?」  
 
 満ちる沈黙。笑みを浮かべたまま固まる準竜師。  
その額に僅かに浮き出た汗を、有能な副官は見逃さなかった。  
 
「……まさか、とは思いますが……?」  
「いえ違うんですよホント違うんですってばいやホントに聞いてくださいウイチタさん」  
「……靴下だけでは飽き足りず……?」  
「いや靴下は別枠でそれはそれでだから違うんですってばウイチタさんおーい?」  
「……焼却します」  
「Noooooooooooooooooooooooooooo!!!???」  
 
 ――小一時間後。  
 
「………………」  
「まったく、人の目を盗んであんな……卑猥、な……うぅ……」  
「泣くな、更紗。お前には笑顔が良く似合う」  
「誰のせいで泣いてると思っているんですかっ!?」  
「うむ。実を言うと我も泣きたいから、一緒に泣くか?」  
「……怒りますよ?」  
「怒った顔のお前も綺麗だ……」  
 
 返答は無言の平手だった。  
 灰となったコレクションにうつ伏せに突っ込んで、準竜師は少しだけ、  
ほんの少しだけ涙を溢した。  
 
「……しかし、舞様は、何故にあのような……その……卑猥な文書が集積された場所へ  
 侵入なさったのでしょうか……心当たりは?」  
 
何事もなかったかのように灰の中から起き上がり、顔一面を染めた灰色を拭い、  
準竜師は笑った。  
 
「我が従妹殿も、人生の春を迎えるに至ったという事だな」  
「……意味がわかりかねます」  
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。とは言え、敵を知る為の情報が、  
 盛り返しているとは言えこの戦局だからな、手に入らない。  
そこで、我がライブラリを探る事を思い立った、という事だろう。  
我が従妹殿の情報収集能力は、一族の中でも群を抜いている。  
我が秘蔵のライブラリの内容を知っていたとしてもおかしくない」  
「……つまり……舞様が……その、想い人と添い遂げる為の、情報を? きゃっ」  
 
 頬を染めながら尋ねるウイチタを抱き寄せ、準竜師はその耳元で囁いた。  
 
「……そうだ。お前も知っているだろう、速水厚志という男を」  
「舞様の……カダヤ……」  
「先日映画のチケットを陳情された。……この日曜日だな」  
「……けど、舞様は、そういった事には……あっ、耳だめぇ……」  
「クックック……よかろう、我が従妹殿よ。気付いたのも何かの縁だ。  
 ささやかながら手を貸してやろう……クックック」  
「だめですって……ばっ……んっ、耳に息……ふぅっ」  
「更紗、これが終わったら、早速情報を集めよ」  
「これって……あ、そんな、まだ仕事が残って……あぁっ!?」  
 
 副官をベッドに押し倒しながら、準竜師は思った。  
我が従妹殿よ……使ったら元あった場所に返しておいてくれよ、と。  
 
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――一方その頃。  
 
 舞は不機嫌だった。  
何故なら――  
 
「……やはり、男は胸の大きい女の方が良いのか」  
 
 ――準竜師秘蔵の書物に載っている女性が、皆立派な胸をしていたからだ。  
服の上からぺたぺたと自分の胸を触ってみて、その無さ加減に一層不機嫌になる舞。  
 
「強敵、だな……」  
 
 ――いっその事、バイオ技術による豊胸を……いや、しかしそれでは偽りの自分を  
見せているようで、心苦しいし、かといって胸を大きくする手段など私は――  
 葛藤する舞。士魂号に乗って、厚志と豪華絢爛なる舞踏を披露している時とは、  
比べ物にならない程に思考が乱れ、まとまらない。現状を打開する方法も、全くもって  
思い浮かばない。ただ焦りだけが生まれ、時間だけが過ぎていく。  
 
「むっ!」  
 
 その時、書物のある一文が、舞の目に止まった。  
 
「………………これだ!」  
 

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