(……こう、かい……)  
 まどろみの中、優しい温もりに包まれているのを感じながら、壬生屋は新井木の言葉を思い出していた。  
(後悔は……しません……)  
 そこからさらに意識は過去へと飛ぶ。  
 
 ――遥か遠い、過去の話。  
 
「後悔は、したくありませんから」  
 そう言って笑う自分。  
 いや――自分だった、人。  
「…………?」  
「だから……もう行って、童子」  
 自らを抱き包む最愛の人が、何を言っているのかわからない、とでも言うように、首を傾げる。  
「もう……」  
 優しさと寂しさを交えた笑みを浮かべながら、壬生屋は――その時はシオネ・アラダと呼ばれていた人は、  
小さく溜め息を漏らした。  
「……私の命脈はもう尽きるわ。私は、私が終わってしまった後も、貴方を縛りたくないの」  
 涙は流さない。そう決めていた。ただ、ただ笑顔でそう告げようと。  
「……これで、最期、なのか?」  
「そうね」  
 だが、その笑顔は、そのまま世界に溶けてしまいそうな程透明で。  
「だから、もう大丈夫。最期に……貴方に逢えたから」  
(嘘……)  
「貴方に逢えたから、心残りなく、逝けるわ」  
(嘘……心残りばっかりの癖に)  
「心残りは……貴方が私に縛られてしまわないかという事」  
(嘘……ずっと縛っていたかった癖に)  
「だから、もう行って」  
(嘘……行って欲しくなんかない癖に!)  
「……童子」  
 長い沈黙が、蝋燭の光に照らされた部屋の中に満ちる。  
「……貴方が……それを、望むのなら」  
「……ありがとう」  
 ふいに、シオネを包んでいた温もりが消えた。  
「童子」  
 一筋のきらめきが、透明な笑顔の中を流れる。  
「また、いつかどこかで逢いましょうね」  
 言葉は――届いたのか――  
 
「嫌っ!」  
「ぬぉわっ!?」  
 膝枕していた未央を静かに下ろし、ベッドから立ち上がった俺は、後ろからベルトを掴まれて引きずり倒された。  
「な、なん……」  
「行かないで……」  
 ……まさしくあっと言う間の出き事。仰向けの俺の上に、未央が馬乗りになっていた。  
「行かないで……」  
「あ、ああ。どこにも行きやしないさ」  
「本当に?」  
「ああ、もちろんだ……だから」  
 本当は、少々お花摘みにでも行こうと思ってたんだが、流石にそれを言い出す雰囲気じゃない。  
「だから泣くな、未央」  
 何しろ、俺の上で未央はボロボロと涙を流していたのだから。  
「じゃあ……」  
「じゃあ?」  
「ギューってしてください」  
 ……まだ酔いが覚めてないのか?  
「わかったわかった」  
 俺は苦笑しながら、下から未央の身体に手を回した。すると、未央が身体を預けてくる。  
 未央も俺の背に手を回し、俺たちは強く抱きしめあった……んだが。  
「……ちょ、未央」  
 前線要員である未央は、しがないオペレーターな俺なんかよりよっぽど鍛えてるわけで。  
 流石に苦しい。  
「隆之さんっ……隆之さんっ……!」  
「………………」  
「隆之、さん……」  
 まあ、そのかいもあってか、未央も落ち着いてきたようだし、よしとしよう。  
「落ち着いたか?」  
「……はい」  
 抱きしめあったまま、お互いの耳に囁くように言葉を送りあう。  
「夢を、見ていました」  
「夢?」  
「はい」  
 ……どんな夢だったのか。それを聞く前に、未央は自ら口を開いた。  
「後悔しました。捕まえていたものを手放して、後悔をする……そんな夢を見ました」  
「…………」  
「あの時、私は見栄っぱりで、そうする事があの人の為だと思ってそうして、でも自分の心は本当はそうじゃなくて、  
 本当はずっと一緒にいたくて……だから、あの時の私は、後悔していました」  
「あの、時……か」  
「えぇ。ずっとずっと、遠い昔の話です……もう、ほとんど忘れしまっていた程に、遠い……」  
 シオネ・アラダの記憶継承を受けた、転生体。それが壬生屋未央の持つもう一つの顔。  
 俺が追いかけ、遂に辿り着いた人。  
 ま、俺がコイツを好きな理由は、今やそれだけじゃないんだが、ね。  
「……未央」  
「ですから、もう後悔はしないと、捕まえた人は離さないと、そう決めたんです」  
 そう言った未央の手が、俺の股座辺りで蠢いた。  
「……み、未央?」  
「うふふ……もう、こんなに堅くなっちゃってますね、隆之さんの」  
 抱きしめあい、未央の柔らかい感触に立ち上がった愚息が、ズボンの上からの愛撫でさらに硬度を増す。  
 思わぬ先制攻撃に、俺は思わず立ち上がろうと  
「駄目です」  
 したが、未央は俺を組みふせ、それをさせない。どころか、まとっていた胴衣の帯をスルリと抜くと、  
その帯で俺の両手を器用に後ろ手に縛って見せた。  
「ふふ、壬生屋家伝来の捕縛術の味はいかがですか?」  
 そううわごとのように囁く未央の顔は、どこか鬼気迫るものがあった。  
「新井木さんも仰ってましたから……捕まえたら、離すな、と」  
 ……あのー、それ捕まえるの意味が違うんじゃないかなー、とか思ったりするんですけどー。  
「それじゃ――練習の成果、お見せますね、うふ」  
 新井木……覚えとけよ……。  
 
 ―― 一方その頃。  
 
「べぇぃっくしょいぃ!くしょい!」  
「……なんというくしゃみだ、新井木よ」  
「……あはは。誰かがボクの噂でもしてるのかなぁ」  
「お主はされる方ではなく、する方だろう」  
「あ、ひどーい。そんな事言うなら、ボク秘蔵の厚志君幼稚園時代スナップショット、見せてあげないよっ!」  
「……待て。先の発言については撤回する」  
「嘘嘘、嘘だって。舞っちはすぐに真に受けるんだから」  
「む」  
「……けど、あの厚志君のどこが気に入ったのかなぁ……わかんないや」  
「それについて語るには、昼休みでは時間が足りぬが……」  
「またさらっとお惚気るしー」  
「む」  
「あはは。……舞っちの場合は、大丈夫そうだよね」  
「ん? 何がだ?」  
「もし、もしだよ?  
「なんだ」  
「もし厚志君がいなくなっても、信じてたら、それだけで大丈夫だよ、きっと」  
「……」  
「だから、少し……羨ましいかな」  
 どこか寂しさを含んだ表情で自らを見つめる新井木。  
 普段見せない表情と言うだけで、そこにいるのは新井木に他ならない。  
 だが。舞はその新井木から何か途方もなく大きな物を感じ、口を開いた。  
「お主は」  
「何?」  
「お主からは、時折芝村に似た――いや、もっと大きな何かを感じる事があるな」  
「何かって……何?」  
「それはわからん……わからんが……」  
 それは世界の選択。  
「……いや、気のせいだろう。妄言だった。忘れてくれ」  
「何よー!」  
 そう言ってプリプリと怒った表情を見せる新井木からは、先ほど感じた物はもう感じ取れなかった。  
「そんな事よりだな……そろそろ見せてくれてもよいのではないか、新井木よ」  
「むー……ま、いっか。じゃ、まずは年少組の頃の写真から見せたげるよー。お風呂の写真もあるよ?」  
「ふ、風呂……という事は、つまり……」  
「そ。すっぽんぽーん」  
「………………」  
 それからしばらくの間、プレハブ校舎屋上では、舞が鼻血を流したり、茹蛸になってぶっ倒れたりと  
色々あったのだが、それはまた別の話である。  
 
 ――場面は戻る。  
 
 慈しむような手つきで、未央は俺の逸物を撫でる。ズボンの上からの感触が、かえって心地よい。  
「………………」  
 ――ごくり。  
 ――ごくり。  
 唾を飲む音二回。俺のものと、そして未央のそれだ。  
「今から、楽にして差し上げますね」  
 言うや否や、未央は俺のズボンのチャックに手をかける。  
「っ」  
 チャックが下まで引き下ろされると、逸物が飛び出て、外気に晒された。  
「………………嘘」  
 それを見て、未央は呆然と目を見開く。  
「……どうした?」  
「………………いえ……実物は、初めてで」  
 未央は、おずおずと手を伸ばし、俺の逸物を掴んだ。  
「堅いのに、少し……柔らかいんですね」  
「……う」  
 ただ掴んだだけだというのに、その手の温もりが直接逸物を刺激する。  
「えっと……ここから」  
 ゆっくりと、手を上下させ始める未央。  
「……ぅっ」  
 俺は思わず呻き声を漏らした。  
「あ……痛かったですか?」  
「……いや、大丈夫だ」  
 とんでもない。  
 思わずあげたうめき声は、痛みではなく快感によるものだ。  
 今まで感じたことがないような快感が、俺の身体を走っていた。  
「………………」  
 黙々と手を上下させる未央。  
 反応した俺の逸物は、ますますその体積を増して行く。  
「うわ……まだ大きくなるんですね……」  
「……」  
 俺は何故か恥ずかしくなって、無邪気な、故に淫靡な笑顔を浮かべる未央から視線をそらした。  
「じゃあ……行きます」  
 手のそれとは違う、粘度を伴った温かさを亀頭に感じる。  
「ん……あむ」  
「み、未央!?」  
 次の瞬間には、俺の逸物は未央の口腔に包まれていた。  
 視線を戻すと、表情を少しだけ歪めながら悪戦苦闘している未央の顔が見える。  
「うむふ……おおひいれふ」  
 大きいです、か。  
 確かに、逸物は半ばまでしか口腔に収まっていない。  
「……無理するなよ、未央」  
「わらひ、がんはひまふ」  
 口に含まれたまま喋られると、なんとも言えずこそばゆく、気持ちいい。  
「んむ……あふ……」  
 歯を当てないように口をすぼめ、大きく開いた口の中に、少しずつでも逸物を収めようと努力している未央。  
 ゆっくり顔を前後させながら、少しずつ深く、奥へと飲み込んでいく。  
 練習した、というのはこれの事だったんだろう。時折舌を絡めてきて、裏筋や鈴口になんとも言えない刺激が走る。  
 直接与えられる刺激は無論のこと、その懸命な姿が何よりも俺の心に快感を呼び起こす。  
 
 その時だった。  
「ん……げほっ!」  
「いっ!」  
 勢い余って、俺の先端が喉の奥を突いてしまったらしい。未央がむせ返り、その拍子に歯が逸物を掠める。  
「ごほっ……ごほっ……ご、ごめんなさい、隆之さん」  
「いたた……あ、いや、大丈夫だ。未央こそ平気か?」  
「……隆之さんの、大きすぎます! 勉強したのと、その、違いすぎです……」  
「いや、そんな事を言われても困るんだが……」  
 未央は思わず苦笑する俺を、口唇を尖らせて上目遣いで見ている。  
「ま、そう焦りなさんな。ゆっくり慣れていけばいいさ」  
「……慣れられるんでしょうか」  
「これからは、俺のコレを使っていくらでも勉強すればいい。何しろ、今日からお前さんは  
 コレを独り占めできるんだからな」  
 恥も衒いもなく、俺はそう言いきった。すると、  
「…………きゅぅ」  
「ん、どうした?」  
 可愛い声と共に、未央はその場に突っ伏した。  
「……ずるいです……隆之さん」  
 うつ伏せになったまま呟く声は、心なしか震えているような気がする。  
「いつまで経っても、私は、貴方に教えられて……迷惑をかけてばかり……」  
「そんな事はないさ。俺だって、未央に助けられた事、教えられた事はいくつもある」  
 色んな意味で、な。  
「……我侭ばかりの、女と、思われるでしょうけれど……それじゃ、嫌なんです……」   
 ゆっくりと、未央は顔をあげた。目じりには光る物が溢れ、今にもこぼれそうだ。  
「私、負けず嫌いですから」  
 涙をたたえたその笑顔は、さながら決意に満ちた戦乙女のごとく。  
「……もう一度、いいですか?」  
「……ああ」  
 俺はその迫力に押し切られるように、頷いていた。  
 
 再び未央が俺の股間へと顔をうずめる。  
「あっ、血が」  
 先程歯がかすった時に傷ができていたのだろう。逸物にはわずかに出血があった。  
 痛みは大した事無いんだが。  
「……ごめんなさい、隆之さん……唾、つけときますね」  
 言いながら、未央は舌を伸ばし、その傷を舐めた。  
 軽い痛みと、強い快感が背筋を駆け抜ける。  
「んっ……」  
 ペロペロと、怪我をした子犬に母犬がそうするように、傷を舐め続ける未央。  
「……くぅ」  
 一気に快感が膨れ上がっていく。  
「うふっ、隆之さんのがピクピクしてるのが見えます……」  
 先程とは違い、未央はいきなり咥えようとしなかった。  
「……咥えきれない場合は……こう、でしたっけ」  
 咥えるのは難しいと判断したのだろう。丹念に舌先で逸物を撫でている。  
 同時に、手で竿の部分をさすり、快感を高めていく。  
「うっ」  
 その矛先が、睾丸の収まった部分に及んだ時、俺は思わず腰を浮かした。  
「弱点発見、ですね」  
 未央が挑戦的な笑顔で呟く。  
 胴衣がはだけ、臍まで露になった姿で浮かべるその笑顔は、どうしようもなく淫靡で、そして綺麗で。  
「……くぁっ、そこ……いいぞ」  
 睾丸周辺を丹念に責められ、視覚的効果も伴い、快感の波は決壊寸前にまで高められていく。  
「凄い……まだ、膨らんでます」  
「……そりゃ、気持ち、いいからな……くっ!」  
 荒い吐息を吐きながら言った、その瞬間、脳裏に真っ白な光が弾けた。  
「出るぞっ」  
「んっ」  
 丁度亀頭に口付けしていた未央は、待ち受けるように瞳を閉じた。  
 口の中に、そして収まりきらない分は白磁の如き白い肌に。凛々しいまなじりに。すらっとした鼻に。  
朱に染まった頬に。未央の身体のあちこちに、白濁した迸りが降り注ぐ。  
「……んぷっ……ひゅごい……」  
 初めて見る、男の射精。口の中に白濁の味を感じながら、未央は呟き、  
「……んくっ……」  
 陶然とした表情のまま、注がれた白濁を嚥下した。  
「変わった……味、です」  
「苦いだろ?」  
「ええ……けど、嫌いじゃないかもしれません、私、これ」  
 言いながら、未央は無邪気に笑った。  
 白濁にその顔を、肌を、髪を彩られながら浮かべる無垢な笑み。  
「……じゃ、今度は俺の番だ」  
 それを見た瞬間、俺は一瞬我を忘れた。  
 
「えっ?」  
 俺は力を込めると手足を縛った胴衣の帯を引きちぎり、自由になった両手で未央の手をとり、押し倒す。  
「ちょっと……隆之さん、痛い、です」  
「……キスの仕方は、勉強したかい?」  
「キス、ですか……? それは、勉強しなくても……」  
「いや、大人のキスって奴を、さ」  
 俺は未央の両手を押さえつけたまま、顔を近づけていく。  
「……」  
 未央が目を閉じ、口唇を差し出す。……思った通り、だな。  
「舌、出して」  
「舌……こうれふか?」  
 未央が言われるがままに出した舌を、俺は自分の舌で絡め取るように舐めた。  
「ひぁっ……んっ」  
 そのままかぶさるように未央の口を覆い、舌を口内へと侵入させていく。  
「んふっ、ぁっ……」  
 先程白濁を飲み下したばかりの口を、舌を辿り、根元まで辿り着く。  
 返す刀で歯列や歯茎に舌を伸ばし、蹂躙というに相応しい荒々しい舌技で、少し苦味の残る口内を弄る。  
 未知の感覚に溺れかけているのだろう。次第に未央の瞳が、焦点を結ばなくなっていく。  
「ふっ……ひっぁ……んぷぅ……んあっ!」  
 犬歯の裏側を舐めると、未央が跳ねた。どうやら、ここが弱いらしい。  
 俺は重点的にそこを責めた。先の仕返しとばかりに。  
「んっ、うぅん! ふぁんっ!」  
 身もだえし、何とか束縛から逃れ、妨げられている呼吸をと暴れる未央の身体を、巧みに御し、させない。  
「ぷはっ……! はぁ……はぁ……」  
 ようやく口を離した頃には、いつもは凛々しい未央の瞳はとろんと蕩け、すっかり快感の波に溺れ、  
窒息寸前といった体をなしていた。  
「どうだ?」  
「はぁ……ふぅ……」  
 はだけた胸を上下させながら、何とか呼吸を整え、答えようとする未央。  
「ふぅ……はぁ……凄い、です……」  
 一瞬歯止めを失った心に、何とかブレーキをかけようと、俺は言葉を口にした。  
 ゆっくりと。まずは、想いを行為ではなく、言葉で告げる。  
 このまま求め、想いのままをぶつけたとしても、未央はすべてを受け止めてくれるだろう。  
 だが、それじゃ駄目なんだ。だからこそ、俺は――  
「……もっと凄い事が、いくつもある」  
「……もっ、と?」  
「その一つ一つを、俺はお前さんに教えたいんだよ、未央。他の誰でもない、俺自身の手で、  
 お前さんを染めていきたい。そう、思ってる」  
「………………隆之さん……でも」  
 俺は、人差し指で未央の口唇を押えた。  
「……お前さんはそうは思ってないのかもしれないが、俺はもう随分沢山の物を貰ったんだ。  
 この上まだ貰ってばっかりじゃ、俺が納得できない」  
「………………」  
「だから、未央……お前も……そして、俺も……一緒に気持ちよくなろう。な?」  
「………………はいっ!」  
 
 
 太陽は既に地平線の向こうへと消え、世界は暗がりの中へとその身を置いた。  
 明りの消えた部屋の中には、蒼い月と、白い星々の光だけが差し込む。  
 その光を頼りに、お互いにベッドの上で向き合い、瀬戸口は壬生屋の半ば脱ぎかけた胴衣に手を伸ばし、  
瀬戸口の着るシャツには壬生屋が手を伸ばす。  
 互いに互いのまとう服を脱がす、衣擦れの音だけが、部屋の中には響いている。  
「……凄く、恥ずかしいですね、なんだか」  
「あんな大胆な事しておいてからに、今更何言ってんだ」  
 苦笑しながら瀬戸口が言う。壬生屋は頬を膨らし、そっぽを向いた。  
「あれは……あれは、無我夢中で……それに、お酒のこともありましたし……」  
「はは。……もう覚めたか?」  
「……はい」  
 こっくり頷く壬生屋の頬は、相変わらず赤い。だが、それは酔いの赤さではなく、羞恥の、そして期待の赤だ。  
 互いにあった気負いは、既に空に溶け、今は互いを慈しむ気持ちが、その先を思う気持ちが二人を包んでいる。  
「ま、これからまた違う物で酔わせてやるから、そっちでメロメロになってくれ」  
「……隆之さんったら」  
 口唇を尖らせながらも、その端は緩んでいる壬生屋。  
 やがて、瀬戸口のシャツのボタンがすべて外れ、鍛えられた上半身が露になる。  
「………………」  
「一緒に、な」  
 呟き、瀬戸口は胴衣を脱がす。と、その下には当て布に包まれた乳房があった。布は緩み、  
谷間は露になっているが、まだ乳房そのものは見えない。  
「……バンザイして」  
「ん……」  
 壬生屋と抱き合うような格好になりながら、瀬戸口はその当て布を丁寧に剥いで行く。  
「……小さい頃、こうやって着替えさせられましたっけ」  
「その頃から、未央はこんなに美少女だったのかな?」  
「もぅ……んっ」  
 布が剥がれ、朱に染まった乳房が空気に触れると、壬生屋は小さく身体を震わせた。  
「取れたぞ」  
「……はい」  
 乳房を両の手で隠したい衝動を抑え、壬生屋は膝の上に手を置いた。  
「……どう、ですか?」  
「………………」  
「ど、どこか変ですか?」  
「……綺麗だ」  
「他の……方、よりも?」  
「……大きさは申し分無い。鍛えてるから形もいい。あとは……」  
「あとは?」  
「揉み心地、だな」  
 
「揉み……って、あっ!」  
 瀬戸口は壬生屋の身体を抱き寄せ、先端まで余す所なく露になった乳房へと手を伸ばした。  
「あっ、胸……掴まれて……」  
「……柔らかいだけじゃなく、弾力もしっかりある、揉み応えのある胸だな」  
「恥ずかしい、けど……んっ……嬉しいで、す……くぁっ!」  
 先端を指の先で弾かれ、壬生屋の身体が跳ねる。  
「そこ、駄目ぇ……ふあっ!」  
「感じてるんだな、未央」  
「……はい……凄く、ビリビリ来ちゃって……ああっ!」  
「感度いいな、未央の身体は……どれ、味は……」  
「んあっ!」  
 壬生屋の乳房を、舌が這う。  
 指のそれとは違う感触を与えられ、一際大きく身体を躍らせ、快感の大きさを瀬戸口に伝える。  
「ず、ずるいです、隆之、さぁんっ! 胸、ばっあふぅぁっ!」  
 舌で中心を弄られ、全身を躍らせながら、壬生屋は抗議の声をあげた。  
「すまんすまん……」  
 瀬戸口は乳房から口を離し――  
「そろそろ、こっちも欲しいよな?」  
 ――壬生屋の下腹部へと手を伸ばす。  
「なっ……そういう意味……………………も、少しはありますけど……」  
 同じように、壬生屋も瀬戸口の、未だ露出したままの逸物へと手を伸ばす。  
「……一緒に、でしょ?」  
「……そうだな」  
 瀬戸口は、壬生屋の袴と下帯に手をかけた。  
 壬生屋は、瀬戸口のズボンと下着に手をかけた。  
 衣擦れの音の後、月光の中に二人の裸身が浮かび上がる。  
「私……負けませんから」  
「俺だって……俺も負けず嫌いだからな」  
「似たもの同士、ですね……ふふ」  
「はは……だな」  
 二人は、微笑みを交わすと、お互いの身体を抱きしめ合い、ベッドへと縺れるように倒れ込んだ。  
 
 
 ピチャピチャという淫らな水音。そこに時折混ざる、淫らな声。  
「あっ、ふあっ……んむぅ、あむっ……」  
「……くあっ……む……んちゅ……」  
 二人は、互いの股間に互いの顔を埋め、お互いの秘所を弄っていた。  
「……いきなり、こんな格好……くっ……恥ずかしく、ないのか?」  
「……もう……あっ……怖いものなんて、ない……ですんっ……から」  
 会話の最中も、お互いの秘所を弄る手の動きは止まらない。  
「ピンク色で……綺麗で……凄い……溢れてる、ぞ……」  
「隆之、さんのも……ビクビクして、あっ……固くて……」  
 手で弄るだけでは物足りなくなったか、二人とも舌を伸ばし、口を付ける。  
「ああっ!」  
「んくっ……!」  
 壬生屋の秘所からはとめどなく愛液が溢れ、瀬戸口の逸物の先端には先走りが滲む。  
「ひやっ、ひら……なはに、いれひゃ……あくぅんっ!」  
「そこは……んくっ……」  
 互いが互いを感じさせているという想いが、それぞれの中で快感を加速度的に増加させていく。  
 やがて――  
「ふあっ、あっあっあっあっあ、んああっっっ!!」  
「くぅ……出るッ!」  
 壬生屋が全身を硬直させ、同時に瀬戸口が腰を振るわせる。  
 音が聞こえそうな勢いで、壬生屋の口の中に白濁が注ぎ込まれ、噴出した愛液が瀬戸口の顔を濡らす。  
「……ん……んくっ……」  
 注ぎ込まれたそれを、壬生屋はことごとく嚥下する。  
 その姿を見て、白濁を放って尚猛る、瀬戸口の逸物。  
「くはぁ……す……凄い真っ白に……」  
「……まだまだ、だぞ……未央」  
「……はい……もっと……もっと教えて……」  
「任せとけ……未央には、もっと、俺を……気持ちよくして貰わなきゃいけないからな……」  
「隆之さんも……もっと私を……気持ちよくして……ください、ね……ん……」  
 二人は正面から向き合い、瞳を閉じ、口付けを交わした。  
   
 

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