雪の降りしきるある夜のことである。  
石田咲良は横山亜美宅にお泊まりしていた。  
一緒に登校、一緒に帰宅。  
二人の関係は周囲から見ても異様なほどに仲良しさんであるが、お泊まりしたのは初めてである。  
横山自作のあったかいお蕎麦をふぅふぅしながら食べ終わった咲良は、えらくご満悦であった。  
「私、お蕎麦を食べるの初めてだ!」  
いつもよりはしゃいで主張する。  
「お蕎麦はずずっと音と立てて啜るんです」  
食欲魔神の亜美はそう真剣に言うと、三杯目を完食し終えた。  
蕎麦は総合的な栄養食である。  
つゆまで飲み干せば無駄がない。  
食器を片付け台所から居間を見ると、咲良はソファのクッションを抱っこしてTV画面に集中していた。  
「隊長?」  
画面の中で動いているのは、アニメ用にデフォルメされたラブリーな動物だ。時々、その動きに反応して咲良が「おおっ!」と歓声を上げる。  
「うーん…。」  
いまさら、という気がしないでもないが。  
こういう時、亜美は戸惑う。  
 
生後50日で実戦配備された成体クローン。  
知識と理解はある。  
あるが、戦場での皆を率いる凛々しい隊長。学校での指揮官としての激しくも厳しい姿(まあ、ヒステリックと陰口叩く乃恵留もいるが)。  
そんな咲良に心酔している亜美としては。  
フクザツ、なのだ。  
「何? どうしたの亜美?」  
咲良が振り向いた。  
それで亜美も用事を思い出す。  
「あ、お風呂入れましょうか」  
咲良は「おぅ」と頷いた。  
自然と亜美は笑顔になる。  
「入浴剤はどれが宜しいですか?」  
続いた言葉に咲良はきょとんとした。  
「ニュウヨクザイって何?」  
説明が必要らしい。  
亜美は説明した。  
「温泉の元とか、お風呂に入れる薬みたいなものです。良い匂いがしたり、身体が温まったり、…そうですね。色々な種類がありますよ?」  
気分によって使う種類を変えるのが楽しいのだと説明を締めくくる。  
「イロイロ?」  
「はい、色々。ご覧になられますか?」  
「うん。選ぶ」  
咲良はTVのスイッチをぽちりと消した。  
 
「これなに?」  
「唐辛子入りですね」  
「辛いの?」  
「舐めたら辛いと思いますよ? 舐めてみますか?」  
「いや、…いい」  
咲良は何かを思いだしたような顔をして、ふるふると首を振った。  
横山宅の脱衣所には確かに、選ぶほど入浴剤が多種あった。  
ほとんどが袋入り、たまにビーズ状。これは湯船に入れると外殻が溶けて中のオイルが湯に溶ける。  
「唐辛子は良くない」  
咲良は真剣に入浴剤を選んでいる。  
「トルマリン鉱石入り…、石が入っているの?」  
「そうみたいですね」  
「石が入っていたら、どんな効果があるの?」  
「身体が浄化されるって書いてありますよ?」  
「どうして?」  
「さあ?」  
咲良は首をかしげている。  
やがて、トルマリン鉱石入りの入浴剤は不許可にした。  
「これなんかどうですか?」  
悩む咲良に亜美はバスロマンの檜湯を提案した。  
乳白色の湯から檜の良い香りがするやつだ。  
「それ面白くなさそうだなー」  
一言で却下される。  
 
そんな会話を繰り返し、吟味に吟味を重ねたあげく、咲良が「おおっ!」と目を輝かせた。  
入浴剤箱の中から、引っ張り出したのはペンギン型の入浴剤。  
掴むとぷよぷよしている。  
ペンギンをかたどったゴムビニールの中に、ジェル状の入浴剤が詰めてあるのだ。  
「亜美! これ! これがいい!」  
期待に胸をふくらませて亜美を見上げると、亜美は「あ、…それはちょっと…」と困った顔をした。  
「亜美、何で?」  
まさにこれが良いのとばかりに、ペンギンの入浴剤をぎゅっと掴んで咲良が問う。  
「それは、バブルバスなんですよ」  
日本語で書き直すと、泡風呂。  
入浴剤売り場には『ハリウッドみたいな泡風呂に入れます』と書いてある。  
「お風呂がアワアワ〜になって面白いんですけれど、一人一回限定なのです」  
「限定?」  
「一人が入ると入り終わった頃には泡は泡だから消えちゃいますし、後の湯が汚れてお湯を入れ直さないといけなくなるから…」  
一人の時以外で湯船を使う場合には適さないのですと説明した。  
説明を聞き終えると、咲良はなるほどと理解した。  
「じゃ、一緒に入ろう。一緒に入れば問題ないでしょ?」  
「……。」  
あまりにストレートな解決方法に亜美は思わず納得する。  
そういえば問題も無いような気がした。  
女同士だし、湯船も少し狭くなるくらい。  
「それもそうですね」  
ま、いっかと思ったのだ。  
 
ドドドドドと派手な音を立てて浴槽に湯気が満ちる。  
「おおぉう」  
いち早くすっぱだかになった咲良が歓声を上げた。  
バブルバスの入浴剤は、お湯を入れる前に浴槽に入れておく。  
チューブから青い入浴ジェルを絞り出し、そこにお湯を注ぐと泡が立つのだ。  
白い泡がもこもこと。  
もこもこふくらんでいく泡を観察するのに真剣な咲良。  
バブルバスの準備をしていた亜美はやっと、脱衣所で自分の上着に手をかけた。  
脱いだ上着を洗濯機に入れて、頭の上のポニーテールをほどくと、ほどかれた栗色の髪の毛がはらっと白い背中に流れ落ちる。  
無駄なぜい肉のないすべらかな肌。  
日頃の鍛錬の成果で引き締まった腰。  
けれど、ブラを取り去るとたわわな乳がふるんと揺れた。  
「はぁ…」  
亜美はここで溜息をつく。  
彼女にとって、これが一番気に入らないのだ。  
プヨプヨとしてて意味が無い。  
醜いとは思わないが、邪魔なのだ。  
溜息をつきながら、スカートのホックを外す。  
白いソックスを脱ぐと、素足も白い。  
ブラとおそろいで買ったレースのパンティを太股まで下ろすと、栗色の楚々とした恥毛に縁取られた恥部が現れた。  
「亜美、まだぁ?」  
声を掛けられて振り向くと、背中の艶髪がはらりと揺れる。  
「あ、は、はい!」  
慌てて返事をすると、少し悩んだ亜美はタオルで前を隠した。  
やっぱり、女の子同士でもちょっと恥ずかしいですよね…。  
 
 
湯船からもこもこと白いフワフワしたものがふくらんでくる!  
泡だ!  
見たこと無いタイプの泡だ!  
いち早くすっぱだかになった咲良は、シャワーでそのしなやかな身体を洗うのもそこそこに、バスタブの前でかぶりつきになっていた。  
石鹸で身体を洗う時の泡に似てるけど、こっちのほうがフワフワしている!  
しかも湯気がホカホカしている!  
「おおぉう」  
咲良は感激すると、その感激を伝えようと亜美を呼んだ。  
触ってみたいが、触っていいものかどうか判断つかなかったという理由もある。  
「どうですか? 隊長」  
タオルで前を隠した亜美がやってきて、覗き込んだ。  
「うん。面白い。触っていい?」  
「もちろんです。どうぞ」  
承諾を得たので、わくわくしながら指で泡をつついた。  
咲良の想定ではシャボン玉みたいにパチンと割れる、だった。  
けれど、割れない。  
泡をつついた指先は、そのまま白いもこもこの中へ埋まる。  
「割れない」  
 
二三回、指でずぶずぶと突き刺して確認。  
今度は手で泡をすくって見る。  
「ほら!」と、亜美に見せる。  
亜美は、「そういえばそうですね。割れづらいように出来てるんですね」と泡を見た。  
咲良はじっと手の中の泡を見ると、おもむろにぺたっと自分の二の腕になすりつける。  
泡はもう、だいぶはじけてフワフワというよりも、白くてトロッとした状態になっていた。  
擦り付けると、そこから流れてゆっくりと落ちてゆく。  
が、咲良はまた湯船から泡を掬って自分のほっぺたに塗りつけた。  
次はもっと大胆に大きく泡を掬い、自分のお腹に塗ってみた。  
お湯を十分に含んだ泡は白くてトロッとして温かく、しかも擦り付けると自分の肌が隠れるのが面白いらしい。  
咲良の頭は生まれたてだが、身体は大人として、いや大人以上の性能を秘めている。  
ぷくんとした胸は小さめだが、軍隊生活で率先して皆を鍛えている日々の生活がウエストから太股までの、すんなりとしたカーブを描き創り出していた。  
泡はゆっくりと咲良のやわらかそうな肌を伝い、可愛いへそから恥毛の無いすべすべの股間へと伝ってゆく。  
頬に乗せた泡は、咲良のやわらかそうな印象を与える首筋を流れて鎖骨のくぼみに溜まっていた。  
少しぬるっとした石けん入りのお湯だけが、咲良の乳房を湿らせる。  
温かい。  
今度は、正座になって閉じて合わさった太股の間に泡をたっぷり乗せてみた。  
「泡越しに肌をこするとなんかツルツルする」と亜美に報告する。  
泡で遊び始めた咲良を見て、「私、髪を洗いますね」と亜美はシャワーのコックを捻った。  
 
髪を濡らしていると、咲良の視線を感じた。  
「なんですか?」  
シャワーを止めて振り返ると、咲良はもう全身アワアワになっていた。  
「亜美も泡いる?」  
自分の身体に付ける場所が無くなった咲良は、ターゲットを亜美に移していた。  
「え? いえ、私は…」  
「遠慮しないの」  
咲良がにこっと笑う。  
「わっ、わわっ」  
肩から乳房へ、べとっと泡をつけられた。  
「アワアワ〜」  
咲良が楽しそうだ。  
無邪気ににゅるんっと抱きついた。  
「ひゃあんっ」  
泡まみれの咲良の身体はぬるぬるしている。  
ウエストに巻き付いたすべすべの手のひらが、もちろん無自覚に亜美の弱い所を刺激した。  
子供という存在が天使であり常に悪魔である点は、彼らが無知無自覚である為である。  
咲良は、普段見慣れぬ亜美の反応に。  
おもしろい、と思ってしまったのだ。  
「亜美、ぬるぬるだね〜」  
それは、石鹸の泡でぬるぬるになった咲良がぬるぬるだからだ。  
「ひぁっ、ちょっ…んっ。隊長! だめっ、はなっ、はなっ…、離れてくださいっ!」  
「亜美、胸おっきい」  
「どこ揉んでるんですかぁっ!」  
 
うん。亜美がおもしろい。  
そう認定した咲良は止めない。  
むしろ積極的に、亜美の身体をぬるぬるとまさぐる。   
「…ぁ、………っぅん、ん、…ひっ、うぁっ……ぁ…」  
「ほら、逃げない逃げない」  
頬を紅潮させ、はしたない声を我慢する亜美がおもしろい。  
咲良はもちろん、これがどういう行為か理解していなかった。  
ただただ、おもしろいので腰を押さえて逃げられないようにてぬるぬるする。  
邪気なく、胸が大きいと触りがいがあるなとか考えていた。さきっちょがコリコリしている。  
もちろん、亜美も必死で防衛している。  
けれど、羞恥心と守勢に廻っていることが災いして防ぎきれないのだ。  
いっそのこと、湯船の中に逃げようと腰を浮かした。  
巻き付いた咲良の体重で、姿勢が崩れる。  
「わっ!」  
姿勢の崩れたその時、驚いた咲良が動かした手が。  
よりによって、亜美の前を隠していたタオルの下に滑り込んだ。  
意図してやってるわけではないから、不可抗力、である。  
普通、人間は驚いた時、手を浮かして離れるものだが。  
「ん?」  
咲良はまた、新しい発見をしてしまった。  
「えっ?」  
事態の把握してない亜美が声を上げるより先の行動を取る。  
タオルの下、亜美の股間を指先でさわさわした。  
「もじゃもじゃしてる…」  
 
そこまでは事故だったかも知れないが、そこからは事故ではない。  
咲良の指が陰毛に縁取られた秘唇を刺激する。  
十二分に高められた性感の中で、この不意打ちはトドメだ。  
「ひぅっ!」  
亜美は耐えきれず、大きな声を上げてしまった。  
驚いた咲良がパッと手を離す。  
こういうときだけ動きが素早い。  
ちょっと離れて、快感にふるふる震えている亜美を観察する。  
おそるおそる、声をかけた。  
「亜美、だいじょうぶ?」  
声をかけられた亜美は大丈夫どころの問題じゃない。  
淫らな声を上げてしまった事実がこの上なく恥ずかしい。  
それに、…認めたくない。中途半端なところで止められてしまった刺激が欲しくて自分のおまたがじんじんしている事なんて。  
「たいちょぉ、…なんてことするんですか」  
平静を保とうと、せめて抗議する。  
「え? 何? 怪我でもしたの?」  
咲良の回答に涙が出そうになった。  
…本気だ。  
本気で分かっていないのですね。  
「自分のを触ってみれば、わかります」  
亜美は拗ねた返事をかえしてみた。  
 
「自分のを触ってみれば、わかります」  
「うん、分かった」  
亜美の言葉は半ばやつあたりで、ふてくされたものであったが。  
咲良は素直に頷いた。  
予想外の答えに、目をまるくして点にする亜美の目の前で、咲良はすこし脚を開き膝立ちになる。  
まだ、うっすらと泡のまとわりつく股間に指を差し込んだ。  
石鹸の粘液がくちゅくちゅと音を立てる。  
くちゅくちゅくちゅくちゅ  
咲良の指が、無防備な動きで恥丘をかき分け、薄いサーモンピンクの大陰唇をちらちらと露出させる。  
毛の生えていない土手がそれらを隠すことなく、逆に卑猥に見せていた。  
ひとしきり、くちゅくちゅといじって咲良が亜美を見た。  
何故かドキンと亜美の胸が鳴る。  
そんな亜美に、咲良は訊いた。  
「よく分からないんだけど?」  
 
そんなもんだ。  
咲良の反応は普通、である。  
そんな適当にいじって感じるわけがない。  
亜美は「は、…はあ」と生返事を返した。  
その反応が良くなかった。  
自身が最新最高性能であるという咲良の自尊心を刺激したのだ。  
旧式に馬鹿にされたと脊髄反射でムッとする。  
「じゃあ、亜美がしなさいよ」  
「あの、…な、なにを?」  
「亜美は分かっているんだから、ちゃんと私にも分かるように、私の股間を触りなさい」  
石田咲良の対人関係第一箇条が発動された。  
人にモノを言う時は、明確な言葉で誤解のしようがなく、だ。  
「た、隊長!」  
亜美の上げた抗議の声は、畳みかけるように発せられた咲良の毅然とした口調に抑えられる。  
「命令よ! 命令なんだからね!」  
まっすぐ亜美を見据える真剣な瞳。  
「し、しかたありませんね…」  
咲良は分かってないのだ、理解していないだけなのだ。  
これはけっして卑猥な行為ではないと、亜美はむりやり自分に言い聞かせた。  
「それでは、失礼します」  
 

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