何度目になるだろう、時計を見る。  
いつもならとうに来ているはずの咲良がまだ来ていない。  
それでも俺はいつものようにテレビをつけ、ソファには座らず床に直に胡坐をかく。  
チャイムも無く玄関のドアが開く、咲良だ。  
缶ジュースとポテトチップスが入っているのだろうポリ袋を提げている。  
パタパタと足音とともに駆け寄ってきた咲良は荷物をテーブルに置き、  
いつものように俺の膝の上に座った。  
 「遅かったね、何かあったの?」  
返事は無い、少しだけムッときた。  
   
 『名探偵HBペンギンの事件簿』  
 どこかで見覚えのあるキャラクターの活躍するこの子供向け推理アニメは咲良のお気に入りの一つである。  
咲良のお気に入りは他にもあり、これらを二人で観るのはあの日、俺が隊長命令でコレクションを処分し、  
プライベートでは咲良と呼ぶように命ぜられたあの日からの決まりごとだ。  
 そうだ話は変わるが、何故咲良が俺のコレクションの事を知っていたのか気になって聞いたことがあった。  
咲良曰く、「情報提供者の身の安全の為言えない」「手下を売るようなことは隊長として恥ずべき事だ」との事。  
手下と言う言葉から連想された人物にウィルスセルを11個ばかり送りつけたのも今となってはいい思い出だ。  
竹内君、君はよい友人だったが君の口の軽さがいけないのだよ。ゴッドスピ−ド。竹内。  
 
 
 咲良の到着がいつもより遅かったもののほぼいつも通りに始まった二人のアニメ鑑賞会、  
だがいつもとは違うところは咲良が遅かった事だけではない。  
今日の『名(略)簿』は二時間SP であり、そしてそのせいなのだろうか咲良がガサゴソとよく動くのだ。  
普段の放送でも犯行シーンや謎解きのシーンでは、「おー」とか「ほほー」とか言いながら、  
俺の膝の上でお尻をグリグリと動かして俺を苦しめてくれるのだが、今日の辛さは普段の比ではない。  
この甘やかな拷問は、今日はあとどれだけ続くのだろうか…。  
 
 さっきから咲良の右手が俺の太股を撫で回している。いつもの事だ。  
これは別にセクハラしてるわけではない。  
手に付いたポテトチップスの油を拭いているのである。  
以前は注意していたのだが、何度言ってもやめそうにないので、今ではもう諦めてしまっていた。  
そして今更になって俺はそのことを後悔している。  
ポテトチップス2袋分の油でズボンがベタベタになっているからではない。  
一時間半にわたってお尻で「グリグリ」され、太股を「ナデナデ」され続けた結果、  
俺の体の中心に熱が集まり、半ばガンパレードしかかっていた。  
せめて「ナデナデ」だけでも無ければこうはならなかったかもしれないと、そう思い後悔したのだ。  
咲良が3袋目のポテトチップスを開けた。  
 
 「トラヲ、皆を広間に集めろ」  
 ペンギン探偵がこれまたどこかで見たような助手に指示する。  
カン、と金属音。  
咲良が今日二本目となるジュースの空き缶を叩きつけるようにしてテーブルに置き、  
前に身を乗り出そうとして…バランスを崩した。  
 「咲良っ!」  
フローリングとキスしそうになる咲良をあわてて抱きとめる。  
 「耳元で大声出すな!台詞聞き逃すじゃないのよ!」  
こちらを振り返らず、テレビに視線を固定したまま言う咲良に少しだけムッときたとしても、  
俺の気が短いという事にはならないだろう、と思う。  
……何かがひっかかる。  
 
台詞を聞き逃す事を気にするなら缶をあんなふうに乱暴に置いたりはしない、  
実際普段はもっと静かに置いていたはずだ。  
謎解きのシーンで身を乗り出すのはいつもの事ではあるが、  
バランスを崩すような事は今まで無かった。  
今日の咲良はなんだかいつもと違う。なんだか機嫌が悪いようにも見える。  
そういえば来るのが遅かった事も気になる。これも何か関係があるのだろうか?  
 
 「…つまりこのトリックが実行できたものはお前だけだ岩田裕。それともこう呼ぶべきか?怪盗ソックスバット!!」  
 「おおー!」  
咲良が大きく身を乗り出し、俺は両腕に力を込めかろうじてバランスを保つ事に成功する。  
 「フフ、やりますねHB。あなたの推理は相変わらずイイ、スゴクイイ!!」  
いったいどのような原理か一瞬で変装を解き、顔面白塗り改造白衣姿になった見るからにアレな男が身をくねらせる。  
そしてそれにあわせて咲良も身をくねらせる、咲良が倒れないように支えている俺に咲良のお尻が密着した状態でである。  
もうだめだ、俺のアレは既に半ばどころか完全にガンパレードしている。  
何故気付かないのかが不思議なくらいだ。どうせならこのまま気付かないでくれ、咲良。もう祈るだけだ。  
 
普段は見向きもしない次回予告を黙って見ていた咲良が口を開く。  
 「コ…小島十翼長、何か当たってる、コレは何だ?」  
ああ、やっぱり気付かれてたのか。なんて事を聞くんだこの子は。っていうか知ってるだろう?昨夜も見たじゃないか。  
とはいえ予想外の反応ではある。てっきり怒り出してスケベを連呼されるものだとばかり思っていたのだが…。  
………?おかしい、なにかがおかしい。何で階級を付けて呼ぶんだ?  
スケベ呼ばわりのほうがはるかにマシな事態が起きつつあるのではないだろうか?  
ふと視界の端に違和感を感じる、あるべきでない物を見たような…。  
見直すとテーブルに置かれた少し歪んだ空き缶が目に入る。  
あれはジュース…?じゃない!缶チューハイ、酒だ!  
   
 咲良がゆっくりと振り返る。酔いのためか顔は紅潮し、目には怪しげな光がたゆたっている。  
 「平時における拳銃の携帯を許可した覚えは無いぞ、小島十翼長?」  
どこかで聞いたような台詞だ。俺はなんだか嫌な予感がして後ずさろうとしたが、  
背後をソファにふさがれ、足もしびれてしまっておりそれは果たせなかった。  
咲良の手が俺のモノに伸び、やんわりと握りこみ、ゆるゆると擦り上げる。  
二枚の布を隔てて与えられる刺激など高が知れている、とはいえ無視はできなかった。  
熱がさらに集まり高められていくのがはっきりと感じられる。  
咲良が嗤う。獲物を前にした猫が嗤うとしたらこんな風に嗤うのだろうか?  
 
 「そんな許可が必要なのか?知らなかったよ。それはともかくとして冗談はその辺にしておこう、咲良?」  
『猫は弱った獲物をすぐにはしとめずにいたぶって遊ぶ』  
本当かどうかは知らないが、俺はそんな言葉を思い出した。  
弱ったところを見せるべきではない、何故かそう感じて勤めて冷静を装った。  
 「それが上官に許しを乞う態度かぁ!」  
咲良の指が俺に喰い込み、締め上げる。  
 「ぐ…あっ!」  
文字通り急所を握られた姿をさらし、さらには思わず情けない声をあげてしまう。きっと今の俺は相当に情けない姿をしているだろう。  
逆効果だったか?怒らせてしまったのか?そう思い咲良の顔色を伺う。  
咲良は楽しそうに、嬉しそうに嗤っていた。おそらく咲良は俺の対応など予測していたのだろう。  
そして俺が予測どうりに対応したのが楽しくて嬉しくて仕方ない、そんな嗤いを浮かべていた。  
流石は指揮官型新型と言ったところだろうか、能力の無駄遣いという気もするが。  
テーブルの上のポリ袋に咲良の右手が伸びて何かを取り出し、俺に突きつける。  
 「コレに見覚えがあるな?小島十翼長?」  
 
 
私がそれを手にしたのは3日前の放課後の事だった。  
 「隊長、小島君は…一緒じゃないんですね。」  
 「それがどうした、手下。」  
竹内の言葉に、そのとき私は何故か自分でも不可解なくらいに不機嫌になってしまった。  
 「あ、いえ好都ご、じゃなくて、参ったなぁ…。」  
 「小島に用なら伝えておいてやってもいいぞ?」  
 なんだか変な感じがしたが、手下が困っているなら助けてやるのが隊長と言うものだ、そう思った。  
 「え、ああ、じゃお願いします。コレを小島君に返しておいてくれますか?」  
手渡された物は紙袋やポリ袋で何重にも包装されガムテープでグルグルにされていた。  
 「何だコレ?」  
 「それは僕の口からはチョット…隊長、中は見ないでくださいね?」  
そそくさと去っていく竹内の背を見ながら、どうもおかしいとも思った。  
コレはいったいなんなんだろう?  
何重にも包装され、中を見るなといわれると見たくなるのが人間の心理だ。  
見たい。……そもそも私に隠し事をするなんて手下のくせに生意気だ.  
これがコウに返す物、コウの所有物だと言うなら私が見ても問題ないはずだ。それに、それに…。  
私は自分の好奇心に従った訳ではない。隊長として検閲しただけなのだ。  
 
『美人士官深夜の極秘任務』  
それを持ち帰り中身を見た時まず驚き、次に腹が立った。  
嫉妬も混じっていたかもしれない。物に嫉妬するなんて変な感じだけど。  
こういうものはすべて処分させたはずだった。  
今コウの手に無かったとしても竹内が返すと言っていたから  
コレの所有者はコウだ…。  
コウは約束を破った。罰だ、罰を与えてやる。  
 
どんな罰を与えてやろうか、ビデオを見ながら考えていると今度は何故か心が躍るのを感じていた。  
 
 
 「そ、それは?………!!」  
唐突に記憶がつながる。先ほどの咲良の台詞はコレの引用だったのか。  
確か随分前に竹内君に貸したまま忘れていたものだ。  
すべて処分したつもりでいたのに…。よりによって彼の手にある状態で忘れていたなんて、迂闊だった。  
 「ち、ちょっと待ってくれ咲良、それはたっ…あっ!」  
 「言い訳なんか聞きたくない。」  
再び咲良が俺を締め上げ、今度は乱暴に擦り上げる。  
 「小島はこういうせっくすが好きだったんだな。大変参考になった。」  
違う、断じて違う!鑑賞はあくまで趣味(しかも過去の)だ、自分がやるのとは全然違う!  
  「ち、ちが「違わない、いつもより硬くなってるじゃない。」  
咲良に指摘され顔が熱くなるのを感じる。そんな、そんなはずは……。  
俺が羞恥に震える姿を見て咲良はなおいっそう満足げな笑みを浮かべた。  
 
 
不意に咲良が立ち上がり俺に背を向けると、スカートの中から下着だけを脱ぎ捨てる。  
そしてそのまま俺の顔をまたぐように膝立ちになった。  
 「どうすればいいのかわかるな?」  
解る、解ってしまった。だから俺は何も言わない。咲良はアレの再現をするつもりなのだろう。  
 「解らないか?なら解るように簡潔に言ってやる、舐めろ。」  
やはりこうなったか。俺は意を決し、というより諦めを友に咲良に舌をはわせる。  
独特の匂いが鼻を突き、舌に苦味がはしる、これは俺の……。  
 「どうだ小島十翼長、苦いか?昨夜五回もしたからな、まだ残ってるだろ。」  
せがんだのは君じゃないか、などとは言えるわけもない。  
昨夜5回も中に出させたのも今日の準備であったのだろう、今となっては考えなくてもわかる。  
この屈辱的な状況において俺はいつの間にか冷静さを取り戻しているらしい。慣らされてしまっているというべきか。  
咲良の指摘は正しかったのかもしれない、認めたくは無いが。  
 
 「やっぱり、いつもより大きくなってる。」  
咲良は俺の羞恥を煽るつもりかわざわざ大声で言いながら俺のモノを乱暴に引きずり出すと、舌をはわせる。  
う、上手い。そこにいつものたどたどしさは無かった。  
いつもの俺ならどこで覚えてきたんだなどとイジメていただろうが、残念ながら今の俺はその立場に無い。  
それにどこで覚えたのかなど解りきっている。アレは無修正に近い代物だ。それを見て覚えたのだろう。  
思えば今日来るのが遅かったのも、最後の復習でもしていたにちがいない。  
うちの指揮官殿は目的のために準備を怠らない方であられるから。  
今の俺に皮肉が出てくる余裕があったとは。口に出せないのが情けないが。  
しかしいつもの咲良のたどたどしいというか下手なのも嫌いじゃなかっただけに少し残念な気もする。  
 「…!!」  
またも強く、より強く締め上げられた。が今度はかろうじて声をこらえる事ができた。  
 「何を考えてる小島十翼長。舌がお留守になってるぞ、誰が休んでいいと言った!」  
考え事をするうちに舌が止まってしまっていたらしい。  
咲良は不機嫌そうな声をつくってはいるが、実際はどんな表情をしているのか想像に難くない。  
 
咲良の舌が裏スジをなぞり、鈴口を割る。  
 「う…くぅっ!」  
さっき折角こらえたのに、今度は声が漏れるのを抑えられなかった。  
この時点で俺の舌は完全に作業を放棄していたが、咲良は何も言わなかった。   
ただ、俺を振り返り表情を観察するとまた嗤った。それだけだった。  
もはや猫のようなどとは言うまい、これは豹とかチーターとかいった類の嗤いだ。  
咲良が体を少しずらし俺に見えるように、いや、見せ付けるようにして俺の先端を口に含む。  
唇で締め付け、扱き上げる。舌が絡みつき、包み込む。  
俺は開放を求め脈打つが、咲良に根元を押さえられている限りそれはありえない。付け根に刺すような痛みがはしる。  
 「隊長、も……かせて…ださ…」  
 「聞こえないなぁ、頼みごとならもっと大きな声ではっきり言え!」  
事ここに至って羞恥心がどうのなどと考えるつもりは無かった。  
だいたい咲良と俺しかいないんだ、せいぜい咲良の望むような反応をして、   
今の状況を楽しまないと損だ。……何を考えてるんだ俺は、酒も飲まずに酔ってるのだろうか?   
 「も…、イカせてくださいっ!!」  
 「ハハッ、アハハハハッ、ハハハハハハハハッ」  
咲良の哄笑が部屋に響く。ご近所迷惑ではないだろうかなどと考えることができたのには、自分でも驚いた。  
 
ひとしきり笑い終えると咲良は俺のモノを無遠慮に掴み、ゆっくりと、よりいっそう深くくわえ込みそして……  
 「ウ…グ…ウェ…」  
胃の内容物を盛大に吐いた。腰の辺りにに生暖かい感触が広がっていくのを感じる……。  
咲良がゆっくりと崩れ落ちていくのが見え慌てて抱き起こす、意識が…無い。  
窒息の可能性が脳裏によぎり咄嗟に咲良の口内の吐瀉物を吸いだす、強烈な酸味が口の中に広がっていく。  
吸い出した吐瀉物をどうするか、ここまで汚れていては今更な心配だとフローリングに吐き捨てた。  
 「咲良っ!」  
呼びかけるが返事は無く、代わりにかえってきたのは……規則的な寝息だった。  
この状態で寝るか……。  
 
 
 ゲ…吐瀉物の始末をし、咲良を着替えさせベッドに運ぶ。  
さっきまでの事など無かったかのような安らかであどけない寝顔だ。  
 「自然界では苦味は毒物の、酸味は腐敗のシグナルで、生物は本能的にこの二つを嫌うんだってね。  
  今日俺は両方をかなり特殊な形で味わう事になったよ。コレが君の考えた罰なのかい、咲良?」  
寝てる相手に返事など期待していない。別になんでもいいから語りかけてみたかっただけだ。  
…なんか疲れた、いつもより随分早いがもう寝よう、そう思ったが、  
咲良の寝顔から少し手前に視線を移した先に、勃ち上がったまま未だ鎮まらぬ俺自身があった。  
駄目だ今日はソファで寝る事にしよう。俺はベッドルームを後にし、リビングへ向かう。  
   
床に落ちていたディスクケースが目に入り、拾い上げた。  
明日になればコレも廃棄処分となる運命、か。  
見下ろした先にあるモノとディスクを交互に見やり、考える。  
……今度こそ最後のお別れだ、俺はもう一度だけコイツの世話になる事にした。  
 
 
 翌朝  
 「気持ち悪い!頭痛い!!」  
 「大声出すと余計に響くよ、はい水。」  
 「うるさいうるさい!だいたいコウが悪いんだ!」  
 「今日はパンがいい?ご飯にする?」  
 「…コウ…」   
 「何?」  
 「また約束破ったな、聞こえてたぞ。」  
 「!!」  
 
  続かない  
 

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