「うぅーん、こういうのは僕の主義に反するんだけどなぁ」
「あら、まだ文句いってらしゃるの?」
「そりゃあ、ねぇ。僕は…彼女には罪悪感を抱いているわけだし。
 今はどうにかなるにせよ、後が問題だよ。
 事がばれたらあの人にだって何いわれるか」
「あら、今更止める気?
 私がやってもいいのだけど…そのほうがこの子にも効果的かもしれないわね。
 …ただ困るのは貴方じゃなくて?」
「あ、いやいやいや。やります、やらせていただきます」
本当にこの人は手に負えないなぁと、ため息をつく岩崎。
今岩崎を動かしているのは脅迫とほんの少しの良心である。
改めて床に毛布と一緒に転がっている遥を見る。
これから起こることに気がつく様子もない。


「仕方ないか」
やれやれとつぶやきながら、そっと音を立てないように遥に覆いかぶさる。
そうする必要はなかったのだが、やましいことをしている人間というのはヘンなところで慎重なのである。
覆いかぶさりならが、体が小さいなぁと思った。
「遥、はーるか」
耳元で名前を呼ぶ。
ピクリとも反応がない。
ただすーすーと先ほどから聞こえている寝息が続いているだけだった。
その顔色は、あまりよくないが。
「…薬、どんだけ使ったんだい?」
「お遊び程度ですわ」
「お遊びねぇ…」
「ええ」
いつもどおりの微笑をする工藤。
これにいつも騙されてるクラスメートを思い浮かべる。かわいそうに。
岩崎はそれに苦笑を返して、遥の肩をゆする。

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