その日は真冬だというのに妙に温かく、そして赤かった。  
竹内優斗は自分の顔をそっと触ってみる。血。真紅の血だ。  
竹内はのけぞった後、訳の分からない奇声を上げ走り出したが、倒れ横を見る。  
レーザーで焼け焦げたウォードレスから大量の血を流し隊長が倒れていた。  
その壮絶な顔と目が合い、竹内はまたも絶叫し気絶した。  
 
1月×日、晴れ。  
昨日まで降っていた大雪が嘘のように止み、空一面に青い空が漂っていた。  
その空の下、隊員達が黒い棺に敬礼をしていた。  
無表情で花を添える上官。また死んだのか。これだら学兵は・・・と  
口には出していないも、そのあからさまな態度が勘に障わる。  
今すぐ殴ってやりたいが、そうもいかない。竹内は怒りを抑え周りを見た。  
みな疲れた表情で誰一人泣く者はいなかった。みな、人の死に馴れてしまったのだ。  
人一人が死んでも誰も悲しまない・・・いや、悲しめない。  
そんな状況と涙すら流せない自分に激しい絶望を感じた。  
そんな中ふと、竹内は誰かがいないことに気付く。石田咲良がいない。どこを見渡してもいない。  
竹内は頭の中で少し考えた後、3秒で答えを出し仲間が呆然とする中走り出した。  
 
答えはもちろん、石田咲良を探すこと。  
 
竹内優斗は何も考えず、ただひたすら走っていた。  
無意識の中、学校に向かっているのが景色で分かった。  
ほたて屋の看板が見える。学校はもうすぐだ。  
竹内は全速力で校門を駆け抜け、げた箱に手をついて大きく深呼吸する。  
この日はちょうど僅かな教職員しかおらず、学校は不気味な程静まり返っていた。  
その静けさの中、がたっと物音がしたのを竹内は聞き逃さなかった。  
音がした方に歩き出す竹内。そこは保健室。  
恐る恐るドアを開ける竹内。窓が開いているのかカーテンが靡いていた。そして、  
彼女がいた。石田咲が。しかし彼女の左手からは  
大量の血が流れ出ており、シーツとボロボロの制服を赤く染めていた。  
咲良はこちらに気付いたのか、虚ろな目でこちらに視線を送った。  
その目はまるであの時の隊長と同じようだった。  
 
「・・・何を・・・してるんだい?」  
 
我ながら何を言ってるのか全く分からなかった。  
どう見ても、咲良は自殺しようとしている。それは分かっている。  
そしてその理由も見当がつく。だから嫌だった。その答えを聞くのが。  
 
「隊長・・・綺麗だったね・・・」  
不意に咲良が口を開く  
「私・・・も、こんな風になれば・・・綺麗になるかな?」  
 
そう言って右手のカッターナイフを振り下ろす。  
とっさにその刃を腕で受け止める竹内。刃は腕に当たり弾き飛ぶ。  
それと同時に咲良の頬を思いっきり叩く竹内。そして泣き出す咲良。  
その涙は大粒だ。  
 
「何で、何で隊長は死んだのよ!?ねぇ何で・・・ううっ・・・なんで・・よぉ」  
「・・・ごめん」  
 
それだけ言って咲良を強く抱きしめる。  
竹内はずっと前からこうしたいと思っていた。  
でも、こんな形でなんて望んでいなかった。溢れ出す涙が止まらない。  
 
抱き合う二人の血が混じり合い、床にポツポツと音を起てていた  
 
竹内は穏やかな顔で、石田咲良の頭を何度も静かになでていた。  
対する石田は竹内の胸に顔を埋め、安心しているのか  
包帯で巻かれた左手の親指を口に吸わせ、すやすやと眠っている。  
普段の気丈な彼女からはとても想像出来ない程幼い印象。  
竹内の手が無意識に石田の頬に触れ、優しくその柔らかい感触を伝えた。  
それに気付いたのか、石田が顔を上げこちらをキョトンと見ている。  
 
「傷・・・痛くない?」  
左右に首を振る石田。青い髪の毛が静かに揺れる。  
「そっか、それはよかった」  
 
そう言って安心した竹内は、ベッドから立ち上がろうとするが  
何かに引っ張られ体勢を崩し竹内はベッドに再び倒れる。  
立ち上がる瞬間、咲良が竹内の袖を思い切り引っ張ったのだ。  
重ね合って向かい合う二人。咲良の赤い瞳に竹内がうっすら写っている。  
そう思った時、咲良は竹内の体に、いつものペンギンの抱き枕を抱く感じで  
ぎゅっ、と抱きつき、竹内の耳元で聞こえない程の微かな声。  
「・・いかっ・・・ない・・で・・」  
 
そう呟いたのだ。  
それを聞いた竹内は咲良の手をほどいて、咲良の顔を見つめた。  
咲良は、竹内がどこかに行ってしまうんじゃないかと  
不安げな顔で竹内の瞳を見ている。その瞳には竹内が写っていた。  
 
「君が・・そうしたいなら僕は・・・」  
 
そう言いかけ、竹内の思考が停止する。思考が再開した時には  
咲良のピンクの唇と瞳が、目の前に、今までで一番近い距離にあった。  
次にふわっ、とした感触と彼女の何ともいえない愛おしくなる匂いを感じ  
竹内はその限界まで開いた目を更に広げ時が止まったように固まった。  
 
風に揺れるカーテン静かに靡いた。  
 

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