その男は特に親しいってぇー訳でもねーのにいきなりオレを屋上に呼び出しやがった。  
 
「お・田代ぉー よく来てくれたー」  
 
大きなガタイのクセして子供の様に喜んでやがる。なんだっつーんだ一体…  
 
「あのな…女性というものは…その…なんだ…どう言う物をプレゼントされると嬉しいもんなんだ?」  
「あ゛ぁ!?なんだそりゃ?」  
「いや・だからな 例えばオマエなんかだと何をプレゼントされると嬉しいもんかな?と…」  
「…なんでそんなコトオレに聞くんだ?」  
「えー…あー…それはつまりだな…スカウト連中でこういう話が出来そうな(女性)がオマエしかいないんだな うん」  
 
確かに…来栖にはヨーコがいるけどあの性格じゃーこういう話には持っていきづらいわなぁ…  
滝川はお子様だし後輩に聞くのもバツがワリぃか…  
 
「ダレにやるんだー?若宮センパイ」  
「原整備長だ…」  
 
即答かよ…しっかしあんな女のどこがイイんだかネェ〜…  
 
「あの精悍な顔立ちといい聡明さといい…」  
「聞いてねっつの! あ・ワリ」  
「あぁイヤイヤ こっちも少々取り乱し気味だったな」  
「んじゃ他のヤツとかに原について聞いてやるよ 何か解ったら教えっから」  
「本当か!?」  
「出世払でいーぜー」  
 
そう言ってオレは校舎を後にした。  
 
若宮(センパイ)はあの女の話を聞いてる時はホント幸せそうだ。  
 
「そうかそうか そういうのが好みなのか」  
「こんな細かいことまで調べるのストーカー臭くねぇ?」  
「いやいや 情報は多いに越したことは無いからな」  
 
でもまぁこーやって話すのも悪くないと思ってる自分がいるのも事実なんだよなぁ。  
どーしたもんやら…そんなある日の放課後、オレは聞かなきゃいい事を聞ーちまった。  
 
「センパイ 最近若宮さんがセンパイのことイロイロ探って回ってるらしいですよ?」  
 
森の声だ。  
 
「あら アナタも知ってたの?」  
 
原が答える。  
 
「なんか男らしくないですよねぇー コソコソしちゃって…情けないって言うか 気持ち悪いですよ」  
「あらいいじゃない?カワイくて」  
「えー? じゃあセンパイ若宮さんに告られたらどうするんです?」  
「なぁに言ってるの もともと好みじゃないもの お断りよ?フフフ…」  
 
…ハラが立った。何故かは知らない。  
…ムカついた。理由が見当たらない。  
…気がつくとオレは若宮を探して駆け出していた。  
 
学校中を駆け回ってようやく見つけた。アイツは相変わらずの様子だ。  
 
「若宮ァ!!」  
「ん?どした田代」  
「もぅあんな女追っかけるの止めろよ!」  
「田代…?」  
「アイツはアンタが必死になってるの知ってて…知ってて…!?」  
 
勢いに任せて怒鳴るオレの頭を若宮の手のひらがわしわしと撫でる。  
 
「…知ってるさ」  
「!?」  
「でもなぁ 好きになっちまったらどうにもならないんだよなァ…」  
「…」  
「その内オマエも解るって… ありがとな」  
 
そのまま肩をポンと叩く。知らない内にオレはセンパイにしがみついて泣いていた。  
 
アレからイロイロあった…今居る若宮は2人目で、オレとのやり取りなんて知らない。  
でも相変わらず原を追っかけてる。  
 
「あれ?香織ちゃんどうしたの?」  
「かっ香織ちゃんて言うなって言ったろ!!」  
 
速水と良く話すようになった。もしかしたら好きになったのかもしれない。でも…  
 
「厚志!何をしている士魂号の調整に行くぞ!」  
「あ・うん今行くよ じゃあね」  
 
アイツには芝村がいる…最近少しだけあの時若宮センパイの言ったことが…解った気がした。  
 
 
==田代香織の事情 了==  
 
 

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