真夜中に私は屋根の上で歌を歌っていた。  
いつもの魔術の儀式に使う歌ではない。  
呪いではなく、願いの歌。  
 
大切な人が負けないように。  
 
声はか細いけど願いを込めて、歌う。  
そばには赤いちゃんちゃんこを見に纏う、小隊の守り神が私を見ている。  
夜の暗闇の中、遠くから小さくの砲撃の光と音が聞こえる。  
あの中で彼はあしきゆめと戦ってっているのだ。  
 
愛しい人が死なないように。  
 
私が口を開くたびに周りを青い光の玉が包んでゆく。  
戦う力のない私はこうする事しかできない。  
できないから、ただひたすら歌う。願いを込めて。  
 
どのくらい経ったのか。  
歌う私の後ろで階段を上がってくる音がする。  
遠くの砲声は止んでいた。守り神もいつのまにか消えていた。  
そして彼が姿を現す。  
愛しい人は帰ってきた。  
私を包んでいた青い光が彼も包む。  
彼にもこの光は見える。  
彼はゆっくりとした歩調で私の前に立って私を、抱きしめた。  
 
彼の体はあたたかい。  
たくましい腕と胸からは汗と、血の匂いがした。  
私は抱かれたまま彼の顔を見上げる。(といっても、元から彼の方がとても背が高い。)  
綺麗な金髪と青の瞳。トレードマークの帽子はなかった。  
何も語らない彼。  
私は背を伸ばすように彼の口にキスをする。  
「・・・・泣くな。」  
愛しい彼の顔は何故かぼやけている。  
「うれ・・・しいから・・。」  
「そうか。」  
彼は笑った。見た目はほとんど変化がないけど。  
今度は彼の方から私の方にキスをする。  
長いキスの後、彼はこちらを見つめたまま  
「いいのか。」  
私は小さく頷いた。  
彼は私の制服のボタンをゆっくりと外してゆく。  
「・・・!」  
不器用に上着を脱がせようとするが、思わず止めてしまった。  
自分で頷いたくせに素肌を見せるのは怖かった。  
前の学校でのいじめ。  
そこで付けられた傷。  
自分で傷つけた傷。  
誰が始めたわけでもない。  
どうして自分だったのかさえわからない。  
ただ耐えつづけた。  
そうして私は喋る事がほとんど出来なくなっていた。  
人に接する事も怖くなっていた。  
体の傷は癒えても、記憶の傷は絶対に消える事はないから。  
そう、思っていた。  
 
今は、違う。  
小隊の皆がいる。  
そして彼がいる。  
だから、自分から脱ぐ。  
上着を外し、下着を脱いだ。  
夜の闇。青の光の中。私は彼の前に全てをさらけ出した。  
さすがに恥ずかくてうつむいた。  
そのうえ少し、肌寒い。  
彼は表情を変えないまま、私の体を愛撫する。  
ゆっくり、優しく。  
「・・あ・・・」  
声が漏れる。  
彼の硬い指がそのたびに止まるのが嬉しい。  
「んん・・」  
自分の中で高まっていくのがわかる。  
内股が濡れていくのも。  
胸の先端が張ってきたことも。  
それどころか全身が熱い。  
指が、舌が触れるたび、そこに電撃が走る。  
2度ほど絶頂を迎えた。  
 
もう、あそこからはとめどなく愛液がつたっている。  
「いいか。」  
私は彼の敷いた制服の上で横になると、彼の方に両手を広げる。  
「・・・・きて・・」  
自分の上に彼が重なってくる。  
そして。  
「うあっ!・・・あ・・あ・・」  
彼のが私の中で動くたび、そこから快感が脳に響く。  
「あ・・・うん!・・あ」  
彼は私にキスを 口の中に舌が 好き 熱い  
あそこが 気持ちいい 気持ち 気持ち  
気持ち気持ち気持ち  
「い・・・く!うああああっ!」  
「・・・・・・・・・・!」  
私が痙攣した後、彼の精液が一気に私の中に入っていく。  
その快感で私はもう一度いった。  
行為の後も私は彼としばらく抱き合っていた。  
ただ抱き合っていた。  
 
 夜が明けかけた頃。  
二人はプレハブ校舎の上に座っていた。  
私は彼の膝元にいる。  
彼は腕で私を抱いたまま、歌を歌う。  
突撃行軍歌。  
私も彼に合わせて歌を歌う。  
青い光の園で、それはどこまでも響いていた。  
二人は青い光に包まれている。  
青い光は日があける頃までそこを照らしつづけていた・・・。  
 
 次に目が醒めたとき、彼はいなかった。  
日が昇り、青い光はもう見えない。  
プレハブの屋根がいやに広く感じられる。  
私はなぜか怖くなって彼を探す。  
校舎。整備テント。公園。  
どこにも彼はいなかった。  
その日の朝。  
彼が昨日の戦いで戦死したことが私に伝えられた。  
 
 空が高く昇って。暑い日差しの中。  
私は河川敷を散歩していた。  
あの日の出来事は何だったのか。  
夢だったのか、妄想だったのか、幽霊だったのか。  
いまだにわからない。  
涙はもう流れない。  
私はゆっくりと歌を歌う。  
歌は河川敷の草の音にかき消されて響く事はなかった。  
小隊の皆は元気にしているだろうか。  
私は小隊を辞めた。  
それからも小隊の皆とは交友が続いている。  
歌い終わった後、私は下を見る。  
大きくなったお腹をなでた後、私はゆっくりと自宅に帰っていく。  
もう、季節は夏に変わろうとしていた・・・・。  
 
 
 おわり  
 
 

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