萌は夕暮れの校庭で走り込みをしていた。スカウトに移動になってから毎日の日課だ。
最近は体の調子もすこぶる良い。ゴブリン程度ならカトラスで追い払えるようにもなった。
「石津ーっそろそろメシ食いに行こうぜ」
「…うん 今行く」
校舎の窓から瀬戸口が呼ぶ。この上ない至福の時だ。走り込みの後で味のれんに
瀬戸口と行くのも日課になっている。
「…ふぅっ…」
大きく深呼吸をする。全てが上手く行っている…友達ができた。イジメが無くなった。
瀬戸口とも付き合うことができた。後はコレを維持する「自分」を鍛え上げるだけだ。
維持する力が無ければまた元の…あの頃の…イヤな自分になってしまう。
「…おまたせ」
軽くシャワーを浴びて瀬戸口を迎えに行く。手をつないで歩く石津に恐れる物は何も無い。
「何かイイコトあった?」
「…イイコトだらけ」
はにかんで微笑む。石津の自分との戦いはまだまだ始まったばかりなのだ。
=石津 萌のちょっといい日々 了=