司令車の窓には砲弾よけの金網がついている。内側はカーテンで覆われほとんど光が入らないようになっている。  
計器類への光の反射を防ぐためらしいが、それならいっそ窓を無くせばよかったのにと文句をつけたことがある。  
――まぁ、元は普通の車ですから。  
善行はあっさりと認めた。  
――装甲車じゃないんですよコレ。なんとか繕ってはいますがね、ハリボテもいいとこです。  
ごてごてと貼り付けられた鋼板を手の甲で叩いてみせた音は、たしかにその下の「普通の車」の響きがあった。  
 
光を通してはいけない窓。無駄な透明。  
瀬戸口は眉をしかめた。何かに苛立ったことを覚えている。  
 
壬生屋は閉め切った司令車の中で腕をのばした。  
ステップにほとんど爪先立ちになり、膝を軽く曲げて腰を突き出した格好で支えているためひどく不安定だったからだ。  
つかまる場所を求めて窓枠に指を掛けた。  
カーテンが動いて金網模様の光が司令車の中を揺れる。  
壬生屋のすんなりと伸びた腕が、丸い肩が、肩から背中に落ちる艶やかな髪が、白い両の乳房が、  
その下に続く滑らかな肌が一定のリズムで揺れているのが一瞬浮かんで消えた。  
壬生屋は全裸である。  
一人ではない。  
まだ明るいうちから司令車に連れ込まれ半ば無理矢理脱がされたのだ。  
慣れた手は性急な愛撫でも充分すぎるほどで、壬生屋はあっさり陥落した。  
瀬戸口は上着を脱ぎ、下は前だけをくつろげた状態で壬生屋を責めている。  
 
壬生屋は窓枠に取り縋った指に顔を押し当てた。  
「・・・っ・・・う・・・・・・」  
ぎりりとカーテンを握り締めた指に歯を立てた。そうでもしないと声が出てしまう。  
こんなに狭い場所では声の逃げどころがない。自分のそんな声は聞きたくない。  
 
そんなことになったら彼の気配が薄まってしまう。  
折角そばにいるのに。  
 
かたくなに反応を抑える身体に焦れたのか、瀬戸口は片腕で壬生屋を抱き寄せた。  
前に回した手で片方のふくらみに触れた。下から捏ねるように柔らかく揉みあげる。  
汗ばんだ肌が指に応えるように吸い付き、紅い先端をわななかせた。  
それは白くなめらかな肌に揺れる可憐な蕾のよう。  
数度強く揉み込んで先端を絞るように摘み上げた。散らすようにしごくとたまらず背がしなった。  
背に流れる髪が左右に割れて朱に染まったうなじと白い背があらわになる。  
瀬戸口は吸い寄せられるように背に唇を寄せた。  
びくり、と壬生屋が上体を緊張させた。  
「っふ・・・う・・・はぁ・・・」  
声は殺せても、感じている体は誤魔化しようもない。  
塞いだ口端から唾液が溢れ、透明な筋となって腕をつたう。  
そのように懸命に息を殺すのを無視して舐めあげられた。  
肩甲骨の内側を舌でじっくりとなぞり。首の付け根を強く吸い上げて。  
いやいやをするように左右に振られる首を手のひらで捕らえて耳元まで唇を這わせた。  
薄い耳たぶに歯を立てたとき、壬生屋はついに音を上げた。  
噛まれた場所が火のついたように熱かった。  
思わず首をそらせてしまい、戒めを解かれた唇からは涎と濡れた声が溢れおちた。  
「はぁう!・・・――あぁ、あっ――」  
 
咄嗟に口元へ引き寄せられる手首を瀬戸口は背後から捕まえ、  
もう一方の手と一まとめにして引きあげた。  
震える腰を片腕で支え、ぎりぎりまで引き抜く。  
「声」  
「うぅ…っふ…や」  
壬生屋は必死で首を振った。  
装甲のせいかやけに音が響くのだ。床のきしむ音、もちろん濡れそぼつ秘所からも。  
瀬戸口は苛ついたように壬生屋の白い尻へと自身を突き入れた。  
「あふぅ!あぁ、っく…いやぁぁ」  
「コエ、出せよ。無駄だって」  
ヌチュ、ヌチュッと長いストロークで最奥を突かれる。肉棒が埋まる度に透明な体液が溢れ、  
それは壬生屋の引き締まった太ももを伝い足元に脱ぎ捨てられた朱袴に染みを広げていった。  
「…っ…も…終わらせて……」  
壬生屋は饒舌な体を否定するように唇を引きしばり、肩越しに瀬戸口をにらみつけた。  
 
気丈に振舞ったつもりだが、潤んだ瞳はむしろ壬生屋の限界が近いことを主張していた。  
(そのくせ最後までキレイでいるつもりかよ)  
瀬戸口は小さく舌打ちをすると、腰を掴んでいた手を前へ滑り込ませた。  
「い…いや!そこはッ」  
ずっぷりと瀬戸口を咥えこんだ場所に指を感じて壬生屋は思わず腰を引いた。  
いきおい尻を突き出す格好になり、より受け入れやすい体勢となったそこが  
瀬戸口の視線にさらされる。  
暗闇に慣れた目には、ヌラヌラと濡れ光る淫唇と  
直上の仄暗いすぼまりまではっきりと見えていた。  
腰を打ち付けるたびに溢れる愛液は肌の摩擦によって割れ目全体に広がり、  
蟻の門渡りを越えてアヌスの表面まで濡らしていた。  
「…やらしい」  
「なに…」  
「尻まで濡れてる」  
「!…嘘…やめて…あぁ」  
結合部に添えた指を前後に動かす。  
未だ肉付きの薄い秘唇を左右に開き、真っ赤に充血した粘膜を直接弄った。  
ヒダを肉棒と指の間で挟むと摩擦のたびにクチュクチュと鳴った。  
「ホラ聞こえるだろ?これだけ濡れてるんだぜ」  
「いやぁ…あぁぁぁ…うぅ…」  
言葉では拒絶しているが、明らかに嬌声が混じっている。  
壬生屋はいつしか自ら腰を動かし瀬戸口の指へ淫唇をこすり付けていた。  
 
壬生屋が快楽の階段を登り始める。腰の動きが激しくなり、  
それにつれて水音が高まってきたとき、不意に瀬戸口は指を引き抜いた。  
「や、やめて…ああ…ん…?…」  
壬生屋は急に物足りなくなった刺激を求めて無意識に腰を動かした。  
秘裂の上の淡い茂みで指を遊ばせながら瀬戸口が笑った。  
「腰振ってるくせに何言ってんだよ。ココも」  
そう言い放つと両の秘唇の合わさる場所−最も敏感な器官を指で摘んだ。  
「あはあぁぁぁ!」  
「やっぱり。スゲエ勃ってる」  
肉芽は充血しぷっくりと起ちあがっていた。  
瀬戸口はその包皮をめくり上げ、左右と上から3本の指で挟みこむとコリコリと捏ね回した。  
「あふぅぅ…あぁ、だめ…だめですぅ…」  
快楽に耐え切れず壬生屋の膝ががくがくと揺れた。  
刺激が強すぎる。  
「何?何が駄目なんだ?」  
壬生屋の手首を拘束していた腕を放し、腰をわし掴みにして激しく突き上げる。  
親指の力が強すぎて尻が引かれ、快楽にヒクつく秘所とアヌスが露になった。  
「こ…あぁぁぁ!こんな…こんなッ、あくぅ!されたら…  
いっちゃ…う……あ…い…く…いく!いくぅ!」  
瀬戸口は壬生屋の限界を知り、一気に堕としにかかった。  
クリトリスを指で押しつぶすように弄り、その裏めがけて肉棒をたたきつける。  
壬生屋の膣内が急に絞るように蠕動した。  
瀬戸口を受け入れた秘唇から、また新たな蜜が流れ出る。  
それは瀬戸口の指を伝い垂れ落ちていった。  
 
しかし壬生屋が絶頂を迎えても、瀬戸口の責めは緩まなかった。  
「イった?」  
「いやぁ…もう…許して…はぁっ…くださ…あう!」  
絶頂のまま、あえぎ声を隠そうともせず懇願する壬生屋を無視して  
瀬戸口は指の力を強めた。  
「俺はまだなんだよ」  
そう言って、尻を掴んでいる手の親指をアヌスにあてがう。  
ぬちゅ…と微妙に濡れた音を立てたそこは、膣内と連動してヒクヒクと収縮を繰り返していた。  
「い…いや!いや!」  
未だ触れられたことのない排泄器官を撫でられ壬生屋の身体が拒絶を示す。  
しかしそれは更なる締め付けを呼び起こし、より強い官能となって壬生屋を苛んだ。  
「…っく…そ、そんな…いや…あぁぁ…」  
「締まってるぜ」  
「やめてぇ…言わないで……あぁ」  
3点を同時に攻められ、達したはずの身体がより高い絶頂を上り詰める。  
「キツ…そろそろ…ッ」  
「また…いっちゃ…うぅ…いっちゃう…ッ!」  
ひときわ強く子宮口を突き上げられ、最奥に熱い精が注がれた瞬間、壬生屋は2度目の絶頂を迎えた。  
「あぁ…中…が」  
中でビュクビュクと瀬戸口が残りの精を吐き出している。  
それを感じ、壬生屋は数度身体を痙攣させた。  
吐精の熱だけで軽く達するほど敏感になっていた。  
 
 
そもそも二人の関係は最初から険悪なものだった。  
 
瀬戸口は初対面で潔癖な壬生屋を激怒させ、以降なにかと小言(たまに鉄拳制裁)を食らっていた。  
壬生屋が瀬戸口に突っかかる。瀬戸口が逃げる。  
それが二人の付き合い方といえばそうだったし、ある程度のバランスは取れているように見えた。  
しかしその関係はある日を境にぐらつき始めた。そう。  
ののみが瀬戸口の恋人となった時に。  
 
きっかけは他愛ないことだったのだ。ただし以前の二人なら、だが。  
休日女子校の生徒と二人で歩いていたところを壬生屋に見られ、翌朝校門前で怒鳴られたのだ。  
うんざりした瀬戸口は逃げ出して倉庫に隠れた。  
壬生屋はそれを執念で見つけ出して感情のままにまくしたてた。  
いつものことだからとへらへら言い訳をしていた瀬戸口だったが、壬生屋の一言で表情を一変させた。  
「こんなことではののみさんが可哀想です」  
「勝手に決めるな。お前には関係無い」  
静かに、だが一瞬で顔つきを険しいものへと変化させた男は  
殺意すら押し殺したような声で言い放った。  
「俺には何を言っても構わない。好きにすればいい。  
だが、俺とののみのことに口出しはするな」  
「な…」  
あまりにも身勝手な言い草だが、瀬戸口の気迫に圧されて壬生屋は口篭った。  
瀬戸口はそれをつまらなさそうに見やり、さらに凍るような口調で言葉を重ねた。  
怒っていた。  
「俺が誰と居ようと、どれだけ汚れていようと、あの子には関係ない。  
お前にも、誰にも関係ない。大体俺は――」  
 
「お前が嫌いだ」  
全身で正義を主張するお前が。妥協を許さないお前が。  
遠い昔に失われたひとにどこか似ているお前が。  
 
壬生屋は唇を噛んでうつむいた。  
理由はわからないが悔しかった。自分が間違っているのだとは感じていたが、それを無意識下に押し込めた。  
謝罪のかわりに出たのは、低いひくい声。  
「私が嫌いなら・・・同じようにすればいいでしょう」  
憎んでいるならできるでしょう?  
「ほかの女の方たちと同じように、身代わりにすればいいでしょう。ののみさんの――」  
 
どうしてあんなに下劣な台詞が口にできたのか、壬生屋には今でも解らない。  
 
「抱けないあの子の、代わりに」  
 
 
そのまま、手荒に犯された。  
ほとんど抵抗はしなかった。  
埃っぽい倉庫の床の上で背骨が軋んでも、無理に開かされたソコが紅い涙を流しても。  
それでも壬生屋は声を上げなかった。  
瀬戸口が、泣いているような気がしたからだ。  
 
 
関係を持ってからも瀬戸口は態度を変えることは無かった。  
ただばれるような女遊びはしなくなったようだった。  
壬生屋が瀬戸口につっかかることも無くなり、  
どことなくよそよそしい丁寧語で仕事の話をするとき以外は話しかけなくなった。  
 
瀬戸口は時々思い出したように壬生屋を抱いた。  
最初のように乱暴なことはせず、じっくりと壬生屋に快感を覚えさせていった。  
行為の場所はいつも学校で、どちらかの家に行くことはなかった。  
瀬戸口は誰も来ない場所を確保するのが上手かった。  
慣れたように一定の手順を踏み嬌声を引き出す。  
反応が熟れたころに欲望を吐き出して終わる。  
細々とした関係だった。  
 
(自分は瀬戸口に恋をしているのだろうか)  
壬生屋は時折自問する。  
彼の隣にいるののみが羨ましかった。その代わりにすらなれない自分が嫌いだった。  
こんな醜い感情は恋とは違うと思う。ただ  
――この関係もいつかは倦む。  
そう言いたげな瀬戸口が悲しかった。  
彼にとってはののみ以外は本当にどうでもよいのだ。  
ただ彼女が綺麗でありさえすれば。  
 
身づくろいを終えて壬生屋が立ち上がった。  
「…仕事に戻ります」  
「ああ」  
「あなたも早く服を着たほうがいいですよ。もうすぐ授業が終わりますから」  
彼女が来ますから。  
瀬戸口に背を向けてひっそりと自嘲の笑みを浮かべる。  
 
貴方と私は共犯。ののみさんを透明にしておく罪の―――  
 

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