それは、いつもどおりの戦闘だった。  
いつもと同じように幻獣を倒して。  
いつもと同じように士魂号を回収して。  
整備して明日からの先頭に備えて。  
…だったはずなのに。  
 
 
リノリウムの無機質な足音の響く病院の  
5階の病棟の  
一番奥の部屋に彼はいた。  
誰の目にもつかないようにひっそりと。  
それが善行のはからいだとボクが気づかないように。  
モニタリングされている彼の心拍と呼吸の音が  
耳障りなほどに彼の生命活動を教えてくれる部屋の中に。  
 
 
「よぉ」  
機械音よりもいくばくか肉肉しい声で若宮はボクに笑いかけた。  
屈強な筋肉の名残もないほどに白い包帯に包まれて。  
すこしだけ右腕を上げて見せる。  
その腕は肘より先がなかった。  
「ん」  
ボクはどこに視線を落とせばいいのか判らない。  
かろうじて見えている彼の顔面の右半分なのか。  
包帯の下の、へこんだ左の眼窩なのか。  
 
規則的な機械の音が若宮の心臓の活動を告げて  
ボクは少しだけ虚無から救われる。  
呼び出されて意味もわからないままボクはこの病室にいて。  
個室にしてはやたら広い部屋で。  
若宮の吐息より機械が支配するこの部屋で。  
ひょっとするともうすぐ消えそうな若宮タイプのひとりと対峙している。  
 
「ちょっとドジった、な…。」  
右腕と、それ以外にもいろいろのびているチューブについて説明しているのだろう  
彼の声がやたら遠い。でもモニタの警戒音を切ったら看護婦がダッシュで来るのだろう。  
壁からは酸素の管が伸びていて、彼の胸や太ももからはモニタにつながる管が伸びていて。  
殺風景な部屋の、一面だけ窓として開放されている壁からの夕焼けが  
血のような赤で彼を照らしていた。  
 
きっと彼が。呼んだんだ。ボクを。  
 
ベッドサイドのパイプ椅子に座ったボクは判っていた。  
腕とか身体のパーツは再生できることとか。  
戦況が思わしくないこととか。  
スカウトである彼が、その中でどのような判断をするのかとか。  
ただ、見ないようにしていたんだ。  
 
誰が死んでも、それは戦争だから。  
 
ボクは黄昏の中にまぎれて消えてしまえると思っていたんだ。  
たとえ若宮が。  
「好きだ」  
若宮の腕が何度ボクを抱いていたとしても。  
それは幻だと。  
「わたしも」  
それでも若宮。若宮。あなたにナンバーがあったとしたら。  
この新井木にナンバーがあったとしたら。  
 
運命だと思ってはいけませんか?  
 
「へっ?」  
「あれっ?」  
ボクと若宮は同時に顔を見合わせる。  
「…いや、まだ言ってなかったと思って」  
ちょっとだけ照れる彼の頬にキスして。  
唇を舐めて。  
 
「…バカ」  
顔を離して。驚愕の彼の表情を確認して。  
「何?なにか変?」  
「いや。」  
ボクだけが泣いているのはちょっと不公平かな、とか思ったりして。  
でも「今生の別れ」みたいなキモチにはぴったりだと思ったりして。  
しょっぱいのは彼の唇のせいにして。  
それでも今のボクにはこの1/何千の若宮がすべて。  
 
わたしもね。  
言えないうちにあなたが居なくなるのは  
身を切られるよりつらかったの。  
月並みだけど「つらかった」の。  
 
ちょっとだけ冒険なキスの後の。  
彼の変化に気づかないフリとか。  
笑顔が小悪魔的に見えたかどうかとか。  
ボクのぎこちない愛撫がどうとかどうでもいいや。  
 
「……ッ…お、まえッ…」  
前言撤回。  
やっぱどうでもよくない。  
 
「…きもち、いい……?」  
ぷは、と彼自身から唇を離しながら問う。  
そんなこと指に捕らえられて  
ボクの唇から唾液の糸引いている彼には関係ないことかもしれないけど。  
物欲しげにうごめく彼自身に再び口をつけて。  
彼の目の前で腰を振る。  
 
見える?  
 
ボクや---いろんな人が見ないようにしていたものが。  
あのね。ずっと寂しかったんだよ。  
でも見えなくてもいいや。  
ゆっくり教えてあげるよ。  
 
彼の舌が尖ったボクを見つけて。一番感じるところを刺激し始める。  
「ん!!…ッつ!・・・・・・い、やっ…アーーー」  
 
病院でこんなこと、と思うし  
病人にこんなこと、とも思うよ。  
でもキミは、あしたには居ないかもしれなくて。  
 
ボクの中でキミはとても熱くて。  
放たれた熱のまま死にそうで。  
そしたら小さな「新井木」はただ昨日までの熱を探すよりほかないじゃない?  
 
 
「若宮」を繋ぎとめておけるのは「善行」よりももっと  
熱い伝説のような気がして。  
「新井木」は選択する。黄昏よりも絶望の青を。  
 
あのね。  
他人のために泣いたのが二度目だなんて思わないでね?  
 
 
2日後。  
「パイロット」新井木が任命される。  
 

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