滝川が二番機を壊した。  
戦線を突破してきたミノタウロス3体と渡り合って撃破されたのだから滝川としては会心の出来であったろう。  
だがそれですまないのが小隊指揮官、善行忠孝とフロント全員そしてバックアップとそれを束ねる整備長、原素子である。  
「二番機の補充は暫らくは無理よ、絶対」  
整備班の会合で開口一番、宣言した。  
「何でです?」  
「何でも何も此間は派手にやりすぎたみたい。こんな紙切れを憲兵隊が一枚よこしてきたわ」  
誰からとも無く出た質問に対しポケットから紙切れを出しながら答える。  
「何だと思う?首都の憲兵隊本部から直々に届いた警告書。私達が捕まえられないからここの憲兵隊が中央に泣きついたみたいね。西部方面軍支部では無く中央に、ね」  
書面を回している間に原は説明する。  
「これは最後通告よ。次やったらどんな手段を持ってしても全員を逮捕する。そういうことよ」  
「でもどうします?こんな大事な時期に滝川は無職で遊ばせるんですか?」  
「大丈夫。その点は善行司令と話をつけたわ」  
何の話をつけたのかと整備班の面々は顔を互いに見合わせた。  
「二番機を壊した落とし前はキッチリつけて貰わないとね!!さ、お茶話は終わり。一番機と三番機の整備にかかりなさい。  
二番機の人は他の機体を手伝うこと。いいわね?解散!!」  
生返事、空返事を返しながら整備員は自分の仕事場に散っていった。  
 
 
同じころ、そんな善行と原の取引を知らないまま司令からの呼び出しを受けた滝川はお気に入りのアニメソングを口づさみながら意気揚揚と歩いていた。近接戦でミノタウロス三体を撃破したのである。他のパイロットはそれを平気とは言わないまでもギリギリの所でやってきたのであるが・・・。  
自身は92o対物ライフル、160oジャイアントバズーカを使用した遠距離からの狙撃で撃破していたミノタウロス。  
それを20o機関砲を使って、しかもミノタウロスの目の虹彩が判断できるような至近距離で!!  
気分が良くなければ嘘である。しかも呼び出しである。褒められるに違いない。そう考えてもいてもおかしくない。  
「滝川、出頭しました」  
「ああご苦労様です。こっちへ」  
小隊長の善行はいつもと変わらない雰囲気を漂わせていた。事務官机では事務官の加藤が書類整理をしている。  
だが加藤は滝川を横目で見るとクスクスと笑った。  
そんな加藤を訝しげに見ながら小隊長用机の前に立つ。  
「滝川君」  
善行の声も普段とは変わらない。  
「何ですか?」  
「今日から懲罰目的としてスカウトとして働いてもらいます。詳しい仕事の詳細は若宮戦士から聞いてください。おそらく校庭にいるでしょう。以上です」  
一瞬で空気は凍りつき重くなった。どん底に突き落とされた滝川は頭の辺りがが痺れるような感覚に襲われ、必死に言葉をつむごうとするがまるで石津のようにうまくいかない。  
「なな・・、なんで・・・、ですかか??士魂号はぶぶっ・・・こわしましたけど・・・、ちゃんとミノ助は三体・・・」  
「知りたいですか?」  
善行は滝川が言い終わる前に最後通牒を突きつける。よく聞いてみると声は冷たく重苦しい。  
「いえっ!!結構です!!」  
逃げるように滝川は司令室から逃げ出した。  
 
「スカウトで働けと言われても・・・、何すればいいんだ?俺は?」  
滝川は逃げ出すように司令室から出てきたくせにプレハブ校舎の屋上で日向ぼっこである。  
「やだなー、体育会系の若宮さんと働くの・・・。でも来須先輩といっしょに働けるて・・それもいいかな?」  
起き上がるが顔はにやけている。  
「へー、そんなやましい考え持ってるんだ?」  
「わ!!・・・って、速水か。驚かせるなよ」  
「驚かせたつもりはないけど・・・。そういえばスカウトやるんだって?がんばってね。応援してるから」  
「何で知ってんだよ」  
「新井木さんから聞いたよ。だからもうみんな知ってるとおもうけど・・・」  
にやけ顔は一気に落ち込んだ顔に変わり頭を抱えうなだれる。  
「でも大丈夫だよ。来須君や若宮さんがいるからそんな危ない目を見ることも無いと思うよ?」  
「そんなものなのかな?でもなんでスカウトなんだよ・・・」  
スカウトは通常二人で作戦する。いくら懲罰目的とはいえスカウトにするのは考えても分からない。  
「今は重要な時だし人をあそばせてる余裕は無いんだよ、きっと。それとスカウトになってもっとましな戦  
闘技術を身に付けて来いというのも含まれてるんじゃないかな」  
今までのスタイルじゃいけないということかよ、そう反論しようとして口を開こうとしたら大きな声が割り込んでくる。  
「滝川、こんなとこにいたな。さ、行くぞ。付いて来い」  
「あ、若宮さん。」  
噂をすれば何とやら、小隊の体育会系、そして善行の世話女房、スカウトの若宮である。  
「行くってどこにです?」  
「補給廠だ。装備を整えるのを手伝うように司令から頼まれている。すぐに済ますぞ。今日からみっちりやってやる」  
「がんばってね。帰ってきたら僕の焼いたクッキーあげるから」  
速水の励ましの言葉に見送られ、背中押されて渋々若宮の後ろに引きずられるようについてく滝川であった。  
 
 
「これなんてどうだ?7.62oミニガン。小隊機銃だな。それともほら、こっちの12.7oのほうがいいか?」  
「そんな化け物、持てる訳ねーよ。大体何に使うんだよそんな化け物を」  
「何に使うかって?決まってるだろ、ゴブとかの群れを薙ぎ払うんだよ。撃ちまくって薙ぎ払うんだ。すげー気持ちいいぜ?俺は昔いた小隊で腰だめにして撃ちまくったがスッゲー気分がいい・・・って、最後まで聞けよ滝川」  
補給廠の整然と並べられたコンテナの間の通路で上機嫌に説明し続けるのは元随伴歩兵の田代香織である。  
それについていけない滝川は黙々と若宮に渡されたリストと付け合せながら装備を選ぶ。  
「経験者の話は聞くもんだぞ」  
「経験者といってもお前は随伴歩兵じゃないか。俺はスカウト。正面切って交戦する訳じゃない。それにあんなもん持ったら俺はつぶれるか動けなくなる。大体なんでお前がここにいるんだよ」  
「別にいいじゃないか。正規のルートでの部品調達に来たんだよ。小うるさい係りとの書類の確認は森や中村とかにやらせておけばいいしな。それにトラックで送ってきてやったろ?」  
そういいながらまるで昔に戻ったかのように眼を爛々と輝かせてコンテナ詰された火器類を手にとっている。  
そんな田代を横目で見てやれやれとあきれた滝川である。だがそう思いながらも口には出さず黙って手元のリストに目を落とす。  
若宮が作成したリストだが必要なものは大体揃うようである。増加装甲、短・中の無線機二つ、多様途ベストにウエストパック、各種手榴弾、その他細々した物まで・・・。まるで本物のスカウトの装備品の数である。  
おそらく自分が使わなかった場合は自分のものにするつもりだろうな・・・と滝川は邪推した。  
だがそんな邪推も吹き飛ぶような問題がある。手持ち火器に関して若宮は指示していない。  
いわく、『自分で選んでみろ』・・・これだけである。  
 
(中略)  
田代の助言(?)を右から左に流し散々迷った挙句、選んだのはどうって事は無い、7.62oの多用途機関銃だった。  
やや重いがバランスはいいという補給廠の武器係のアドバイスを受けての選択である。田代の助言は基本的に無視した。  
そのことに不満を募らせている田代を連れて受け取りの手続きを済ませた後、トラックに戻ったときにはもう全員は集合していた。  
「遅いです。とっくの昔に時間は過ぎてますよ。子供じゃないんだから・・・」  
そんな姑みたいな小言をもらす森をなんとかなだめすかし、意気揚揚と部品を満載したトラックは学校へと出発する。  
 
 
トラックが学校に到着後、整備員が積み込まれた荷物の梱包を解くのを横目に自身の装備を詰め込んだ  
バック二つに汎用機関銃を入れたガンケース、弾薬箱を取り出すと一人プレハブ校舎へと向かった。  
「お、重い・・・」  
何しろ機関銃だけで六・七キロ、バックには200発入りの弾薬箱、10o弾使用の拳銃、給弾用のベルト、  
交換の銃身束、防弾鋼板製の自衛軍採用の防片アーマー二枚、馬鹿でかい背負い式中型無線機、各種  
手榴弾・・・。軽い方が嘘と思えるような荷物の重さである。  
一組の教室のドアを開け荷物を降ろし最前列の机を少し下げ、電気をつけ荷物を広げれるぐらいのス  
ペースを確保する。  
ハンガー内で開げればいいものだが人に見られるのにはなにか恥ずかしさがある。  
「やれやれ・・・、とりあえず必要なものは揃えたと・・・」  
バックの中から受け取った装備品を並べながら一人ごちる。  
もし出撃があればこれらをつけて戦場に向かうのである。少々感慨深いものを感じていた。  
士魂号の中でではなく、初めて生の匂いと風をじかに感じる戦場に出るのである。  
「まあ、大丈夫・・・、だよな」  
独り言をつぶやきながら装備品をチェックしているところに若宮が乱入してくる。  
「お、早速やってるな。何だこれを選んだのか?滝川、お前にしてはいいところだぞ。これは」  
そういいながら重量のある機関銃を手にとり、軽々と扱ってみせる。  
「しかし、これだったら5.56oの軽機でもよかったな」  
いまさらそんなこといわれても・・・、そんなことを思いながら黙々と装備品と説明書と付き合せて使い  
方を試してみる。それを見ていた若宮だが、  
「よし、今日はランニングは勘弁してやろう。だが、これらを選んだ以上、扱い方に習熟しなけりゃならん」  
ランニングを勘弁されたことよりも大変不吉な予感が頭をよぎる。  
「弾倉や銃身の交換にかける時間は短いぞ。以下に短時間で交換するか、これが重要だ。目をつぶっ  
てでも出来るようになるまで今日はやらせるぞ」  
今日は部屋に帰れるだろうか?そんな心配を滝川はし始めていた・・・。  
 
荷台には二番機ではなく消耗品を満載したトラック。その荷物に寄りかかりながら口をへの字に結んだ滝川が居た。  
結局昨日は朝の三時まで機関銃の扱いを習わされた。しかもその後ベルト弾帯を徹夜で何組も作っていた。  
弾薬が足りなくなるとハンガーに行き、7.62oの弾薬箱を七・八個失敬して作った。さらに機関銃につける弾帯を入れる弾倉箱を弾薬箱を加工して作らされた。  
部屋に帰れず、シャワー室で水浴びをした後、結局整備班の詰め所で毛布を被り眠りをむさっぼたのである。  
そんな眠りを貪リ夢を見ている処にまた若宮が乱入してきたのである。  
『おい、行くぞ。昨日の装備品を持ってトラックに乗れ』  
何処にです?そう聞く前に若宮は出て行ってしまった。急いで枕にしていた機関銃ケースを引っ掴み、バックを下げついて行くとトラックが待っていた。  
『お前は荷台に乗れ。急いで乗れよ』  
そう言われて訳も分からず飛び乗るとトラックは動き出した。行き先はわからなかった。  
だが周りの景色を見て予想できた。たぶん郊外の演習場への道だ。三月中は何度も足繁く通ったのだ。  
一番機と三番機を乗せたトラックが見えないのはおそらく一番機と三番機はもう先に向かったか着いているのだろう。  
三十分ぐらい荷台で揺られていると予想通り演習場の敷地内に入っていった。一番機と三番機の機影が遠くに見える。  
だがトラックはそこまで行かず演習場の管理施設の前で停車した。停まると同時に降りた若宮は滝川に向かって怒鳴りつける。  
「早く降りろ。ウォードレスに着替えて弾薬を受け取るぞ」  
「あ、はい。でも弾薬って持って・・・」  
「今あるだけだとぜんぜん足りん。補給係から受け取るんだ。今日は射撃音が耳に残るぐらい撃たせてやる」  
建物の中に入っていく若宮について行きながら滝川は今日もしごかれるのだと二日目ながらにして暗澹たる気持ちになった。  
 
「よく似合ってるじゃないか、滝川」  
「かっこいいね、陽ちゃん」  
「ふむ、格好だけは一人前だな」  
「似合ってるよ、陽平」  
「えっと、すごく・・・似合ってますよ」  
「まるで宣伝写真から出て来た見たいやな?今度写真とらせてな宣伝部隊に高く売るへん」  
「呪うわ・・・」  
「よく似合ってますよ。頑張ってくださいね」  
「・・・・・・」  
遅れて姿を現した滝川を見てフロントの面々はそう言うがあの舞ですら顔は笑うのをこらえているのがありありと見えた。  
だが今の滝川の姿を見れば多数の人は笑うのをこらえてしまうような格好である。  
ウォードレスの装甲に追加で防片アーマーを付け、さらに多用途ベストを重ねている。ベストの左胸にはマイクつき個人間無線機、腹の部分には特製の二百連弾倉を入れたポーチを二つ、腰周りのベルト左右には破砕手榴弾を四つに煙幕手榴弾二つ、右足太腿に10o拳銃を入れたホルスターを括りつけさらに予備弾倉をいくつか。左足太腿にはフットポーチ、中身はファーストエイドキットにこちらも予備の弾薬。左右の膝にはパッドをつけて防護している。背中にはネ小隊無線機、後ろ腰につけたバックには来須や若宮の分の予備弾薬を詰め、さらにポケットに予備の手榴弾・・・。そして7.62o機関銃。  
極めつけはバックに無理やりくくりつけたようなLAW三本・・・。  
戦闘は火力、だがウォードレスでもかなり無理をした装備である。  
おそらく誰かが――そんなのはいないだろうが――タバコを滝川に投げつければ爆弾のように破裂する。まさに火気厳禁の火薬庫である。  
「おまえは基本的に俺と来須の予備弾薬を持ってもらうからな。今日一日はそれで動けよ」  
「・・・了解ッス」  
頭部の自衛軍型のヘルメットに無線機のヘッドセットを気にしながらも返事をする。  
そんなことも次ににやりと笑う若宮のいった一言で気にならなくなった。  
「今日はお前が嫌といってもたっぷりと撃たせてやる。まずは拳銃だ。勿論全部持ったまんま、な。標的に弾倉一個分が集弾するまでやるぞ。その後アサルトライフルに機関拳銃もだ。勿論弾倉の交換もやらせるぞ」  
若宮の笑う顔を見れなくなる・・・、本気でそう思う滝川であった。  
 
 
「原さん!!大丈夫ですか?」  
「あら、滝川君じゃない、久しぶりね。元気にしてた?」  
「そんなこといってる場合じゃないでしょう・・・。俺が援護しますから補給車を下げてください。  
Uターンしたら荷台に俺、乗りますから停まってくださいよ」  
「分かったわ。よろしくね」  
・・・  
「うわ危ねえ!!・・・っておい、ちょっと、原さん!!森さん!!停まって下さいよ!!・・・げ!!」  
・・・  
「そうだ、加藤!!」  
「なんや?そなでかい声出して!!」  
滝川が耳栓をしているの知っているのと、石津のつく銃座の射撃音にそれに合わせて空薬莢が転がり込んでくるためつい加藤も大声で怒鳴り返した形になる。  
「いいか?指揮車で俺を轢こうとするなよ!!」  
「なんでやねん?」  
「”なんで”でも、だ!!」  
滝川は指揮車の後部ドアが歪むのではないかと思えるぐらいにたたきつけて閉じ、若宮に指示された位置につこうとした。  
・・・  
「滝川」  
「何だよ・・・?」  
「機関銃から弾を抜いて安全装置をかけておけ。お前の銃の暴発で死んではかなわん。それと・・・」  
舞の話は右から左に流すことに決めた・・・。  
 
今日一日の出来事を滝川は頭の中で反芻してみる。だがここに帰ってきた道程が思い出せない。  
「確か・・・」  
 
舞の注意を右から左に流し、学校への帰到する準備を整えた整備班のどのトラックに便乗させて貰おうかと  
考えながらトラックヤードに向かったところで補給車上から原に話し掛けられた。  
「帰りの足を探してるなら乗っていかない?安くしておくわよ」  
「・・・・・・」  
滝川はあのことがあったためか返事をしなかった。が、そんなことを知ってか知らずか、原は続ける。  
「置いてけぼりにしたことは謝るから。早く乗りなさい、出発の時間よ」  
それを聞いた滝川は慌ててタラップに足を架け後部座席に転がり込む。補給車の中の後部座席に座りなお  
すと同時に運転席についている森が口を開く。  
「滝川君、今日はごめんね。指示を原さんにしっかり聞いておくべきだったね・・・」  
本当に申し訳なさそうに森が謝る。  
「いや別に・・・、謝らなくてもいいけど・・・」  
「嘘おっしゃい。あるんでしょ?言いたい事が山ほど」  
「そりゃあ・・・」  
 
その後、今日の戦闘での出来事に対する愚痴を語っていたはずだ。どうやらその後の記憶が途切れているようだ。どうやら途中で眠ってしまったらしい。  
「やれやれ・・・、今何時かなと・・・、げ!!もう二時かよ!!」  
乗車時と同じように補給車から飛び出て急いで整備テントに向かう。  
整備テントの中に入ると整備班のつなぎを着た原と鉢合わせになった。  
 
「原さん、こんな遅くまで整備して大丈夫なんですか?」  
「あらやだ、心配してくれてるの?でも大丈夫よ、いつもの事だから・・・」  
そう言うと原は滝川の頭をくしゃくしゃにする。  
「ほら、早く装備を外してシャワー浴びてらっしゃい。いろんな匂いがつくわよ」  
そういわれて滝川は初めて気付く。汗の匂いがつくのは勘弁だ。しかも今回は硝煙に泥の匂いおまけがつく。  
「はーい」  
生返事を返すが先にやるべきは装備品の整備に報告書の提出だ。若宮からきつく言われている。  
「作業やってからでも大丈夫っすよね?」  
「じゃあ早くやりなさい。匂いは一度つくとなかなか取れないわよ」  
そんなことを言われても慣れていない装備品の整理だ。時間がかかる。  
・・・  
結局装備品の整備を終わらせるのに一時間かかった。その後、適当に報告書を書いてシャワー室に入ることができた。  
「失礼します」  
先客がいた。だが湯気であまりはっきり見えないし疲労からかあまり気にしなかった。  
「疲れた・・・。今日も帰れそうに無いな・・・」  
服をかごに放り込み、先客がいるようなので腰にタオルを巻く。そのとき何かおかしいことに気が付いた。シャワーを浴びている人間、よく見ると男ではない。  
「ちゃんと外にある札読んだ?『女子使用中』って」  
原だった。どうやら整備の仕事は終わったようだ。だが滝川にとって今そんなことは問題ではない。  
「えっといや・・・、でも・・・って、失礼しました!!」  
急いで逃げ出そうとする。だが出て来た原に手を掴まれ、引っ張られる。  
「ほらこっちに来なさい。これは助けてくれたお礼と置いてけぼりにした・・・」  
悪戯をして逃げ出そうとして暴れる弟をたしなめる姉のように原は滝川の手を引き自分のスペースに引き入れる。  

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