「300」という数字が。ボクを変える。  
 
 
 
全部脱いで布団にもぐりこむ。夜這いってこういうのだっけ?  
すぐに大きな背中にぶつかった。丘のような肩甲骨を抱いて露骨な言葉で強請った。  
あまり意味はないと思うけど胸を押し付けてみた。  
裸なのはわかってもらえたかもしれない。  
「しよう」  
 
寝返りを打つようにゆっくりとこちらを向いた肩を掴んで引き寄せる。  
すぐに唇が唇を、舌が舌を捉える。  
唾液を絡め合いながら忙しなく手を下に移動させた。  
下着を指先で押し下げる。先は足の親指に引っ掛けて膝まで下ろした。  
さすがに驚いて離れた口に指を突っ込んで封じる。  
「んッ…」  
胸の上に馬乗りになって指で舌を弄った。  
膝で彼の両肘を押さえ込む。圧点と角度で関節を極めるだけで  
ボクの足より太い腕はびくともしない。  
戸惑っていた彼はすぐに諦めて舌を使い始めた。  
 
じゅぷじゅぷと指が唾液にまみれていく。  
もう一方の手を肌の隙間に向ける。  
ちゅく、とまだひかえめな音をたてて指が滑り込む。  
若宮の胸筋と、ボクの一番柔らかい肉の間に。  
「あ…はぅ……」  
驚きに彼が目を瞠った。  
微笑して指を口から引き抜いても唾液を引いたまま顔が固まってしまった。  
濡れた指先を胸にそえる。  
外から手のひらで搾り出すように揉み、先端は指で挟んでクチュクチュと転がした。  
上と下から同時に淫らな水音があがる。  
「……んっ…は…あぁ…」  
自ら与える快楽ですぐに体がいうことをきかなくなる。  
びくびくと崩れかかる背を腿で必死で支えて指の動きを速めた。  
同時に腰を前後に擦り付けて強い刺激を得ようとする。  
若宮の胸がいっそう濡れて、なんだか汚していくようでゾクゾクした。  
ふと顔を見ると驚いた表情のまま、すごく興奮した目をしていた。  
興奮した目で食い入るようにボクの行為を視ていた。  
彼の視線がボクの顔とか胸とかもっと下で動いている手首に移動するたびに  
ソコが火照るようだった。  
だけどあふれる蜜が潤滑油となって摩擦による快感をかえって弱めてしまう。  
焦れて指を奥まで潜らせてみたけれど、柔らかく締め付けるばかりで全然足りない。  
足りない。  
「……イれて、イイ?……」  
膝立ちになった太ももの間から彼の顔を見下ろして、ゆっくりと指を引き抜く。  
ソコに釘付けになった視線に満足してもっと腰を突き出す。  
ぬるぬるの指で開いて見せた。  
「……………ね?」  
 
「っ……!ア…待っ…」  
まだ慣れない体をなだめなだめやっと全部入ったと思ったら  
下からガンガンに突き上げられて悲鳴まじりの声をあげた。  
もっとも次の瞬間には全部嬌声になってしまったけれど。  
「あ…いい…よお………ボク…もう…」  
「早いな」  
まるで別の生き物のように腰が動く。  
若宮と一緒になってボクを気持ちよくさせるために。  
「おねがい」  
涙目と舌足らずなおねだりがツボに入ったのか。  
乱暴ともいえるような動きで一気に追い詰められた。  
それは彼のほうも同じで。  
眉根を寄せ、荒い呼吸を繰り返す。  
余裕を無くした動きが好きだ。彼の全神経がボクを感じている気がするから。  
「……お前、変だぞ」  
「そーゆー気分なの」  
最後の短い吐息も。  
 
明日には全部ひっくり返ってしまうから。  
今日撃墜数が300を超えたことはオペレーターじゃない整備員でも知っていた。  
士魂号の回収作業のあいだ、ボクと目を合わせた人はほとんどいなかったから。  
例外はほんの数人。  
赤い目の姫様はいつもどおり。  
青っぽい司令の表情はいつも読めない。  
白いクネクネした奴は化粧が濃くてよくわからなかった。  
ああ、猫が少し悲しそうだったけど気のせいだ。  
 
あともうひとり。  
浅黒い肌の随伴歩兵がじっと見ていた。  
あれは。あのアイスブルーの眼は。  
あれはきっとさよならだ。  
 
 
「明日…」  
「なに?」  
事後の気だるい空気のなか、彼は汗で湿ったボクの髪を撫でながらぼそぼそとささやいた。  
「明日どっか行くか」  
「どこ?」  
「海とか公園とか」  
「学校は?」HRは?  
「サボリ」  
そのあとは?  
 
彼の声が少し緊張しているのに気付いた。 
髪をつまみあげてさらさらと落とす。 
太い指先がひたいを撫でるようにたどって鼻先で止まった。 
わずかに震える指先に気づいたとき、電撃のようにボクは悟った。 
 
このひとはこうして全部覚えておくつもりなのだ。 
 
−−−−絢爛舞踏は 
彼が次の言葉を口にしようとした瞬間、体をひるがえして胸の上によじ登った。 
 
「行かない」 
暗闇の中、体半分重ねてじっと目を見つめた。 
手のひらの下の胸の鼓動がやけにひびく。 
「そうか」 
薄く笑って目を伏せた彼の顎に両手をかけて唇を重ねる。 
ちくりと肌を刺す髭と、鼓動と、背中に回される腕を 
なによりも守りたい現実だと思った。 
 
ふいに来須先輩の背中を思い出した。 
目に見えるものよりも遥かに多くを背負いそびえたつ背中。 
大きくて、強くて、カッコよくて、それから−−− 
涙があふれた。 
「どこにも行かない。ここにいる」 
ぐしょぐしょの笑顔で宣言してまた目を閉じる。 
 
 
さようなら。さようなら。 
大好きだった。 
 
 
 
ボクは、ここで「一番」になる。 
 

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