ガンパレードマーチ  
 

その漢は待っていた。ただ整備室で静かに待ち焦がれていた。幻獣が来るのを…  

彼の名は[士魂号1番機」、パイロットは言わずと知れた壬生屋。出撃しては  
真っ先に壊れて帰って来る整備士泣かせの色男である。つい先日も先陣切って  
幻獣を撃破してきたばかりだ。もちろん大破もした。だが彼は非常に満足して  
いた。  

「昇進と勲章授与 おめでとう」  

未央は不意を付かれ振りかえる。そこには意中の殿方が自分に対して賛辞をのべに  
来てくれていた。ひとしきり会話を交えた…とその時どこからか視線を感じた。  

「どうしたの?」「いえ…なんでもありません」  

会話を終えた未央はハンガーに駆け込んだ。視線も気になったがそれよりもほて  
ってしまった体を鎮めるのが先だった。久しぶりの「彼]との会話でいてもたっ  
てもいられないのだ。  

彼は幸福の絶頂にいた。彼の中で意中の女(ひと)が自慰にふけっているのだ…  

[はっ…あぁあっ…あっ……ひぁあっ…」  

「彼]の声を忘れないうちに…それが今の未央の精一杯だった。  

「は…はや…み……く……」  

その時漢の魂が揺れた。  

 

[出撃」  

戦場に借り出される5121小隊。整備班の面々から不信な声が漏れる。士魂号  
1番機の様子がおかしい…と。不調ならまだしも全ての性能が跳ね上がっている  
のだ。  

[……!!」  

全員が息を飲んだ。いつもと同じ呼吸で踏み込んでいるはずの1番機が、まるで  
士翼号のごとく空を駆ったのだ。壬生屋も驚きを隠せない。いつも通りに切りこ  
んでいるはずが、力加減が全然出来ない。  

「な、何が起きてるというのです?………!?」  

======モウ離サナイ ズット一緒ダ======  

急に未央の頭の中に声が聞こえた。  

 

操縦が効かない!無線が通じない!多目的結晶も反応しない!脱出しなければ!  
未央がヘッドセットを取った瞬間また声が聞こえた。  

======ワタスモノカ======  

計器類やモニターが割れおびただしい量のコードやケーブルが体を埋め尽くす。  

壬生屋の顔は真っ青に血の気が引いていた。元々士魂号には生体部品が使用されて  
いることは彼女も知っていたが、線虫のごとくうごめくソレは嫌悪感を通り越して  
恐怖そのものと化した。  

「ひ…あ…」  

叫ぼうにも体が硬直し呼吸すらままならない。それもそのはず、多目的結晶を通し  
鋼の魂は壬生屋のココロを、カラダを支配していたのだから…  

「あ…何だろう?気持ちいいなぁ…ここどこ?ん…くすぐったいなぁ…でも気持ち  
 いいからいいやぁ…いやじゃないし…皆どこいったんだろう?え?みんな?誰?  
 え?わたシ?ワタシハココデナニシテイルノ?マァイイヤァ…」  

[1番機、応答しろ!壬生屋!!」  

善行の声が指揮車の外にまで聞こえる。外では士魂号1番機がまるで生き物の  
ごとく戦場を駆けまわっていた。  

士魂号の中は既にこの世の物とは思えない光景と化していた。コクピットを埋  
め尽くす無数のケーブルはあたかも触手のごとく壬生屋の体にまとわり付き、  
その四肢を大の字に広げ穴という穴をふさぎ、あるいは嬲っていた。  

目は…コードが巻きつき光を遮り  
口は…大小様々なケーブルが入り込み声を奪い  
手足は…曲げることも伸ばすこともかなわず  
胸は…搾り出す様に締め上げられ  
秘部は…尿道・陰核・菊門にいたるまで辱めを受け  

 

そこには音を出す肉人形だけがあった。  

 

「おごぉ!?おをぉおお!!!!」  
線が舌に絡み付き口の外へ引きずり出す。  

「えぐぅうっ!んがぁ!」  
線が鼻を吊り上げる。  

「はぁっ…はへへぇぇぇ〜…」  
ソレらは耳の穴の中を蹂躙する。  

触る・撫でる・揉む・締める・摘む・突つく・巻きつく…ありとあらゆる方法を  
持って肉人形は弄ばれ続けた。閉ざされた体内にはありとあらゆる体液が振りま  
かれ甘美な異臭を放ち始めていた。  

「うぎぃぃいぃぃいぃぃいぃぃいいい!!!!」  

濡れる肉体に電流が走る。口からヨダレの泡と共に哀れなうめき声が漏れる。  
漏電しているのか、それとも声の主の仕業か…壬生屋は既に白目を向いて痙攣し  
時折狂った様にあえぐ。体液をしたたらせ、汚物を撒き散らし「ソレ」は士魂号  
と一体となっていた。    

 

「幻獣側…増援です!」  
「ユニコーン型だと…!?新種か!!」  
「一番機と接触!!」  

 
 
 
 

それは美しい十字架に見えた…ユニコーン型の角は1番機の腹に深ぶかとささり  
ながらその巨躯を持ち上げていた。同時に1番機の刃を急所に受けて絶命してい  
た。  

 

「げ…幻獣側撤退開始しました…!」  
「掃討戦に入る!!」  
「きゅっ救護班!!」  

===勝利===  

壬生屋は病院のベッドで目を覚ました。怪我はほとんど無く、皮膚に無数の引っか  
きキズがある程度だった。  

「ウォードレス着ていたのに…」  

不思議と体は軽い。誰もが死んだと思ったあの一撃の時。士魂号が吼えたと小隊の  
面々は言う。士魂号が護ってくれた!?そんな話も出たくらいだ。でも壬生屋には  
何が起きたか解っていた。生体部品の暴走による声にならぬ声、伝わらぬ思い……  
表現の不器用さはさながら本物の「サムライ」だったかと彼女は苦笑いをした。  

当の士魂号はというと整備班によって修復作業が順調に進んでいるそうだ。その話  
を聞いた壬生屋はハンガーへと向かった。  

 

鋼のサムライはどこと無く気まずそうに、うつむいてる様にも感じた。その頭を拳  
で軽く叩く。そして一言。  

「…コラっ」  

サムライは君主に顔向けできない。  

「私のコト…慕ってくれてたのは嬉しく思います…ですが…その…ああいうコトは  
 もうお止め下さい …その…もう少し優しくでしたら…お願いします」  

彼女の意外な言葉にサムライが頬を染めた様に見えた。  

「壬生屋さん!病み上がりなのにそんなトコいたら危険ですよ!整備始めますから  
 降りてくださーい!」  

森の声で我に返る。振りかえり優しく微笑むと君主は去った。次は調整の時かなぁ  
と、鋼のサムライは不埒な妄想を抱きながら整備に入った。  
                               =了=  

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