魔性の宴
気がつくと、田辺真紀は夜の教室で横たえていた。
窓の外で怪しく輝く青い月と、その月に被さり不気味な陰影を浮かべている黒い月が見
えた。
「ここふぁ、どきょ……?」
舌が上手くまわらない。体の調子もおかしかった。頭の中で薄いもやがかかっているよ
うな感覚。わずかに首を動かし、あたりの様子を探る。
「あら? ようやく気がついたの」
聞き覚えのある声が耳に届く。どこか冷たい人を突き放すような口調。
「おはよう、田辺さん。もっとも、目覚めない方がよかったのかもしれないけど……」
声の主が月明かりの中に姿を現す。短い髪に射抜くような鋭い視線。実年齢とは不釣り
合いなほどに大人びた表情。5121小隊の整備主任、原素子は田辺真紀を見下ろしなが
らそうつぶやいた。
「は、原ひゃん……。どう…し…て?」
「あまり無理して喋らない方がいいわよ。結構、きつめの薬使ったから、あとしばらくは
動けないわ」
「ひゃい?」
田辺は何を言われているのか見当がつかず、訊き返した。
「いいのよ、直に分かることなんだから。それにしても、田辺さんて顔の割にはスタイル
抜群ね。ちょっと驚いちゃったわ。これじゃ、彼が夢中になるのも当然だわ」
原の言葉に、田辺が急いでいまの自分の姿を確認する。露わになった上半身。平均を確
実に上回る豊かな胸が窓から差し込む月の光に晒されていた。かろうじて身につけていた
のは薄手のショーツ一枚きり。女性らしらを微塵も感じさせない野暮ったいデザイン。な
のに、それを着けた少女の豊満な肉体と、まだあどけなさの残る表情が奇妙なアンバラン
スを構成し、危うい魅力を醸し出している。
「い……いや」
恥ずかしさに両手で胸を隠そうとした。でも、思うように体が動かない。ようやく寝返
りを打って、背中を丸める。
「驚いたわね、あの薬を射ってまだ体を動かせるなんて……。あなたが遺伝子操作を受け
た生体クローンだって言う噂。案外、本当なのかも?」
呆れた口調で原がつぶやく。その視線には憎悪の色合いが色濃く混じっていた。
「これ以上は危険だけど、しょうがないわ」
そういって、アンプルに入った薬剤と空の注射器を手に取る。注射針を深く差し込み、
手慣れた様子で液を吸い上げていった。空になったアンプルは捨て、シリンダーを少し押
し込む。針先から漏れてくる透明の液体。
「さあ、注射の時間よ」
原はゆっくりと田辺に近づいていき、その側でひざまずく。
「どこに射つと思う?」意地悪くほほえんだ。片手で少女の上半身を起こし、相手の背中
を自分の膝で抱える。力のこもらない田辺は体を原に預けた格好となる。極度の興奮と緊
張、加えてこれまでに投与された薬のせいか、彼女の乳頭は大きく屹立していた。
「すごいわね、こんなしちゃって……。ふふ、そんなに気持ちいいのかしら」
言いながら脇の下に手を回し、後ろから田辺の右乳房をつかみあげる。手に余るほどの
弾力と重量。少しずつ力を加えながら、若さ故の程良い張りを堪能した。
「ここもこんなにコリコリしちゃってる」
指先ですっかりふくれあがった美しい色合いの乳首をつまみ上げる。先端をこねるたび、
少女の唇からなまめかしい吐息がこぼれた。
「気持ちいいの? すごく敏感になってるわよ、田辺さん。とっても可愛いわ」
少女の体が十分にほぐれたのを確認すると、原は左手に持った注射器を乳首の先端に当
てた。右手は弾力で針が埋もれてしまわないよう、しっかりと乳房の下をつかみ、逃げら
れないようにする。
「ひゃめて、ひゃめてくだ…さ……い」
「動いちゃ駄目よ。下手に動くと、余計に痛い思いをするのはあなたなんだから」
短く伝えて、ためらいもなしに細い針を乳房に突き刺した。途端に痙攣を始める少女の
肉体。女性の体の中でもっとも痛点が集中している部位に針を差し込まれることは想像を
絶する痛みとなる。
「痛い? とっても痛いでしょ。でも、その顔が見たかったのよ、わたしは!」
平然としてシリンダーを押し込み、薬液をさらに注入していく。中身が空になると原は
手早く針を抜き、注射器をその辺に投げ捨てた。彼女に抱きかかえられた半裸の少女は、
すでに白目をむいている。常人であれば、とおに意識を失っているレベルだ。
「やっぱりすごいわ、あなたは。森さんなんて、最初の一本で意識も記憶も飛んじゃった
のに……。これは思ったよりも楽しめそうね」
原の表情が妖しくゆがむ。相手を支配することに心の底から快感を覚えているようだっ
た。
「さあ、こっちの方はどうかしら?」
それまでぴったりと閉ざされていた田辺の両足を大きく広げる。すでに力を失っていた
少女の体はいささかの抵抗もなく、白い布きれ一枚だけに包まれた神秘をさらす。ショー
ツは彼女の奥底から染み出す愛液によってぐっしょり濡れていた。内側から透ける黒い茂
みと程良く盛り上がった恥丘の形が鮮明に描き出されている。
「ほら、よくご覧なさい。あなたの手前にあるのはビデオカメラよ。田辺さんの乱れた姿、
みんな撮ってあげるんだから……」
その声がきちんと相手に届いていたかどうかは疑わしい。けれど、田辺にしてみても自
分が何をされているのかは本能で分かっているはずだ。彼女には原がそうする理由までも
容易に想像がつく。すべては同じ相手に思いを寄せたことが不幸の始まりであった。そし
て、被害者は決して自分一人ではないことも確かである。同僚の森精華が突然の交通事故
で世を去った。あまりにも不自然な顛末に疑問を抱く者も少なくなかったが、結局のとこ
ろ最後までハッキリとしたことは分からなかった。この瞬間まで……。
「あなたがいけないの」
片手を滑らせて、濡れたショーツの上から相手の敏感な部分を探す。薄い布越しでもガ
チガチに腫れたクリトリスの形が確認できた。
「いやらしいことなんて何も知らない顔して、あの人に近づくから」
静かな口調とは裏腹に、激しい勢いで田辺の女の子自身を責め立てていく。
「知ってるのよ。もう何度も彼に愛されたんでしょ?」
尋ねるとともにショーツの中に手を潜らせた。薄い茂みをかき分け、すでに異性を受け
入れた少女の内側に指を進める。
「ここであの人を感じたのね。何度も何度も……」
声に険しさが加わるたび、膣の中を出し入れする指の動きが一段と荒々しくなっていっ
た。二本の指を奥までねじ込むと、息を合わせたように田辺の腰が浮き上がる。すでに感
情は失われ、快感だけが少女の肉体を虜にしていた。
「さあ、いきなさい! わたしの前で獣のように快楽をむさぼりなさい! あの人にも見
せないような表情をわたしが引き出してあげるわ、田辺さん!」
命じるとともに差し込んだ指先で膣壁を掻き回す。体の内側で荒れ狂う衝動に田辺はあっ
けなく絶頂を迎えた。くわえ込んだ二本の指を絞り上げた途端、少女の腰が大きく跳ね上
がる。原が愛液にまみれた指を引き抜くと、一気に下半身の筋肉が弛緩した。
唐突に田辺が放尿を始める。ビクビクと痙攣を続けるお尻から、教室の床に水たまりが
広がっていった。
目の前に置かれたカメラは少女の痴態を余すことなく捉え続ける。田辺の膀胱が空っぽ
になり、ショーツからあふれ出す水滴の勢いが完全に失われたところで原がカメラを取り
上げた。
「すごく、よかったわよ。わかっているでしょうけど、あの人から手を引きなさい。そう
でないと、あなたの恥ずかしい画像が裏マーケットで出回ることになるわ」
吐き捨てるように言って、原はポケットにカメラを戻した。田辺は腰が抜けたまま、力
無く床に転がっている。
「動けるようになったら、後始末をお願いね。朝になってみんなに見つかれば、恥ずかし
いのはあなただもの……」
冷たく命じて、振り返ることもなく教室をあとにする。裏庭に向かい、誰の人影も見あ
たらない整備員詰め所に腰を下ろした。自分専用のデスクを開け、中をのぞき込む。いつ
の間にか集まった数十本のカッターナイフ。その中でもお気に入りの一本を取り出し、刃
をのばした。薄いステンレス鋼材を照明にかざし、ぼんやりとその輝きを見つめる。
素子の脳裏に、突如としてナイフの刃が赤く染まる情景が浮かんだ。
そして彼女は動き出す。愛を不動のものとするために……。
了