ガンパレードマーチ  

 とあるうららかな晴れの日。教室で日向ぼっこをする狩谷の側に忍び寄る影があった。クネクネと動くソ  
レは狩谷の目前で華麗にターンし、優雅に一礼してみせる。  
「……靴下ならもうやらないぞ」  
 その奇抜な動きに言及することもなく、狩谷はそう言い放った。絡まれなかっ奇妙なソレ――岩田は断末  
魔と共に血を吐きバタリと倒れる。彼の扱いに慣れた狩谷は車椅子を操作し、その場を離れようとしたがそ  
れは床に倒れたまま車椅子の車輪を掴んだの岩田によって阻まれた。  
「アアン、敵に背を向けるのは武士の恥ィ! 今日は貴方に靴下のお礼を持ってき……」  
「いらないよ」  
 岩田が言い切るより早く、狩谷は彼の提案を拒否する。ついでとばかりに車椅子を動かし、車輪を掴んだ  
ままの彼の手を轢くことも忘れない。が、岩田はそれしきのことでは怯まない。何故平然としていられるの  
か、轢かれた手をぷらぷらとさせながらも起きあがった岩田は狩谷の掌に何かを握った自分の手を無理矢理  
押しつける。  
「フフフ、私の屍を越えていく。それもまたイィでしょう。しかしこれだけは受け取ってもらわねば」  
 そう言って手を離すと、狩谷の手には青色の錠剤が数粒収まっていた。  

 見るからに妖しげなその薬と岩田を見比べ、その錠剤をどうするか狩谷が思案していると、岩田は聞きもしないのに説明を始める。  
「フフフ、これは所謂アレですよ、アレ。勃起不全治療薬。  
 脊髄損傷で半身不随に陥った人でもこれを使えばセックス可能という非常にアレな薬です」  
 脊髄損傷。半身不随。岩田のその言葉にムッとした狩谷は僕には必要ない、と渡された薬を突き返そうと  
する。しかし岩田は降参のジェスチャーを取るように両手を高く上げ、受け取らない意思を示した。相変わ  
らず轢かれた手はぷらぷらしている。  
「使うかどうかは貴方次第。私は飽くまで薬を渡すだけ。  
 ですが、貴方とてその足以外は健全な男子。性欲がないとは言わせません。  
 コレを使えば貴方の生活はエクスタシー間違い無しですよ。ああもうイィ! スゴクイィ!」  
 最後は意味不明な奇声にも似た高笑いを発しつつ、岩田は走り去っていった。残された狩谷は所在なげに  
手の中の錠剤を見つめ、やがて無造作にポケットにソレを突っ込んだ。  

 学校から家まで狩谷を送り迎えするのは加藤の仕事だった。狩谷は一度として頼んだ覚えはなかったが、  
5121小隊に赴任する以前から、それは加藤が望んでする行為だった。狩谷の家に着き、加藤は名残惜しそう  
に彼に話しかける。  
「なぁ、なっちゃん。今日岩田君と話してたやんか」  
「お前には関係ない」  
 ぴしゃりと言い放つと、加藤は目に見えてしゅんとしょげかえる。対して狩谷は、ばつが悪そうにポケッ  
トをまさぐった。今の今まで忘れていたのに、加藤が余計なことを言うから思い出してしまった。ポケット  
の中にはやはり錠剤がある。指先でその感触を確かめると、狩谷は彼女に気付かれないように嘆息した。  
 口の中でもごもごと何事かを言っている加藤を狩谷は訳もなく殴りたくなった。  
 いや、ここで奴に妖しげな勃起不全治療薬を貰ったなどと言ったらどういう顔をするだろう、僕を蔑むのだろうか。  
そんな暗い感情が狩谷を包む。ポケットの中でぐっと拳を握りしめ、下を向いたまま黙ってしまった狩谷の顔を、加藤は心配そうに覗き込んだ。わざわざ車椅子の前まで回り込み、しゃがんで目線を合わせてから狩谷を見上げる。  
「なっちゃん?」  
 すっかり黙り込んでしまった狩谷を心配そうに見つめる加藤。何でもない、と取り繕おうとして顔を上げ  
た彼の頬にポタン、と大粒の水滴が垂れた。と、間を置かずにざあざあと天からバケツをひっくり返したよ  
うに雨水が地面を打つ。  
「ひゃあ!」  
 加藤は慌てて狩谷を軒下に避難させ、自分は雨に打たれたまま空を見上げる。狩谷が彼女を仰ぎ見ると、  
髪も制服も見る見るうちに濡れていき、重たそうに水を吸っている。濡れた髪を顔にまとわりつかせ、困っ  
た様子の彼女はいつもと違って見えた。  

 貴方とてその足以外は健全な男子。  
 性欲がないとは言わせません。  
 不意に、岩田の言葉が脳裏を掠める。未だポケットに突っ込んでいた手が錠剤に触れ、更に胸が高鳴る。  

こんな時に限って……と狩谷は忌々しげに舌打ちした。  
「あーもう、夕立やろか。どないしよう……なっちゃん、大丈夫?」  
 いつの間にか黙り込んでいた狩谷を心配してか、加藤が再び彼の顔を覗き込む。  
「いや、その……」  
 知らず知らずの内に、見慣れたはずの加藤相手に顔が赤くなるのを感じる。  
 血液が逆流するような錯覚に見舞われ、狩谷はポケットの中の錠剤をぎゅっと握りしめた。  
「うちで……雨宿りしていくか?」  
「え?」  
 加藤の顔が見る見るうちに赤くなる。言った後で狩谷はしまった、と心の中で悪態を吐いた。  
 それでも一度口に出してしまった以上、仮にも女の子に濡れて帰れとは言えない。  
「雨宿りって、ええのん? 迷惑にならへん?」  
「お前が今更迷惑なんて考えるか。いいからさっさと中に入れよ」  
「うん……うんっ!」  
 ぱぁっと花が綻ぶように笑うと、加藤は狩谷を先に家の中に入れてお邪魔しまーすと明るく言いながら自分も玄関へと入っていった。  

 部屋に入って狩谷がまず最初にしたことといえば、  
加藤にタオルと自分のワイシャツを投げて寄越したことだった。  
 そして自分のためにもタオルを取り出し、湿った髪を拭きながら部屋の奥のドアを指差した。  
「そのままじゃ風邪引くだろう。あっちにシャワーがあるから」  
「う……うちはええよ。それよりなっちゃんの方が」  
「僕は殆ど濡れてない。いいから行けよ」  
 放り投げられたタオルとワイシャツを握りしめてぐずぐずと何事かを言う加藤に  
狩谷はややきつい調子でシャワーを促した。  
 嘘ではない。狩谷は雨が降った直後から加藤によって軒下に避難されていたので、  
タオルで拭く程度ですんでいた。  
 言われた加藤はというと、まだ何か言いたげだったがやがてのろのろとバスルームの方に向かった。  
 顔が赤かったのは気のせいではあるまい。  
 バスルームに消えていった加藤の背中を見送りながら、狩谷は溜息をついた。  
 腕の力を使って自力で車椅子からベッドに移り、ポケットの中から握りしめていた錠剤を取り出す。  

 貴方とてその足以外は健全な男子。  
 性欲がないとは言わせません。  
 再び、岩田のその言葉が脳内でリフレインする。  
 それと同時にフラッシュバックするのは、自分の顔を覗き込む濡れた加藤の顔。  
「なっちゃんはうちのことどう思う? うちはなっちゃんのこと好きなんやけど」  
 今までしつこいくらいにまとわりついていた彼女は、顔を赤らめながら改まった態度でそう言った。  
 ほんの一週間ほど前に、加藤はそんなふうに狩谷に告白した。  
「いいよ、付き合いたいなら付き合っても」  
 実にあっさりと承諾したものだ。体の芯が痺れるような、それでいて心の奥底が暗く沈むような、  
そんな気持ちを抱えたまま狩谷は加藤と恋人同士になった。  
 そして今、彼は同じ気持ちを抱いたままじっと青い錠剤を見つめている。  
 恋人らしいことといえば、キスならばした。だが、二人の関係はそこで止まっていた。  
 恐らく加藤も、自分に性の快楽など期待していないのだろう。  
 脊髄損傷で半身不随に陥った人でもこれを使えばセックス可能です。  
 三度、岩田の言葉が蘇った。フ、と狩谷の口が三日月型に歪む。  
 いいさ、貴様のその言葉に乗ってやる。  
 心の中で小さく呟いて、狩谷は小さなその錠剤を口に放り込んだ。  

 シャワーから出た加藤は狩谷のワイシャツに身を包み、小さな幸せを噛み締めていた。  
 大好きな恋人の匂いがふわりと漂う。まるで彼に抱き締められているような錯覚を覚える。  
 ぎゅ、っと自分の腕で自らの身体を抱き締め、そしてハタと赤面する。  
 男の部屋で二人きり。シャワーを浴びてこいという彼の命令に恥ずかしい期待をしてしまう。  
 加藤とて年頃の少女なのだから、それなりに「好きな人とすること」に淡い期待は持つ。  
 でも、それは無い。彼は下半身不随の身なのだから。  
 自分にとってごく当たり前の哀しい結論にたどり着き、彼女はペタペタと狩谷の部屋まで戻った。  
 加藤が戻ってくる足音を聞きつけ、彼女の恋人は冷たい声で彼女の名を呼んだ。  
 ベッドにあがり、狩谷は背もたれに上半身を預けて足を投げ出していた。  
 上着を脱いでネクタイも外してしまった彼はシャツをはだけさせてじっと加藤を見る。  
「お前、僕のことが好きだって言ってたよな。僕の言うことなら何でも聞くか?」  
「は? う……うん、そりゃあなっちゃんの言うことやったら……」  
 どぎまぎしながら狩谷の問いに答える加藤に向けて、彼は小さく微笑んだ。  
「だったら、服脱いでみろよ」  
「うん……は?!」  

 聞き間違いでは無かろうか。  
 話の流れのままに頷いた加藤は素っ頓狂な声を上げて狩谷を見た。  
「聞こえなかったのか? 僕は服を脱げって言ったんだ」  
 腕を伸ばしてぐいと加藤を引き寄せると、すこしいらついた声で狩谷は言う。  
「僕の言うことなら何でも聞くんだろ?  
 大体お前、男の部屋にのこのこ入ってシャワーまで浴びて、この後のこと位考えつくだろう。  
 それともなんだ? 僕が障害者だからって高を括っていた?」  
 ぎり、と加藤の腕を掴む指に力がこもる。加藤は痛そうに眉を寄せた。  
「ごめん……なっちゃん、脱ぐから……脱ぐからその、手……離して」  
 恥ずかしそうにそれだけ言うと、加藤はワイシャツのボタンをのろのろと外しだした。  
 その間も狩谷は、赤面した加藤の動作をじっと見つめている。  
 ワイシャツがパサリと床に滑り落ち、緩やかに曲線を描いた加藤の身体が露わになる。  
 シャワーを浴びてほんのりと桜色に染まった彼女の身体は如何にも柔らかそうだった。  
 ブラとショーツだけになった彼女に狩谷はベッドの上に乗れと手招きする。  
 加藤の体重でベッドがギシリと軋み、二人の身体を僅かに沈める。  
 彼女の身体を引き寄せた狩谷はそっと唇を重ね合わせた。  

 狩谷は僅かに震える加藤の唇を舐め上げ、割り、自らの舌を侵入させた。  
 今までの唇を合わせるだけの親愛のキスから、口腔を犯す情欲のキスへ。  
 丁寧に歯列をなぞり、口蓋を舐め上げ、おっかなびっくり引っ込めようとする彼女の舌を追い回して  
強引に絡ませる。  
 狩谷に乗りかかっている姿勢の加藤が反射的に身を引こうとするが、  
狩谷は強引に加藤の頭を抱え込んで固定する。生暖かく柔らかいソレは不思議と心地良かった。  
「ん……んぅ……」  
 二人の声と唾液が混じり合い、屋根を打つ雨音と隔離されたように室内に響く。  
 息が苦しくなったのかやがて互いに口を離すが、狩谷は尚も名残惜しそうに執拗に、  
加藤のふっくらとした唇を甘噛みする。  
「あ……ふぁ……」  
 彼がやっと彼女の唇を解放すると唾液がつうっと糸を引き、二人の唇を繋いだ。  
 瞳を熱っぽくとろんとさせた加藤の唇はつやつやと濡れて光っている。  
 狩谷はそんな彼女の唇をぺろりと一舐めして、首筋へと舌を這わせた。  
 狩谷の舌の感触に細い首を仰け反らせる加藤はヒクヒクと小さく喘ぐ。  
 舌が首筋から鎖骨のくぼみに至るとちゅっと痕を付けて胸に進路を進めた。  
 その間加藤の頭に回されていた手は徐々に下に下がっていき、脊髄から背骨へと指を這わせる。  
「あ……はぁ、ん……やぁ……あっ」  
 ブラジャーのホックへとたどり着いた指は器用にソレを外す。  
 緩んだストラップがするりと肩を滑り落ち、カップが所在なげに胸から離れた  

 下着が緩んだことにより出来た隙間からすかさず手を差し入れる。  
 細身の身体とはやや不釣り合いの豊かな胸は驚くほど柔らかかった。  
「ひゃ……なっちゃ、ん……」  
 指に力を入れて掴んでみると、指の間から柔らかな肉がまろび出る。  
 ふにゃふにゃと頼りないその感触を楽しみながら、狩谷は加藤の胸をパン生地のようにこね回した。  
「あ……やだ……気持ちええ……」  
 狩谷を押し潰さぬようにとベッドに手を着いていた加藤は、  
快感で力が抜けそうになるのを頑張って堪えている。  
「お楽しみの所悪いけど、これ邪魔だから腕抜いてくれないか?」  
 胸をこね回す手は休めずに、狩谷は加藤にそう指示する。  
 緩慢な動きでストラップを腕から抜くと、白い胸が一層露わになった。  
 四つん這いのような格好をとっているために円錐形に下がった加藤の乳房を、  
我ながら赤ん坊のようだ、と思いながら狩谷は吸い付いた。  
「ん……ひゃぁうっ!」  
 予告無しに行われたその動作に、加藤の身体が跳ねる。  
 何事かと狩谷が彼女の顔を見上げると、彼女は顔を真っ赤にして彼の行為を見ていた。  
「な……なっちゃん……いきなりそんなの、せんといて……」  
 恥ずかしげに呟く彼女を見て、狩谷は意地が悪そうに微笑んだ。  

「ああ、そんなのってどんなのだい?」  
 ひょっとして、こんなの? と狩谷はわざと舌をつきだして加藤の胸の突起を舐め上げた。  
「ひぁ……っ!」  
 ぎゅっと目を瞑り、甲高い声を上げ身を強張らせる加藤の反応が面白いのか、  
更にちろちろとその堅くなった頂を舌先で転がして遊ぶ。  
 もう片方の胸も指でつまみ上げ、挟んだり弾いたりを繰り返す。  
「や……あかん! そんな風に、されたら、うち……はぁん!」  
 切れ切れに言う加藤の言葉を無視し、狩谷は執拗に胸への愛撫を続けた。  
 やがて手の愛撫はなだらかに曲線を描く腰を通り、下腹部へと移動する。  
 脚の付け根を指で撫で回し、そのままショーツの染みを探り当てた。  
「加藤……これ、どうした?」  
「いや……あぁん!」  
 乳房から口を離し、ニヤリと笑いながら訊ねる狩谷に加藤は一際高い嬌声をあげた。  
 僅かに力を入れてショーツを押し込むと、布越しにも分かる割れ目に僅かに指先がそこに埋もれた。  
 ゆっくりと縦に沿ってなぞってやると、小さな薄布に染みが広がる。  
 指を動かしてやると次第にぬるぬるとした粘液が肌と布の摩擦を少なくしていった。  

 指を離そうとしても、加藤から出た粘液のせいで僅かにペトリとショーツに張り付く。  
 ぐいと指を押し込むと、すっかり濡れてしまったショーツ越しにさらに淫液が染み出てきた。  
 指を曲げて角度を変えてやると彼女の喘ぎ声もまた変わる。  
 器用にショーツを取ってしまうと彼女の濡れた秘所が露わになった。  
 最初は僅かながらに抵抗していた加藤も、次第に狩谷の指の動きに従順になっていった。  
 熱っぽい吐息を吐きながら自らの腰を加藤の指に擦り付けるように動く様は、  
見ていてこちらが恥ずかしくなってしまいそうだった。  
 こいつ、慣れてるな……?  
 不意に狩谷はそんな疑問に駆られる。  
 売春はしていないと言っていた。  
 実は処女だということも知っている。  
 なのに、緊張しているような気配もない。  
 何故加藤はこんなにもこの行為に慣れている……?  
 一つの結論に達して、狩谷は口元を歪める。彼女でもう少し遊べそうだと思った。  

 露わになった秘所を割って、花弁へと指を進入させる。  
 湿った茂みを掻き分けて、ぬるぬると蜜をあふれさせている陰唇までたどり着くと  
すぐには触らず辺りを撫で回した。  
「あ……なっちゃ…ん……ん!」  
 言外にじらさないでと催促する加藤は狩谷の指を求めて腰を僅かに前後させる。  
 その甲斐があったのか、彼の指がこりこりした芽の部分にたどり着くと彼女は一際大きく跳ねた。  
「加藤……ここ、気持ちいいか?」  
 そう言いながらこりこりと肉芽を擦ってやると、加藤はぐしょぐしょに濡れてしまった花弁を  
ひくつかせながらこくこくと頭を縦に振った。  
「気持ち、いい…っ! ……すごくいい……!」  
 がくがくと膝を震わせてあられもない声を上げる加藤の姿はぞくぞくするほど扇情的に映る。  
 加藤が感じる部分を責めたてつつ、狩谷は彼女の耳元でねっとりと囁いた。  
「それで、その気持ちいいところをいつも自分で弄ってるのか?」  
 狩谷の言葉に、加藤は一瞬にして淫靡な熱から引き揚げられた。  

 顔を上げて狩谷の顔を見る。彼はニヤニヤと笑っていた。  
「なっちゃん、今……なんて……?」  
「自分でしてるのか、って聞いたのさ。その様子だとどうやら図星だな」  
 今まで散々加藤を弄って愛液でふやけてしまった指をぺろりと舐める。  
 見せ付けるように行われたその動作に、加藤はカァっと顔を赤らめた。  
 うつむいてもじもじと自分の裸を隠そうとする加藤の腕を狩谷は素早く掴む。  
「なんだよ、別に恥ずかしいことじゃないだろ。今更隠すようなものでもなし。  
 それとも、僕には想像出来ないくらい恥ずかしいことしてたの?」  
 腕を掴んだまま、顔を近づけてそう囁く狩谷と必死に目を合わせまいと加藤は目を瞑った。  
 加藤は今まさに顔から火が出る思いだった。  
 どうして狩谷がいきなりそんなことを言い出したのかは分からない。分からないが、  
それは紛れもなく事実だった。戦時中とはいえ、恋する少女の身体は一人持て余すには若すぎた。  
 狩谷のことを想いながら声を殺し、ひっそりと自分を慰めていた。  
 それなのに当の狩谷本人に、そのことを見抜かれてしまった。  
 顔から火が出る思いをしているにも拘らず、硬く掴んだ彼の手と吐息交じりの狩谷の声が、  
加藤の身体の奥をじわりと刺激する。心の中で制止しようとも、滲み出た蜜はとろりと太股を伝ってい  
った。  

「あかん……なっちゃん……お願いやから堪忍して……」  
 もじもじと太股をすり合わせながら泣きそうな声で哀願する加藤を狩谷は一瞥する。  
「見たいな……加藤が一人でやってるところ。僕の前でしてみろよ。  
 僕の言うことなら、何でも聞くんだろ?」  
 ぎゅっと抱きしめては背中に指を這わせ、再び耳元で囁いた。  
 背中に這わせた指は、そのままうなじをゆっくりと撫で上げる。  
 しばらく小さく荒い息遣いを続けるのみだったが、どうやら羞恥心よりも愛欲の方が勝ったらしい。  
 加藤は狩谷が見やすいように少し離れると、おずおずと自分の手を自らの胸に持っていった。  
 寄せたり持ち上げたり、やわやわと揉みほぐすように自らの膨らみをを弄ぶ。  
 特別大きいとは言えないが柔らかく形の整った白い乳房が形を変え、  
指と指の間からこぼれそうに盛り上がる。  
 やがて手の動きが激しくなり、ほっそりした指が紅色の突起を掠める。  
 ピンと勃ったそれは指で触られる度に乳房に埋没するように潰されては起き上がる。  
「ん、あぁ……なっちゃん……っ」  
 人差し指と中指で挟むように突起をつまんでは胸を荒々しく揉む。  
 突然出てきた自分の名前に少し驚きつつも、狩谷は加藤の前髪を汗ばんだ額から払ってやった。  

 

 前髪を払ってやり、そのまま頬に手を寄せる。荒い息を附きながら虚ろな目をした加藤は  
その狩谷の手に愛しそうに擦り寄り、そっと唇を指に押し付ける。  
 押し付けられた唇の間を指で割り、口腔をかき回した。  
 ぴちゃぴちゃと加藤が舌で狩谷の指に唾液を絡ませると、お返しとばかりに胸を弄っていた  
彼女の指をとって一本ずつ丁寧に舐めとってやる。  
「加藤……続けて」  
 狩谷に続きを促され、加藤は今しがた彼に舐められてべとべとになった指を自分の秘所に這わせた。  
 ウチの指、なっちゃんに舐められて、それをココに持ってくやなんて……。  
 先程の狩谷の責めと羞恥心と興奮で既に潤っていた花弁はとろりと蜜をまとわりつかせて、  
簡単に彼女の指を進入させる。  
 指の第一関節が入ったところで加藤はきゅっと己の身体を縮こまらせて、  
ひくひくと入り口を痙攣させた。  
 ぬるぬるとした体液を指で掬い取ってやると、花弁のすぐ上、ぷっくりと充血させた赤い芽に  
そっと塗りこむ。滑りの良くなったそこを撫ぜるたびに電流のような快感が身体の芯を走り、  
加藤は狩谷の目の前であられもない声を上げながら自分を責めた。  
「ふぅ、あっ……はう……ん、んん!」  
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、彼女の花弁から蜜が流れ落ち、白く粘りを増す。  
 親指で芽を、その他の指で花弁の中をかき回し加藤の身体はがくがくと小刻みに震えた。  

 そろそろ、大丈夫かな……。  
 薬を飲んでからもうそれなりに時間は経ったはずだ。  
 狩谷は加藤の痴態を観賞しながら、自分の身体に神経を集中させていた。  
 彼女の姿と声と匂いが、自分の中の性的欲望は十分すぎるほどに刺激している。  
 彼女に気が付かれないようにそっと自分の下半身を手で確かめると、  
そこは行為に使え得るよう変化していた。制服のスラックスを持ち上げる質感が目でも分かる。  
 精神と肉体のバランスが取れている。  
 懐かしいような複雑な気持ち。  
「なっちゃん……?」  
 知らず物思いに耽っていたのか、狩谷の様子がおかしいことに気付いて加藤がふと我に返る。  
「ああ、いや……」  
 加藤に呼ばれ、狩谷は自分の下半身から目を離した。  
「加藤、ちょっと……手伝ってくれるかな、脱ぐの」  
「え……? あ、ああっ!?」  
 自らの股間を指差した狩谷の言葉に、加藤は素っ頓狂な声を上げた。  
 信じられないとでもいうように彼のソレに手を伸ばす。そっと布の上から撫でてみる。  
「馬鹿! お前には恥じらいってものが無いのか!」  
 照れ隠し半分、狩谷は僅かに腰を浮かせ真っ赤になって怒鳴った。  

「ごめん……でもなっちゃん、大丈夫なん?」  
「いいから、早く脱がせてくれよ。  
 それとも僕だけおあずけか?」  
 ごめん、とまた謝りながら、加藤は狩谷のスラックスを下着ごと脱がせた。  
 抑えが無くなった狩谷のものが加藤の目の前に飛び出る。  
 それは確かに硬く猛った男性のものだった。  
「……恥ずかしいからあんまりじろじろ見るな」  
「いや、ごめん……せやかて、なっちゃんだってウチの恥ずかしいとこずっと見てたんやで」  
 狩谷のモノを凝視していた加藤が赤くなって言い返す。  
 両者裸のまま、顔を朱に染めながらそんなやり取りを交わす。  
「ええと、じゃあなっちゃん……なっちゃんの、ウチに入れていい?」  
 それは僕の台詞じゃないのかと思いながら、でも自分からは入れられないし……と考え、  
狩谷は首を縦に振って頷いた。  
 加藤は狩谷の上にまたがり、そっと彼のものに手を添える。  
 彼と一つになるなんて叶わないと思っていた。  
 改めて挿入となると心臓が早鐘を打ち、手が震える。  
 加藤はゆっくりと腰を下ろし、狩谷をその胎に受け入れた。  

 指とは比べ物にならない質量に身体が串刺しにされ、電流を流されるような錯覚を覚える。  
 先程までの行為で十分馴れていたはずが入り口がギリギリまで広がって裂ける。  
 加藤は知らず止めていた息を、痛みと共に吐き出すようにゆっくりと吐いた。  
 きつく眉根を寄せ、声を漏らすまいと唇を噛み締める。  
「おい、大丈夫か……?」  
 見るからに痛みを我慢しているであろう加藤を心配そうに見上げる。  
 自分の力で何もしてやれないのがもどかしい。  
「大丈夫、めっちゃキツイけど……けど嬉しいねん。せやから、我慢できるから……」  
「でも、血が出てるぞ……?」  
「アハハ、なっちゃんったら……こんなときに限って、心配性、なんやから……んん!」  
 わざと笑って強がる加藤に狩谷はせめてもの慰みにと頭を撫でてやる。  
 彼女はくすぐったそうに、先程よりは幾分和らいだ笑みを見せた。  
「ありがと……ねえ、なっちゃん。キスしてもええ?」  
「ああ……いくらでもしてやるから、来いよ」  
 その言葉に安心したように、加藤は狩谷へと倒れこむ。  
 繋がる角度が変わり、ぎちりと胎内がえぐられる。  
 狩谷は加藤の背中に片手を回しあやすように優しくさすってやった。  

 初めは触れるように、しかしすぐさまお互いを貪るように激しく口付けていく。  
 お互いの舌を絡み合わせ、吸い付き、唾液を交換する。  
 飲み込めきれない唾液が口の端に零れ、顎から喉へと伝っていった。  
「ん……んふ……ふぁ」  
 どちらのものと知れない鼻にかかった喘ぎ声が時折離れる唇から漏れる。  
 身体を捻り、動かし、角度を変えながら何度も何度も口付けた。  
 身体が動くたびに、狩谷との間で潰れた加藤の胸の突起が擦れ、興奮の度合いを増していく。  
 少しずつかき回されていく胎内が狩谷のモノを受け入れ、痛みもだんだんと薄れていった。  
「ぷは……はぁ、はぁ……あうぅ!」  
 唇を離し、酸素を一気に取り入れた加藤はゆっくりと腰を動かした。  
 身体を起こしたときに再び角度が変わり抉られた瞬間、ぎゅうっと狩谷のものを締め付ける。  
 痛みが快感に変わり、その動きはだんだんと激しくなっていく。  
「加と……きつい……くぅ……」  
「だって……ん、ああん! いい、いいよ……なっちゃん……ッ!」  
 スムーズになった結合部はぐちゃぐちゃと粘液を溢れさせながらより深く繋がっていく。  
 狩谷は加藤の胸に腕を伸ばし、荒々しく揉みしだいた。  
「いい、か? 大丈夫か?……ふ、はぁ!」  
「へーき……めっちゃイイ……ひぁ、あぁ、んッ」  
 白い喉をのけぞらせてひくつかせながら、加藤の嬌声はさらに高く上がった。  

 びくびくと加藤の身体に震えが走る。  
 頭の中が真っ白になり、ふわふわとどこか頂上に駆け上がるような感覚に襲われた。  
「なっちゃ……ウチ、もう……」  
「いい……イケよ、大丈夫だから」  
 自分も限界が近づいてきた狩谷はぎゅっと目を瞑る。  
 身体の奥から何かが湧き上がり、そのまま弾けた。  
「なっちゃん……あ、あぁあ……ッッ!」  
 加藤の身体が弓なりに反り、くったりと力なく狩谷に覆いかぶさる。  
 肩で荒い息をつく彼女を、彼はぎゅっと抱きしめてやった。  
「ふふ……えへへへ」  
「なんだよ……」  
 おもむろに笑い出す加藤を訝しがる狩谷。  
 自分の腕にすっぽり納まってしまう彼女はとても可愛らしいが、  
情事のあといきなり笑い出されるのははっきり言って不気味だ。  
「なっちゃん大好き」  
 改めてそう言われ狩谷は赤面しながら、たまには僕にも言わせろ、と加藤の額にキスをした。  

 結局その後もう一度シャワーを浴び(今度は狩谷と二人でだが)、加藤はベッドに寝かせた  
狩谷の身体を拭きながら彼に問いただした。  
「なっちゃん前に言うてたやんか、『僕に所謂男女の関係を求めるな』とかなんとかって」  
 なのになんで今日は出来たん? と狩谷のシャツを纏った彼女は尋ねる。  
「岩田にもらったんだよ、勃起不全治療薬……とかなんとかって」  
 狩谷はベッドのサイドボードに転がる残った青い錠剤を指差して面倒臭そうに説明した。  
 加藤はしげしげとその錠剤を見、狩谷の顔を見、僅かに吹き出した。  
「あんなぁ、勃起不全治療薬ってコレ、バイアグラのことやで」  
「は!? バイア……!?」  
「ウソやないで。ブラックマーケットに買い出し行った時にウチ見たことあるもん。  
 見た目ホンマに普通のやっちゃな〜、岩田君に渡されたかて副作用の心配もないんちゃう?」  
 なっちゃんひょっとして知らんかった? と言われ狩谷はがっくりとうなだれた。  
 岩田に渡された薬がどんなに危険でやばいものかと戦々恐々としていたのに……。  
「ク、ククク……フフフフフ……」  
 不意に、笑いが込み上げてきた。狂ったように笑いながら、狩谷は加藤をベッドに引き倒す。  
「加藤、お前はあと何足くらい靴下を持っている?」  
「は?」  
「明日学校に行ったら岩田と商談といこうじゃないか」  
 これで僕達は普通の恋人同士だ、と狩谷は半ば冗談めかして笑った。  
                                         THE END?  

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