「厚志ーぃ!ここにいるのはわかっている!
なにを考えておるのだ―――!!!」
それは若葉が茂り始めた頃、整備員詰め所でおきた小さな事件。
威勢の良い怒号とともに激しく扉を開ける音がした。
凄まじい音の中心には芝村の末姫がそびえ立っていた。
全身で怒りを表現している。
瞳は鋭いまなざしで目標物を補足。目標物は間違いなく僕。
額には青筋、だが頬などは赤みを帯び朱色。
肩は耳の近くまで持ち上がってしまっている。
拳は殴りつけれるように堅く握られ爪が食い込んでいるようだ。
足は蹴りでも入れれるようにだろうか、大きく開かれている。
――――絶妙なタイミングで現れたなぁ…。
僕は石津さんと仕事をしていた。
ただ彼女の手に触れている所に舞が入ってきたのだ。
いや、やましい事も後ろめたい事もない。
仕事の一環で触れていただけだから。
でも僕自身はよくても端から見たら誤解されてしまう状況だったかもしれない。
現に舞はその状況を見て顔を青くしたかと思えば
その直後に血が上って赤くなったりと大忙しのようだ。
普段は静かに閉じられている口もわなわなと小刻みにふるえている。
何かを語ろうと口を開くものの言葉にならない様子だ。
あー、怒ってる怒ってる。
「あ…厚…、厚志……なな何…して……何ぃー?!
ど、どういぃ…う…… どういうことなのだこれは!
私が納得できるように説明をせぬか!!」
「ま、舞…落ち着いて。」
「……………………姫の………………御乱心………ね…」
こんな時にも石津さんはいつもの淡々とした口調だった。
ちょっと考え込むようにうつむいた後、
いつもの上目遣いが僕を捕らえた。
「……そしたら…速水……君…………私…帰るわ……
時間…………きたし……………話、あるでしょ………から…」
そういうと彼女は聞こえるか聞こえないかのささやくような声で
別れの言葉を残し帰って行った。
そして詰め所には僕と舞の二人だけになった――