〜断ち切られた重き鎖〜
1.
5月1日。午前六時。あと数日で自然休戦日。
整備員詰め所。
狩谷は徹夜で、あるウイルスを組み上げ、士魂号に接続したプラグへ流し込んでいた。
「これで、あいつらは……ただの獣だ。僕以下の……」
狩谷は暗闇の中で呟き、パソコンの電源を切った。
2.
5月2日。午後七時。
舞はいつものように、電子妖精を作るために整備員詰め所へ入った。あと少しで二本目のNEPを陳情できる。
電気がついていない。なぜこんな早い時間に?
疑問に思いながらスイッチに手を伸ばし、妙な音が聞こえるのに気づいた。
くちゅ、ぴちゃ……
水音だった。舞はすぐにスイッチを押した。
電気が点滅しながら部屋を明るく照らす。
そこにいたのは萌だった。だが、様子がおかしい。
「ふぁ…ひぁ、だ、誰……?」
萌は詰め所の真ん中のテーブルの上で脚を広げ、両手をスカートの中へ入れていた。
そこから水音が聞こえる。両手は艶めかしく動いていた。
「そ、そなた、何をしている……」
舞は、身悶える萌にゆっくり近づきながら訊いた。
「体…熱くて……指…止まらない…あふっ」
「おい、やめろっ!」
舞が萌の手首を握る。
「…手……離して」
「一体何があったのだ?」
「パソコン…触ったの……そしたら…あ……欲しい……欲しい…固くて……長いの……」
萌の目はうつろに空中を見つめながら、涙を流している。口からも、涎が流れて、愛液と一緒にテーブルを汚していた。
舞は振り返り、電源のついたままのディスプレイを見つめる。そこには黒い竜の絵と、『解放せよ』という赤い文字が映っていた。
舞はふと手に違和感を感じた。萌の手から自分の手を離すと、手が少しだが震えているのがわかった。
嫌な予感がする。舞は詰め所を出ると、速水の元へ向かった。