小隊の大半は撤退し、残されているのは私と偵察に向かっていた竜造寺くんだけ。  
大敗、その言葉が私の肩にのしかかる。小隊長なんて向いていない事、やりたくなかった。  
こっそり整備に配置変え出来ないか試して、芝村くんにもの凄く怒られたりした。絶対、自分で指揮した方が良いのに。  
しかも敗勢が濃くなると先に撤退しちゃったし。まぁ、無線で呼びかけても応じないから直接会って威嚇射撃までさせられた源くんよりはマシかも知れないけど。  
薄めのハレルヤを端末に流す。こうでもしないとおかしくなりそう。硝煙と血、それから獣の匂いが鼻から消える。あ、最後のは好き。  
とりあえず邪魔なゴブリンをヘッドショットを決める。初めは反動であたふたしてた、88式軽機関銃も軽く扱える。  
無線で言われた通りの森に竜造寺くんは息を潜めていた。くせ者揃いの小隊ではある意味浮いている。  
「小隊長どの」  
そう呼ばれるのはいつまでたっても慣れない。戦場とはいえ二人っきりなのだから名前で呼んで欲しい。  
「弾、持ってきたよ」  
補給車が撤退する前に回収した予備のマガジンを竜造寺くんに渡す。あまりにも、少ない弾数。もっとも、補給車にも弾なんてほとんど残ってないけど。  
「ありがとうございます、それからご報告が」  
敵司令の居場所を聞いた私は一瞬悩んだ。もし、倒せれば辛勝とはいえ勝利だ。  
そうすれば、少なくとも数日は安心出来る。だけど、私の不出来さに竜造寺くんを巻き込みたくない。  
「隙を作ります。竜造寺くんは気を見て撤退を」  
治療中の竜造寺くんのウォードレスもほとんど全快。これが終わったらお別れだ。  
急に頭を引き寄せられ、唇を重ねられる。竜造寺くんにしては強引。  
「わかりました。ですが……死なないで下さい」  
素直なのかそうでないのか悩む言葉。  
「もちろん、日曜日はデートでしょ?」  
軽口を叩いて立ち上がる。今の私に出来ることはそれ位。  
銃弾をゴブリンに当て、消滅させる。その後、走る。足を止めたらキメラのレーザーにやられる。  
それに、この残弾数ではキメラなんて何体も相手に出来ない。  
避けながら、必要最低限の小型幻獣を倒す。そうしてやっと敵司令のミノタウロスが見える。  
 
背後から、軽く掃射。いくらかはダメージを与えたはずなのに、そんな素振りは見えない。  
迫りくる腕を慌てて避ける。もし、あんなのが当たったら、それだけで終わる。  
腕を躱した後、何発か撃ち込む。それを数回繰り返した時、弾が出なくなった。  
マガジンには十数発は残っているはず。こんな時に故障――  
逃げる事は出来たかも知れない。だけど、帰った先にあるのは軍法会議だ。  
ため息を一つ漏らすと覚悟を決めた。本当はぐるぐると頭の中色んなことが渦巻いているけど。  
さよなら。あ、日曜日のデート行けなくてごめんね。  
固く眼を閉じた私は横から衝撃を受ける。驚いて目を明けるとそこには竜造寺くんの姿。  
「命令違反、ですね」  
そう言ってミノタウロスの頭を撃ち抜いた。勝った――と思ってしまった。  
私も、多分、竜造寺くんも。  
だから、二人とも飛んできたミサイルに反応出来ず、宙を舞った。もう一体いたんだ。  
薄れゆく意識で思うのは、「もしも」。「もしも」、やり直せるなら。絶対、こんな結末にはしない。  
 
 
「……さあ、新隊長。ご決定を」  
なぜ、この悪魔の問いかけをまた聞かされているのかわからない。  
ただ、この先にやり直せる未来があるのなら。  
「町へ」  
短く、答える。あの時のように無言ではなく。  
 
 

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