正直、気は進まないのだが。司令からのほぼ命令に近い要請とあっては、仕方ない。  
 善行は、校舎裏のテントへと向かっていた。  
 
 サーカスのテントをそのまま使った士魂号のハンガーは、いつになく活気にあふれていた。  
かつて、このテントが本来の目的で使われていた頃も、中はこんな活気にあふれていたの  
かもしれない。  
 士魂号の足元で小走りに動き回る整備士たち。  
 善行は、その長の元へと歩を進める。  
 
 彼女は、信頼する部下たちに、矢継ぎ早に指示を与えていた。  
「一番重症なのは02号機ね。ミノタウロスに殴られた頭部はどうなってるの?」  
「ダメです。全損です」  
 02号機整備士の田辺が答える。  
「……予備と交換するしかないわね。急いで。今日中よ」  
「はい!」  
 予備部品を取りに行こうと駆け出して、床に這ったケーブルにつまづいて転ぶ。  
 いつもの予定調和。  
 そんな田辺のことなど気にせずに、整備班長は次の書類をめくっていた。  
「01号機は足回りの調整だけで済みそうね」  
「フフフ。実は、もう着手しています」  
 ワイヤーで釣ってるんじゃないか? と、思いたくなる、エビのようにのけぞったポーズの、  
白くてクネクネした奇妙な生き物が答える。  
「あら。仕事が速いわね。手があいたら、02号機の手伝いをさせてあげるわ」  
「フフフ。超過労働ですね」  
「嬉しいでしょう?」  
「それはもう」  
「では、続けて」  
 それだけ言うと、青いバンダナを頭に巻いた、彼女が一番信頼している整備士に向き直る。  
「03号機は……。まあ、万全と言っていいわね」  
「パイロットの腕がいいですから」  
 何気なく答えた森の言葉に、原の表情が一瞬、曇る。  
 原の表情の変化を敏感に察知した森は、その場の空気をとりつくろうかのように、  
はっきりした口調で言い放った。  
「定期整備の後、02号機と01号機のバックアップにまわります!」  
「お願い。あの子達は意外と手間がかかりそうだわ」  
 
 敬礼する森。その視界が、原の背後に立った善行にちらっと向けられて。  
 そんな森の表情に、思わず振り向いた原の表情が、固まる。  
「……何をしに来たのかしら? パイロットにはパイロットの仕事があるでしょう」  
 毒のある声。  
「ええ、これから手をつけます。ですが、その前に」  
 対する善行の声は、いたって冷静だ。  
 嫌になるくらいに。  
「今夜、空いていますか?」  
「ダメね。仕事があるわ」  
「その後です」  
「まっすぐ家に帰って寝るわよ!」  
 あくまでも冷静な善行に対し、原の声はあきらかに戦闘モードだ。  
「では、その時に声をかけてください。話があります」  
「はあ? 今、ここで話せば?」  
「いえ。できれば、二人きりで」  
「な、なんですって!?」  
 二人きりという言葉を聞いた原の顔が、徐々に赤く染まっていく。それが怒りなのか、  
羞恥なのかは、その表情からはわからない。  
「では、声をかけてくださいね」  
 そう言って、善行は03号機へと足を向ける。  
 何歩か歩いてから。何かを思い出したように振り返って。  
「……逃げないでくださいよ」  
「だ、誰が! いつも逃げるのはあなたでしょうが!!」  
 原は、手近にあったスパナをひとつつかんで、腹の立つ男めがけて渾身の力をこめて  
投げつける。  
 それを、まるで背中に目でもついているかのように、あっさりと避ける善行。  
 そして。  
 飛んできたスパナをきっちり額で受け止める田辺。  
 遠坂の悲鳴が聞こえる。  
 ハンガーにいる整備士はおろか、パイロットたちの視線まで集中しているのを感じた原は、  
怒鳴った。  
「見てないで、さっさと仕事に戻る!」  
 あわてて仕事に戻る部下にため息をつきながら。原は思う。  
 一体、今さら、何の話があるというのだ。  
 
 02号機の損傷は深刻だった。修理などせずに、機体ごと廃棄した方が早かったかもしれない。  
だが、これから先の補給がどうなるかはわからない。だから、直せるものなら直す方がいいのだ。  
 頭部全損。右肩と肘の関節破損。そして、足回りが少しガタついている。という  
、控えめに見ても中破であった02号機が、わずか一日で復旧したのは、部下である  
整備士たちの懸命な働きのおかげだった。  
 これで、明日の出撃には三機の士魂号を出せる。  
 気が付けば、部下の中で最後まで残っていた森がハンガーを後にしてから、  
二時間以上が経過している。  
 時間は、午前一時を三十分ほど過ぎている。  
 そろそろ、切り上げないと。  
 整備班長の机に広がった各種書類を、手早くしまう。  
 そんな原の傍らに、歩み寄る男がいた。  
 机の天板を見ていた原の視界に入る、半ズボンとすね毛。  
 善行だ。  
 思わず、ため息が出る。  
「あら、いたの」  
「ええ。まあ」  
 メガネを指で押し上げてから。視線を、士魂号03号機に向ける。  
「自分の目で見れるところは、見ておきたいですからね」  
 言うだけあって、善行は機体の整備状況もよく把握していた。パイロットとしての  
仕事はもちろん、整備の仕事まで手伝って、機体の性能を限界まで引き出そうとしている。  
それは、原もよく知っていた。  
 だが。  
 それは、自分の仕事を信用していないからではないか。とも思うのだ。  
 それに、原の性格が加わって。その思いを伝える言葉は、かなり歪曲した、  
真意を捉えるのが難しいものになってしまう。  
「……不良整備であなたを殺そうなんて、思ってないわよ」  
「僕も、思ってませんよ」  
 さらりと言ってのける善行に、原の胸中はさらに複雑な感情で埋められていく。  
 
 このままではいけない。話題を変えないと。  
「それで。話って?」  
 善行の用件を済ませてしまえば、こんな会話を続ける必要もない。  
「石津さんは、大切な友人です」  
 いきなりだった。  
 原の心の中の微妙な部分に直接切り込むような勢いで、嫌な相手の名前を平然と出してくる。  
「ふーん……」  
 とりあえず、受け流すように答える原。  
「大陸で命を助けられた人の忘れ形見。と言うべき人なのでね。  
あまり、彼女を傷つけたくありません」  
 善行と石津の関係について、より詳しい情報を聞くのは、これが初めてだった。  
だが、その部分を深く掘り下げたいと思う前に、もっと違う感情が出てきてしまう。  
「あら、まあ。ずいぶんとお優しいのね」  
「僕はいつでも優しくありたいと思っていますからね」  
 原は思う。ああ、この男は、本当に。  
 嫌な男。  
 そんな嫌な男をにらみつけてみるのだが、善行はまったく気にしていない。  
それどころか、メガネを外して軽く拭くと、再びかけなおすという芸当までやってのけている。  
 ある意味、その行動は次の話に進むためのきっかけとも言えた。  
「本当は、こんなことを言うつもりはなかったんですが」  
 きれいに刈り上げた襟足のあたりを撫でてから。善行が、つぶやくように話しているのを、  
原はじっと聞いていた。  
「あの頃の僕の身の回りは、とても物騒でした。実際のところ、僕は何も知らなかったのですが、  
あちらは僕が鍵を握っていると信じていたのでね」  
 善行はちらりと上を見上げた後に、視線を再び原へと戻す。  
「僕と共にいれば、その人の命を失ってしまうかもしれなかった」  
「……それで?」  
 原の声は、怒っているのか、どこか乱暴な響きがある。  
「その人から、遠ざかりました。その人は関係ないんだと、向こうに知ってもらうためにね。  
最前線に飛ばされたのも、ある意味、その証明になったのだと思っています」  
 
 いつしか、原の視線は善行の足元あたりまで落ちていた。それに合わせて、  
顔も若下を向いているために、表情がわかりにくくなっている。  
「それから?」  
 言いたいことはほとんど言い終わっていた善行は、続きをうながず原の言葉に、  
ほんの一瞬だけ戸惑いを見せた。だが、表情をうまく隠すと、言葉を添える。  
「今でも、あれが一番よい方法だったと思っています」  
 その言葉を聞いた原の顔が、善行の方へと向きなおった。二つの瞳が、  
容赦ない視線を善行に浴びせる。  
「そうかしら?」  
 原の言葉は冷たい。  
「残された側の気持ちを、考えたことはあるの?」  
「例え恨まれたとしても、その人に生きていて欲しかったんですよ」  
「そう、でしょうね……」  
 原のその言葉は、善行の意見を認めるかのような響きだったが、軽く横に首を振る姿は、  
否定にしか見えない。  
 そう、原は善行のその意見に、賛同できなかったのだ。だから。思わず叫んだ。  
「でもね。私は、あの時、あなたに、『一緒に来い』って言って欲しかったのよ!」  
 原は、善行がそれまでまったく別の第三者について語っているように、その人と  
言い続けているのを半ば忘れて。それが自分たちのことであると明確にしながら反論する。  
「私の知らないどこかで死なれるくらいなら、私の目の前で死んでもらうか、  
あなたの目の前で死にたかったのよ!」  
 そこまで言い切って、自分の思いをまっすぐに善行にぶつける。  
 善行は、困ったように小さく笑うばかりだった。  
 原は、激昂して自分たちの事を話しているという演技を忘れかけたが、再び第三者を  
話題とする会話という仮面を被りなおして、善行に問う。  
「……今は、どうなの?」  
「え?」  
「その人のことを、どう思ってるの?」  
 結局、原が知りたいのはそこだった。  
 そして。  
 善行は、二人が再開した後も決して明かそうとしなかった思いを口にした。  
「今でも、僕の一番大切な人ですよ」  
 
「……ふーん」  
 原の声は「信用できない」と主張している。それを確認しようとする善行だったが。  
「……疑ってますか?」  
「別に……」  
 原の返事はそっけない。  
 だが、それは、原の中にある感情を隠したいだけだったようで。  
 徐々に、その気持ちを明確にしたいという衝動に襲われていく。  
 気がつけば、原はつぶやくような声で善行に命じていた。  
「証明、しなさいよ」  
「何をです?」  
「その人が、自分にとって一番大切な人だってことを」  
「さて。どうすれば、証明になりますかね?」  
 あくまでも、原に言わせようとしているように思える善行に対して、原はキレた。  
「自分で考えなさい!」  
「では……」  
 善行は、いきなり原を抱きしめた。  
 原は、抵抗することもなく、大人しく抱きしめられている。  
 あの頃よりも、男の胸板はたくましく、厚くなっていて。  
 あの頃よりも、色香を漂わせることができる女に育っていた。  
 しばらく、そのまま抱擁しあってから。  
 離れる。  
「……それだけ?」  
「まさか」  
 不満げな原のおとがいを左手で持ち上げて。善行は、目の前にあるつややかな唇に、  
自分のそれを重ねた。  
 新品少尉と、整備学校の学生だった頃に初めて交わしたような、ただ唇を重ねるだけの  
ソフトなキス。  
 重ねられた側は、それを拒まなかった。  
 長い時間、そっと唇を重ねあってから。離れる。  
「……それだけ?」  
 再び投げかけられる、挑戦的な視線を受け止めて。  
 善行は、舌をからめる深い口付けでそれに答えた。  
 
 原は、たかが口付けくらいで、気分がこんなにも高まっていることに驚いていた。  
 顎を上向かせるためにそえられた善行の左手は、いつの間にか右の胸を愛している。  
 まずはジャケット。続いてブラウス。ボタンやホックが愛撫のさなかにひとつひとつ  
外されていき、気が付くと、黒のあまり飾り立てていないブラが露出する。  
 
 それを見た善行は、「下着の趣味が少し変わったか?」と思った。あの頃は、  
もっと可愛らしい色とふりふりな飾りの下着を着けていたような。  
 口で言うだけではなく、好みもしっかりとしたおねーさんになった。ということか。  
それとも、あの頃と変わらず、必死に背伸びをしているのか。  
 ブラの上からの刺激にも飽きてきたので、ホックを外して緩めたりせずに、  
カップの中に無理矢理手のひらを押し入れる。  
 興奮してきたからか、しっとりと濡れつつある肌と、隆起して存在をはっきりと  
主張している突起に直接触れる。  
 自由にならぬ指先で、その突起を執拗にいじりまわす。  
 押したり、つまんだり、弾いたり。  
 それらの刺激が原の呼吸を徐々に荒くし、頬を朱に染めてゆく。  
「ん……」  
 時間は遅い。皆、とっくに帰宅しているはずだが、場所が場所だけに、  
誰が顔を出すかわからない。ゆえに。原は、声が出るのを必死にこらえているようだ。  
 善行は、左手を原の背中に回すと、ブラのホックを外して緩めた。  
 緩んだブラを上にずらして、露出した先端を迷わず口に含む。  
 乳飲み子のように激しく吸い上げたかと思うと、舌で先端を埋め込むように押し潰し、  
周囲をくるくると舐めたあと、舌先でノックするかのようにトントンとつつく。そして。  
 カリッ!  
 軽く噛む。  
「……あッ!」  
 それまでの刺激に、必死に耐えていた原も、その刺激には耐えられなかったようだ。  
 艶の増した声が自然に漏れる。  
 善行の右手はそれまで愛していた胸を口と舌に奪われて、腰のあたりに添えられていたのだが。  
新しい獲物を求めるように原の身体を探り、落ち着く先を探す。  
 右手は、原のキュロットスカートの中へと侵入した。内腿の側から。  
 
 太腿の付け根あたりをくすぐるようにゆっくり動いている善行の指先は、  
原の心をかき乱すのに十分な働きをしていた。  
 自分でも嫌になるくらい、欲してしまっている。  
 原は、自分で腰を少しずらすと、善行の指先が自分の恥ずかしい場所に触れるようにする。  
 善行は、それを待っていた。  
 ここぞとばかりに、ストッキングとパンティーの生地越しに、原の秘所全体を  
包み込むように指先をあてて、激しく振動させて刺激する。  
 原の両手は善行の頭を抱え込むような姿勢になっていて、自分の胸に善行の顔を  
押し付けている。  
 
 頃合だった。  
 善行は原を整備班長の事務机まで導くと、腕を組んでその上に頬を乗せるという、  
机に突っ伏して寝るような姿勢を取らせた。  
 顔と肩のあたりはそのままに。腰を高く突き出させ、足を肩幅程度に開かせると、  
無言のままキュロットスカートを脱がせてゆく。  
 ひどく煽情的な姿だった。  
 豊かな胸は重力に引かれて地面を目指しているし、黒のストッキングに包まれていていも  
白いとわかる足もたまらない。  
 
 善行は、原の下半身を包んでいる黒いストッキングを力任せに破ると、  
布地の少ない黒い下着をわきにどけて、露出した陰裂に指を這わせる。  
「んッ!」  
 胸の刺激に思わず声が漏れた原だったが、耐えようとする行為はまだ続いていた。  
 善行は、そんな原の乱れた声を久しぶりに聞きたいと思った。  
 右手で秘所包むように覆い全体に振動をあたえながら、中指で陰裂をかきわけ、  
奥の襞を目指す。  
「いや……そんな、にッ!」  
 割れ目から肉襞が顔を出す頃には、奥から染み出した愛の証が、ピンク色の襞と  
善行の指を濡らしていた。  
 愛液が漏れ出すと同時に、原の声も自然に近い形で漏れるようになってきた。  
「あ……あッ!」  
 相変わらず、いい声だった。  
 
 指を入り口から奥へと侵入させる。第二関節まで埋まった指を中で暴れさせて、  
原の内側にある敏感な場所をリズミカルに。だが、決して単調にはならないように  
注意して刺激する。  
「そ、れ……。だ……だ、め……ッ!」  
 中から押し上げるように刺激した途端に、原の悲鳴に近い懇願が飛び出した。  
「何がです?」  
 善行は刺激を止めずに問う。  
「それ、以上、されたら……も、もうッ!」  
 原は恐れていた。寂しさを紛らわせるために、たまには自分を慰めたりすることはあるが、  
ここまで容赦ない刺激を与えることはない。  
 だから。  
 それ以上されてしまうと。  
「もう?」  
 善行がそう問いながら、親指で陰核を押し込んだ瞬間。  
「あああああああッ!!!」  
 ひときわ高い声が喉の奥から漏れ出し、原の膝がかくんと落ちた。絶頂を迎えたのだ。  
 そのまま崩れ落ちそうになる原の身体を、善行は左手で支えると、再び同じ姿勢を取らせる。  
 原は、ふらつく足と腰で、なんとかその姿勢を維持している。  
 
 善行は、その姿をじっと見つめていた。そして、目の前にあるつややかに濡れたその部分に、  
舌を這わせる。  
「う、んッ……」  
 襞に隠れた蕾を露出させようと執拗に掻き分けながら、原の愛液でしっとり濡れた  
右の指先で、顔を出してきた蕾を挟むと、小刻みな振動を与える。  
 舌を入り口へと移動させて、奥から次々にあふれてくるその液を、音をたててすする。  
 尖らせた舌が原の奥を目指して侵入し、原の味と香りを楽しむ。  
 昔より、わずかに強くなったように感じる、女の香り。  
 それは心地のよい、いい香りだった。  
 
 貪るように喰らいつく善行の舌と口。それに右手が添えられて、左手は原の胸の先端を  
弄んでいる。原は、局部と胸から襲いくる直接的な刺激の他に、すすりたてる水気を含んだ音と、  
ほのかに漂う自分がメスであることを証明する香りとによって、悦楽以外の感情を知る  
余裕がなくなってきていた。  
 漏らすまいとしていた声は、より色気を増してあふれ出てくる。  
 我慢の限界だった。  
「ああ、ンッ! く……ふ、あ……ン!」  
 ハンガーの中に、原の喜びの声が響く。  
 声とともに押さえられていた感情が一気に爆発し、感じる意外のことができなくなっていた。  
脳は、何かを考えることを拒否し始める。  
 そんな原から離れた善行の手は、自分の半ズボンと下着を脱ぐために使われていた。  
 現れた凶暴なモノは、まだまだ若いと宣言するかのように、高く上を向いている。  
 原を愛しているうちに自分の準備も整っていた善行は、自分の分身を原のつややかに  
濡れた秘所へと導いた。先端から滴る液を原の愛液と混ぜるように擦り付けると、  
入り口に先端をあてがう。  
「……行きますよ」  
「ふ、え?」  
 原の返事をまったく聞かずに、善行は一番奥を目指して突き入れた。  
 腰をつかんで引き寄せ、根元まで強引に埋めようとするようなその動きに、それまで  
机に伏せていた原の身体がぴくんと跳ねて、背中が弓のようにしなる。  
 一番深いところに先端が届き、子宮腟部をそこからさらに内側に押し込もうと突かれて。  
「あ、あああッ!」  
 原の喉から、歓喜の声が絞り出される。  
 善行は、深くつながったまま原を覆うようにかぶさり、目の前にある黒髪を手で梳くと、  
その感触を楽しんだ。  
 
 そのまま、かなりの時間、一番深い状態でつながっていた。  
 原は、自分が限界まで押し広げられていることを喜び。  
 善行は、自分のものを優しく。ときに激しく包む感覚を楽しんでいた。  
 だが、楽しみ方は他にもある。  
 善行は、原に覆い被さった姿勢のまま、左手で原の左胸を。右手で結合部と陰核を  
もてあそびながら、徐々に動き始める。  
 原は、拘束されるような姿勢でありながらも、僅かに動かすことのできる腰で、  
善行の動きに応えた。  
 結合部からは粘着質で水分を多く含んだ音が、結合の度合いが変わるたびに響く。  
 始めはゆっくりだったその動きが、だんだん激しく、そして、複雑になっていく。  
 先端が奥を短い感覚で幾度も叩いたかと思えば、先端が入り口に触れている程度に  
なるまで一気に引き抜かれ、再び奥へと突き入れられる。  
 主導権は善行が握っているが、原は腰を動かして微調整することで、さらなる刺激を  
得ていた。  
 このあたりの呼吸は、昔取ったなんとやらで、互いをよく知っていなければ  
あわせられないものであった。  
 
 いつの間にか、善行は上半身を起こしていて、結合の角度に変化があった  
。刺激される場所が変わり、慣れつつあった感覚が再び研ぎ澄まされる。  
 最初の結合と比べれば、今は激しいと言って差し支えないほどの動きになっていた。  
ただ、単純なピストン運動にならないように、リズムと浅深に変化をつけることを忘れていない。  
 耐え切れぬほどの快楽に膝がガクガクと震えだし、深く結合していることと、  
善行が腰を支えていることで、かろうじてその姿勢を保つことができている。  
 突き上げるように動いていた善行は、再び原に被さるような体制を取った。  
 耳たぶを軽く噛み、背後から犯している愛すべき女の名を呼ぶ。  
「素子……」  
 背後から耳元で名前をささやかれて、原はある思いを強くした。  
 ああ、やっぱり。私はこの男が好きなんだ。  
 そう思った瞬間、貫かれている場所からの愉楽を超える喜びが襲ってくる。  
 原は、今日何度目かの絶頂を迎えていた。  
 再び意識がはっきりしてくると、耳元で聞こえる善行の息も荒くなっていることに気づく。  
行為も激しさを増していて、善行の絶頂も近そうだ。  
「素子……」  
 名前を呼びかけるのは同じだが、今度の意味はこれまでのものと違うことに、  
原は気づいている。だから、自分が欲しい場所を素直に伝える。  
「お、くに……。一番、奥に!」  
 原の願いに答えるかのように、善行は奥の奥へと突き入れて。そこで果てた。  
 
 中を押し上げている善行のモノが脈打つたびに、原の奥深くに白濁液が吐き出されていく。  
 男が、女を汚して自分のものにしたと思う瞬間で。  
 女が、男のすべてを受け入れたと思う瞬間でもあった。  
 どれほどの量が出たのか。その脈動は、驚くほど長く続いた。そして、その動きが  
収まった後も、善行は結合したまま引き抜こうとはしなかった。  
原も、そのままつながり続けることを選んだ。  
 善行は被さるように原の背中に自分の胸を重ねると、背後から原の髪に口付けをした。  
その唇を求めるように、原は首をひねり、ようやく触れ合うことができるようになった唇を、  
互いに貪る。  
 善行は、自分のモノが萎えかけた頃に、ようやく引き抜いた。  
 大きく口を開けた原の入り口から、液体よりは固体に近いほど濃い精液が、  
ゆっくりと太腿をつたい降りてくる。  
 原は、それをふらつく指ですくい取ると、それがたまらなく美味しいとでも  
言わんばかりにすすって飲み込むと、残さず舐め取った。  
 
「証明に、なりましたか?」  
「……何の?」  
 善行はため息をつく。  
「一番大切な人。という証明ですよ」  
「そうね……」  
 少し考えるような表情を作ったあとで。  
「まあ、合格ということにしてあげるわ」  
 そのとき原が見せた笑顔は、善行が士官候補生のときに見たそれと変わらない、  
純粋なものだった。  
 事務机から身体を離し、起き上がろうとする原だが、その足はしたたかに酔ったときと  
変わらぬくらい、おぼつかないもので。善行が抱きとめなかったら、床に倒れてしまいそうだった。  
「ああ、もう。誰かさんのおかげで、家まで歩いて帰れそうにないわ……」  
 互いの愛を再確認した男の胸元に寄り添いながら、顔を見上げる。  
「ストッキングもビリビリに破れちゃってるし。ね」  
 ストッキングが破れているどころか、太腿には善行が吐き出したモノがつたっている  
有様だ。あまり、他人には見せたくない姿と言える。  
「仕方ありませんね」  
 善行は笑うと、原の上半身とひざの裏をそれぞれすくいあげて、胸元に抱き寄せた。  
「責任はきちんと取りますよ」  
 いきなり、お姫様だっこで抱きかかえられて。  
 原は思う。  
 期待してもいいのかしら。今夜、寝る前に、あと一回くらいは。  
 
 翌日。  
 速水は廊下ですれ違った善行に声をかけた。心なしか、少々疲れているように見えたからだ。  
「やあ、千翼長。体調は大丈夫か?」  
「はい、司令。まあまあです」  
 じっと善行の姿を観察した速水は、善行の首筋にわずかに見える痕を見逃さなかった。  
「善行。ついてる」  
 速水が首筋に触れると、善行は速水が示した部分に指をあてて、指先を見た。  
「いや、それは口紅じゃないだろうから、拭いても落ちないと思うが」  
 いつになく照れる善行の姿を、速水は初めて見た。  
 そして、思い当たることをそのまま問う。  
「ということは、彼女の面倒は見てくれたのかな?」  
「はい。今後、少しは大人しくなるかと思います」  
 なるほど。首筋の跡は、その代償ということだ。彼が、彼女の所有物だという証明でもある。  
 この先、きっと、善行は苦労することだろう。  
 だが、まあ、彼の場合は自業自得だ。しかし、その自己犠牲については誉めても  
問題ないだろう。  
 だから。  
「ご苦労でした」  
 素直に誉める。  
「ありがとうございます」  
 善行は、それをそのまま受け取った。  
 
 別れる間際、速水はループを何週もしている立場から、善行にひとつだけアドバイスを  
送ることにした。  
 立ち去りかけた善行を呼び止める。  
「善行……」  
 真剣な眼差しで。  
「刺されるなよ」  
 言われた方は、少し困惑した表情を見せたが、すぐに真剣な表情で答えた。  
「……肝に銘じます」  
 
 肝に銘じたはずなのに。  
「本来の地位と責任に相応しい戦いをするために、本土に戻らなければ」などと呟いた  
善行は、それを聞いた原に刺されかけたらしい。  
 
 

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