「ようちゃん」
名前を呼ばれて振り向くと教室のドアに手を掛けてののみが立っていた。
既に日は落ち、月明かりだけがぼんやりと彼女の輪郭を浮かび上がらせていた。
自分の席で呆と時間を過ごしていた滝川はいささか慌てたように腰を浮かせた。
「あれ?師匠と帰ったんじゃなかったのか?」
「ううん」
人なつこい笑顔を見せてののみが近づいてくる。てててと誰よりも軽い足音を立てて、
踊るような足取りで。
滝川はその体重を感じさせない歩き方が好きだった。
いつも見とれているうちに傍を通り過ぎていった。
とおりすぎて他の男のところへ行ってしまった。
今も瀬戸口を待ってここに来たのだろう。
「あのね」
いつのまにかすぐそばまで来ていたののみが口を開いた。
「ようちゃん、さいきん元気ないの」
「そ、そうか?」
どぎまぎしながら目をそむけた。まさか落ち込んでいる原因を
当の本人に話すわけにいかない。
ののみと瀬戸口が恋人同士となってから2週間が経っていた。
その間ずっとあきらめようと努力してきたが全て無駄に終わっていた。
スカウトで男の道を追求しようと思ったとたん来須先輩がヨーコといちゃついているし
新井木とバカやって忘れようと思ったらいつのまにか若宮とくっついてるし
身の置き所がないのだ。
結局スカウトも辞めて無職のままだらだらと放課後を過ごすことになっていた。
その元凶がすぐ目の前で笑いながら続けた。
「たかちゃんもそう思うって。
だからね、ののみが元気にしてあげるといいよって」
滝川は瀬戸口の名前を聞いて走り去りたい気分になった。
自分はこんなところで何をしているのだろう。
「いや、俺もう帰るし」
努めて無表情にそう告げると足を踏み出そうとした。
「えいっ」
「うわ?」
片足を上げた瞬間、ののみが渾身の力を込めて滝川の下腹に体当たりをかました。
不意を衝かれ、バランスを失って後ろから椅子に倒れかかる。
先ほどまで座っていた椅子に再び腰かける形になった。
「東原、いったい」
なにを、と言いかけた唇が凍った。
自分の臍のずっと下で栗色の髪が揺れていた。
さらに下、ズボンの合わせ目に沿って何かが意思を持って蠕いていた。
前をなぞり、それを見つけると包み込むようにしてさすり上げる。
ののみは床に膝をつき、滝川の腿に脇をはさまれながら
上体を滝川の下腹に伏せていた。
股間をまさぐっているのはののみの右手だった。
「…う……」
悟った瞬間、触れられている場所に熱が集中していくのを自覚した。
手の中で急速に育っていく欲望を認めて少女が満足そうにふふと笑った。
「きもちいい?」
何も言えず、ただがくがくと頷いた。
小さな右手を布地の上で往復させられる感覚に酔っていると
左手が半ズボンの裾から侵入してきた。
「うあっ!ふ……はぁ…はぁ…」
さわさわと右の太ももをなであげて、下着のラインにそって指を動かされた。
薄い布地ごしに会陰の皮膚をくすぐりながら、片方の陰嚢をゆるく揉みあげる。
「うゎ、ちょ、それ…っ」
「ここ?」
宝物を見つけたようにののみの目が輝いた。
あえぐ彼の顔をうれしそうに見つめながらさらに手を動かした。
「う…そこ…あ、はっ…はぁ…」
やめさせようと思ってもうまく言葉が出ない。
声は空しく苦しい息と嬌声に変わってしまう。
それでも両手で机と椅子の背をつかみ、肘を突っ張って必死で耐えた。
ののみはズボンの上からくびれをとらえると、指で強く摩擦した。
同時に左手を下着の中に滑り込ませて直接刺激を加え始めた。
親指を後ろにのばして窄まりのふちをくすぐり、
残りの指で器用に陰嚢を揉みしだいた。
「くぁっ!あっ!ヤバいって!やめっ!」
「出ちゃうの?」
手の中でびくびくと痙攣する気配を感じて右手の動きが変わった。
亀頭の下部から陰茎の上三分の一を激しくしごいた。
くびれの上を何度も往復させて一息に追い上げる。
はずであった。
「痛っ!東原ソレ痛い!いててててて」
「えっ!?いたいの?」
ののみは股間を押さえて悶絶する滝川に目を丸くした。
(たかちゃんだったらこれでいっぱつなのに…)
顔に似合わないことを考えながらも冷静に次善策を練ろうとする。
「手でするといたいの?どうして?」
滝川はうう、とうなりながらこくこくとうなづいた。
しかしなぜ痛いのかは解っていても言えなかった。
かわがくっついててひっぱられるといたいのよー。だなんて。
一方ののみは別のことを考えていた。
手でするからいたいのよ。
ポンと手をたたくと、
「よし」
男らしく気合を入れ、両の拳をぐっと前に突き出し、また胸元に引き寄せた。
「やるぞー」のポーズである。
何が起こるのか呆然と見守る滝川に笑いかけ、
「ののみ、がんばるからね!」
高らかに宣言してズボンのチャックに手を掛けた。
チャックを下ろすのとベルトを外して抜き取るのを同時にやってのけ、
前を開いてトランクスを引き下ろすと
半立ちのモノがぶるんっと飛び出してきた。
少年の頬が紅く染まる。
元気よく立ち上がったソレは亀頭の半ばまで皮で隠れていた。
「…?」
ののみは見たことのない形状にとまどいながらも根元を握ってみる。
びくり、と震えて少し大きくなった。
「ちゃんとむかないとめーなのよ」
皮の上から奉仕しても気持ちよくないと
いつも瀬戸口に教えられたとおりに剥こうとした。
「ヒギィ!」
9歳児とはいえ、力いっぱい引き下ろされて急所を激痛が襲った。
情けない声をあげて再び滝川は白目を剥いた。
意識がだんだん遠くなる。
俺、何か悪い事したのか?
Hな雰囲気ってこんなひどいものなのか?
ののみを好きなのは、好きな娘とHな事をするのは、
こんな拷問みたいな痛みを伴うものなのか?
ひりつくような局所の痛みと絶望感で目の前がくらくらする。
「そうじゃないだろ?ののみ。ちゃんと教えたとおりにしないと」
不意に上から声が降ってきた。
驚いて見上げると長身の美青年が腰を曲げて見下ろしていた。
「師匠!」
「まーまーそのまま」
慌てて起き上がろうとした肩を押さえて瀬戸口は飄々と笑い
ののみに声を掛けた。
「少しづつ、ゆっくり、やさしく、だろ」
「はぁい」
ののみは素直に返事をして、根元に絡めた指を緩めた。
軽く下に引っ張りながら、先端に顔を近づけた。
「ん」
ぺろりと舌を出し、皮の端をねっとりと舐めた。
皮と肉の間に小さな舌を割り込ませるようにして少しづつ隙間を広げていく。
「うぁ…」
ぞくぞくと背すじをかけのぼる快感に、思わず声が出た。
彼女は荒く息をつく顔をちらりと眺めて舌の動きを速めた。
ちゅぷ、ちゅっ、ぴちゃっ…
痛くないようにたっぷりと唾液を絡めて舌が這い回る。
濡れた音が響くたびに、滝川の処女地が露わになっていく。
外気に触れる前に唾液にまみれ、温かい粘膜に犯される。
「ああっ…スゲェ…」
射精するほどの快感ではないが、恋しい少女が舌を出して自身に奉仕する様は
それだけで充分興奮させるものだった。
ののみが懸命に舌を使うと、滝川が体を震わせてそれに応える。
その様を見て、瀬戸口は嫉妬とも欲情ともつかない感情を覚えた。
ちゅくっ…
「んふぅっ」
先ほどまでとは異なる場所から水音が響き、ののみが苦しげに眉を寄せた。
舌の動きが鈍くなる。
瀬戸口がののみの後ろにかがみこみ、キュロットの裾から指を忍び込ませていた。
「ののみ、お漏らししちゃったのか?」
「ち、ちがうもん…」
すこし照れたような答えが返ってきた。
指をくちゅくちゅと動かしながらさらに問う。
「じゃあどうしてパンツが濡れてるのかな?」
パンツどころか既に潤み始めた肉襞をなでさすりながらの意地悪だ。
「お、おしっこじゃ、ないもん」
ののみは顔を真っ赤にして羞恥に耐えた。
「うん。どんどん出てくるからおしっこじゃないねえ。
…汚れるから脱ごうか」
平然と答えながらキュロットと下着を一緒に下ろした。
白くつるりとした尻が露わになった。
「やん」
尻肉を左右に広げてじっくりと観察する。
息を感じてののみが震えた。
「ほら、滝川が困ってるよ。まじめにやんなさい」
言われてお留守になっていた口を再び使い始めた。
「ののみ。滝川のくわえて気持ちいいのか?」
指を添えて奥まで開く。薄い肉付きのあいだが、湯気が出そうなほどに火照っていた。
「すごいな。ちょっと触っただけでこんなになってる」
ブラウスの下からもう一方の手を胸へと伸ばした。
まっ平らな胸で、薄紅の突起が既にぷっくりと持ち上がっていた。
指でぷりぷりと転がすとちいさなお尻がびくびくと震えた。
「いやらしいな。ののみは」
くく、と喉の奥で笑いながら揶揄する。
ののみは羞恥のあまりに涙ぐんだ。
二箇所を同時に責められ、恥ずかしいところを間近で見られている。
「んふっ…はぁ、ちゅっ…」
見られて興奮しているのか口元から吐息が漏れ始め、
それとともに行為が大胆さを増していった。
ちゅぷちゅぷっ、ぺちゃ、くちゅ
「はぁはぁ、っん…ようちゃん…いい…?」
ぬぷ…と唇全体で亀頭を覆い、吸い上げながら舌で舐めまわす。
唇で皮を押さえ、肉棒を引き出すように吸い上げながら
癒着した皮の境目を舌先でぐるぐるとなぞって引き剥がす。
剥かれる痛みは先ほどの比ではないが、吸われる感覚は
それを補って余りある快楽だ。
「ああ…イイよ…東原っ…」
快感を求めて腰が自然に動く。
口の中で滝川を味わいながら、ののみもまた感じていた。
口の中を熱で充たされ、下と胸をいじられてじんじんと脳髄が灼ける。
瀬戸口の指に擦り付けるように腰をくねらせると
そこが一際高い音で鳴く。
くちゅくちゅ…
「ぷぁっ、たか…ちゃん…はぁはぁ、あぅ…ふぅ…んむっ」
追い上げられながら必死で舌を使う。
二箇所から激しい水音が響いた。
「つぅ…」
ぷつり、と音がして滝川の亀頭が完全に露出した。
腰の動きに合わせてののみは懸命に口と手を使った。
既に根元まで涎でずぶ濡れの肉棒を、唇と両手でしごいた。
じゅぷっ、ぬちゅぬちゅっ、ふっ、ぺろぺろ…ちゅうっ…
「あ、も、俺…出るっ!」
「んぅっ」
どくんっ!びゅくっ、びゅく…
予想外に早く訪れた暴発にののみは顔を離すタイミングを誤り、
白濁の大半をその顔で受けることになった。
彼女はゆっくりと立ち上がり、手についた液体をぺろりと舐めた。
栗色の髪から長い睫から白い粘液が滴り落ちていく。
滝川は上気した顔で呆と眺めた。
「ご、ごめん」
慌ててスカーフを外し、顔の白濁を拭こうとした。
そのスカーフを取り上げ、瀬戸口がののみの顔をやさしくぬぐった。
「いっぱいでちゃったね」
まだぼんやりとした顔でののみがつぶやく。
「疲れたか?」
「ううん。ねぇ、たかちゃん…」
ののみは瀬戸口を見上げるともじもじと膝をこすり合わせた。
物足りないのだろう。
「どうした?」
やはり知りながら訊き返す。
「あのね…ののみね、もう……なの」
「ここで?」
恥ずかしそうにこっくりとうつむいた。
うなじが紅く染まっていた。
(かわいいなぁ。もう)
ついつい頬がゆるんでしまうが、もったいぶって承諾した。
「しょうがないなぁ」
少女の顔がぱぁっと明るくなる。喜びの内容はともかく、大輪の花が咲いたように
満面の笑顔だ。
「でも、滝川にも楽しんでもらえるようにしなくちゃな」
瀬戸口はそう言うと滝川と向かい合ったまま隣の席に腰をおろした。
「おいで」
「うん」
ののみはベルトに手を掛けると鮮やかな手つきで前を開いた。
充分に猛った瀬戸口自身が顔を出すと、うれしそうに唇を寄せた。
「今日はいい。それよりこっちにおいで」
愛撫を施そうとするののみを制止して、瀬戸口は彼女の体を抱き上げた。
くるりと反転させ、自分の腰の上に座らせた。
「たかちゃんの、もうおっきくなってるもんねぇ」
ののみは太ももに怒脹をはさんでうっとりとつぶやいた。
「ののみがかわいいからな。動けるか?」
彼女はこっくりと一つ頷くと後ろ手に恋人の制服をつかみ、
ゆっくりと腰を前に突き出した。
「んふう…」
ぬちゅ…
濡れた性器と乾いた性器がこすれて粘ついた音を立てた。
ぴったりと閉じた足の付け根から赤黒い亀頭がのぞいていたが、
動きに合わせて白い肉のあいだに埋もれていった。
先まで埋めて腰を引いていく。
ふたたび見えるようになった肉棒はてらてらと濡れ光っている。
根元まで往復し、また先へと粘液を塗りこめていく。
瀬戸口が濡れるにつれて水音も高まっていった。
「はぁはぁ…ぅん…っく…ふぅ」
瀬戸口の上で蠢くののみの姿に、滝川は瞬きすらできなかった。
射精したまま出しっぱなしの中心がふたたび角度を持ち始めた。
腰が抜けたような滝川の股間がけなげに頭をもたげるのを見て
瀬戸口は満足そうに唇をつり上げた。
両手を少女の膝にかける。
「やっ…」
可憐な抗議の声を無視して左右に力を加えていく。
「ホラ滝川。見えるか?」
「……」
目を見開いて滝川は言葉を失った。
瀬戸口の腰の上でののみが裸の下半身をさらしている。
足をMの形に開き、不安定な体勢を瀬戸口の体でささえながら
恥ずかしそうに横を向いて荒い息をついている。
白い肌にはさまれた秘裂は屹立した怒脹で覆われて見えないが、
うすい陰唇がねっとりと絡み付いている様は月の光でもよく見えた。
滝川はそこを見つめたまま椅子からずるずると床に落ちた。
床に這ったまま、右手を自身に伸ばす。
瀬戸口が膝を開くと誘われるままにそこに首を伸ばした。
「指は使うなよ。痛がるからな」
膝にかけた手を手前にずらし、幼い性器をかき分けながら瀬戸口がささやいた。
「やぁ……やめて…っ…」
指で開かれたそこに滝川の息がかかった。
反射的に逃げる腰をもう一方の手で下からつかまえて
耳元で残酷な恋人がささやいた。
「滝川に元気になってもらいたいんだろ?」
耳たぶを噛み、舐めまわしながら理性と判断力を奪ってゆく。
「んっ…くすぐったい…あ…あぅ…や…よう…ちゃん…」
瀬戸口の肉棒にからみついた陰唇を滝川の舌が舐めあげた。
尿とは趣を異にする酸味のある液体が鼻腔と舌から脳を侵していく。
これが、ののみの……
そう思った瞬間、滝川は夢中でそこにむしゃぶりついていた。
犬のように激しくなめまわしてののみを瀬戸口ごと唾液まみれにしていく。
「やぁ!…っはぁっ…ああっ…そんなに…やだ…っ」
ふるふると首を振って逃れようとするが、逆に背後の青年にいいように動かされた。
腰を強くつかまれ肉棒に沿って激しく前後させられる。
竿を濡れた入り口と未熟な肉襞がこすり上げ、大きく張ったエラを幼い肉芽がくすぐる。
指でぱっくりと開かされて最も敏感な粘膜が完全に露出した状態で。
さらに股間の少年がえぐるような舌使いでむさぼりつづけている。
「…っふ…う……くぅ…ん…」
激しい刺激にののみの奥が新たな蜜を分泌しはじめた。
滝川の唾液と混ざってぐちゅぐちゅと音を立てる。
「滝川の舌…っ…随分良さそうだな…」
自らも息を上げながら瀬戸口が問う。
「あっ…だってっ…んぅ……ようちゃんの…あっついの……べろ」
「俺のだって熱いだろ…?」
「んはぁ!やっ…たかちゃ…っ…はぁ、はっ…」
瀬戸口がいきなり動きを早めた。
がくがくと小さな体を揺さぶって頂上を目指す。
下では滝川が右手をせわしなく動かし、その先からこぼれた半透明の雫が
根元まで濡らしていた。
「やぁ、あ、あ、あぅ…たか…ちゃ……くふぅ…でちゃう…の」
「まだだ。…ッ…ののみ、は…?」
「…ののみ、んっ…や…あ…もう、ね……あっ…えと…」
白く小さい尻をくねらせながら少女は言葉を捜した。
「『いく』…だろ?…」
幼女の口に淫語を強要して瀬戸口はなおも激しく動いた。
「ほら…イけよ……ののみッ…」
「ああっ、い…いっちゃうよぅ…あ、あ、あぅ、いくよ、たかちゃ…っくぅ…」
「……ッ」
ぶるぶると体をふるわせてののみが達する。
ほぼ同時に瀬戸口が欲望を吐き出した。
「…んふぅ…はぁ…はぁ…」
「ん」
ぐったりと脱力した体を支え、唇を重ねる恋人たちの足元で、
滝川は自らつくった白濁の池の上で失神していた。
「ねえ、たかちゃん」
「ん?」
「このあとどうするの?」
床の溺死体と飛び散った体液を眺め回してののみがたずねた。
「ののみもうねむいなぁ」
「……………」
「…というわけだ」
「ご苦労様」
早朝。
小隊隊長室で瀬戸口は立ったまま報告を行っていた。
速水は司令のデスクに肘をついたまま前夜のいきさつを聞き、忠実な部下を労った。
「ののみちゃんも頑張ったね。寝てる?」
「ああ。今日は午前中いっぱい寝かせておくつもりだ」
「本当は二人ともお休みあげたいところなんだけどね、人手が足りなくって。ごめんね?
話聞いた感じだと今日からは滝川もちゃんと仕事するだろうし、
余裕できたら埋め合わせはするから」
「本当にあんなのでやる気出すのか?あいつが」
速水は頬をふくらませると猛然と反論を始めた。
「だっていいかげん現実見てもらわないと。滝川のくせにいつまでも彼女とか
Hな雰囲気とかヒーローとか夢見てる場合じゃないでしょ。
失恋くらいで2週間もサボられちゃ困るよ。全体の士気にもかかわるし。
今回のことで出てこなくなっても今よりはずっといい。そう思わない?
いつまでも2番機を空けておくわけにもいかないし。
…それとも」
若い司令はいったん言葉を切り、目を細めて瀬戸口を見上げた。
前髪と睫のむこうに青い光が明滅する。
「君が乗る?」
「滅相もない」
平然とおどけて答えたのは年の功というべきだろう。
ふーん、残念、という少年の声を背に瀬戸口は隊長室をあとにした。
(怖いねえ。かわいい顔して。バンビちゃんの面影もない)
そして芝村の末姫を思い浮かべた。
(女のためにあそこまで変わるもんなのか。以外に滝川も化けたりして
−−−ま、どうでもいいや)
小隊一女のためにしか行動しない男は軽い足取りで再び家路をたどりはじめた。
かわいい恋人の枕となるために。