ガンパレードマーチ  

アンバランス  

 5121小隊――熊本に拠点を置く学兵だけで構成された小隊に、ちょっとした名物があった。  
他から見れば旗にも描かれている猫、ブータが一応それなのだが――しかし、所属している者に言わせれば、  
まだ他にも有った――指令と副指令の口喧嘩がその内の一つだ。  
 皆は二人の喧嘩を口々に”まるで痴話喧嘩の様だ”、”離婚寸前の夫婦”等好き勝手言っていたが、  
本人達の耳に入れば報復が怖かったので、皆口に出さずに居た。(あのおしゃべりな荒井木でさえ口を  
噤むのだから。)  
 今日も今日とて口喧嘩の華が咲いていたのだが――今回はいつもと違う。  
 いつもは冷静な副指令が、何故か怒鳴り声を上げていたのだった。  

 
 

「ちょっと、善行!こっちは頭数足りてないって言うのに、何でそんな事するわけ!?」  
「何処だって足りていませんよ、”副指令”?」  
 小隊長室――で、指令官である善行忠孝は、副指令の原素子と火花を散らしていた。  
普段から水と油の関係だっただけに、火花はかなり派手だ。  
 ばん、と机を両手で叩き、熱くなっている原に対して、善行は冷静だった。冷静でなければ  
勤まらないと言う役職の故か。  
――そんな彼の冷めた所が、原は大嫌いだった。  
 善行の言葉で自分の役職名を強調されて、立場を弁えざるを得ない。気にくわない人物でも、  
一応彼は上官に当たるのだ。立場を超えた発言の訂正をする為、一度姿勢を正した。  
「はい、では”指令”…僭越ながら意見を言わせて頂きますが。」  
 ふー…と大きめの溜息をわざとらしく吐き、自分の怒りを最大限押さえて善行に凄む。善行の眉はそれでも  
一切動かなかった。  
「整備士が絶対的に足りません。こう、修理が多くては――パイロットを悪く言っている訳では無いのですが、  
これ以上うちの整備員を持って行かれると、機体の修理に支障が有ります。…技能を持ってない人間を此方に回されても、  
一から教育する時間が無駄です。」  
「…だからといって、パイロットの席を空けることは出来ません。」  
「はい…いいえ、それは分かっているつもりですが」  
 ズレ落ちた眼鏡を中指で上げてかけ直す善行――それが伊達眼鏡で有ることを彼女は知っていた。  
わざとらしい仕草に原の眉間がぴくりと反応した。  

「戦況が悪化しています。うちの兵が3月から一人も欠けていないのは奇跡に近いでしょう。  
――貴女には苦労をかけますが、命令です。それにこれは決定事項ですよ。」  
 原の直談判の原因は部下の配置換え――ヨーコが2号機に回る事が発端だった。  
 パイロットの技能以外持たない滝川に整備の技能を求めても無駄だと知っていたし、優秀なヨーコが  
抜ければ、今まで何とか付いてきていた整備が遅れがちになるのは目に見えていた。  
 しかし、組織に組み込まれた人間にとって、上の言うことは絶対。”命令”と言われれば口を挟む余地はない。  
「――了解、しました…」  
 何か言いたげだった原が、項垂れた。それでも怒りは相当だったのか、肩がわなわなと震えている。  
――彼女の、癖だった。  
 原はそのまま踵を返して小隊長室を出ていった――大きく音を立ててドアを閉めて。  
 そんな彼女の後ろ姿を見送って、善行は椅子に深く座り、溜息を吐く。  
「――変わってないですね、ああいうところは…」  
 それが可愛いと感じていたのは、もう随分と昔の事。仕事で本当に敵に回すと後が怖そうだと、善行は肩を竦めた。  
 彼女と自分は”旧知の仲”――それ以上の事は、小隊内では知られていない。善行は確かに彼女の事を良く知っていた。  
(今は、どうなのかは知りたいとも思わないが)  
 流れる様な黒い髪に、ころころ変わる表情。ささいな悪戯も愛しく感じたのは――彼女を裏切る前の話。  
 あの子猫の様だった彼女が、すっかり大人の女性に変わってしまった。この気持ちを例えるなら――娘を嫁にやる親は  
こういう気持ちになるのだろうか――などと訳の分からない事を思う。  
「何だって…昔の女と仕事しなければならないんでしょうかね…」  

 

 酷い男に裏切られた女は変わる物だなと、善行は苦笑いを浮かべた。  

 日も暮れて、気が付けば既に日付が変わっている。  
 やれやれと席から立ち上がり、バインダーと筆記用具を持って善行は小隊長室を出た。  
 そこで親子ほど身長差がある二人の影を見つける。闇の中であまりはっきりとは見えなかったが、  
いつものカップリングだと思えば容易に判った。  
 向こうも善行に気付いた様で、暗闇から声がかかる。  
「委員長、お先に失礼します。」  
「しまーす…。」  
 瀬戸口とののみからすれ違い様に手を上げて別れを告げられたので、善行はそれに応えた。  
 既に時間は深夜、生徒よりも児童というべき年齢のののみは、挨拶しながらも半分目が寝ている。同じオペレーター同士、  
一緒に仕事をしていたようだった。しかしののみの年齢も有るので、あまり戴けない話だと思いながら善行は眉を寄せた。  
多分この暗さなら見られる事もないだろう。  
「ご苦労様。――瀬戸口君、東原さんを頼みますよ。」  
「…はい。」  
 言われなくても分かっている、と言いたげな瀬戸口の返事だったが、別に善行は何も思わなかった。  
当たり前の事を言って規律を正すのは、委員長であり年長である自分の役目であったし、なにより嫌われ役であることを一番心得ていた。  
 口うるさい鬼指令と言われて居るのは知っている。それで傷つく程彼は幼くはなかった。  
「ああ、善行さん…俺らで最後でしたよ。皆帰ったみたいですけど。」  
 瀬戸口が思い出した様に、プレハブ校舎に向かう善行に呼びかけた。――珍しく気を遣ってくれているらしい。  
手に持っていた消灯確認の書類が挟まったバインダーを少し上げて、礼を言う。  
「ありがとう、でも一応回って来ますよ。――気を付けて。」  
 振り向けば、ののみは瀬戸口の背中にしがみついて寝息を立てていた。  

 

 瀬戸口の言うとおり、皆帰ったというのは本当の様だった。  
 教室も食堂兼調理室も、校舎の方には人影すら見えなかった。グラウンドで夜中まで走り込んでいる奇特な  
生徒は居なかったし、女子校の校舎内にも先生が残って事務作業の残務に追われているだけだった。生徒の姿は一人も見あたらない。  
 さて、残るは整備テント――明かりを付ければ半端ではない電力が要るので、極力節電を心がけている場所だ。  
 第一、士魂号の維持装置だけで馬鹿にならないほど電気を食うのだ。上の方からも予算を湯水のように遣うなと怒られたばかりなので、  
中間管理職に就く善行に言わせれば頭が痛い。  
 遠目に見て、人の気配は無い。しかし微かにぼんやりと見て取れる青い光が気になって、善行はテント入り口まで歩み寄った。  
非常灯かと思ったのだが、どうやら違うらしい。  
「…浮浪者?…いや、違うな…」  
 夜中は立入禁止になっている筈。うっかり入ろう物なら多目的結晶を感知するセンサーが働いて警報が鳴り、  
手が後ろに回るだろう。  
 善行はもしもの事態を考え、護身用の小さな銃を取り出した。弾を確認し、引き金に指を添える。  
 懐中電灯をテントに入る手前で消し、構えた。足音を極力立てないようにして中を伺い――簡易式蛍光灯の明かりに  
照らされた人物を確認した後、引き金から指を外した。  
 気が抜けて、善行は大きく溜息を吐く。  
「…誰?!」  
 見慣れた――否、”知っている”人物。  
 振り向いた彼女が、少し不機嫌そうな顔をしていたのに気付き、申し訳なさそうに善行は苦笑いを浮かべる。  
 そこには昼間散々言い合いをした整備主任――原が、まだ仕事をしていた。  
「すみません――私ですよ。」  
「…あら、善行。見回りかしら。」  

 素っ気ない態度の彼女――短い髪、冷たい流し目で此方を見る原に、善行は肩をすくめてずれた眼鏡をかけ直した。  
「そうですよ、残っているのは貴女だけのようですが。」  
「そう。――じゃ、さよなら。」  
 ひらひらと軍手を付けた手で善行に手を振る。  
「…まだ居残るつもりですか?」  
「悪い?」  
「悪くはないですけど、ね。ただ夜中ですし。貴女も女性ですから、危険か、と…」  
 ちゃき、と何の音かと思えば、原がどこかに仕込んでいたらしい拳銃を善行に向けていた。…目が本気だ。  
「あら、護身の方は完璧よ?いざとなったら士魂号に乗り込めば良いんだし。」  
 くすくすと笑う原の眉は、怒った時のそれ。  
 開発と整備をして居るんだから、使い方を知らない訳じゃないのよ…と言葉を続けるが、善行には  
笑えない洒落でしかなかった。  
 とにかく、夜も更けてこれ以上一人の作業は危険だ。整備員が二人位居れば考えたが、ここまで皆が一斉に帰ったのは珍しい。  
 夜中3時近いのだから当然と言えば当然かも知れない。そんな夜遅くまで作業をしている自分たちの方がおかしいのだから。  
「…あなたは帰らないの?」  
 原がまだ作業中だったのか、顔を此方に向けずに手を動かしながら聞いた。  
「そうですね…貴女が居るとなったら帰るわけには行きませんね。」  
「結構よ、私は大丈夫。だから構わず帰って頂戴。」  
 それでも彼女は作業を続ける。モンキーを回す手も手慣れた物だった。それよりも先の言葉を善行は  
頭の中で反芻した。  

 ”私は大丈夫”――これは、昔から原の口癖だった。軍の任務で多忙だった頃、恋人だった原の約束を良く反故にした。  
その詫びの電話を入れる度、無理に笑った声でこう言ったのだった。一体どういう顔をしてこの嘘を吐いていたのか、  
今となっては知る事は出来ない。  
「…で、何でまだ居るのよ。」  
 腕を組んで柱にもたれ、思わず見入っているらしい善行に原は冷たく言い放つ。  
「いや、仕事ぶりを見てみたいと思いましてね、委員長として。」  
「…見られると仕事し辛いんだけど?」  
「手伝いましょうか?」  
「それこそ結構よ。」  
 間髪入れない原の嫌味の応酬を、善行は何でもないように避ける。  
 本当に暇になってしまった善行は、彼女の邪魔をしない様に他の機体の性能表示をさせてみた。机の上に資料は有ったのだが、  
直に見た方が早い。  
 OSのメニューから性能表示用のソフトを起動させ、素早く士魂号と接続を果たす。程なくしてモニターに映し出された数値を見て、  
善行が目を少しだけ見開いた。  
「…おや…?」  
 整備主任の補正数値が、格段に上がっている。  
「ちょっと、何やってるのよ。」  
「…凄い…軒並み四桁に上がっていますね…」  
 素直に驚いた善行に、原はすこし意外だという表情をした。  
 軍の中ではベストを尽くすのが当たり前。次の機会にはそのベスト以上のベストを求められるのだ。  
当然、原はこの行為が褒められることはないと思っていた。それが当然になり、次にはもっと能力を上げろと  
言われるだろうと。  

 しかし――熱心にモニターを見る彼に、他意はなさそうだ。こんな男でも褒められて嬉しくない訳がない。  
「どうしたのですか?こんなに…」  
「そうね、何処の誰かさんが必要な人員を持って行っちゃったから、私が頑張らないと話にならないと思って。」  
 昼間の仕返しも兼ねての嫌味。  
「…賢明な事です。――ですが自分一人頑張るより、下の者も働かせた方が、効率が上がりますよ。」  
「……何が、言いたいわけ?」  
 軍手を脱ぎ簡易の流しで手を洗う原が、苛立たしげに善行に聞いた。手綱を緩めたかと思えば締める、彼の常套手段だ。知っているだけに余計腹が立つ。  
「いえ、知らなければ覚えさせれば良い話じゃないですか。――あ、昼間の話の続きですよ…貴女は整備班の者を取られるのが嫌だと言っていましたが、  
戦闘技能は一日二日で覚えられるような物じゃない。他の者でカバーできるのなら、出来ない部署に移って貰った方が良いと思うのですが。」  
「だからって、あなたね…」  
「思い通りにならないからと言って、癇癪起こしているようでは主任は務まりません。無論、いくら技術を持っていたとしても。」  
「嫌味を言いに来たの?それとも何なわけ!?説教しに来たの!?」  
 振り向き様、手を拭いたタオルを善行の方に投げつけた原は、息を荒くして怒りの表情を浮かべていた。  
クラスの者からは冷静だと言われてきた彼女だが、他の者が見れば意外だと思うだろう。  
 だがその顔は、不安で歪んでいたようにも見えた。  
「面倒なんて見られる物ですか!あの好奇心の強い子が、士魂号の事を知ればどうなると思う?――知れば知る程、 
身が危険になるのはあなたも知っているでしょう!?  
――触れてはいけないの、知識を持っている人間を増やすのは、それだけの人を危険に曝すことなのに!!」  
 滝川の性格は周知の事だった。危険だと知っていても進まずには居られない性格は、原が一番危険視していたのだった。  
車などの整備には向いているかも知れないが、殆どがブラックボックス化している生体兵器では命取りになる。  

 善行が口を動かし、何かを言おうとしていたがそれを原は待たなかった。声が大きいことを自覚して、溜息を吐いて言葉を続ける。  
「――この間、森さんが端末で調べ物をしていたの…不正アクセスまでしてね。…例の研究所のデータベースに繋がっていたわ。  
これがどういう事か、分かっているでしょう…?」  
 部下の暴走。――これは原の監督不十分だ。もし森を止められたとしても、秘密の一端を握る原に詰め寄ってくるだろう。  
原は士魂号の事を知っていても”生かされている”存在なのだから。  
 いつ消されるか知れない生活は、原にとって苦痛意外の何物でもなかった。しかし――善行はその吐露した原の感情を余所に、  
何故か落ち着き払っていた。  
「…随分…取り乱していますね。」  
 ――ぽつり、と。  
 善行が眼鏡を上げながら、呟いた。その呑気とも言える言葉に、原は更に逆上する。  
「取り乱しもするわよ!皆は勝手なことするし!ストレス溜まりまくりだし、誰かさんは人を馬鹿にするし!!ええ私の  
クールビューティーが聞いて呆れるわ!!全く、人工筋肉の研究チームが解体されたと思ったら次は子供のお守り?  
冗談じゃないわ…!それに、何で今になってあなたみたいな男と仕事しなくちゃいけない訳?!」  
 それはこっちの台詞だと、善行は思っただけで口には出さなかった。  
 一通り喚き散らし、どかりと主任専用のパイプ椅子に座る。  
 長い長い溜息を吐いて――原は顔を伏せてぼそぼそと呟いた。まるで先までの文句を口に出したのを後悔しているかの様に。  
「…ったく…あーあーこう言う時に優しくしてくれる人居ないかしらね、ホント…なんであなたなんかと一緒に  
居なきゃいけないのよ…」  
「…そう言う所は、昔と全然変わっていませんね…」  
「何が?」  
「感情の起伏。急上昇急降下…」  
 半目で睨まれた善行は、何故か原から殺気を感じ取った。  
「何、死にたい訳?」  
「滅相もございません。」  

 ははは、と乾いた笑いをしながら善行は両手を上に挙げる。ひとしきり笑った後、善行は笑みを消して歩み寄る。  
原の前に有る机にもたれて手を付いた。  
「…どうです、スッキリしました?」  
「…するわけ無いでしょう?あなたがのらりくらりと避けるから、余計溜まるわよ…嫌な男。」  
「結構ですよ。――まあ、優しくするのは無理でも、鬱憤晴らしに付き合う事位は私にも出来ますけど?」  
 善行の台詞の意味を理解するのに、原は数秒要した。雰囲気的に遊びに行こうと誘っている訳ではないらしい。  
それ以前にこの男からそんな提案が出るなど、西から日が昇ってもあり得ない。――だとしたら。  
 彼女はあきれた、と溜息をつく。  
「…もうちょっと気の利いた誘い方を知らないのかしら?それに随分女に飢えている様だけど?」  
「お恥ずかしい事で。…お互い終わった関係ですし、恋愛感情絡んでいないのならこれ位が丁度良いでしょう?」  
 呆れた原の瞳に、明らかに期待の色が浮かんだのを善行は見逃さなかった。それを理解して、自分が不利になる発言を繰り返す。  
 せめてこっちが悪役になってやらないと、と複雑な女性心理を利用する。  
「――私も鬱憤が溜まっている様でして。ここまで忙しいと…ね。」  
「最低。」  
「結構。…どうしますか?」  
「嫌よ。…何てね。」  
 ふふん、と鼻で笑った原は、自らの胸のリボンを解いた。続いて上着のファスナーも下ろす。  
「言って置くけど、ヨリを戻すつもり無いわ。――身体を貸すだけよ。」  
「それも結構。私もそのつもりですから。」  
 それを了承の意味と受け取って善行は原を抱き込み、彼女の着ているワイシャツのボタンを外しにかかった。  

 原の衣服を全て脱がして善行がまず驚いたのは、彼女が以前よりかなり良いプロポーションのになったと  
言うことだった。 数年前と見違える彼女の身体に、男として大変惜しいことをしたな、などと思ったりする。  
 成長した彼女の胸を、少々乱暴に揉み上げる。掌底で乳房を持ち上げ、空いた指先で色付いている先を弄れば  
徐々に硬くなっていった。  
「あ、ん…ふふ…」  
 机の上に腰をかけた原が、余裕の笑みさえ浮かべて善行の愛撫を受けていた。善行は先まで原が座っていた椅子に座り、  
一段低い位置から原を攻める。  
 ちろちろと舌を出した善行に乳頭をくすぐられて、原はくすくすと笑ってしまう。その声にも僅かに艶が  
混じり始めていた。  
「随分、楽しめるようになりましたね…」  
「お陰さまで、ね…ふぁ、んっ…」  
 こり、と乳首を潰して刺激を与える。彼女の背が僅かに跳ね、たぷんと豊かな乳房が波打つ。  
 お互いの行動に煽られて、徐々に自分の息が荒くなってきたのを、二人は自覚していた。  
 善行の胸から腹を往復する舌に背筋を震わせられながら、原は彼の制服のネクタイを器用に解いた。  
首筋や耳に移って愛撫する唇に刺激され、  
思うように動かなくなった指でワイシャツのボタンをぎこちなく外す。  
 現れた善行の暖かく逞しい肌に浮かんだ筋肉の筋を、原の冷たい指がなぞっていった。ひやりとした感触に、  
思わず身が跳ねた。  
「…っく…」  
「ふふふっ…感じるんだ?」  

 あくまで主導権は私に有ると――言わんばかりの彼女。まあ良いですけどね、と善行は胸中で  
呟いた――それも今だけだと知っていたからだ。  
 原を前から抱き締めて、項の辺りに舌を滑らせる。時々唇を当てながら、敏感な箇所を探す様にまさぐった  
。その間にも、彼女の手は彼の胸を彷徨い、撫でる。善行のすこし膨らんで硬くなった小さなしこりを  
見つけ、そこを指で挟む。すると予想通り低いうめき声が上がった。――楽しい。  
 やられっぱなしでは癪に触る、普段仕返しが出来ない分少しでもこの男に屈辱を与えたい――などと  
考えている原は、かなり甘かった。しかし彼女の悪戯が段々とエスカレートしていく。  
 善行の一切乱れていないズボンのファスナーを下ろして、硬くなりかけた熱を引きずり出す。  
流石にこれは善行も意表を突かれた様で、思わず前屈みになった。  
「…っあの、すみません…」  
 何かしら?と笑みで応えながらも、布の上から扱く原の動きは止まらない。やわやわと撫でて先端と  
付け根を往復する。  
 布に少しだけ湿り気を感じて、下着の間からわずかに顔を見せていたものを優しく取り出してやった。  
徐々に血液が一箇所に流れ込む感覚に翻弄されながらも、善行は原の鎖骨の辺りを愛撫していた。  
「こんなに触られると、誤解もしたくなりますね…」  
「勘違いしないでよ。…ああ、でも凄く硬い…。私とこんな事して、向こうに残してきた彼女、  
怒るんじゃなくて?」  
「…さて、どうでしょう?」  
 口の端を吊り上げた善行の表情の肝心な部分――瞳は、眼鏡に遮られて原からは見えなかった。  
一応善行のプライドを揺るがせる為の言葉だったが、これは少なからず言った本人にも影響はあった様だ。  
「…たまには、良いんじゃないですか…?」  
「…最低ね…。」  

「その、最低な男に抱かれているんですよ、今。」  
 そう言うや否や善行の舌が、原の耳の中に差し込まれた。ざり、という大きな音と共に、  
肌が粟立つ感触が走る。  
「ひっ!」  
 舌を尖らせて、耳の窪みを一つ一つ確かめるようになぞって行く。湿った音と交互に聞こえてくる  
雑音と吐息、小さな善行の息遣いさえ全て、原の鼓膜を振るわせる様だった。びくびく、と身体を  
振るわせる様は、悪戯で猫の耳に息を吹きかけた時と同じ反応。  
「あ、あん…っ!」  
「耳は相変わらず弱いみたいですね…」  
 ぼそぼそと囁く合間に、いつのまにか善行の指が原の濡れた個所をなぞっていた。慣れた指が湿り気を  
確認するように前後に往復する。一番熱を持った蜜壺を見つけてはそこに指を入り込ませた。  
 掻き混ぜ、抜き差しすれば今まで堪えていたのかと思う程、とろとろと愛液が溢れ出してくる。  
「ん、んん…はっ…」  
 中で指を折り曲げられて、ぐちゅ、と音が立つ。原は過剰に濡れた個所を弄られて、急に羞恥心がこみ上げてきた。  
「あ、ちょと…んぅ…っぅ…!」  
「何ですか?」  
 後退した善行が、原の茂みを口付ける。――それを目の当たりにして恥ずかしがらない者など居ない。  
すぐに顔を赤らめた原が割られた脚を閉じようとしたが、それは中に身を割り込ませていた善行に  
よって拒まれた。  
 くすくすと喉の奥で原の反応を笑いながらも、善行の行為は止まらない。まだ抜き差しを繰り返している  
個所を舌先でくすぐれば、彼女の腰が一瞬だけ浮いた。  
「ひゃ…っ」  

 指を使わず、器用に襞を剥いて行く。二つ並んだしこりを舌に感じ、そこを重点的に舐ってやれば、  
素直な甘ったるい喘ぎ声が上がる。徐々に赤く色付いて、しこりの硬さが増してくるのが分かった。  
「嬉しいですね、ここまで素直だと…。」  
 じゅるじゅると音を立てながら、性器を弄られる。自分の股に顔を埋めている男の姿が妙に生々しくて  
顔を逸らしたかったが、そうした所で状況はまったく変わらない。  
 胸の奥が徐々に疼いてくる――それだけではなく、腹部の奥底。そこが、熱い物を求めてじれったい  
痺れを体中に広げていく。  
「も、善行…良いわよ…」  
 押し殺した原の声を聞いた善行は口を離し、原の蜜でべとべとになった口元を拭った。微かに乱れた息をしながら。  
 今すぐに貫いても良かったが、少し彼女を焦らしてみたかった。それにまだ主導権は向こうに  
ある様で――それならば、奪うまで。  
「良いって…止めて良いって事ですか?」  
「…っ、何、を今さら…」  
「…………私も“鬱憤”が溜まっていると、言ったでしょう?さ、早く。」  
 ほら、と今だ机上に居た原の腕を引っ張り、引き起こす。怒張した善行自身が原の目に入り、  
彼が何を言おうとしたのかを悟った。  
 机から降り、膝を突いて立った原が思わず息を呑んだ。初めてではあるまいし、と緊張した自分を  
叱咤するが、間近で男性器を見るのは久しくてどきりとする。  
「…はん、む…ん、ん……」  
 一段と質量を増したそれを、おずおずと口に含む。独特な臭いが鼻に付いたが気にしていられない、  
ただ熱く猛々しいそれに舌を這わせて舐めあげる。  

 ざらりとした舌を絡めて、亀頭に浮かんだ雫を吸い上げた。喉の奥まで咥え込んでは引き出す、  
そんな動きを繰り返す内にじゅぶ、じゅぶと口腔が音を奏で始める。  
 善行は徐々に夢中になっていく彼女を見やる――伏せた睫が微かに震えていた。苦しそうに眉を寄せて、  
切なそうに寂しくなった身体を摺り寄せてくる。  
 プライドの高い彼女を知っているからこそ、この変貌に笑みを浮かべずには居れない。湧き上がってくる  
吐精の欲望に、彼は素直に従うことにした。  
「ちょっと、我慢してくださいね…」  
 視線だけ何事だと善行に向けた原が、瞠目した。後頭部を手で固定され、腰を打ち付けられたのだ。  
「ん、ぐぅっ、く、んぐううぅっ!」  
 彼女の苦痛など一つも気にせず、喉の奥まで押し込む。恐らく吐き気すら込み上げているだろうが、  
煽られる様な顔をされては仕方が無い。  
「はっ…ぅ…」  
 一瞬だけ歯に触れた刺激が引き金になり、善行は急いでそれを引き抜いた――それと同時に、  
原の目の前で善行のものが弾ける。  
「んっ…げほっ!ごほっ!…あぅ…あ、あ…くふ…っ」  

 息苦しさに咳をする彼女に構わず、まだ吐精している切っ先を顔に押し付けて塗り込める。  
原の顔がてらてらと光る白に汚れ、酸素不足の為に紅く上気していた。その雫を指にとって、無意識に口元に  
持っていって舐る彼女の目には、理性など残っていなかった。  
「…あ…ん、んむ…」  
 喉に絡まる厭らしい感触、それに連動して身体は余計に火照っていく。どうしても逆らえない物を、  
善行が持っている事を理解しながら。  
 立ち上がるように身体を引き上げられ、顔を合わせる。汚れた面など見られたくは無かったが、拒めるほど  
原に力は残っていない。  
 早く、何も考えられないようにして欲しい、それだけだった。  
 吐き出したばかりだというのに、彼の中心は熱をたたえたまま変わらず天を向いていた。それに手を這わせて、原は何も  
言わず泣きそうな瞳で善行に訴えた。  
「…分かりました、よ。」  
 なんて顔しているんだと、善行は優しく笑う。まだこんな表情が出来たのか、と。彼は原の身体を反転させる。  
「どうです――欲しいですか?」  
 原の足の付け根、しとどに濡れた襞の間を縫う様に、善行は先端を擦りつけた。ぴちぴちと叩かれ、それが赤く熟れたしこりを通過する度、  
たぎる熱に押し入られる想像が自然に浮かぶ。  
「ぅん…っ、ひど…」  

「欲しいって言えませんか?私はここでも十分出来ますけどね、貴女が嫌でしょう?」  
 僅かにに出来た襞と脚の隙間に杭を通して、擬似的に性交する方法は良く風俗で用いられる手段だ。それでも良いと、  
善行は勃ち上がっている熱とは裏腹に冷たく言い放つ。  
 満たされない欲求にもどかしく感じ、原は思わず腰をすり寄せて自ら善行を得ようとした。が、それを読んでいた彼は巧みに  
微妙な刺激を与えつつ逃げるだけ。  
「ぜんぎょ…ぅ…っ!」  
「言いなさい、たまには素直になったらどうです?」  
 先端だけを孔に軽くくわえさせ、引き抜く。ちゅぷ、という音が期待した原に肩すかしを喰らわせ、そこから切ない痺れが広がった。  
「…ほ、し…っ!」  
「ちゃんと、言って下さいね?」  
「ほ…ほしぃ…っ!い、挿れてぇっ――善行、おねがい…っ!」  
 原の押し殺すような、声。善行が口の端を吊り上げたのが、彼女には気配で分かった。  
「良く、出来ました…。“主任”?」  
「やぁあ…っ!」  
 策士は嫌いだと思いながらも、その嫌いな男に縋り付くしかできない自分を恥じる。だが、それ以前にどうしようもない欲とストレスと  
圧力が、彼へと続く逃げ道を作っていたのだから、――利用する他無い。差し出された手は、有効に利用しなければ。  
「あ、ん…」  
 机に原の上半身のみもたれさせ、腰だけを突き出させる。  

 動物のような交わり方――致す為だけの行為だと、善行の態度から思い知らされたような気がした。それでも良いと言ったのは  
自分自身だ、そう原は今更ながら後悔するが――もう止められない。火照った身体を、一人ではどうすることも出来ない。  
 善行の切っ先が原の孔を捉え、そのまま腰を押し進めた。とろける程潤ったそこがくぷんと空気を含みながら頭を  
飲み込み、ずるずると吸い込んでいく。  
「あ――――−あぁあ…っ!」  
 熱い塊が押し入ってくる感覚に原は拳を握りしめて衝撃に耐えた。また善行も、招き入れる動きをする原の中に背筋を震わせる。  
「動き、ますよ…?」  
 返事を聞くよりも早く、善行が微妙な加減で腰を打ち付ける。”知った”身体だからこそ、相手の理性を奪う方法を心得ていた。  
 真っ直ぐに貫いて最奥を突き上げ、時々角度を付けて壁を抉る――彼女の弱い箇所を細かく思い出しながら。  
「あんっ、ん、ん、ん、ん、ふあぁっ」  
 中を蹂躙される刺激と心地よさが、原の意識を飛ばして行為に集中させていた。支えになっている古臭い机が  
ぎしぎしと動く度に小気味良く軋み、濡れた卑猥な音の合間に響く。  
 突っ張っている彼女の片脚を担ぎ、その手で動きに合わせて揺れていた胸を揉みしだく。アンバランスになった身体を必死に  
支えようと、脚に力を入れたお陰で無意識に膣が収縮した。  
 痛みすら感じるその感触に善行は息を詰めながらも笑みを浮かべた。  
「っく…ふふ、ちゃんと支えなきゃダメですよ?」  
 硬くなった原の乳首をからかうように摘み、転がせば中が蠢く。豊かな膨らみを掌でこね回し、  
女性特有の柔らかさを堪能した。  

「あくぅっ!」  
 顎を逸らして声を上げた拍子に、だらしなく開かれた原の口からとろりと唾液が垂れて置いてあった図面を汚した。  
瞳は正気の光を無くして居て、こんな欲に染まった彼女を見るのは初めてだと、善行は目を細めた。  
――自ら、染まったのか。  
 何かを忘れるように――ストレスが溜まっていると言っていた。上官である彼女は愚痴をこぼされる事は有っても、  
こぼす相手は居ないと見える。ついでに嫌われ役でもある…善行も同じ事だった。  
 それが自分の仕事だと言い聞かせ、慣れたが――本質がまるっきり子供の彼女に、果たしてそれが勤まるのだろうか?  
整備主任として整備班を纏めてきた彼女の力量は認めるが、しかし――  
「ふぁあああっ…そこ、ぉ…っ!」  
 甘えるような彼女の声で、善行は意識を元に戻す。たまらない、という表情で繋がっている場所に近い己の性感帯を弄っていた。  
「ああ、もうこの人は…」  
 しょうがない娘だ、と言いながら善行は指を原の口腔に差し入れた。濃くなった唾液が善行の指に絡まり、また原の舌が彼の指を追う。  
先の様に性器を舐られている気分になり、ぞくぞくと善行の背筋を期待で震わせた。  
「ん、んん、ふ…」  
 吸い上げ、舌を筒の様に丸めて指を包み込む。ちゅっちゅっと音まで立てて自分の行為に酔っている様だ。  
 引き抜こうとすれば吸い付いてくる口腔に名残惜しいと思いながらも、善行は濡れた指を双丘の間に位置する――窄まり  
に擦りつけ、くすぐった。  

「きゃ…っ!」  
――そこは、善行以外に触れられた事の無い場所。  
 きゅうと締まったそこを悪戯された記憶が蘇り、ひくんと腰が跳ねる。  
「あ――−やぁああ…」  
 先まで求めていた原の口から、初めて拒絶の声が漏れた。  
「嫌じゃ無いでしょう?ここ、好きでしたよね?」  
「い、嫌…」  
「他の人は、あまり弄らないでしょうからね…ここ、寂しかったんじゃないですか?  
ああ、協力してくれないと裂けますよ…?」  
 指を徐々に差し入れる――初めての様な締め付けは無い――性的刺激で蕾が緩まったらしい。  
 後ろでも快感を得られる事を原に教えたのは、善行だった。  
 彼と別れて他の男と付き合ってきたが、善行の言うとおり後ろを弄る男は居なかった。  
 そこを刺激されないと物足りないと気付いたのは、善行の次に付き合った恋人との夜――何て男だったんだ、  
と心の中で憤慨したのは言うまでもない。  
 しかし知ってしまった以上、忘れる事は出来ない。タブーを破ればそれなりの見返りが帰ってくる。だから、  
侵さずには居られない。  
 昔の癖がまだ残っていたらしく、身体は自然に善行の指を受け入れていく。  
「ぅううっん…はあぁあ…ぁ…」  
 息を吐き、落ち着いて招き入れた。裂けるのは本当に怖かったし、久しぶりに感じる刺激に期待が膨らんだからだ。  

 しかし、昔の様にすんなり快感を覚えることが出来ない。十分濡らしたというのに、ひきつった痛みが走った。  
「ひっ!いた…っ!!はぅっ!」  
 しかし善行の指は止まらない。律動に合わせ指を曲げる動きをすれば、陸に上がった魚の様に背を跳ねさせ、  
過剰に反応する。急激に痛みが快感に変わり、戸惑う間もなく翻弄された。  
「ふあぁああっ!あんっ!あ、あふっ!ひぁあ!」  
「痛く、ないですよ、ね…っ?」  
 こっちは痛い位ですけど、と早口で呟きながら腰を押し進める。前後から攻められて、過ぎた快感がよがり声より  
悲鳴に近い声を上げさせ、彼女の絶頂を誘った。  
 その絶頂に便乗して、ぞわぞわと下半身に何かがこみ上げて来て、肌が粟立つ。  
「や、ぁああっ!ひぃっ!やめ、てっ…!」  
「何故です?っ良く、ありませんか?こんなに気持ちよさそうなのに…」  
 ほら、と善行は脚を支えていた手を股に回し、赤く腫れて濡れた尖りを指で弾く。ぴち、と愛液ではない何か――水が跳ねた。  
「おや…?」  
「ひゃんっ!あぁ、あっ!〜っも、もれ、そうなのぉっ!だから、やめてぇっ!!」  
 羞恥も何も有った物ではない。しかし別れた男の前で粗相をするよりは良い。だが完全に原虐めに酔っている善行が  
耳を貸す訳がなかった。  

「…何が?」  
「いじわる…っ!!」  
 急に理性を復活させて、尿意を無理矢理押さえ込んだ――そう、ここは水気厳禁の整備テントだ。水に濡れると  
故障する恐れのある精密機械が所狭しと並んでいる為、主任である彼女は飲み物の持ち込みを全面禁止にしていたのだった。  
――ここで漏らせば、どうなるか。  
 解放してしまいたい、しかし大切な機材が壊れてしまう。  
「おねがい、そこ、いじらないでぇっ…!」  
 尿口を摘まれて引き延ばす善行の手を退けようと必死に抵抗するが、女の力ではどうにもならない。  
危うく雫をこぼしてしまい、それから唇を噛んで必死に耐えた。――じわり、と広がる熱。  
「仕方無いですね…」  
 原の直腸を嬲っていた指が抜かれた刹那、脚が空を切り身体が浮かんだ。  
「ひぁ……!」  
「よっと…」  
 反対の脚にも腕を回し、善行は原の身体を抱えた。  
 指令という頭脳労働者の善行だが、一応筋肉は申し訳程度に――と言っても海兵学校を出ているのだから  
かなりの物だが――鍛えられていた。彼女の身体を持ち上げるなど造作もない。  
 抉られる角度が変わり、新たな刺激が原を襲う。また雫がぴたんと跳ねた。 近くに有った椅子に座り、  
膝の上に原を載せた形で、やれやれという風の善行が荒い息を押さえながら原に囁く。  
「…見えますか、そこ。」  
 視線の先には、比較的近い場所に箒やバケツ――掃除用具置き場が有った。ロッカーを買う金が惜しいと、  
むき出しになって置かれている。  

「や…何…っ?」  
「催して居るんでしょう?ほら…」  
 格好を例えるなら、幼児に用を足させる体勢だった。原の膝の裏を掴み、大きく開脚させれば日の当たらない  
白い股が見えた。それだけではなく、怒張した善行をくわえている原自身と、真っ赤になって綻んでいる襞。――濡れそぼって  
熟れた角が、その間から見え隠れしていた。  
 善行は手を差し出し、襞を剥いでぴんと硬くなった角を指で摘んで弄る。  
「くぁあぁ…っ!」  
 直に性感帯を刺激され、原は己の掌に爪を立てた。駄目だと唇を噛んで耐え、頭を狂ったように振る。  
「〜〜善行っ!…あなた、何考えて…っ!?」  
「バケツの中なら、大丈夫でしょう。」  
 何を言い出すかと思えば、と原は唖然とする。が、そんな暇を与える程今の善行は紳士ではなかった。  
 こりこりと人差し指と親指の腹でそれを摘み、転がす。少し引っ張ったりしたと思えば、空いた手の方で付け根を刺激したり、  
休み無く原に刺激を与え続けた。  
 噛み切ってしまうのでは無いかと思うほど、唇をきつく噛んで耐える原。  
「きゃぁ、ああっ!!…だめ、っおねがいやめて!それだけ、はっ!」  
「我慢は良くないですよ、出して、しまいなさい?――ああ、私も…」  
 その言葉の後は、もう何が何だか分からない位の刺激が原を襲った。急に善行が腰の動きを再開させて、原の中を抉り、貫いたのだ。  
「ああっ、きゃ、あふぁ、あく、ぁああっ!やぁ、んっ!」  
「今なら…中、良かったですよね?」  
 今の原に、言葉の意味を理解しろと言う方がおかしい。善行はそれを知りつつ、絶頂の瞬間を原の泣きそうな顔を見ながら待った。  

 膣が一瞬だけ痙攣し、善行の敏感な先が締め付け擦られる。  
「いやぁ、ああ…っあ――――――――っ!」  
 ぐい、と外から膀胱を刺激され、とうとう堰が切れてしまったのと同時だった。  
善行の白い飛沫が体内に流し込まれ、満ちていく。  
 ドクドクッと奥に当たる熱い精液が心地良く感じられた。  
「あ…あぁ…」  
「ふ…」  
 しょぁあああ…と、聞きたくなくても聞こえてくる恥ずかしい音。  
 絶頂を迎えて脱力した原に、我慢も何もなかった。すぐ近くに有ったブリキのバケツから、鉄と水が  
当たる特有の音がやけに大きく響いてくる。小水が放物線を描き、中で今だ吐き出される善行の物と同じタイミングで量が変化していた。  
「なかなか、止まりませんね…」  
 余程我慢していたのかと呟きながら、原の潤びてぐったりした脚を善行は抱え直す。彼女は抵抗せず、己のそれを不思議そうに眺めていた。  
押さえ込んでいた涙までぽろぽろと流しながら。  
「ぅ…んん…」  
 やってしまった、という思いより――解放して得た快感の方が強かった。まさかこの年になって、他人の前で粗相を見せてしまうと思っても  
見なかったが。味わった事のない、脚のつま先まで痺れて抜けていくような感覚に、原はうっとりと目を細める。  
「ん、ふ…」  
 やがてそれが消え失せ、小水と精液の匂いが辺りに立ちこめた頃――ようやく身体を離した。ちゅぽんと厭らしい音を立てて  
抜けた善行と原の間に、細い糸が名残惜しげに引いていた。  
「――は…あ…」  

「すみませんでしたね…立てますか?」  
「…な、何よ…」  
 何事も無かったかの様に、善行はくつろげていたズボンを直して原に手を差し出した。もう既に醒めてしまった瞳で。  
 訝しげに覗き見た原が、あ、と小さく声を上げる。先まで散々弄られた場所から、とろとろと  
白い液体が逆流を始めたのだ。軽く空気まで含んだ音を立てて。  
「洗わないと、いくら大丈夫でもデキますよ。…今すぐ、シャワーに行きましょう。」  
「あんなコト、しておいて…立てないわよ、バカっ!」  
「……背負います。」  
 善行は原に背を向けると、素直に原が乗ってきた。いつになく素直な原に少々不気味に思いながらも、  
善行は立ち上がって仮設シャワールームへと急ぐ。  
 こういう設備が出来るのは衛生士の仕事の賜物だと、部下への賞賛も忘れない。  
「…本当に、動けない…」  
 半身半裸の彼女の姿を見られまいと走る善行に、原はぼそりと背後で呟き、拳を作って軽く背中を叩く。彼女がぐずぐずと  
鼻を鳴らしているのが分かった――。  
「どうしましょう?私は貴女が汚した所を片づけたいと思っていたんですけど?」  
 べしっ!と派手な音を立てて善行の頭が右に傾く。  
「…痛い…」  
「私、本当に動けないけど手は貴方の殴る為だけに動く様ね…私の身体、貴方が洗って頂戴?隅から隅まで、  
ね…今度は貴方が言うこと聞く番よ?分かってるわね?当然後始末もしてよ?」  
 底冷えする、声。これで彼女は部下を怖がらせていたのを知っている。  
 しかしこれが怖いとも思わない善行は、彼女のワガママを笑って流した。勿論、要求通り身体を洗ってやり、  
整備テントの後始末もしたが。  

 

 その時、シャワールームでちゃんと”可愛がって”あげたのは言うまでもない。  
 男善行、少々変でも案外マメな男であった。  

 
 

「え――オレと、ですか?」  
「貴方以外に誰が居るって言うのよ。」  
 放課後、校舎外れで滝川を捕まえた原は、彼にはんなり笑って見せた。  
「貴方は整備班に組み込まれたのよ?だから早く整備の技能覚えて貰わないと困るの。」  
「はぁ…」  
 分かったような、分からないような返事。滝川は原が自分を快く思っていないと知っていただけに、原から話しかけられるとは  
思っていなかった。逆に怖いイメージを持っていたので、それをたった今打ち砕かれて呆然としている。  
「昨日、私が休んじゃって一日無駄になったわね…良いからいらっしゃい。一緒に訓練しましょう?私も教えてあげるから。」  
 不都合な知識意外は、と心の中で付け足す。  
「は、はいっ!!」  
「240秒で準備、急ぎなさい。整備テント2階で待っているわ。」  
 一つ頭をさげ、走り去っていく滝川を見送り、原は溜息を吐いた。これで良いのだと思いながら。  
 とにかく、無謀に近い調査をしている森を思い留まらせる事も出来て、原としてはとりあえずほっとできた。  
滝川も士魂号については余計な事を掴ませなければ興味を持たないだろうし、第一そこまで高度な知識を覚えられるとは  
思えなかった。此方で情報操作すればいいだけの話だ。  
 ただ、その冷静な行動が出来たのもあの男のおかげだと考えたくは無かったが。  
 噂をすれば――という奴である。じゃり、と校庭の砂が靴底に擦れる音を聞いて、背後に気配を感じ取った原は、  
振り向いて極上の笑みを浮かべた。  

「指令。お疲れさまです。」  
 一応、原の嫌味たっぷりの攻撃だ。次に善行も似たような笑みを浮かべた。  
「ええ、一昨日はどうも。何か良い事でも?」  
「………………………………………おかげさまで、昨日は良く休めました。」  
「そうですか、それは良かった。…今後も貴女さえ宜しければ、相談に乗りますよ。」  
「うふふふふ面白い人…考えて置きますわ、今後のためにも…」  
「はっはっはっは…」  
 原の眉が吊り上がった。善行は変化無し。  
 黒い空気が立ちこめる。それを遠巻きに見ていた整備班の者達が、呟いた。  

 
 

「なんであの二人、あそこまで仲悪いかな…」  
「本当に水と油ですね…」  
「でも…」  
「…さ、仕事するぜ。あんなのに雷落とされちゃたまらねーからな。」  
「でもっ…」  
「全くその通りだ。」  

「でもでも、喧嘩するほどお二人の仲がいいって…あの、聞いてます?」  

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