我が唇から「ああッ」と、情け無い声が漏れ出た。
何たる不覚。私は、慌てて口を閉ざしたが――時、すでに遅し。
教壇に立った芳野が私の声を聞きつけ、チョークを置いて振り返った。
「どうかしましたか。芝村さん?」
芳野はそう問うて来るが、我が舌先は痺れ、とても言葉を返す所では無い。
体が、火照って堪らぬ。椅子に腰掛けているというに、頭がくらくらして倒れそうだ。
「芝村さん?」
返事が無いのをいぶかしんでか、芳野が教壇から降りてきた。――昼下がりの教室、
心地よさそうに居眠りする他の生徒には目もくれず、真っ直ぐに我が席の方に迫って来る。
く、来るで無いっ! 私は、声にならぬ声で叫んだ。
近付いて見られたら、きっと見咎められてしまうだろう。
我が瞳が泪で潤んで居る事も、肩が小刻みに震えて居る事も、膝がはしたなく広げられ
て居る事も……。
そして、スカートの中の我が秘部を這い回る此の『ばいぶれぇーたぁー』とか申す機器ま
でも、見られてしまうに違い無い。
芝村たる者がそんな姿を晒して、如何して生きていられよう。
……来るで無い……頼む……向うに行って呉れ……。
心臓が早鐘のように高鳴る中、私は、口だけを空しく動かし続けた。
すると――芳野の足が不意に止まった。
我が叫びが通じたのでは無かった。我が席の一つ前に座った男子が、彼女を呼び止めたのだ。
「先生、さっきの筆者の心理の解説なんですが。……よく理解できなかったんですけど」
教師タイプのクローンの思考回路は悲しいほどに単純だ。
「まぁ、ごめんなさい。それじゃ、もうちょっと詳しく説明するわね」
芳野は、其の場でくるりと踵を返すと、教壇の方へ真っ直ぐ戻って行った。
――如何やら助かった様である。私は『ほうっ』と胸を撫で下ろした。
「なにやってんだよ、舞」
その声に顔を上げると、前の席の男が振り返って此方を見ていた。
「冷や汗かいちゃったじゃないか」
なっ、何を言う! 元々は貴様のせいではないか!!
怒声の代わりに私はジロリと睨みつけたが、男の口元に浮かんだ笑みは消え無い。
それどころか、
「罰としてもう一段階、強度アップだよ」
と言って、我がスカートの中に手を差し入れて来た。
やっ、止めて呉れ。これ以上、されては気が狂ってしまう。
私は泣き喚く赤子の様に首を振った。
しかし、そんな哀願が通じるほど、その男は甘く無い。
「今度は声、出しちゃダメだからね」
男の言葉と同時に、腰の奥に蕩けるような快感が沸き起こった。
腰が震える。膝がうねる。私の中で何かがぷつりと切れそうになる。
私は、死ぬ想いで唇を噛み締めた。だが――その端から、また、情け無い声が漏れ始める。
「……ああッ……」