「いやああぁぁぁぁぁ!!」  
「横島さん・愛して・ます。」  
また間違えてホレ薬をぶっかけてしまったマリアから逃げる横島。  
手持ちの文殊は後一個。  
炎か!? 氷か!? いやいや、この機械娘はどちらも平然と突破しそうだ。  
そうなると、上半身と下半身が今生の別れになるのは必然。  
どうする横島!どうする!  
 
その時、横島の頭に雷光のようにひとつのひらめきが走った。  
文殊に力を込め、マリアに投げつける。  
しかし、マリアは止まらない。  
果たして、マリアに追いつかれる横島。  
マリアの腕が横島を捕らえ、ぐっと力を込める。  
ああさようなら横島、君のことは忘れない!  
 
しかしそこには、砕け散る骨の音も、飛び散る肉片も、噴水のように吹き上げる鮮血も見当たらない。  
そんなバカな!ありえない!  
……よく見ると、マリアの服の間に、横島が先ほど投げた文殊が挟まっている。  
そこに浮かぶ文字は……『人』。  
なんと、横島は文殊の力でマリアを人間に変えたのであった。  
さすが、こういう裏技的使い方だけは上手いやつである。  
 
「ふはははははっ!! もはや100万馬力の科学の子ではなくなった貴様など、  
ただのキレーなねーちゃんにすぎんのだっ!」  
正確には、魔法と科学の子であるのだが。  
しかし、自分の体に起こった変化に動じもせず、背中に手を回したまま、マリアはただ横島の瞳を見つめ続ける。  
「横島さん、愛してます。」  
「やかましい! 命の危険がなくなったと分かれば、もう貴様なんぞに用はな…い……?」  
 
はたと、横島は今の自分の状況はとんでもなくオイシイのではないか?と気付いた。  
俺を愛してるといっているキレーなねーちゃん……マリア。  
しかも、今はあの大量破壊兵器のごとき鉄女ではなく、やわらかい生身の女である。  
なんとなく、こちらからもぎゅっ、と抱き返してみる。  
「横島さん…。マリア、うれしいです……」  
そういって、ほのかにほほを火照らせ、潤んだ瞳で横島を見上げてきた。  
その瞬間、横島の眼が無抵抗の獲物を見つけたタカのように変わる。  
「マリア……。これから、ホテルでもどうだい?」  
まるで余裕を持った40代のダンディなオジ様のような口調でマリアにささやく。  
さっきまで、涙と鼻水と涎を垂れ流しながら全力疾走していた人間とは思えないほどの変わり身の速さだ。  
「はい。マリア、横島さんの行きたい所にはどこへでも付いて行きます。」  
 
横島の、声にならない喜びの声が深夜の街に響き渡る。  
 
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