不思議なもんだなぁ、と横島は手に持った角を見てそう感想を漏らした。  
角状態なのに絶句するのが分かる。  
顔色も見えないのになんで分かるんだろう?  
小竜姫から瞬間、言葉を奪った張本人の一人でありながら  
横島は愚にもつかない事を考えていた。  
 
『な、な、何を考えているんです!?』  
「何って、さっさと用件を済ませようと思ってるよ」  
『じゃ、じゃあ、その格好は何なんです!?』  
 
随分待たせてようやく迎えに来たと思ったら  
横島はサングラスをかけて漢服を着ているし  
メドーサにいたっては黒ベースに白いフリルの付いたミニスカドレス、  
つまりゴスロリ服で現れたのである。  
小竜姫が怒るのも無理は無い。  
鬼門が本当に観光に行ってしまった事も一役買っているかもしれないが。  
 
「変かい?ちょっとあたしも派手かなとは思ったんだけどねぇ。  
 ダーリンが似合うって言ってくれるもんだから」  
「いや、実際凄く可愛いぞ」  
「やだ、照れるじゃないか」  
 
会話を聞いているとただの馬鹿なカップルだが実際に二人とも似合ってはいる。  
化粧なんかしなくても派手な美人のメドーサは髪型も変えずに  
黒に白フリルなんて衣装を支配下に置いているし  
漢服を着た横島はいかにも胡散臭い。   
 
『そ、そんな格好でどういう風に情報を集めるっていうんです!?』  
「あ、それならもういいんですよ」  
 
怒りの余り三分間だけの実体化を突っ込みに使おうとした小竜姫を  
横島がのほほんと押し留める。  
 
「そうそう、言うの忘れてたけど昨日と状況が変わったんだよ。  
 何しろ、あたしらには文珠があるからね」  
『は?文珠?文珠を手に入れたのですか?』  
「違うよ。  
 作ったんだ、あたしらでね」  
『は?作った?』  
「ダーリンには文珠使いの才能まであってね。  
 今はあたしの協力がいるけどそれでも作れるんだよ」  
 
ポケットから文珠を出して見せ付けると  
どーだ!とメドーサは大威張りに豊かな胸を張った。  
ぷるんと揺れる谷間に横島の目が行くのもお約束である。  
 
『ほ、本当に文珠ですね・・』  
「嘘なんか吐いてどうするのさ。  
 さっすがダーリンだよねぇ、まさか文珠まで作れちゃうなんて」  
『え、ええ、確かに才能は感じましたがこれほどとは・・  
 でも、これとあなた達の格好は何の関係があるんです?』  
 
小竜姫がそう聞くとメドーサは待ってましたとばかりに笑顔で横島に飛びついた。  
胡散臭い格好の横島にゴスロリ衣装のメドーサが抱きついてる姿は  
いかがわしいものを想起させる。  
 
「どんな風に見える?」  
『・・どんなって怪しげな人達としか』  
「あんた、こんな風に人間界の事に首突っ込むんならもっと人間を勉強しなよ。  
 どう見たってヤクザと情婦だろうが」  
 
ヤクザの情婦がゴスロリを着るのかと思うがメドーサの中では着るのだ。  
単に露出高めで横島が可愛いと言った服というだけの基準だから仕方が無い。  
横島の方はただ人間離れしたスタイルのメドーサがきつめの衣装を着る  
エロさに参ってほとんど何も考えていない。  
ヒモだけしかかかってない肩、零れ落ちそうな乳とミニスカと黒タイツの間の白い太もも。  
成熟した大人の女性が着ているだけでいかがわしい服装なのに  
スタイル抜群の壮絶な美女が着ているのだ。  
横島でなくとも見た男は全員前かがみになってしまいそうな姿である。  
 
「ま、ホント言うと格好はどうだっていいんですけどね。  
 とにかく犯人側にメドーサを気付いてもらえれば。  
 こんだけ目立つ格好ならすぐにバレると思うんスよ」  
『だ、駄目じゃないですか!  
 気付かれたら』  
「はぁ、あんたほんとに馬鹿だね。  
 原始風水盤をどうにかしようなんて大事な時期に  
 あたしぐらいの力を持った存在が現れたんだよ?  
 探りに来るか、襲ってくるか、引き込みに来るか、  
 どっちにしろ高い確率で向こうから接触してくるはずさ。  
 でもこっちには文珠があるからね。  
 心を読んでもいいし、ばれずに後をつけるのも簡単。  
 ちょっとでも接触できりゃ大成功ってわけ」  
 
横島の説明にメドーサはうんうんと頷いている。  
小竜姫としても何となく納得しかかってはいるのだが  
どうにも釈然としないものがある。  
 
『既にいなくなった風水師さんの所へ行って  
文珠で過去を見るとか出来ないのですか?  
 私も実物を見たのは初めてですが伝え聞く所によるとそれぐらいはできそうですが』  
「ちっ!」  
『ちっ!ってなんです!ちっ、て!』  
「あたしの作戦でいいじゃないか!  
 デートしながら作戦遂行できるんだから!」  
『そういうのは任務が終わってからして下さい』  
「今日したかったんだよ!  
 まったく野暮な女だねぇ」  
『野暮で結構!  
 無駄に目立つ作戦なんか認めませんから!』  
 
結局、小竜姫の作戦が採用され、その作戦は見事に的中した。  
五個しか無かった文珠を四個使用したとはいえ  
「風水師の家から殺害現場まで」「殺害現場からアジトまで」を  
【再】【現】したのである。  
 
「しっかし、本当にすげーんだな文珠って。  
 マジで何でもありじゃねーか」  
「それを作ったのはダーリンなんだから  
本当に凄いのはダーリンだよ」  
「メドーサ・・」  
「ダーリン・・」  
 
またも寄り添い見詰め合う二人。  
デート作戦を却下された恨みを晴らすかのごとくいちゃついている。  
 
『はいはい、あなた達の仲がいいのはもう分かりましたから行きますよ。  
 横島さん、【通】という文字を込めて下さい』  
「いや、必要ないよ」  
 
彼等の前にはひび割れた壁があるだけである。  
結局場所は分かったものの鍵を持たない彼等では無理矢理に通るしか無い。  
ならば、と正面から入るのを避け霊力の漏れているここまでやってきたのだ。  
だから小竜姫が言った事は妥当ではある、  
というよりそうする為にここまで来たのだが  
メドーサは迷う事なくその意見を却下した。  
 
「ダーリン、霊波刀を作って」  
「れ、霊波刀?  
 そんなん作った事無いぞ」  
「霊波を放出するんじゃなくて腕に留まらせるのさ。  
 あの盾と同じ原理だよ。  
 固定するイメージさえ変えればいい。  
 なんだってイメージ次第なんだからね」  
 
そう言われて横島は精神を集中し始めた。  
いつもなら「俺に出来る訳が無い」なんて駄々をこねる所だが  
今日はそういう事も無い。  
 
『嫌じゃー、魔族と戦うなんて俺に出来るはずねー!』  
昨夜、ここに来てようやくどんな事件なのか、  
どういう相手と戦うのか聞いた横島はそう言ってごねた。  
『自分が信じられないのかい?』  
『自分なんかこの世で一等信じられん生き物じゃーっ!』  
見苦しく喚く横島にメドーサが囁いた。  
『じゃあ、あたしを信じてくれないかい?  
 あたしはあんたを強いと思ってる。  
 あんただったら三下魔族なんか敵じゃないってね。  
 あたしの言う事も信じられないかい?』  
信じられなかった。  
自分の事をそこまで買ってくれているという事が。  
ここまで期待された事がかつてあっただろうか。  
 
その事を思い出すと横島の中に力が湧いてくる。  
その後、ベッドの上で行った運動にまで思いを馳せると急激に霊力が高まった。  
 
「出ろぉ!」  
 
それは刀というより柱であった。  
突き出された横島の両手から伸びる光の塊は  
直径が横島の体以上に大きく壁に向かって伸びている。  
 
『す、凄いですね・・・』  
「ダーリンが本気を出せばこんなもんだよ」  
 
驚く小竜姫と反対にメドーサはいたって冷静なものだ。  
メドーサにとっては横島がこれぐらい出来るのは当たり前なのだ。  
驚くような事じゃない。  
 
「あぅっ、消えてもーた・・」  
「まあ最大出力で作ったんならしょうがないさね。  
 もっと小さくして持続時間を長くした方が使い勝手は良くなるよ」  
 
横島の霊波柱のおかげで出来たトンネルの中に足を踏み入れる。  
非常識極まる侵入の仕方のおかげで罠もなければ敵も来ない。  
敵のアジトの中とは思えないほどのんびりと二人は歩いていた。  
 
 
「ああ、こういう事だったんか」  
「・・馬鹿だねぇ」  
 
二人して同情するような響きの声を出した。  
少し開けた場所に来た二人はゾンビの残骸の山を発見していた。  
要するに壁のこちら側で待ち構えていたのである。  
そこを突然、非常識な霊波柱が貫通してきたのだ。  
道理で罠も無ければ敵もこないはずである。  
迎撃部隊は既に全滅していたのだ。  
 
「・・・っお前は!?」  
 
どうやら一人だけ壁に張り付いてかわした奴がいたらしい。  
放たれた声に二人もまた振り向いた。  
 
「誰かと思えば・・・久しぶりだね、雪之丞?」  
「誰だっ・・て、お前メドーサか!?」  
 
雪之丞は信じられないものを見た顔をして身構えた。  
たしかにメドーサは目鼻立ちの整った顔はしていたが  
こんな印象の女では無かった。  
冷たい刃の中に沢山の火薬を詰め込んだような女だったはずだ。  
目の前にいるような、たおやかな・・薫るような笑みを浮かべる女で無かった。  
 
(ま、ママに似ている・・)  
 
「こんな所でどうしたんだい、雪之丞?」  
「くっ、勘九朗の言った事は本当だったらしいな。  
 だが、俺もやすやすとやられるつもりは無い!」  
 
そう言い放つと雪之丞は魔装術を展開した。  
 
「お、おい、どうしたんだよ」  
「うるせえ!  
・・・横島、どうやらメドーサにつきやがったらしいな。  
陰念の末路を見てやがっただろうに・・馬鹿なヤローだ!」  
「馬鹿!?今、あんたダーリンを馬鹿って言ったね?」  
「うっ・・」  
「ま、待てメドーサ。  
 こいつは俺がやる」  
 
横島を馬鹿と呼んだ事でムカッときたらしくメドーサが宙から刺又を手にした。  
それを見て横島が慌てて止める。  
横島は別に戦うのが好きではないし  
戦いこそ己を鍛えるなんて信念も無ければ鍛える必要性も感じていない。  
だが、それでも男として雪之丞とメドーサを戦わせる訳にはいかなかった。  
何故ならメドーサの姿を見た雪之丞は思いっきり前かがみだったからである。  
 
(わかる・・わかるぞ・・!  
 お前は今固いズボンを履いていた事を後悔しているだろう?  
 もしメドーサと戦えばお前は歩くだけで揺れる乳に  
眩しいほど真っ白な太腿に  
そして、動くとチラっと見えるパンツに目を奪われたまま  
 何も出来ずに股間の痛みで倒れていく事だろう・・  
 だから・・男として、せめて俺が戦ってやる!)  
 
そんな事を考えている横島だってビンビンである。  
ここにズボンの前を思いっきり張らせた男たちの熱き戦いが始まった。  
 
「ふっ、お前とはいずれ決着をつけなければいけないと思っていたんだ」  
「そうか、俺としちゃ別にそんな事思ってなかったが・・  
 武士の情け、いや男の情けだ。  
 俺が相手をしてやるよ」  
 
前傾姿勢の雪之丞の額に汗が浮かぶ。  
対して横島は堂々とテントを張り、隠そうともしていない。  
 
「食らえ!連続霊波砲!」  
「サイキックソーサー!」  
「なぁっ!?」  
 
ソーサーとは皿のはずである。  
だが横島が作り出したのは既にソーサーなんて呼べない代物であった。  
直径10メートル弱。  
世界のどこにそんな皿があるのだろう。  
100人前のパエリア作りなんてのに挑戦できそうな皿だ。  
 
「おらぁっ!」  
「なにぃ!?」  
 
横島が既に壁と化したそれを投げた時、勝負は決した。  
横にしないでそのまま投げたのだ、逃げ場などどこにも無かった。  
 
「ふっ、柔いズボンを履いていた者と固いズボンを履いていた者の差だ。  
 恥も外聞も捨て下半身丸出しで戦う覚悟があれば  
 お前にも勝機はあったんだがな・・・」  
 
渋くそう言い放つと横島はメドーサの元へ歩み寄った。  
ちゅっちゅっと口を吸いあう二人を見て小竜姫は頭が痛くなってきていた。  
 
 
ぼんやりとした視界に一組の男女が映った。  
ここがどこなのか気にもしてないようで  
身を寄せ合って鼻を擦り合わせている。  
思わず呆然と見ていた所、女の方がこちらに気付いた。  
 
「起きたのかい?」  
「お、俺は・・そうか・・負けたんだったな。  
 さあ、さっさとやってくれ」  
 
覚悟を決めて目を閉じた雪之丞にメドーサの顔がきょとんと呆ける。  
 
「何をだい?」  
「何をって・・お、俺を始末しに来たんじゃないのか!?」  
「はぁ?なんであたしがそんな事しなきゃなんないのさ」  
 
今度は雪之丞が呆ける。  
あまりの話の噛み合って無さに横島が口を挟んだ。  
 
「あーっと、多分こいつ勘違いしてるんじゃないか?  
 メドーサが魔族のまんまだと思ってるんだよ」  
「か、勘違い!?」  
「ああ、そういう事か。  
 あたしゃ魔族辞めたんだよ。  
 今はこのダーリンの使い魔なの。  
 だからもう裏切るもへったくれも無いんだ」  
 
横島の首に片手をかけたまま、自慢気に胸を張るメドーサ。  
ぷるんと揺れる胸に横島はにやけ雪之丞は鼻を押さえた。  
 
「全く、だらしないわね、雪之丞。  
 時間も稼げないなんて」  
「勘九朗!お前まさか知ってて俺を騙したのか?」  
 
奥へと続く通路から現れた人影に雪之丞が叫んだ。  
 
「あら、騙してなんかいないわよ。  
 "あたしもメドーサと袂を別った"んだし  
 "メドーサが追ってきた"のも  
 "戦うことになる"のも本当だったでしょう?  
 嘘は言ってないわ」  
「てんめぇ!!」  
 
叫ぶ雪之丞だが横島戦のダメージで立ち上がるのもままならない。  
いちゃついていたメドーサを見たせいでもあるが。  
既に魔装術を展開した姿の勘九朗は仮面をかぶったような顔で冷笑した。  
 
「勘九朗、あんたらのボスは誰だい?  
 素直に吐くんなら情状酌量の余地はあるんだよ」  
「あら、メドーサ様、随分甘い事言ってくれるんですね。  
 そこの可愛い彼の影響かしら」  
「なっ、「可愛い」ってまさか、あんたダーリンを狙ってるんじゃないでしょうね!  
 ダーリンは男色の気は無いよ!  
 それにあたしのご主人様なんだからね!」  
 
ちょっとした皮肉で言った言葉に過剰に反応したメドーサに  
勘九朗は呆気にとられた。  
 
「そ、そんな事はありませんわ。  
 雪之丞のお気に入りだったから覚えがあっただけで・・」  
「なっ!雪之丞!?」  
「ちがっ!誤解だ!俺に勘九朗みたいな趣味はねえ!」  
「本当だろうね!  
 もし、あんたに男色の気があったらぶっ殺すよ!」  
「メドーサ、大丈夫だよ。  
 俺は女しか好きじゃないし、何よりメドーサを愛してる。  
 もし雪之丞が変態でも心配するような事ないんだよ」  
「あんたぁ・・」  
「俺はちがーう!」  
「あ、やん、あいつらが見てるんだよぉ?」  
「だってあんまり美味しそうな唇だから」  
「んっ・・」  
 
ひしっと抱き合い唇を食みあう横島とメドーサ。  
勘九朗は呆然とし、雪之丞は滂沱の涙を流している。  
絶望的に下らないやり取りに小竜姫の  
「鬼門と一緒に観光にいっときゃ良かった」指数は  
最高値を更新し続けていた。  
 
「あ、あの、メドーサ様、お話を続けさせて貰ってよろしいかしら」  
「あ、ああ、なんだい?」  
「こちらの要望を伝えますわね。  
 引き返して貰えません?  
 メドーサ様も怪我はしたくないでしょう」  
「魔装術を使える程度で随分と大きく出たね。  
 あんたがあたしにカスリ傷でもつけられるってのかい?」  
 
睨みあうメドーサと勘九朗。  
 
「あなたの弱点は分かってますわよ?  
 そこの坊やに括られてしまっている。  
 つまり、あなたに勝てなくても―」  
「あっはっはっは、笑わせてくれるね。  
 もしかしてあんたダーリンに勝てる気でいるのかい?  
 それこそ無理な話だよ」  
 
(ううっ、なんちゅう事を言うんやメドーサ。  
 あいつって美神さん達が束になっても仕留め切れなかったって奴だろ?)  
 
「・・じゃあ、彼とタイマン張らせて貰えるのかしら?」  
「あたしゃ構わないよ。  
 ダーリン、どうする?」  
 
横島はあうあうとひきつった笑顔を浮かべた。  
戦わずに済むなら全くもって戦いたくは無い。  
 
(でも、ここで俺がやらないなんて言ったらメドーサはがっかりするんだろうな。  
 メドーサは俺の事を本気で強いと思ってくれてるみたいだし・・)  
 
女の前で格好つけるのは男の本能である。  
そして、横島は本人も残念なぐらいに本能が強い男だった。  
 
「ちっくしょー!やってやるよ!  
泣いて謝ってもしらねーぞ!」  
「馬鹿だとは思ってたけど本当に馬鹿なのね」  
 
横島の台詞と同時にメドーサは離れる。  
それが合図となって二人は身構えた。  
 
勘九朗の武器は魔装術により強化された肉体そのものである。  
対して横島の武器は既に人間離れした霊力量。  
加えて驚異的な回復スピードである。  
霊波柱で多大に消費し雪之丞戦でも使ったというのに既に回復してしまっている。  
パワーとスタミナは横島、スピードで勘九朗。  
互いにそれぐらいは自分と相手の特性を掴んでいた。  
 
「食らえっ!」  
「馬鹿の一つ覚えがぁっ!」  
 
雪之丞戦と同じく手を前に突き出す横島。  
だがサイキックソーサーが完成する前に勘九朗は横島の前まで来ていた。  
 
(勝った!)  
 
あの非常識にでかい霊波壁で捉えられない限り、勝つ。  
そう思っていた勘九朗は次の瞬間、吹き飛ばされていた。  
 
「ぶっふぅっ!」  
「バーニング・ファイヤーパーンチ!」  
 
壁に激突した勘九朗を見て後出しで技の名前を叫ぶ。  
左手を前に出したのは横島の作戦だったのだ。  
離れて睨みあいになれば恐らく勝てる。  
そう踏んだ横島は接近戦だけを警戒していた。  
そして、サイキックソーサーを作る振りをして勘九朗を呼び込み  
霊力を込めたパンチでカウンターを決めたのだ。  
ソーサーと共に心眼が教えてくれたもう一つの技を横島は忘れていなかった。  
 
『つ、強くなりましたね、横島さん・・』  
「・・・俺ってマジで凄いのかもしれん。  
 まさか、美神さん達でも仕留め切れなかった奴を一撃で沈めるとは・・」  
 
しみじみと拳を眺める横島をメドーサはにこにこと見つめている。  
 
(毎日、大量に放出して回復するのを繰り返して増やした霊力を  
全部込めて放ったパンチだ。  
 当たりさえすれば必殺技だよ)  
 
横島がどれだけ毎日霊力を使っているか誰よりも知っているメドーサは  
そっとお腹をさすりながら、頬を染めていた。  
 
 
そのまま勘九朗の現れた通路を奥へと進んでいく。  
途中何度もゾンビ兵が現れたが既に二人の敵ではない。  
腕を組んだりしてデート気分である。  
小竜姫ももう窘める気を無くしていた。  
だが、いつだってこんな時は邪魔が入るものである。  
今回のそれは少年の姿をしていた。  
 
「よく来たなメド・・・お前メドーサか?」  
 
おかっぱ頭の少年は偉そうに話しかけ口をあんぐりと開けた。  
 
「・・・メドーサ、魔族に戻れ。  
 俺がとりなしてやる。  
 体を少し貸してくれるだけでいいぞ」  
「馬鹿かい?あんた。  
 あたしゃダーリン以外には髪の毛一本触らすつもり無いよ!」  
「くっ!」  
 
苦々しげに少年は横島を睨みつけ、すぐにメドーサに視線を移す。  
 
(うう、前より綺麗になってるじゃねーか、メドーサの奴・・  
 淫魔じゃなくて見た目の良い魔族の女ってかなり少ないってのに  
 なんで人間なんぞに走りやがるんだ!  
 しかもこんなボンクラそうなガキ・・納得いかーん!)  
 
何の霊能力も使わずとも心の声が読めそうな視線が  
メドーサの体をねめつける。  
 
「メドーサ、もう一度言う。  
 こちらに来い。  
 いくらお前でも不死の体を持つ我を―」  
 
そこまで言った所で少年は灰色の塊になり言葉を永遠に失った。  
 
『石化した!?』  
「ダーリンが急成長し続けてるってのに  
あたしがサボってるわけにはいかないからね」  
「な、何?」  
『石化の魔眼・・・!』  
 
新技が決まって嬉しそうなメドーサはふふんと自慢気な顔を見せた。  
対象を一分以上見続けなければならず、  
その対象がその間ほとんど動かないという条件がいる為  
実はそれほど強力な技でもないが奇襲にはもってこいだ。  
 
「気色の悪い・・あんたみたいなとっつぁんボーヤお呼びじゃないんだよ」  
 
石化させる条件を満たす為、隠れずにいやらしい視線を浴びていたメドーサは  
不愉快さを隠しもせずに吐き捨てた。  
こうしてデミアンはその名前を横島に知られる事すら無く散っていったのだった。  
 
 
その後、さしたる戦いもなく二人は風水盤の部屋の前までやってきた。  
まあ、デミアンクラスの魔族がそうそう人間界にいるはずもない。  
 
「あれがそうなんだろうね。  
妙に大っきいし空気が違う」  
「ううっ、あの風水盤、俺んちより広い・・・!  
 風水盤に負けた・・」  
『誰もいない・・・?』  
「って事は無いだろうね。  
 デミアンが出てきていたって事は最低でも同程度には強い奴が守ってるはずだよ」  
 
メドーサと小竜姫が警戒する中、横島だけはのほほんとしていた。  
デミアンがあまりにあっさりとやられてしまった為  
同程度とか言われても脅威に感じないのだ。  
メドーサがやっつけてくれんだろ、ぐらいにしか思ってない。  
その上、今まで温存してきた小竜姫も最後とあらば戦ってくれるだろうし  
文珠も一個とはいえ残してある。  
だから口から出る台詞だってそんなもんだった。  
 
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせて帰ろうか。  
 れーこちゃんも待ってるだろうしさ」  
 
(さすがだねぇダーリンは。  
 勘九朗を自力で倒した事で自信をつけたのか全く動じてないよ)  
 
(ど、どうしたというのです、横島さん。  
 なんであなたがそんなに頼もしく思えるんですか?  
 あなたは「どうせ死ぬなら一発やらせろ!」とか言うキャラじゃないですか!  
 いや、こんなとこで始められても困りますけど・・)  
 
というわけでのほほーんと部屋に入った横島とメドーサ(+小竜姫)。  
案の定というか当たり前というか、彼等は囲まれていた。  
 
「くっくっく、のこのことやってきおって馬鹿め!」  
 
そう言い放ったのは一匹の蝿であった。  
蝿の王・ベルゼブブである。  
 
「ふん、誰かと思えばクソ蝿かい」  
「くっくっく、久しぶりに会ったら随分とイカレた格好してるじゃないかメドーサ?」  
「便座カバーぐらいしか飾る場所知らないくせに聞いたような口を利くじゃないか」  
「蛇が着飾っても気色悪いだけだぜ?  
色に狂って魔族抜けした、略してまぬけな蛇女さんよ」  
「真実の愛に目覚めたって言いな!  
クソ臭い口であたしの話なんかしてんじゃないよ!」   
「相も変わらねえ減らず口だ。  
 それももうすぐ永遠に閉じると思うと耳障りがいいけどよ」  
 
更にメドーサが口を開こうとした時、周りから形容しがたい気色悪い音が鳴り出した。  
あえて例えるなら  
"机の上に置いたマナーモードの携帯が何個も同時に鳴り出したような音"である。  
 
「こいつを見てもまだその口を開けるか?」  
 
横島達は黒い壁に囲まれていた。  
それを構成しているのは全て蝿。  
ベルゼブブのクローン達である。  
 
「また随分いるねぇ、地球上のクソを平らげる気かい?」  
「どうやら死ぬ瞬間まで閉じねえらしいな?  
 お前らのせいで未完成も未完成な状態で発動させたがこの部屋の中だけは魔界だぜ。  
 魔族を辞めたお前と人間一人で、魔界の中で無限に増え続ける俺に勝てる気か?」  
 
何十万匹いるのだろう。  
数えるのも馬鹿らしい程だ。  
これにはさすがのメドーサも焦っていた。  
超加速で潰していくにしても数が多すぎる。  
完全に囲まれていて逃げ出す事もできない。  
文珠を使うにしてもこれだけの数のベルゼブブを  
どんなキーワードなら倒せるのかわからない。  
 
「覚悟は決まったか、メドーサ?  
 安心しな、中身を全部食ったら剥製にして飾ってやるぜ。  
 ウチのトイレにな」  
 
ホバリングしていた黒い壁が動き出す、その時。  
メドーサを救ったのはやはり横島だった。  
 
「メドーサ、抱きつけ!」  
 
声が聞こえた瞬間、メドーサの体は動いていた。  
何も考えず、どんな作戦なのかも気にならなかった。  
初めて下された命令に体が反応していた。  
 
「なに!」  
 
次の瞬間、殺到したベルゼブブの集団自殺が始まった。  
右手と左手、それぞれ別にサイキックソーサーを展開し  
横島は更にそれをボウルのように半球形にした上で繋げる。  
自分と密着したメドーサを完全に囲む霊波の球。  
死角ゼロの障壁を横島は作り出していた。  
 
「完全に俺を無視して会話しやがって・・  
 どうだ、この新技サイキックフィールドは!」  
「凄い、凄いよ、あんたぁ!」  
「わははははは!  
 お前が何事もイメージ次第って言っただろ?  
 だから、バリアをイメージしてやったんだ!  
 わははは・・うう、やべえ、もう限界が近い」  
 
確かに凄い技だが作り出したのは所詮、横島である。  
シリアスモードで長く活躍できる体質ではないのだ。  
 
「ダーリン!」  
 
しかし、そんな横島には何よりも頼れる女房役がいる。  
横島の言葉にまたも瞬間的に反応したメドーサは  
おもむろに横島のズボンをずり下ろした。  
 
「な、何を・・んぐっ」  
 
両手を左右に突き出している横島にメドーサは唇を重ねた。  
横島の霊力源は性的興奮。  
ならばする事は一つ。  
 
「んっぐっ・・んん」  
 
メドーサの長い舌が横島の舌をしゃぶりだす。  
そして、手はむき出しにした性器をしごく。  
 
「あたしの中に出してね・・文珠作るから」  
 
ハァハァと息を弾ませながらメドーサが囁いた。  
そのまま視線を下にやる。  
右手に猛った肉を持ち  
左手でショーツをずらす。  
むき出しになった女の子の場所でメドーサは横島の上に座ろうと悪戦苦闘していた。  
 
 
メドーサは横島よりほんの少し背が低い。  
それなのに少しだけしか腰を落とせない横島の、  
反り返る肉棒に乗っかろうというのだ。  
苦戦するのも無理は無い。  
何度も横島に体を擦りつけショーツをずらした部分に誘導する。  
 
「ぁっ・・ぅんっ!」  
「うっ!」  
 
ようやく中に横島を感じメドーサは安堵の息を吐いた。  
 
「あたしが動くからダーリンはバリアに集中――って」  
 
気付いてみればさっきよりも更に霊波が強力になって  
範囲も拡大しているように見える。  
メドーサですら横島の煩悩エネルギーを甘く見積もっていた。  
何度も飛びついて押し付けられたメドーサの柔さに  
横島の集中力はかつて無いほどに高まっていた。  
 
「もう一個文珠があればこの空間を【反】【転】できる・・  
 だから・・ダーリン?  
あたしの中にたっぷり出してね」  
   
そう言い切るとメドーサは横島に向けてウインクした。  
 
ぎこちなくも熱心に腰を前後させるメドーサに  
横島は霊波を放出し続けながら見惚れている。  
ずっと当たったまんまのおっぱいがぷるぷる揺れている。  
 
(そーいや、着たままするの初めてじゃないか?)  
 
仮にも戦闘中ではあるのだが最早横島にそんな意識は無かった。  
 
「メドーサ、凄い音してるな」  
「ま、まだ、あいつら増え続けてるのかも・・」  
「違うよ、お前のあそこがだよ」  
 
メドーサが気にしていた音はブィ〜ンという羽音。  
横島が言っているのはぐちゅぐちゅという水音。  
うわー余裕―、なんて感心しつつもメドーサは赤くなる。  
 
「ば、ばかぁ・・」  
「ああ、可愛い・・やってる最中に恥らうのがまた最高に可愛いぞメドーサ!」  
「もお・・っ」  
 
極限状況でテンパってるのか  
エッチの最中だからなのか  
メドーサの服装がメイド服に見えない事も無いからか  
横島は口調がご主人様である。  
 
「ほら、もっとぐりぐりしろ、メドーサ」  
「あ・んんっ」  
「もっとまんこ全体で擦り上げるんだ!」  
「やぁん・・今日のダーリンいじわるぅ・・」  
 
甘えた声で抗議しつつメドーサは横島の首にぶら下がり  
言われた通りに腰を激しく前後させた。  
 
「まだ?まだぁ・・?」  
 
動かない横島相手に自分だけが動くなんて初めてのメドーサは  
懇願するような目つきで横島を見上げる。  
 
「はやくだしてよぉ・・」  
 
少しだけ涙声に囁かれたその言葉に横島の我慢は終了した。  
というか何を我慢したりしているのだろうか。  
完全に目的を間違えてしまっている。  
 
「あっあっ・・」  
 
どくどくと胎に注がれる熱にメドーサはうっとりと目を閉じた。  
ぎゅっと抱きついたまま息を整える。  
あとはこれを文珠にして産み出すだけ・・・  
そこでメドーサははっと気がついた。  
 
「・・ダーリン・・!」  
 
一瞬、バリアが消えたかと思った。  
だが、そうでは無かった。  
拡がり過ぎて錯覚したのだ。  
いつのまにか横島の出した霊波領域は風水盤全体どころか  
この部屋全体以上に広がってしまっていた。  
 
「・・・・ダーリン、もう解いていいよ」  
「ん?」  
 
さっと消える光の膜。  
予想通りというか辺りには岩肌が見えるだけでベルゼブブの一匹もいない。  
二人は繋がったまま呆然と辺りを見渡した。  
 
「全滅させちゃったみたい・・」  
 
ちなみに最後の岩肌の隙間に逃げ込んだ最後の集団が滅したのは  
メドーサが横島に「いじわる」と抗議していた時である。  
横島とメドーサが霊波領域の中で何をしていたか知っていれば  
蝿といえども涙を流したに違いない。  
 
「じゃあ、両手も使えるようになったし今度は俺が・・」  
「やーん、もー!」  
『もーいやー!』  
 
解放されし横島が己の欲望をメドーサに叩きつけ始めた時  
全く意味の異なる二つの悲鳴が香港島の地下に響き渡った。  
 
 
「「ただいまー!」」  
 
二人の唱和した声が美神除霊事務所に木霊する。  
 
「あれ?」  
「いないねぇ」  
 
鍵は開いていたのに中に誰もいない。  
少し途方にくれていた二人に頭上からかすかな人の話し声が聞こえてくる。  
 
「屋上?」  
「雨なのに?」  
 
その推測通り、屋上に上がってみると美神達が揃っていた。  
おキヌちゃんは当然だが美神もまた驚きつつ嬉しそうな顔を見せる。  
 
「おねえちゃん!よこちま!」  
「ただいま、元気にしてたかい?」  
「うんっ!れーこいいこにしてたよ!えらい!?」  
 
メドーサは令子を抱き上げて頭を撫でた。  
俗にいう「いいこ、いいこ」って奴である。  
 
「あら、令子良かったわねぇ」  
「あ、あんた、いや貴女は?」  
「あ、わたくし令子の母で美神美智恵と申します。  
 この度は令子が可愛がってもらったそうでありがとうございます」  
 
美神美智恵が頭を下げるとメドーサも令子を抱っこしたままぎこちなく真似る。  
メドーサの服装も今日は随分落ち着いた物なので  
どこかPTAという単語を連想させる風景である。  
 
「小竜姫様は?」  
「あーっと、詳しく話すと長くなるんスけど  
 捕まえた勘九朗と雪之丞を連れて妙神山に帰っていきました」  
「捕まえたの!?」  
「それってあのGS試験の時に暴れてた人ですよね!  
 すごーい!」  
 
美神美智恵と小さい令子とメドーサ。  
美神令子(大)とおキヌと横島という組み合わせで雑談が始まる。  
パラパラと雨が降る中、誰も中に入ろうとは言わない。  
みんな、来たばかりの横島とメドーサも外にいる意味がわかっているのだ。  
 
「・・じゃあ、もう・・?」  
「ええ、勝手だと思われるでしょうが  
あまり本来の時間と違う場所にいる訳にはいきませんから。  
最後に会えて良かったですわ」  
 
子供ながらに何か違和感を感じたのか小さな令子は抱っこされたまま、  
お姉ちゃんとママをキョロキョロと見比べている。  
 
「令子、がめついのも程ほどにね」  
「分かってるわよ!  
 それよりママ・・」  
「分かってる。  
 帰ってから十一年後でしょ?  
 気をつけるわよ」  
 
その言葉で誰もが気付いた。  
今、現在の時間の美神美智恵がどうなっているのか。  
 
「れいこ、これおみやげ。  
 持っててくれると嬉しいな」  
「わー!きれー!」  
「これは文珠・・!?」  
 
さすがに美智恵は気付いたようだ。  
令子が受け取った無地の珠に目を見開いている。  
 
「一個しかなくて悪いけどね」  
「いえ、そんな・・ありがとうございます」  
「メドーサ・・・」  
 
頭を下げる美智恵と同じく美神令子も心から感謝していた。  
素直に礼を言えず目を潤ませただけであったが  
横島もメドーサもおキヌちゃんも彼女の心が分かった。  
 
(あの文珠がほとんど俺の精液の塊みたいなもんだってバレたら  
 俺、殺されかねんな・・)  
 
「・・厚かましいお願いですが、これからも令子をよろしくお願いします」  
 
美智恵がメドーサから小さな令子を受け取った。  
 
「ママ・・」  
「強く生きなさい令子。  
 あなたにはこんな素敵な仲間がいるんですから・・!」  
「マ・・!」  
 
なおも何か続けた美神の言葉を轟音が遮り激しい光が辺りを包む。  
目を開けたそこには、もう美智恵と令子の姿は無かった。  
 
「・・・!」  
 
歴史の修正力により封印されていた記憶が  
美神の脳裏にフラッシュバックされていく。  
母親に除霊現場にまで連れて行かれていた為、子供の頃誰かと遊んだ記憶がほとんど無い。  
だから真剣に遊んでくれたお兄ちゃんが好きだった。  
優しく相手してくれた幽霊さんとお姉ちゃんはとっても暖かかった。  
 
「ママ・・」  
 
雨に紛れて美神の目から涙が零れている。  
 
(美神さん・・)  
(変わらなかったんだ・・)  
(あたし達の記憶が連続している。  
 ・・・変更はならず、か)  
 
「令子」  
 
短く名前を呼ぶとメドーサは美神を抱き寄せた。  
びくっと反応し離れようとした美神だったが  
背中をぽんぽんと優しく撫でる手に抵抗を止めた。  
雨に濡れた大っきな胸が美神の顔を暖かく慰めてくれる。  
 
(懐かしい。  
いい匂い。  
・・・なんで忘れてたんだろう、あんなに優しくして貰ってたのに・・)  
 
メドーサの胸は令子の記憶通りに優しく受け止めてくれた。  
だから令子は思い出のままにそっと口ずさんだ。  
 
「・・・おねえちゃん」と。  
 

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