ハァハァと荒い鼻息を顔に感じ目を覚ます。  
開かれる視界に飛び込んでくるのは鼻の下を伸ばしきった横島の姿。  
あの日から毎朝変わらぬ目覚め方にメドーサは思わず笑みを浮かべてしまう。  
 
「おはよう」  
「ああ、お、おはようぉぉっ!  
 くぅ〜、全く可愛いぞこんちくちょう!」  
 
挨拶の途中で我慢の限界を迎えた横島はメドーサを抱きしめ  
感動に打ち震えている。  
全く飽きないものだとメドーサは呆れつつ  
力強く抱きしめられる幸せを噛み締めていた。  
 
「ああっ!夢じゃない!  
 だって暖かいし、やーらかいっ!  
 ああ、でももし夢なら一生覚めないでーっ!」  
 
今日も今日とて横島は大騒ぎである。  
初めはその奇行に驚いたメドーサだったがもう既に慣れた。  
いや、いまだにこそばゆいのだが、それも悪くないと思えるというべきか。  
何しろ横島と来たら「寝顔が可愛いから見ていたい」なんて馬鹿らしい理由で  
いつも自分よりも早く起きているし、  
散々堪能しているくせにちょっとしなを作れば鼻の下を伸ばし  
上目遣いで見てやれば何でも言う事聞くし  
あげくの果てには「こんな美人のねーちゃんが俺のものなんてーっ!」  
と感動の涙を流す。  
自分の存在をこんなにも喜んでくれると  
メドーサとしても悪い気はしない。  
というか、正直言って割りと気分がいい。  
だから、マスターだって事を抜かしても優しくしてあげたくなるのだ。  
 
 
「ふふ、夢なんかじゃないよ。  
・・確かめてみる?」  
「い、いいのか?」  
 
横島の喉からぐびっと音が聞こえてくる。  
メドーサはくすくす笑うと、艶めいた視線で答えた。  
 
「あたしに拒否権なんて無いんだよ?」  
 
魔性の笑み、というのだろうか。  
メドーサの豊満な色気をのせて多少の媚と大人の余裕を感じさせる  
ほのかな口元の歪み。  
そんな破壊力抜群の攻撃にただでさえ脆い横島の理性が耐えられるはずも無く。  
 
「可愛すぎるぞメドーサぁぁぁっ!」  
「やぁん」  
 
 
「・・・・・・」  
「・・・・・・・・・」  
 
ごくりと唾を飲む音がする。  
音をたてたのは横島ではない。  
そして場所も横島のアパートではない。  
 
「・・朝から元気すぎるのねー」  
「ま、まったくですね・・・いくら修行になるからといってやりすぎです。  
 ちゅ、注意しなければいけませんね」  
 
呆れたように、そしてほのかに羨望の響きを含ませてつぶやいたのは  
神族の調査官、ヒャクメ。  
顔を赤くしながらも食い入るように二人の様子を覗き見していたのは小竜姫。  
二人は監視の為にヒャクメの千里眼で捕らえた映像をテレビで見ていたのだ。  
メドーサが横島に括られた原因を調査にやってきたヒャクメだったが  
結局、理由は見つける事が出来なかった。  
横島の霊質とメドーサの魂の相性が良すぎたんじゃないかという  
推論が出ただけに終わってしまったのだ。  
(ちなみに、この妙にロマンチックな説はメドーサを喜ばせた)  
わざわざ人界にまで来たのに何の役にも立たなかった。  
このまま帰るわけにはいかない、とヒャクメは監視員として名乗り出た。  
というわけでメドーサの動向を見張るというより  
ヒャクメの名誉の為に横島家を覗く事になったのだ。  
無論、無断でやっているのではない。  
横島達の許可は得ている。  
横島もメドーサも見られていると知っているのにお構いなしなのだ。  
 
「でも、横島さんの霊力は天井知らずに上がっていってるのねー。  
 霊力だけならもう既に一流のGS並、下手するとそれ以上あるかもしれないのねー」  
「そ、そうですか・・で、では仕方ありませんね。  
 しかし、そうなるとこれまで以上に警戒しなければいけません」  
 
もぞもぞと内腿を擦りながらでは説得力が無いが言っている事は正しい。  
そう、ヒャクメ達が言っているようにメドーサが使い魔になってからというもの  
横島の霊力は桁違いに上がり続けているのだ。  
それは使い魔の霊格が高すぎてマスターたる横島の霊格が引き上げられている  
というのもあるが、何よりも毎日霊力を極限まで高め限界まで消費し超回復をする  
という生活サイクルのおかげだろう。  
普通、霊力を枯渇するまで使用すると死ぬ、しなずとも長い療養期間が必要となる。  
だが横島の場合、メドーサの姿態を見るだけで回復する。  
要するに、メドーサに興奮して霊力を高め  
メドーサに注ぎ込む事で消費し  
裸でいちゃついてるうちにまた興奮し・・  
という爛れた生活が一種の加速空間になってしまっているのだ。  
一見馬鹿にされがちな煩悩が霊力源という横島の体質は  
受け入れてくれる美人なおねーさんがいれば恐るべき物になるのである。  
 
「ま、また・・?」  
「・・これで起きてから四回目なのねー・・」  
 
横島の尽きる事無い精力に慄きながらも顔の赤い二人。  
 
(でも、横島さん意外に優しいのねー。  
 情熱的なのに丁寧だし一杯キスしてくれるし・・物凄いタフだし・・  
 一回ぐらい貸して欲しいのねー)  
(あ、あんな物が入るってだけで信じられないのに  
 あんなに激しく出入りさせて大丈夫なのでしょうか?  
 でもメドーサはすっごく嬉しそうだし・・)  
 
神界からやってきた調査員が百個もある感覚器官を使い  
メドーサの立場を脳内疑似体験しはじめた頃、  
横島は幸せすぎて涙が止まらなくなっていた。  
 
「ちょ、ちょっと、どうしたんだい?」  
「ううっ、だって、だって、シャワー浴びてきたら飯が出来てるなんて・・  
 しかも超美人が作ってくれた手作りの朝食・・・」  
 
メドーサは別に料理が得意ではない。  
というより今までやった事が無かったのだからはっきり苦手といっていい。  
ご飯は昨晩の残りだし味噌汁はおキヌちゃんが作ってるのを見て真似ただけ。  
目玉焼きすら作れないから  
卵をフライパンの上で引っ掻き回しただけのスクランブルエッグ。  
まさかそれをこんなにも喜ばれるとは思いもよらず  
メドーサの方が戸惑ってしまっていた。  
実をいうと横島は料理そのものよりも  
情事が終わった後、自分だけ風呂に行かせて裸エプロンならぬ下着エプロンで  
料理を作ってくれていた健気さにこそ萌えていたのだが  
そんな事を知る由も無いメドーサは  
(こんなに喜んでくれるんなら本格的に頑張ってみようかねえ)  
などと考えていた。  
 
「そんで今日はどうすんだい?」  
「んぐっ・・そうだなぁ、お尻の方を使いたいかな?  
 いきなりは無理だろうから、慣らしてく感じで。  
ああ、しかしこりゃ美味いな」  
「ば、馬鹿!そうじゃなくて今日は美神の所に行くのかって話だよ!」  
 
美味い美味いと言いながら飯をかきこむ横島の姿に  
頬を緩めていたメドーサは真っ赤になって怒鳴った。  
 
「今日は日曜だし事務所には午後からだな」  
「午後からかい。  
 じゃあ、午前中はゆっくり出来るねぇ」  
 
目線を外し、そ知らぬ顔で頷くメドーサに横島の視線が注がれる。  
沈黙が続き、そっぽを向いていたメドーサの顔にゆっくりと赤みが差してくる。  
 
「・・・・どうしても?」  
 
ちらりとだけ横島を見上げたメドーサがぽつりとつぶやく。  
横島は無駄に男らしい顔で静かに頷いた。  
 
「・・お風呂行ってくるから、覗くんじゃないよ!」  
 
そう言うとメドーサは全身を桃色に染めたまま風呂場へと駆け込んでいった。  
人間時代の名残で今は無用のものと化した器官でも  
見せる前に綺麗にしておきたいのだろう。  
さすがに洗うなとも言えず、横島は今すぐにでも飛び掛りたい衝動を  
ご飯をかきこむ事でごまかした。  
 
 
「お、お待たせ」  
 
バスタオルだけではこぼれてしまいそうな肢体を手で押さえながら  
メドーサが風呂場から出てきた。  
注意深く身体だけを洗ったのだろう、肌は上気しているが長い髪は濡れていない。  
横島は目をくわっと見開きながらでろーんと鼻の下を伸ばす。  
 
「か、可愛い・・・」  
 
(全く、この男は・・・)  
 
メドーサは心の中で苦笑しつつ目で犯さんばかりに見惚れてくれる横島に微笑んだ。  
横島は「可愛い」「綺麗だ」とよく言ってくれる。  
一見、気障男なようだが実体はまるで違う。  
いつだってみっともなく興奮し鼻息も荒くつぶやくのだ。  
全然さりげなくないし格好悪いけどいつも本気で全力の「可愛い」なのだ。  
それがたまらなく嬉しい。  
 
(なんでこうもときめかせるんだろうかねぇ・・)  
 
じわじわとにじり寄りながらくんかくんかと鼻を鳴らす横島の姿は  
お世辞にも格好いいとは言えない。  
だけど、どうしようもなく抱きしめたくなるのだ。  
 
「っ!?」  
 
いつだって抱きしめる前に抱きしめられてしまうけど。  
 
メドーサの口の中でもどかしそうに横島の舌が蠢く。  
メドーサの長い下を先端から根の方まで舐めまわし唾液をすする。  
まだまだ上手とは言えなくて口の周りがべたべたになってしまうが  
横島はメドーサの口を貪る。  
舌の短さや経験などの不利な条件を熱心さでカバーし  
同じくらいの丁寧さで抱いていたメドーサの身体を布団の上に寝かせてしまう。  
 
「いい?」  
「ぁぁ・・」  
 
鼻を擦り合わせたまま問うとメドーサが囁き声で答える。  
唾液でてらてらと光る薄紫の唇にもう一度吸い付き  
横島はメドーサの太ももへと手を伸ばした。  
むっちりとした感触を愉しみながらそっと掴んで持ち上げる。  
唇を離し膝を胸に付くまで上げるともう片足も同じように持ってくる。  
自らの両膝を乳房に付けられたメドーサはおずおずと手を伸ばし  
横島の代わりに二つの脚を捕まえた。  
自ずから秘所を丸見えにする格好にメドーサの白き裸身は薄桃色に染まってしまう。  
横島は恥ずかしがるメドーサと丸見えになった秘所とを見比べ  
どちらを食べようか悩んだ末、指を舐めた。  
 
「んっ!」  
 
皺の数を数えるように周辺を柔らかくなぞり、横島の中指が  
メドーサの尻へ侵入し始める。  
 
「はぅっ・・」  
「い、痛いのか?」  
 
心配そうに覗き込む横島にメドーサは首を振ってみせる。  
一度として使った事のない器官に異物が挿入されたのだ。  
指一本とはいえ痛みはある。  
だが、優しく探るようにもたらされる痛みはメドーサにとって  
痛みという概念を考え直させるぐらい嬉しかった。  
 
(あんなビンビンにしてるくせに、あたしを気遣うんだねぇ・・)  
 
ゆっくりとヌルヌルと入り込む指の為に全身から力を抜く。  
身体の中に横島を感じる。  
未開の肉までもが嬉しそうに絡みつくのをメドーサは自覚する。  
指を奥まで受け入れた時、メドーサは女陰を潤ませていた。  
 
「どう?」  
「・・・ぁっぃ・・それに・・なんかピリピリして・・」  
「痒い?」  
「あぅっ!」  
 
横島の指が中を掻くように動き出しメドーサは声を漏らした。  
にゅくにゅくと穏やかにに出し入れされる指に  
脚を掴んでいる腕が緩み出す。  
 
「くっ、駄目だメドーサ、俺もう限界!  
 こっちはまた後でって事でーっ!」  
「あぅんっ!」  
 
大人しく尻を弄られているメドーサの表情に脆い忍耐が崩壊し  
横島は指を抜くと女の子の穴へと己を突き挿れた。  
 
「メドーサぁっ!」  
 
最奥まで貫いて横島はメドーサを抱きしめた。  
片手は乳房を掴みながらもう片手は頭の後ろを軽く握る。  
圧し掛かる重みと激しく突かれる衝撃にメドーサはうっとりと目を閉じた。  
満孔の幸福、所有される喜悦、支配される快感、愛されている実感。  
その全てを感じられるメドーサにとって一番好きな体勢。  
膣に放たれる霊力の塊は叫びたいほどに気持ちよかった。  
 
 
「ちーっす」  
「邪魔するよ」  
 
二人が訪れたのは美神の事務所。  
おキヌちゃんはいつも通り朗らかに挨拶をし  
美神もまたいつも通り不機嫌そうに二人を見やる。  
 
「おキヌちゃん、あんまり近づくとレイプされるわよ?」  
「な、なんて事言うんすか!」  
「ふん、あんたは前科があるからね」  
「なんだい?まだ言ってんのかい。  
 あれは合意の上だったって言ってるだろう?」  
「どこが合意よ!」  
「本人が合意って言ってるんだから合意なんだよ!」  
 
このやり取りもまたほぼいつも通りである。  
横島がメドーサをレイプした件を美神は何故かメドーサ以上に気にしているのだ。  
 
「くっ、バイトの分際で生意気な!」  
「反論されんのが嫌ならさっさとダーリンにGS免許をあげればいいじゃないか」  
「あんた達みたいな非常識なのにやれる訳ないじゃないの!  
 あんた達を野放しにしたら師匠筋の私にまで悪評がたつのよ!」  
「まだ立ってないと思ってるのかい?おめでたいねぇ」  
 
「ふわー、今日もですね〜」  
「うーん、あれはあれで仲が良いんじゃないのかなって思えなくも無いよな」  
 
こちらは離れた所で観戦する横島とおキヌ。  
メドーサと美神の争いにも慣れたもので舌戦の間は見守るだけである。  
といっても戦いになれば実力の差は明白なので美神も手は出さないし  
メドーサはあしらっているだけなので元から遊んでるようなものだ。  
今日のはいつもより長いし激しいがそれでも気にするほどでもないらしい。  
 
「大体、なんであんたがカリカリしてんのさ。  
 あたしとダーリンの馴れ初めなんかあんたにゃどうだっていいだろう?」  
「あんなの目の前で見たら、自分が被害者になるかもって心配するのは当然でしょ!?」  
「そんな無駄な心配しなさんな。  
 あれはあたしの色気がありきの話さね」  
「私の色気が足りないっての!?」  
 
美神の剣幕をメドーサは鼻で笑った。  
言うまでもなく美神は人が羨むようなプロポーションをしている。  
だが、メドーサと比べるとやはり人間レベルだと言えてしまう。  
歩くだけでたゆんたゆん揺れる程に大きいくせに  
物理法則を無視しているかのように美しい胸。  
ルーツが蛇の化身らしく全体的にほっそりしていながら  
尻と太ももはきゅっと締まった肉を付けている。  
なによりもマスターの霊気という最高の餌を毎日大量に注がれているおかげで  
メドーサの肌はつやっつやである。  
見るだけで肌触りが想像できるほど柔らかそうに輝いている。  
今のメドーサを見れば、海神が強引に事に及んだり  
戦女神がその美しさに嫉妬して怪物に変えたなんて話も納得できそうな程だ。  
 
「ふんっ、蛇のくせに発情期?」  
「処女くさい反論だねぇ。  
 そんなんだから蜘蛛の巣はっちゃうんだよ」  
「誰が蜘蛛の巣張ってるですって!」  
 
「くものす?くものすが張るってどういう事ですか?」  
「あ〜っと・・・」  
 
にらみ合う美神とメドーサ、解説を期待するおキヌと教えていいものか悩む横島。  
事務所の中に二つの膠着状態が発生した時、にわかに雨の音がし始めた。  
 
「雨?」  
「・・みたいね」  
 
どんどん暗くなる窓の外。  
ざあざあと静かに響く音が事務所の中にまで染みてくる。  
 
「・・仕事は?」  
「あったけど・・・雨が降ったからやめにするわ」  
「大名商売だねぇ」  
 
そう言いつつなんだか白けてしまったメドーサは横島の所へと戻った。  
美神も別に呼び止めて口論する気は無く力が抜けたように背もたれへ身体を預けた。  
 
(なんだろう?  
 なんだか霊感がよくない感じで働くわ・・)  
 
美神が探るように目を閉じると  
メドーサは横島の膝の上へと腰を下ろした。  
 
「ん?」  
 
甘えて抱きついてくるメドーサにどことなく違和感を感じ横島は顔を覗きこんだ。  
そんなちょっとした変化に気付いて貰ったメドーサは少し嬉しそうに口を開いた。  
 
「なんか感じるんだよ・・  
 雨のせいかねぇ、妙にうずくのさ」  
 
(私だけじゃなくメドーサも感じてる・・・!  
 装備を点検して精霊石をポケットに入れとこう)  
 
いけ好かないとはいえ美神はメドーサの能力は認めている。  
戦闘能力と霊格に関しては自分よりも圧倒的に上だとも。  
そのメドーサまでも霊感に異変を感じているのだから用心に越した事は無い。  
 
二人の霊感は正しかった。  
一瞬にして只事では無いと悟らされるほどの轟音が鳴り響いたのだ。  
 
「なんだ!?  
「きゃー!!」  
「雷!?」  
 
三人の声がほとんど同時に上がる。  
が、メドーサだけが横島を掴んだまま静かに驚いていた。  
 
「すんごい音でしたねー」  
「今、めっちゃ近かったなー」  
 
慌てて飛び出していく美神とあくまでも呑気なおキヌと横島。  
おキヌものほほんとしてるくせに、意外にタフである。  
 
「メドーサ?」  
 
目を見開いたままのメドーサに首をかしげ横島が声をかける。  
 
「どういう事だい?これは・・  
 確かに美神令子、でも・・」  
 
意味の分からない事をつぶやくメドーサを横島がくっと軽く抱きしめる。  
 
「ダーリン・・・」  
 
(驚いてる顔もめっちゃ綺麗やなー)  
 
「・・行こう!  
 なんだか分かんないけどとにかく何か起こってる!」  
 
弾かれたように立ち上がるメドーサに横島も慌てて付いて行く。  
当然、おキヌも。  
降りしきる雨の中、美神除霊事務所の面子が見た物は  
幼子を抱えて途方にくれる美神令子の姿であった。  
 
「な、なにやってんスか?美神さん」  
「私だって分かんないわよ!  
 突然、ママが現れて私を預けて消えちゃうんだものー!」  
 
半泣きの美神と寝てしまっている子供美神。  
美神の気配が二つになった事で混乱していたメドーサも  
目の前の光景を見て張り詰めていた緊張を解きかけた。  
 
「ダーリン!」  
「っ!!」  
「横島さん!」  
 
メドーサの声で襲い掛かる殺気に気付いた横島はサイキックソーサーを展開した。  
そのサイズときたら半径2メートル近くある。  
相も変わらず霊能はこれしか使えないがメドーサとの毎日の"修行"により  
霊力だけはとんでもない事になってるのでサイズが馬鹿みたいに大きくなっているのだ。  
 
「ちっ!しくったじゃん!  
 ここは出直―  
 
ビルの陰から狙撃していたハーピーはフェザーブレットを防がれたのを悟った瞬間、  
二度と言葉を発する事が出来なくなっていた。  
 
「ふん、ハーピー程度のカスがあたしのご主人様に舐めた真似してくれるじゃないか」  
 
ハーピーの首を刺又で捕らえると怒りを露にして恫喝する。  
 
「ひっ、ひいっ!」  
「あんた、まさかあたしを追ってきたのかい?」  
「ちっ、ちがっ・・」  
 
どうやって後ろに回りこまれたのかすら分からないハーピーは  
圧倒的に自分よりも上の魔族の出現に心から脅えていた。  
 
「だろうねぇ、じゃあ何しにきたんだい?  
 正直に言えば命は見逃してやってもいいんだよ」  
 
魔族を辞めた事で裏切ったと追っ手がかかったのかと思ったが  
どうやら違っていたらしい。  
その事でメドーサの殺気がほんの少しだけ収まり、  
ハーピーは安堵すると共に全てを素直に吐き出していた。  
相手が魔族なら取引の余地があるだろうという計算と純粋な恐怖。  
すでにハーピーは争う気を失っていた。  
 
「ふぅん、じゃあ何かい。  
 美神を殺せって依頼を受けただけであたしやご主人様には何の関係も無いんだね」  
「は、はい」  
「・・・その依頼、キャンセルできるかい?」  
「は?」  
「もう二度と姿を現さないって誓えるんなら逃がしてやっていいよ。  
 どうだい?」  
「は、はい!もう狙わないじゃん!  
 命あってのモノダネとかいうじゃん!」  
「・・行っていいよ」  
 
小さなため息を吐いてメドーサは得物を消しハーピーを解放した。  
 
(甘くなったのかね、あたしは・・・)  
 
自嘲気味につぶやきながら口元は穏やかに歪んでいる。  
 
(でも、超加速まで使うほどムキになった自分が嫌いじゃないんだよね)  
 
「メドーサぁー!  
 メドーサ、無事かー!」  
 
愛しい男の心配する声が聞こえる。  
 
(いい匂いがするって言ってくれるからね。  
 血の匂いをさせて帰ったら抱きつけないじゃないか)  
 
段々と呼ぶ声が悲痛になってきている横島の下へメドーサは帰っていく。  
今日こそ先に抱きしめるという野望を胸に。  
 
 

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