『童貞――心眼は眠れない』 GS試験 対九能市戦  
 
 
――ピキィッ!  
 
思いの外軽い音と共に、愛刀が真っ二つにへし折られた  
 
「くっ! やりますわね」  
 
忍びの極意は、相手の意表を突くこと  
それなのに、実際はどうだ  
自分の方が、いいように相手に翻弄されてしまっている  
 
……こうなったら、仕方ありません  
 
認めよう  
たとえ馬鹿に見えようとも、この横島という男は、容易ならざる相手だ  
ならば、出し惜しみなどしている場合ではない  
一瞬の思考の切り替え これもまた忍びに取って必須のものだ  
 
……たとえ、相手の方が腕が立とうとも  
 
大きく飛びずさって、間合いを取る  
相手は、次の自分の動きに集中している ならば――今が勝機!  
 
その唯一のチャンスを、確実なものにするために――  
 
ヒュヒュッ ボンッボンッ  
一挙動で、残った煙幕弾を全て結界に叩きつけて、外部の視線を遮断する  
 
……これで、目撃者は横島ただ一人!  
必殺の気合が、さらに跳ね上がる  
 
タンッ!  
 
敵を前にしての高い跳躍 迎撃必至のこの状況を――  
 
「う、うわっ! 来たっ どどどどうすんだよ、おい!」  
 
また、馬鹿の振りですか 甘いですわ!  
隙がないのでしたら、抉じ開けるまでです!  
 
ビリビリビリーッ!  
 
上昇頂点で、バトルスーツごと、忍装束を一気に破り捨てる!  
 
「な、なんやぁぁっ!!」  
 
かかった!  
 
いくら貴方でも、これは予想できなかったでしょう!  
実戦においては、羞恥心など無用!  
手足を大きく広げて 全てを相手の目の前に曝け出す  
拘束を失った乳房が揺れ 風が脇をくすぐり、叢をそよがせる  
 
落下――そして、加速!  
 
目指すは  
 
「――その首、へし折ってさしあげます!」  
 
 
完全に意表を突かれた  
引き締まっているのに柔らかそうな身体から目が逸らせない  
美神さんには及ばないまでも、十分な大きさと何よりも形のいい乳  
柔らかく揺れるその先端に、10円玉よりも小さな薄桃の乳輪と、ぽつんと突き  
出した乳首  
滑らかな白いお腹に、小指で突付いたような縦長の臍  
細く締まった腰から太腿へのライン  
横島の目は、白い肌に透ける静脈まで捉えていた  
そして、そして 全ての神秘の源――  
 
ブヂッ!  
 
脳の血管が、まとめてブチ切れた  
 
「煩悩全開ーーっ!!」  
 
 
まずいっ!  
 
あんな無防備な状態で、この濃厚な霊気を叩きつけられれば  
間違いなく相手は――  
 
妊娠する  
 
一瞬の思考 何だかその予測は、非常に面白くなかった  
……それだけは、絶対に阻止しなければ!  
だが既に発射スイッチは押されてしまっている  
だったら、自分にできるのは――  
 
『くぅっ!』  
 
むりやり、自分を割り込ませた  
分かっていても、めちゃくちゃきつい  
霊気構造に強引に叩きつけてくる これではほとんどレイプだ  
泣けないのに、涙が出そうになる  
そのやり場のない悲しさと悔しさが、辛うじて正気を保たせていた  
……煩悩の一切は我が身に引き受け、霊力を霊光へと変換する!  
 
「そ、そんなっ――きゃあぁぁぁっ!!」  
 
迸る純粋な光の奔流に、九能市の意識は一瞬にして刈り取られた  
 
 
 
『……さて どうしたものか』  
 
自分もくたくただけど、横島は一度に限界以上を振り絞った反動だろう  
辛うじて立ってはいるものの茫然自失  
九能市は、完全に気を失っている  
この状況なら、間違いなく横島の勝利となるはずだが……  
いくら対戦相手とは言え、裸身を衆目に晒させるのは、あまりにも忍びない  
急がないと、煙幕も切れてしまう  
 
だったら、横島を叩き起こして――却下  
また暴走するのが目に見えている  
……はぁ  
しょうがない 自分でやるしかない  
 
ぺろり……こくん……  
 
少しだけ残っていたのを、舐める  
 
ん……これなら、いけるかも……  
 
 
ふわ  
 
 
そこに立つのは  
薄く 殆ど肉眼では見えないほどに儚い裸身  
九能市よりも、少しだけ華奢で、腰よりも長い髪  
分かることは、それだけ  
顔立ちもはっきりしない  
 
……忍者だったら、勝った後のことも考えているはず  
そう思って辺りを見渡せば、彼女が最初に羽織っていた布が、ちゃんと残っていた  
ただの布 それでも、今の自分には重い  
 
やっとのことで彼女の身体を覆い隠すと同時に、儚い影は霧散した  
 
 
 
『……ふぅ』  
 
『眼』を開く やっぱり、これが自分なのだろう  
今回の勝利……みんなみたいに、よく頑張ったねって褒めてあげないといけないのに  
どうしても、言う気になれない  
自分の奥で悶々としているものが邪魔をするのだ  
……これって、横島の煩悩だよね……どうしよう……  
彼のように、発散すればいいのかも知れないけれど……そもそも自分に、自慰なんて  
できるんだろうか?  
……人をこんな気分にさせてるのに  
自分がどうやって勝ったかも覚えていなくて、調子のいい高笑いを上げてる横島に、  
何だか頭にきて――  
 
――ガリッ  
 
「いってぇぇっ!!」  
 
「きゃっ どうしたんですか? 横島さん」  
「何? もしかして、怪我してたの?」  
 
「い、いやっ 何でもないっす! 俺、ちょっとトイレ行って来ますっ!」  
 
 
 
「てめぇっ いつもいつも何てことしやがるっ!」  
 
駆け込んだ個室の中で  
 
『ふん お主があまりにも気を抜いているからだ』  
「何だと!――おい、心眼? お前、もしかして、調子悪いのか?」  
ないはずの心臓が大きく跳ねた  
「――っ! な、何を藪から棒にっ」  
「いや、だってよ……すまん」  
「なぜ、そこで謝る?」  
おかしい 変 さっきまであんなにもやもやしてたのに  
「だってよ 俺が気絶してたのに勝ったってことは、お前が頑張ってくれたってことだろ?」  
『……そんなことはない あれは紛れもなく、お主の勝利だ』  
だから、よくやったな  
「お、おう いや、うん そうだなっ あははっ」  
何を、赤くなってるんだろう?  
 
 
 
パンツ相手に、妙な空気を発散させていたせいで  
カマっぽい大男と、目つきの悪い小男のやり取りをすっかり見逃してしまっていたが  
まあ そんなことは、大した問題ではなかったりする  
 

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