街角の高層ビルに、長い髪の美女が華麗に舞う。  
「私に会ったのが運の尽きよ。極楽に逝かせてあげるわ!」  
美神が神通棍を一振りするだけで、目の前の悪霊が掻き消える。  
「これで終わりっスね。さすが、美神さん。お見事っス」  
助手の横島が、美神の隙の無い除霊を賞賛する。それを美神は柄にも無く、照れ隠しのように謙遜する。  
「こんなザコ相手に褒められてもねぇ。まっ、これで三千万なら、文句も言えないか」  
たいした相手でもなかったので、助手は横島だけだ。  
横島が後片付けするのを待って、二人は階下に向かった。  
 
二人が外に出たら、すでに日も完全に落ちていた。時刻を確認すると、午後八時を過ぎている。  
美神が携帯電話の時計を見ながら、さりげなく横島を誘う。  
「もうこんな時間か……どう?一緒に食べにでも行かない?」  
これでも美神は頑張って誘ったのだが、誘われた横島は別の所に驚く。  
「えっ!?美神さんが奢ってくれるんですか?」  
「んなわけあるかっ!」  
「――ホゲェッ!!」  
恥ずかしさも手伝って、美神は横島を思いっきり殴り飛ばす。いつまで経っても、噛み合わない二人だった。  
 
鼻血を流しながら復活した横島が、頭を掻いて美神の誘いを断る。  
「すんません。今月は財布がピンチなんですよ。それにどっちにしても、今日はおキヌちゃんが晩飯を作って待っていますんで――」  
横島の口からおキヌの名が出た瞬間、美神の額に青筋が浮かぶ。今のおキヌが晩ご飯をご馳走するだけで済ませるとは思えない。  
そして、目にも留まらぬ速さで横島の胸座を掴む。  
「――あんたねぇ…いい加減、おキヌちゃんにたかるのはやめなさいよ」  
「む、無理言わないでくださいよ。それじゃあ、俺が飢え死にしちゃいますよっ」  
相変わらず、横島は安い賃金でハードな仕事をさせられていた。今の横島は以前にも増して美神に頭が上がらない。この状態が当分の間は続くだろう。  
横島がなけなしの勇気を振り絞って反論する。  
「だったら、少しは時給を上げてくださいよ」  
「それこそ無理よ」  
即答する美神。そして、横島の胸座を引っ張って、自分の愛車に押し込める。  
「食事代は来月分から引いておくから、食べに行くわよ」  
「あかん。来月もピンチになってまうっ。こんなんは横暴やぁああああ――っ」  
夜の街を疾走するスポーツカーから、横島の悲鳴が流れ出る。  
今日もとことん我侭な美神だった。  
 
 
食事を終えた二人は、ベッドの上で見つめ合っていた。そう、ベッドの上である。しかも、二人が身に着けているのはバスローブだけだ。  
強引に食事に誘われた後、あれよあれよとホテルに入る事になり、現状に至る。勿論、こう仕向けたのは美神だ。  
その気になっている横島が先に口を開く。  
「美神さん……もう我慢できませんっ」  
いい感じのムードになってきていたのに、横島の荒い鼻息が台無しにする。だが、それに満足した美神がクスクスと笑う。  
「フフ…いいわよ。私を横島クンの好きにしてみなさい」  
「いっただっきまあああっす!!」  
獣と化した横島がバスローブを脱ぎ捨て、美神に襲い掛かる。  
美神をベッドに押し倒し、その腕と顔は一直線に美神の胸に向かう。美神の胸を乱暴に肌蹴させ、一心不乱にむしゃぶりつく。  
「最高やぁ。美神さんのオッパイは最高やぁ」  
この胸は自分のものだと言わんばかりに、両乳首を交互に吸い上げる。  
「もう‥‥そんなにがっつかないの――あんっ」  
言葉とは裏腹に、美神は快楽の喘ぎ声を漏らす。  
乳房も万遍無く舐め回してから、舌先がおヘソに向けて移動を始める。  
「美神さんのおヘソはかわいいなぁ」  
「ヤぁ…そんなところ…舐めないでぇ‥‥」  
おヘソの窪みをしつこく舐め回すと、美神は廉恥で顔を両手で隠す。その顔は火が出そうなほどに紅く染まり、目には薄っすらと涙を浮かべている。  
そんな美神を見て、横島が追い討ちをかける。  
「美神さんもかわいいですよ」  
「バカバカッ…」  
子供のように両手で横島の頭をポンポンと力無く叩く。今のかわいらしい仕草からは、普段の傍若無人ぶりが想像できない。  
おヘソを堪能した舌先は、更に下を目指す。そして、美神の最も敏感な部分に触れる。  
「――あひゃうっ」  
そこに舌が来るのを予想できても、美神は声を抑えられなかった。  
 
横島が丁寧に美神の小さな突起周りに舌を這わせる。  
「うぅん…いいっ、そこがいいのっ」  
感じてきた美神がベッドで上半身を身悶えさせる。  
そして、美神の様子を窺うように、舌先で膣の入り口を押し広げる。  
「はぁんっ――ダメッ、出し入れしないで…ああんっ、あぅっ」  
舌が何度も美神を出入りする。何度も出入りする舌が、次第に深く膣腔に侵入していく。  
舌だけでは物足りなくなった美神が、恥を投げ捨てておねだりする。  
「お…お願い。横島クンの……横島クンのをちょうだいっ!」  
ガバッと膝で立った横島が、待ってましたと宣言する。  
「わっかりましたああっ!俺の息子を受け取ってくださぁいっ!!」  
そして、仰向けの美神の腰を持ち上げ、はちきれんばかりの男根を、煩悩のままに突き立てる。  
「はぐぅっ!」  
容赦なく一瞬で根元まで貫かれ、美神は悲鳴に近い声を上げる。  
一度暴走した横島は、簡単には止められない。横島の腰は力強く打ち付けられ、美神の乳房が大きく揺れる。  
「くぅっ…は、激しすぎ…る…うぐぅっ」  
腰の動きはどんどん早くなり、美神は涎を垂らしながら揺れる天井を眺める。  
「――いいのっ…もっと激しくてもいいのっ」  
美神の視線が虚空をさ迷う頃、横島の呼吸が荒くなり、男根が一気に引き抜かれる。  
「フゥ、フゥ、胸に出しますよ――くっ」  
美神の大きく上下する胸が、横島の精液でデコレートされる。  
「ふふ……胸がとっても熱い‥‥」  
美神は虚ろな瞳のまま、乳房を伝う白濁液が零れないよう、手で自分に塗りたくった。  
 
 
横島は朝帰りの途中だった。何故か、その背中は落ち込んでいるように見える。  
「あかん‥‥来月、どないしよう‥‥」  
落ち込んでいる理由は、来月の生活費の事だった。それと言うのも、美神との贅沢な食事代に加えてホテルの宿泊料金までもが、来月分の給料から天引きにされてしまったからだ。  
横島の来月分の給料は、一夜にして大半が失われてしまったのだった。  
そんな事に落ち込みながら家路に着く横島だったが、完全に忘れている事が一つあるのを知らない。  
 
「せんせえっ!無事だったでござるか!」  
横島が帰宅して最初に見たのは、シロが猛烈な勢いで突っ込んでくるところだった。  
「ぶべっ!!」  
シロの突進をまともに喰らった横島は、玄関に入って早々、外に弾き出された。  
豪快に横島を押し倒したシロが、尻尾をブンブン振りながら横島の顔を舐め回す。  
「こら、シロ――」  
「横島さんっ、大丈夫ですか!?」  
次に見たのは、おキヌの泣き顔だった。シロを叱ろうとした時、血相を変えたおキヌが飛び出してきたのだ。  
ここで横島は思い出した。昨晩、美神と食事をする事になった時、晩ご飯を用意して待っているおキヌに連絡するのを忘れていたのだ。この様子だと、美神も連絡してないだろう。  
横島がどう謝ろうか考えていると、不安から解放されたおキヌが一気にまくし立てる。  
「どこも怪我とかしてないですよね?昨日はいつまで経っても帰ってこなくて心配したんですよ。事務所のシロちゃんとタマモちゃんも知らないって言うし‥‥」  
興奮して話すうちに、おキヌの瞳から大粒の涙がポロポロと落ち始める。どうしたらいいのか分からず、困り果てる横島。  
おキヌに続いてシロが昨晩の報告をする。  
「美神殿からも連絡がないでござるし、拙者らは一晩中、先生を探していたでござるよ」  
除霊の仕事に出掛けて連絡が取れなくなれば、誰でも心配するのが当然だ。ゴーストスイーパーの仕事は命に係わる事があっても何ら不思議ではない。  
おキヌとシロとタマモは、除霊現場やその周辺を一晩かけて探し回っていた。  
「……ごめんな」  
今更ながらに事の重大性に気付いた横島は、一言謝るのがやっとだった。  
 
そして、シロをどかして部屋に入った横島は更なる罪悪感に苛まれる。  
「食べずに待っていたのか‥‥」  
部屋の真ん中に置かれたテーブル上には、昨晩の食事が手付かずで残されていた。おそらく、おキヌは飲まず食わずで横島を待っていたのだろう。  
ホテルで美神といちゃついていたのを思い出し、横島は申し訳なくて逃げ出したい気分になった。  
そんな時、言葉も出ない横島の前にタマモがピョンと姿を現す。  
「やっぱり、ヨコシマは無事だったでしょ?だから、心配しなくてもいいって言ったのに。ヨコシマがどうにかなる時は、人間界の最後よ」  
ここに居るタマモが言っても説得力はない。そして、タマモもここに居るという事は、事務所には誰も居ない事になる。少し美神を気の毒に思う横島だった。  
だが、タマモの随分な言い方のおかげで、横島も少しは元気を取り戻した。ああいう態度でも、タマモはしっかりと横島の様子を見ていたのだった。  
「おいおい。それじゃあ、俺がゴキブリみたいじゃねぇか」  
「違ったの?」  
「違うわっ!!」  
ようやく横島が笑顔を見せる。すると、それにつられ、みんなも自然に笑顔となる。  
笑顔のおキヌが腕まくりをして、昨晩の料理の皿を両手に持つ。  
「少し遅いですけど、朝ご飯にしましょうか。今から暖め直しますね」  
「おキヌちゃん…本当にごめんな」  
「いいですよ」  
後ろめたさがある横島には、おキヌの笑顔が眩しかった。  
 
遅い朝食の場は戦場と化していた。  
「シロっ、そんなに食べるんじゃない!」  
「早い者勝ちでござるっ!」  
食事時は師弟の関係も意味を成さないようだ。  
横島とシロは奪い合うようにして食べている。おキヌとタマモは事前に分けておいたのを静かに食べている。  
横島は料理を口にするごとに、今までのおキヌのありがたさを改めて噛み締めていた。  
「いやぁ〜、本当におキヌちゃんのご飯はうまいなぁ。忠ちゃん、おいしくて涙がでちゃう」  
「もぉ、大げさなんだから」  
横島の言う事は大げさでもなく、笑顔で食べながら本当にポトポトと涙をテーブルに落としていた。  
それを見たおキヌは感激するのを通り越して、横島が心配になってくる。  
「横島さん、大丈夫ですか?」  
「大丈夫やでぇー」  
食事の最後まで、涙無しでは食べられない横島だった。  
おキヌの方はというと、嬉し恥ずかしで顔を赤くしたまま、一向に食が進まなかった。  
 
 
おわり  
 

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