「うっ…きゃぁあああっっ!!」  
美神除霊事務所に大きな叫び声が木霊する。  
それを聞いた美神とおキヌが、何事かと叫び声のした現場を目指して走る。  
二人が辿り着いた場所は屋根裏部屋で、そこには部屋の主の一人であるタマモが腰を抜かしていた。  
美神が警戒を怠らないまま、床にお尻を着いたタマモに近寄る。  
「タマモ、何があったの?」  
「あ…あぅ…」  
タマモの様子は尋常じゃない。声が出せないので、恐怖の対象に人差し指の先を向ける。  
美神とおキヌは指された先に視線を向ける。  
「何?」  
タマモが指し示す先には、一本のガラス瓶が転がっていた。  
そのガラス瓶にはラベルが貼ってあり、おキヌにはその瓶に見覚えがあった。  
「ジャムの瓶ですよね?」  
おキヌが疑問形になったのは、瓶の内容物がジャムに見えなかったからだ。  
床に転がる瓶の蓋は外れていて、内容物を床に撒き散らしている。  
美神が注意深く瓶を手に取り、まだ残る中身の確認をする。  
「――うっ!?」  
瓶を鼻先に持ってきたとたん、美神は匂いに顔を顰めた。そして、すぐに蓋をして床に置いた。  
 
中身が気になったおキヌが尋ねる。  
「何だったんですか?」  
美神は目に見えて嫌な顔をして答える。  
「多分だけど……男性の精液だと思うわ」  
「はぁ?」  
あまりに突飛な事で、最初におキヌは何の事だか理解できなかった。だが、白い半透明の液体が詰まった瓶を眺めているうちに、おキヌの顔が見る間に赤く染まる。そして、見事に慌てふためく。  
「――なんで!?どうして、そんなモノが!?」  
大騒ぎするおキヌを尻目に、美神がタマモに事情を聞く。  
「タマモが見つけたんでしょ?何処にあったの?」  
「……あそこ」  
タマモが指し示したのは、引き出しが半開きになったシロの机だった。  
ここ最近、タマモはシロから異臭がするので気になっていた。それで、シロが散歩に出掛けた今、タマモは異臭を辿ってシロの机を調べていたのだ。  
その結果、シロが瓶詰めで大切に保存していた横島特製ミルクを探し当ててしまったのだ。  
「シロの机…ね……」  
ブツの出所が判明したとたん、美神にはおおよその成り行きが掴めてしまった。  
シロが慕っている男性は横島しか居ない。後は考えるまでもなかった。  
 
「ただいまでござるぅっ」  
何も知らないシロが、元気良く散歩から帰ってきた。そこへ、玄関で待ち構えていた美神が出迎える。  
「おかえり。ちょっと話があるから、こっちに来なさい」  
「はいでござる」  
美神は感情を感じさせない冷たい声でシロを呼んだ。だが、散歩後のシロは気分が良く、いつもと違う美神の様子に気付かない。シロは笑顔で美神について行った。  
 
シロが連れて来られたのは自室の屋根裏部屋だった。そこには、おキヌとタマモも待っていた。  
「美神殿、話とは何でござるか?」  
話を急かされ、美神がそのままにしてあった床の瓶を指す。  
「あれは何?」  
「――あれはっ!!」  
瓶を見つけたとたん、シロは大急ぎでそれを拾い上げて中身を確認する。  
「ああっ!少なくなっているでござるよ……今日の分はと――」  
そして、かなり落胆してから、おもむろにズボンのポケットから小瓶を取り出し、ジャムの瓶に何やら移している。今日も横島と秘密の特訓をしてきたらしい。  
そ知らぬ顔で瓶を引き出しに片付けようとするところで、美神が止める。  
「待ちなさい。シロ、それをどうやって集めたのか教えなさい」  
美神の問い掛けに、シロはあからさまにうろたえる。  
「これは……そう!拾ったでござるよ。散歩の途中で道端に落ちていたでござる」  
シロの苦しい言い訳が通用するはずもなく、美神が更に強く問い質す。  
「見え透いた嘘はよしなさい。そんな汚いものを誰が拾うと思うの?」  
シロが大事にしている物を酷く言われ、一瞬だけ威勢を取り戻す。  
「汚くないでござる!これは――」  
「これは?」  
「――秘密でござる」  
横島との約束を思い出したシロは、すんでの所で言い止まる。  
 
業を煮やした美神は、手段を選ばない事にした。  
「私に隠し事をするなんて、いい度胸ね。そんな悪い子は里に帰ってもらうわよ。いいの?」  
「そ、それだけは勘弁でござる!」  
里に帰ってしまえば、もう横島とも簡単には会えなくなる。それはシロにとって最も辛い事だった。  
「なら、話してくれるわね?」  
「……話すでござるよ」  
約束を破る事になったシロは、渋々と事情を話し始めた。  
「これは先生の力の源で、特訓のご褒美でござる」  
「特訓?」  
「そうでござる」  
「どんな特訓なの?詳しく教えなさい」  
美神が特訓の内容を詳しく尋ねる。だが、その内容は美神、おキヌ、タマモにとって、恥ずかしくて逃げたくなるものだった。  
「そうでござるな……まず、先生のおチンチンを拙者が舐めるでござる」  
「ブッッ!!」  
「よ、横島さんの……!?」  
「アンタね……」  
いきなり核心に迫る話をシロがしだし、美神は盛大に吹き出した。話を想像したおキヌは、早くもオーバーヒートでダウン寸前だ。タマモは恥ずかしげもなく話すシロに呆れていた。  
「そうすると不思議な事に、先生のおチンチンが大きくなるのでござる」  
シロは構わずに特訓の内容を熱心に語りだす。  
「先生の準備が終わったら、今度は拙者の番でござる。先生が拙者の股間を舌で刺激するのでござる。この感覚を耐え切るのは難しいでござるよ」  
「横島さんの舌が……そんな所を?」  
おキヌは自分の下半身をしきりに見ていた。もう、自分が何をしているのかも分かってないようだ。  
「でも、本番はこれからでござる。先生の大きくなったおチンチンが、拙者の股間に入るのでござるよ!この苦痛と開放感が同時に襲う感覚は、声を出さずには居られないでござるっ」  
自分を止められなくなってきたオキヌが、シロに尋ねる。  
「シロちゃんは初めての時、痛かった?」  
「あの苦痛は今でも忘れられないでござるよ」  
シロは腕組みをして目を閉じ、初体験時の挿入を思い出す。そして、かっと目を見開いて熱弁する。  
 
「ここからが凄いのでござる。先生が拙者の中で激しく動くと、段々と何も考えられなくなるのでござる。己の体も何かに取り憑かれたように、勝手に動き出すのでござるよ。当分は、この体の自由を奪われない事が目標でござる」  
「そんなに凄いんだ‥‥」  
すっかり、おキヌはシロの話に夢中になっていた。  
「そして最後に、先生のおチンチンからご褒美がもらえるでござる。先生が力の源と言っていたでござるから、拙者は集めて大切にしているでござる」  
シロは誇らしげに精液の詰まった瓶を掲げる。最初は精液に嫌悪感を抱いていたおキヌも、今では物欲しそうな目でそれを見つめていた。  
話を聞き終えた美神が、シロに真実を告げる。  
「シロ。それは特訓でも何でもないわ。ただのセックスよ」  
「せっくすとは?」  
聞きなれない言葉に聞き返すシロ。思いやられた美神が己の額に人差し指を当て、簡潔に説明する。  
「……あれよ。子作りの事よ」  
「っ!?」  
ショックを受けたかと思われたシロだが、次の瞬間には喜んで飛び跳ねる。  
「先生と拙者の子供でござるか?――嬉しいでござるっ。是非、欲しいでござるっ!」  
見かねたタマモが、シロの頭を力一杯にはたく。  
「黙らんか。このバカ犬がっ!」  
「キャウンッ」  
シロは涙目で頭をさすりながらも、お決まりの反論をする。  
「――拙者は狼でござる。それに、これが修行になるのも確かでござるよ」  
「わかったから…もう何も言わないで……」  
横島へのシロの忠誠心を思い知らされ、タマモをはじめ、美神とおキヌも説得を諦めた。  
こうして、横島の悪行は美神の知る所となった。  
 
 
つづく  
 

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