『くぅん…ああ…っ…ぅ…ん…』 
「……あ、あの子らは…」 
「…今日は、いつもより声大きいんじゃないですか…?」 
 上から、屋根裏部屋で喘いでいるシロ、事務所ロビーであきれる美神、冷や汗をかきながら美神に意見…もとい同意するキヌの台詞である。…シロにいたっては台詞とは言えるものではないが。 
 何故シロが喘いでいるかといえば、数ヶ月前のある出来事が原因だったりする。 
 
 数ヶ月前、シロが突然発情期になったのだ。原因は分かりきった事―人狼の超回復能力による、彼女の急な成長―だ。 
 人狼の里では自慰は禁止されており、シロは毎夜襲い来る快感に手を打つことはできなかったのだ。 
 不審に思ったタマモが美神に相談したところ、他人が手を貸してやることで何とかできるとの事。美神はタマモにその役を回し、なし崩し的にシロとタマモは行為に及ぶことと相成った。 
 それからというもの、シロの発情期は一晩中彼女の嬌声が絶えることは無い。 
 シロ、タマモの二人はそれでいいのだろうが、それを聞かされている第三者の美神とキヌにとってみれば、迷惑に他ならなかったりする。 
 
 
 閑話休題 
 
 
 この事務所の壁は薄く、少し大声を出せばすぐに他の部屋へと漏れてしまう。 
 屋根裏部屋で行為に及んでいる彼女らは、その事を理解しているだろう。しかし、だ。 
「…タマモの事だし、いじめて声出させてるんじゃない? …それに、今日は満月だし」 
「…そういえば、そうですね…」 
 満月。 
 人狼族は、月に支配される種族である。それが、女性であればなおさらのことだ。 
 偶然の産物なのだろうが、満月と発情期とが重なったようで、今日はシロにとって苦痛と快楽を伴う一晩になっているはずだ。 
 キヌは納得したように相槌を打った。 
 
「女の子同士とはいえ、ねー…気になる? おキヌちゃん」 
 キヌに向かって、意味深な笑みを浮かべる美神。 
「なっ…何言ってるんですかっ!! そ、そんな訳…」 
 顔を真っ赤にして、弁解するキヌ。つまる所、少しは気になるわけで。 
「そっか…ま、気になってもおかしくないわ。動物であれば何でも発情するんだから」 
 だから、恥ずかしがらなくてもいいのよ、おキヌちゃん。 
 美神は、妖艶な笑みをキヌに向ける。 
「――…う〜…で、でも…やっぱり、その…」 
 指をつんつんとつつき合わせながら、キヌはうろたえた。美神は、そんな彼女を見、そして―… 
「…何なら、一回してみればいいじゃない」 
 にやり、と笑った。 
 
 一瞬の沈黙、そして。 
「…する、って…どうやるんですか?」 
 キヌの、気の抜けたような質問がロビーに響いた。 
「…おキヌちゃん、アンタ…もしかしたら、自慰もしたことないの?」 
 美神が驚いたように問いかける。 
「…え、ええ…それが何なのかは知ってますけど…」 
 自分で自分を慰める、そういう知識としてのことは知っていても、経験は無い。 
 そもそも、キヌは自ら人身御供に立候補する前は、暇があれば小さな子供の相手をしており、男を知っているわけではなかった。だからといって、自分で自分を慰めるほどふしだらな女の子でもない。 
 つまりは、快楽だとか淫猥とかいった言葉とは程遠い生活をしていたわけで。 
 
「…今時、したこと無い子って、珍しいわねぇ…」 
 あごに手を当て、考え込む美神。その様子を、キヌが心配そうに見つめる。 
「…あ、あの…そんなにおかしいんですか…? したことないって…」 
「んー、おかしくないけど、いつか欲求不満になって、爆発するわよ。男咥えてないと生きていけない体になった、っていう話もあるわ。そんなの、嫌でしょ?」 
 私もそんなおキヌちゃん、見たくないしね、と美神は軽く苦笑した。 
 キヌはといえば、顔を真っ赤にして俯いている。 
「だから、って言うのはあれだけど…予行演習みたいなものね、どうする?」 
 するか、しないか。 
 先ほど美神に提示された例を聞かば、とる方は一つしかないだろう。即ち… 
「…や、やってみます…」 
 キヌは、顔を羞恥に染めながらもそう答えを出した――。 
 
 
 美神とキヌは場所を変え、美神の部屋へと移動した。 
 何故かとキヌが聞いたら、 
『こんな所じゃ、何もできないでしょ?』 
 と、軽くウインクを彼女に返し、先立って部屋へと向かいだしたのだ。キヌもいわれるままに行動してみる。 
 そして今、二人はベッドの上に座っていた。 
「取り敢えず、服脱いで、」 
「ぬ、脱ぐって…」 
「そんなに恥ずかしいことでもないでしょ、女同士なんだし。脱がなくても出来なくはないんだけど」 
「…そう、なんですか…じゃあ、このままで…」 
 キヌは体操座りをしたまま、消え入りそうな声で返答した。 
 今からすることを考えると、顔が焼けそうに熱くなる。今でも十分に赤くなっているのだが。 
 
 そんなキヌの様子を見つめながら、美神は口を開いた。 
「予行演習って言っても、私とおキヌちゃん、二人いるんだからいっそのこと…Hしちゃおっか?」 
 私も、最近自慰してないからたまってるし、なんてつぶやいてみたりする。 
「なっ……み、美神さんって、そういう趣味の持ち主だったんですか…?」 
 そういう趣味=レズビアン。キヌは目を見開いた。 
「あ、あのねぇ…私を何だと思ってるのよ…そういう趣味は無いわよ…うん、無い…つもりだったんだけどねぇ…」 
 美神は、慌てたように言い返す。 
 …そう、ノンケの筈だ。その筈なのだが…どうにも、彼女の中で何かのタガが外れてしまったらしく。 
「…ま、いいわ。おキヌちゃん、私とキスしても大丈夫?」 
 美神は、大胆にもストレートに迫ってみた。 
「き、キスですか…? だ、大丈夫ですけど…」 
 キヌは『ふぁーすときす』が美神さんかぁ、なんて唇に手を当てて思案している。 
 …唇にだけではなく、頬にしたものを含めれば初めてではないのだが。 
 彼女にとって、頬にするキスはスキンシップのようなものである。唇となれば、やはり初めては横島としたい、などと考えていたりはしたのだが、それはそれ。 
(まあ、いっか) 
 美神さんだし、と軽く決定。その決定は、後ほど謀らずとも彼女を思考の渦に沈めていくこととなる…かもしれない。 
 
「大丈夫なら、するわよ」 
 美神の声が普段よりも大きく聞こえ、考え込んでいたキヌがはっと視線を上げると、そこには美神の顔のどアップがあった。 
「ちょ、ちょっと待っ…んんっ…」 
 静止をかけようとするも、その先を美神の唇に塞がれ、うめくことしか出来なくなる。キヌは仕方なく、美神にあわせることにした。 
 はじめは啄ばむように重ね、互いの唇の柔らかさを確かめる。 
(わ、キスってこんな感じなんだ…美神さんの唇、柔らかいな…) 
 キヌは初めての感覚に酔いしれた。美神の体温と、柔らかさが直接に伝わるそれは、キヌの思考をぼやかしていく。 
 
「…ん…んん…」 
 ふわふわと、気持ちよさに溺れ、何も考えられなくなる。キヌはバランスを崩し、ベッドへと倒れこんだ。 
「…っは…大丈夫? おキヌちゃん」 
 不意に倒れこんだキヌに、心配そうに声を掛ける美神。彼女の方はまだまだ平気らしく、平然とした様子を装ってはいたが、内心は、 
(…やっぱり、この子は横島クンなんかにはもったいないわねぇ…) 
 なんて考えをめぐらせていたりする。彼女の思考も、少しずつ乱れてきているようであった。 
「は、はい…キスって、こんな感じなんですね…」 
 キヌは、未だ焦点の定まらない目で美神を見た。意識もボーっとしており、霞がかかったようにはっきりしない。 
「こんなもんじゃないわよ…もっとディープなのだってあるんだから…やってみる?」 
 キヌの返答に妖艶な笑みを返しながら、美神がたずねる。キヌがキスに嵌ってしまったのを見透かした上で、だ。 
「…は、はい…」 
 キヌの返答は、勿論イエス。美神はふう、と息をつくともう一度彼女の唇をふさいだ。 
 
 今度は、先ほどと同じようなものではなかった。 
 美神は、キヌの薄く開いた唇の間から自らの舌を侵入させた。そのまま歯列をなぞり、固くくいしばっている歯のバリケードを崩すことを優先する。 
「んんっ…んぅっ…」 
 キヌがうめく。やはり、彼女には受け入れられないものだったのか。それとも――…。 
 
(な、何…? 変な感じ…ぼうっとする…) 
 彼女は、体の奥底から湧き出る感覚に畏怖を感じていた。自分の体が、浮き上がってどこかに行ってしまいそうな、そんな感覚に。 
 キヌが思考をグルグルさせている間にも、行為は進んでいく。 
 美神は、いつの間にか緩んでいたキヌの歯の隙間から舌を侵入させ、奥で縮こまっている舌を絡めとった。 
 熱く、そして柔らかいその舌を吸い、絡めとる。美神は、その行為に没頭した。 
「んっ! んむっ…んぐぅっ…」 
 動きたくても、動けない。何かしたくとも、出来ない。 
 キヌは、自分の口内に流れ込んでくる唾液を必死で飲み込んだ。そうしなければ、息が持たないからだ。自分が倒れこんだ状況で唇を重ねられたのだ。美神の体が自分の上にある以上、彼女に出来る事といえば、ただシーツを握り締める事だけであった。 
 
 少しして。 
 名残惜しそうに、美神の唇がキヌから離れた。銀色の糸が尾を引くように伸び、そしてぷつりと途切れる。 
 美神の下で荒く息を吸っているキヌの目は潤んでおり、それが美神の感情をあおっていく。彼女自身も、その感情が何というものなのかは、未だ分からずにいた。 
「…苦しかった? やっぱ…」 
「はぁっ…ですけど…何か、気持ちよかった、です…」 
 情欲に溺れかけた意識で、問いかける美神と、照れくさそうに、笑うキヌ。美神はゆっくりとキヌの左横に体を横たえた。 
 
「じゃあ、次はこっちかな…」 
 美神はそう言いながら、キヌの服の裾から手を忍ばせる。 
「き、きゃあっ!? な、美神さんっ! おじさんくさいですよっ!?」 
 キヌがぴくん、と体をすくませ、そして叫んだ。そういいつつも、嫌がっていないのは何故だろうか。 
「…おっさんくさいって…一言余計ね? らしいって言えば、らしいけど」 
 あ、肌着着てるんだ、とかつぶやきつつ、その下へと手をもぐらせる。 
 さらりとした、まさに彼女の名前にふさわしいその肌。美神は、指の腹でゆっくりとキヌの腹をなぞった。なぞる度、キヌの体がびくびくと震える。 
(…これは…脈あり、とみた。おキヌちゃん、意外に感じやすいんだ…) 
 美神は、キヌの体に指を這わせながらそんな事を思った。美神は経験があるわけではないのだが、何故かそちらの知識は豊富らしく、キヌの反応をすぐに見抜けたのもそのせいだったりする。 
「ねぇ…気持ちいい?」 
 美神は、とりあえず感想を求めてみることにした。その間にも、指を動かすのは忘れずに。 
「…よ、よくわかんないんです、けどっ…い、嫌じゃないです…」 
 シーツをぎゅっと握り締めながら、顔を上気させながら、キヌは返事した。 
「ふぅん…そう、それならいいわ…」 
 美神はキヌの返事を聞くと、そう言ったきり黙り込んだ。 
 本格的にキヌの愛撫に専念し始めたのだ。 
 
 それまで下腹あたりを撫でていた指を、臍のラインに沿って上へと向かわせる。そして、アンダーバストをなぞり、ブラの隙間に指をもぐりこませた。 
「…っ…み、美神さん…取って、もらえますか…?」 
 キヌが、美神の手の動きから目をそらしながら―といっても、服の下で動いているためはっきりと分かるわけではないが―、彼女に頼み込む。 
「…何を? …あ、ブラね」 
 美神の手が入り込んだブラは、キヌの胸を圧迫する形となり、彼女に息苦しさを与えていたのだ。美神は器用に片手をキヌの背中へと回すと、指先でホックを外した。そして、服の外へそれを引っ張り出す。 
「…よっと…これで大丈夫?」 
「あ、はい…っ…ぁ…やぁ、美神さんっ!」 
 キヌの声が、乱れた。美神が彼女の乳房の先端をはじいたのだ。それは、キヌにとっては激しすぎる刺激であり、彼女は体を大きく跳ねさせた。 
「んくぅっ、あ、はぁっ! やぁ、こんな、ああっ!!」 
 キヌは先ほどよりも大きく声を上げた。調子に乗った美神が、もう片方の手も空いた乳房にそえ、同様に愛撫を始めたのだ。先端をつまんだり、押しつぶすようにしたり、これまたはじいてみたり。キヌは、美神の一挙一動に敏感に反応した。 
 いつの間にか、キヌの乳首は軽く弾けば返ってくるほどに勃起しており、美神の指が軽く触れる度、彼女はその体を快感に震わせた。 
 
 少しして、ぴたり、と美神の攻めが止んだ。 
「…服、脱ごっか…おキヌちゃんの胸、直接見たいし」 
「…は、はい…」 
 彼女―美神の台詞を借りれば、この上なくおっさんくさい台詞なのだが、キヌはそれを気にすることもなく、ゆっくりとした動作で体を起こした。 
 もぞもぞと、服の袖から腕を抜き、そして頭から服を抜く。 
 キヌが服を脱ぎ終えると、美神はまじまじとキヌの体を見つめた。 
「…じっと、見ないでください…」 
 流石に、意識がはっきりとしてきたところでは恥ずかしいのか、胸を腕で覆い隠すキヌ。 
「…見るために脱いでもらったんだけどなぁ…ま、いいけど…」 
 美神は乾いた笑いをこぼすと、自らも服を脱ぎ始めた。彼女は、いつものようなボディコンではなく薄手のセーターを着ていたので、容易に脱ぐことが出来る。少しすると、美神も上半身裸、というキヌと同じ格好になった。 
 彼女の胸の頂も、キヌの乱れ方に当てられたのか、軽く立ち上がっている。美神はそれを恥ずかしがるでもなく、キヌに抱きついた。 
 
「うひゃぁっ! み、美神さん…あ、んあっ…」 
 始めは驚いたような声を上げていたキヌだが、美神の先端と自らの先端が触れ合うと、上げる声が戸惑ったような声へと変化した。こりこりと、当たる感覚がもどかしく、けれど気持ちよく。 
 美神の方は、意識して先端が触れ合うようにしているらしく、積極的に胸を押し付けていく。互いの胸が互いの胸で押しつぶされ、温かさと柔らかさを伝え合う。 
「…すごい、気持ちいいわ…おキヌちゃん…」 
 美神の声も少し上ずっており、時折漏れる声が甘さを増してきた。美神は中途半端すぎる快感に焦れたのか、キヌの唇を強引に奪った。 
「んっ…ちゅ…ふぅっ…んむぅっ…」 
 音を立ててキヌの舌を吸い上げると、キヌの体がびくりと大げさ過ぎるほどに震えた。互いに向かい合って座っている状態のため、唾液がお互いの口内を行き来する。美神は、流れ込んでくるそれを飲み込み、そして溢れ出したそれをキヌの口内へと流し込んだ。 
 
「んんっ…むううっ…」 
 キヌは、いきなり唇を奪われたことに、驚いていた。 
(え、な、何!? や、何か、変な感じ…) 
 美神と触れ合っている二箇所から、何とも言いがたい感覚が湧き上がってくる。それは例えるならば、背筋を撫でられたときにぞくり、とする時のような、そんなもどかしい感覚。じんじんと痺れるような感覚が体の中を駆け巡り、キヌは体を震わせた。 
「んーっ! んふぅっ…むぅ…っ」 
 このままでいれば、自分がどうにかなりそうだ。ぞくぞくと駆け巡ってくる快感に、キヌは頭を振り、美神の唇から逃れようとする。 
 
「ん、んん…ぷはぁっ…どうしたのよ、頭振って…嫌だった?」 
 美神は唇を合わせていることが難しくなったのか、一旦キスを止めると、キヌにたずねた。彼女が嫌なことを無理強いするのは、美神とて嫌だ。 
 心配そうな美神の声とは裏腹に、キヌの返事は意外なものであった。 
「…体が、変な感じで…どうにかなっちゃいそうで…怖かったんです…べ、別に美神さんとキスするのは嫌じゃないです…」 
 顔を真っ赤に染め、下を向きながらの返答。美神は、それを聞くと安堵したような表情になった。 
「ああ、何だ…そっか…あのね、おキヌちゃん。どうにかなっちゃいそうなら、どうにかなっちゃえばいいのよ。もっと気持ちよくなれるから、ね?」 
 まるで、幼子をあやす親、又は姉のように優しく言う美神。 
 ちゅ、とキヌの額に軽く口付け、そしてベッドへと寝転んだ。 
 彼女も、キスの連続で疲れたらしい。 
「ふーっ…一旦休憩、ね」 
「…あ、はいっ…」 
 一仕事終えたような表情でキヌに投げかけると、彼女も美神と同じくベッドへと寝転んだ。 
 
 
 それからしばらくの間、二人は他愛もない話に花を咲かせていた。例えば、今日の除霊はどうだった、とか、今度一緒に料理でもしようか、とか。 
 時折、わき腹をくすぐったり、頬に軽いキスをしたりと些細な悪戯を仕掛けていた美神だが、不意にキヌのわき腹に置いていた手を、彼女の太ももに滑らせた。 
「っ! な、何するんですかっ!」 
 その感覚に驚いたキヌが、戸惑ったように声を上げる。その声に怒気は含まれておらず、ただ驚きだけが彼女の思考を支配していることは、一目瞭然であった。 
「何って…もうそろそろ続きしようかなーと思って。さっきので、終わりだなんて思ってたの?」 
 当たり前でしょ、とさらりと言う美神。 
「…え?」 
「私は、一旦休憩って言ったわよ? さ、続き続き♪」 
「え、ちょっと…きゃぁっ!」 
 ズボンのジッパーに手をかけ始めた美神。キヌは恥ずかしがって抵抗を試みるが、美神より力の弱い彼女では到底勝てない。 
 ベッドに両腕を上げたまま、美神の手で固定され。抵抗らしい抵抗をすることもできないまま、ズボンを脱がされてしまった。 
  
「…何てゆーか…おキヌちゃんらしいわねぇ…」 
 キヌのショーツを目にした美神が、ぽつり、と呟いた。キヌのショーツは、色気よりも清純さを醸し出す、シンプルなものであった。余計な装飾のないそれは、彼女そのものを表しているかのように美しく、清らかだ。 
「わ、私だけなんて嫌ですよ…み、美神さんも脱いでくださいっ!」 
 顔を真っ赤にしたキヌは、そう叫んだ。彼女なりの反撃なのだろうが、美神は特に恥ずかしがることもなく、ズボンを脱いでいく。 
 彼女が身に着けていたのは、豪華なレースのショーツ。黒で統一されているそれは、大人の色気を十二分に醸し出す、キヌとは対照的なものだ。 
「これでいい? 私が恥ずかしがると思ってたの? おキヌちゃん」 
「う…」 
 堂々と彼女のそれを見せ付けられ、キヌはうめいた。 
 確かに、そう言われればそうかもしれない。美神さんがちょっとは恥ずかしがったら、優位に立てるかなー、何て一瞬でも考えた自分が馬鹿だった。 
 キヌは、穴があったら隠れたい、と言わんばかりにもがくが、逃げられない。いつの間にか美神が自分の上に乗っかっていたりするから、余計に。 
 
「もう…くだらない事考えるあたりは横島クンそっくりね。今から素っ裸になるかもしれないのに、こんな事で恥ずかしがってたらやってらんないわよ」 
「す、素っ裸って…美神さん、服着ててもできるって言ったじゃ…!」 
 まくし立てるように、キヌの口から紡がれていた言葉が、ぴたりと止んだ。 
 自分の内腿に、美神の白い指が添えられていた為だ。そして、 
「服着たままじゃ、こんな事、できないでしょ…?」 
 美神はそう口にすると同時に、内腿に添えていた指でキヌの肌をゆるゆるとこすり始めた。彼女に、言い知れない快感を送るために。 
 
「あ、はああっ! やぁ、駄目ぇっ!!」 
 キヌは、自分の体に突如起こった変化に、大きく声を上げた。体の中心を突き抜けるような快感が途切れることなく襲い来て、彼女の思考を散り散りに乱していく。 
 
 皆、この快感を求めるために自慰をするのだろうか。美神も、この感覚を一人で味わっていたのだろうか。 
 
 キヌは快感に乱されながらも、どこか冷静な意識でそんな事を考えた。 
 こんな、どうにかなりそうな感覚を、階上の彼女も味わっているのだろうか。 
(恥ずかしいけど、嫌じゃない…もっともっと、気持ちよくなりたい!!) 
 そう思った途端、体が勝手に動いていた。 
「え、おキヌちゃん…!?」 
 美神の驚きの声も聞かず、ベッドに縫い付けられていた腕を振り解くと、それまで自分の腕を固定していた彼女の腕をつかむ。そのまま、自分の乳房へと導いた。 
 はじめはキヌの変わり様に驚いていた美神だが、彼女が何を求めているかを理解すると、すぐに触れているふくらみを揉みしだいた。 
「あ、ああっ!! もっと、もっとぉっ! 美神さんっ!!」 
 キヌは、何がなんだか分からず、ただがむしゃらに快感だけを追い求める。 
 彼女の内腿を愛撫している美神の指が、ショーツ越しにぷっくりと膨れ上がった陰核に触れた瞬間。 
「は、あああああっ…!!」 
 キヌはひときわ大きな声を上げ、オルガスムスに達した――。 
 
 
「……人って、意外なことで変わるものね…」 
 オルガスムスに達し、その瞬間に失神してしまったキヌを見つめながら、美神がぽつりとつぶやいた。結局、Hと言うよりはキヌに快感を教え込んだだけ、と言う形になってしまったが、美神はそれで結構満足していた。 
「うーん…とりあえず、片付けでもしとこっかな…おキヌちゃん、この格好じゃ寒いだろうし」 
 ふう、とため息をひとつ。そして立ち上がると、そこらに散らばった衣服を手早く身に着けていく。 
 服を着終えると、美神はキヌの方を振り返った。ベッドの上ですやすやと眠りにつく彼女は、先ほどあられもない痴態を見せ付けていた少女とは、別人のように清らかで。 
「…まさか、こんなにはまっちゃうなんて、ね…」 
 そう、いつの間にか目が離せなくなっていた。こんな体験をしてしまった以上、もう美神はキヌを手離すことはできない。彼女自身も、それを自覚している。 
 だからもう、離さない。逃がさない。全身全霊をかけて、守り通す。 
 そう、心の中で強く誓い。 
「…好きよ、おキヌちゃん…」 
 眠っている彼女の耳元でそっとささやいて、その頬に口付けた。 
 
 満月の夜の密やかな誓いは、誰にも聞き取られることはなく。 
 美神の心の中だけで、ゆっくりと根付き始めた―――… 
 
 
 Fin. 
 
 

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