世界が揺れていた。
渦を巻き、歪み、捩れ、そして世界は回る。
その世界の中心にいるのは、ヒャクメ。
ヒャクメの股間からは愛液が止め処なく流れ落ちていた。太股を伝い、そして床を濡らしていく。
彼女の視界には揺れる世界を背景に、己の淫らな姿が映し出されていた。
這いつくばり、そして、男に都合が良いように腰を持ち上げる自分。その秘所は濡れそぼりながら口を開き、
ひくひくと震えながら男を待ち望んでいた。
その隣りには無数の触手で身体を嬲られている自分の姿があった。大小様々な触手がヌラリと光る粘液を擦りつけながら身体に巻きついていく。
乳房は絞り上げられ、その両端についている突起物も触手の先からさらに生えているより細い触手で締め上げられていた。
そんな自分の姿から目をそらしても、更なる痴態が行く手を遮る。
アナルを巨大な張り型で拡張されている自分が見えた。
液体を流し込まれて、必死に便意をこらえながら懇願する自分の姿があった。
たくさんの魔族に囲まれ、白濁液を全身に浴びる自分。
回る世界と共に、幾つもの自分の姿が映っていた。
そのどれもが屈辱的で目を背けたくなるものばかりだ。
だが、そらしたところで飛び込んでくる風景は変わらない。
どれも涙を流し、半開きの口から嬌声と懇願を繰り返し、蕩けきった表情で腰を振る己の堕落した姿だ。
幻だとはわかっていた。わかっていても、消えない幻覚は現実と同一の存在だ。
この目が幻だと看破しても、そのイメージが直接脳内で再生される感覚。目を閉じても止まる事の無い腰を振る動き。
見ているだけで、愛液が溢れ出していく。少し、股間の染みが濃くなった。
その時、世界に音が生まれた。
「あぁん! もっと! もっと嬲ってください! ご主人様ァぁぁぁぁ!」
「そこが、おしりの穴がいいんです! あひぃん、ふ、深すぎますぅ……!」
「やめてぇ…おっぱいを、嬲らないでほしいのね……っ! きゃぁんっ! い、イッちゃう! 胸だけでイッちゃう――!」
耳元で反響する自分の声。そのどれもが快楽を訴え始めていた。
ほんの僅か、瞬きよりも早い刹那、その瞬間に間違い無くヒャクメは幻覚に同調していた。
自分の意識が失われ、幻聴と同じように嬌声を上げたくなる感覚。幻覚と同じように前後に動き出す腰。
そんな自分に気がついて、慌てて頭を振る。蠢く世界の中で、手を伸ばしてみるが何も無いはずの空間に、確固として存在する壁。
いつものヒャクメであればこの結界を解析する事も出来たかもしれない。だが、渦巻く世界がそれを阻んでいた。
回り、捩れ、決してヒャクメの目に実像を捕えさせたりはしない。
「ひゃうんっ!?」
予期せず生まれた、何かが太股を触る感覚。それはまるで眼前に広がる自分の痴態が乗り移ったかのような感覚で――
「嫌ぁっ!? な、なんなのねっ!?」
身体を弄られる。何本もの見えない手がありとあらゆるところを弄り始める。割れめは開かれ、クリトリスは摘み上げられた。
尻たぶが開かれ、ひくつく肛門に指が入ってくる。
胸を揉みしだかれながら、乳首が抓り上げられる。
その全てが、錯覚。
服は着たままなのに、その下を何かが這いずり回って快楽を生み出していく。
形を変えていないはずなのに、確かに形が変わるほど乳房はもまれている。
四肢が押さえつけられた。指一つ動かせない。
それすらも、錯覚。
目を自分の身体に向けても、映るのは胎児のように丸まっている自分だけ。
だけれども感覚は四肢が何者かに押さえつけられて、触られている感覚を訴える。
「んぁぁっ!」
腰が反りあがる。固定された身体を全て同時に舐められている。
両手足の指がくわえられ、舐め上げられる。爪の間さえも舐められていた。
そして、始まる拷問。
体中にある、穴という穴が舐められるというおぞましさ。それが全て快楽に変わっている恐怖。
目の前に広がる幻と、目があった。
幻がヒャクメを見て笑う。
その姿はひどく美しく、とても淫猥で、とても嬉しそうで――
とても、羨ましい。
何かがおかしいはずだった。だけど、この羨ましいという感情を疑うだけの余裕は既にヒャクメの精神からは失われていた。
羨ましいのだ。とてつもなく羨ましかった。
何故自分の穴は埋められていないのだろう。
何故嬲られていないのだろう。
何故触られたり、舐められる感覚しかえられないのだろう。
何故、犯し尽くしてくれないのだろう。
再び、幻と目があった。
挑発するような瞳をヒャクメに投げかけた後、幻は男と舌を交わらせ、相手の唾液を口移しで飲まされていた。
その相手は――
「……よこ…しま……さん……」
幻が、横島の男根を咥えた。それを見ているのが辛くなって、慌てて目を閉じる。
瞼の裏の闇さえもが渦巻いていた。そして、浮かび上がる幻。
触手に犯される幻。嬉しそうに男根をしゃぶる幻。便意をこらえながらもその顔に歓喜を浮かべる幻。
数人を相手に輪姦される幻。魔族の放つ白濁液を嬉しそうに舐める私。衆人環視の元で股間にバイブを入れたまま全裸で放置される幻。
触手に埋もれて媚薬に侵されながら絶頂を迎える幻。鞭でつけられた赤い痕を舐められながら喘ぐ私。
犯してくれと懇願する私。犬のような首輪をつけられて足元に跪く私。
ただひたすらに絶頂を迎えて雌犬になり下がる私。
立場も何もかも関係なく、どうしようもないほど疼く身体を慰めてくれと横島さんに懇願する私!
私! 私! 私――!
視界は全て自分の痴態で覆われていた。
そして、心を見透かされたかのように、優しくかけられる声。
「ヒャクメ――」
愛液の量が増えたのがわかった。
心が期待で震える。
犯してもらえるのだろうか。あの私のように。
嬲ってもらえるのだろうか。さっきの私のように。
見ていた幻がヒャクメに感覚を植え付けていた。
そして、全てがヒャクメを襲い始める。
幻の横島がヒャクメの身体を弄り始める。その数は数え切れないほどで、ヒャクメの全身が横島の手によって隠れてしまった。
横島の手に快楽を与えられながら、同じように横島に輪姦されている自分の姿がいくつも脳裏に広がる。
「ひゃあん――や、やめてなのね…そんな…すごい……」
嬲られる自分の姿に興奮を覚えていた。全裸の自分が見せつけるように眼前で、秘所を開いて挑発する。
そして、優しく駆けられる声。
「ヒャクメはえっちだな、ほら、アナルがひくひく誘ってるぞ?
だらしない顔して…それでも本当に神様なのか?」
横島が囁きながらアナルに指を入れる。幻のはずなのに、実際に肉が開いていく感覚。
「やぁ、そんな…うあっ――さ、触らないで……嫌、そんな事、無い…感じやすくなんかっ……あっ、そこはだめぇ! いく、イッちゃうのねっ! あうぅっ!」
幻に嬲られ絶頂を迎えるヒャクメ。盛大に潮を吹き、全身が軽く痙攣を起こしていた。
結界の中で反響する自分がイク声を聞き、イッたばかりだというのに股間が疼いてくる。
「私は……神族なのね……我慢、しなくちゃ…」
僅かに残った理性が、必死に正気を取り戻そうとしていた。
だが、僅かに踏みとどまっていたその精神を、ヒャクメの背中を後押ししようとする声。
「気持ちよくなりたくないのか?」
感覚が止んだ。
後に残されたのは火照り、疼き、肉棒を欲する肉体。
「え……?」
急に止んだ快楽に、ヒャクメは戸惑っていた。これでいい、と納得する自分と快楽を求める本能が対立する。
「あぁんっ」
再び訪れる快楽に、本能が呼び覚まされる。
快楽を貪りたい。気持ちよくなりたい。これがない事なんて考えつかない!
そして、とうとう背中が押される。
「ヒャクメ、堕落して、俺に仕えろ。そうすれば今お前が見ているように犯し、言葉で攻め、弄ってやる…」
「やめて…やめてなの横島さん………あはぁ…そこ、だめぇ! だめなんだってばぁ!」
言葉と裏腹に、ヒャクメの腰は激しく動く。止まることは無い。とめる事など出来ない。
「奴隷になれば…神族をやめ、奴隷になるのならば――これを超えた快楽を――」
答えは一瞬で決まった。
これ以上の快楽?
逆らえるわけが無い。
舌を突き出す。舌に何かが絡む。それだけで、満たされた気持ちになった。
「雌犬になるか?」
横島がとても優しい声で訊いてきた。
答えは、もう先ほど決めたのだ。
ヒャクメは、心の底から忠誠を誓って、そして言う。
「はい、…ご主人様…」
数刻の後、結界が解かれ、世界のゆがみも消えた。
歪まぬ世界の先にいる人をヒャクメは見る。
仕えるべき存在。身も心も満たしてくれる、己の主人が其処にいた。
「調子はどうだ?」
横島が訊ねた。その存在が幻ではない事を確かめたくて、思わず抱きついてしまう。
そして、何度も幻の横島を相手に練習した言葉がこぼれだす。
「ご主人様…あなたに忠誠を誓うのね…」、と。