「ん〜〜〜〜っ。………ふあ〜あ」  
教会の入口に立ち、空に向かって大あくび。  
――今日も穏やかないい天気だ。  
今日は仕事も休みで、先生は出かけてて、久しぶりにゆっくりできる…。  
女生徒にもエミさんに迫られることもない、平穏な一日…。  
「ピート……ピートぉ…」  
――う、噂をすればっ。  
彼女も休みなのか……先生もいないし、参ったなあ…。  
悪い人じゃないし、いや、むしろ魅力的な人なんだけど、強引なのがちょっとなぁ…。  
だ・だってほら、僕はバンパイア(ハーフだけど)なワケで、  
やはり女性側に強引にされるよりは僕の方から……。  
――って、何考えてんだっっ!  
「ピート……ピートぉん……っ、た、助けてえぇ…」  
………え?  
何だか変だ。近くまで声がしてるのに迫ってこない。  
その声もいつもと響きが違う。  
それに『助けて』って……!  
「――エ、エミさん……っ!?」  
慌てて声の方へ走る。礼拝堂の中か…?いつの間にっ!  
 
「エミさん……っ!?」  
「あぁ……ピートぉん……っ。よかった…いてくれたワケ…」  
エミさんは礼拝堂の一番奥、いつも先生が尊いお話をされてる教壇にもたれかかって、  
その……いわゆる自制行為を……っ。  
「ピート、ピートぉ……っ」  
褐色の肌が引き立つ純白のボディコンがあられもなくはだけ、  
細い指がその肌を滑り、なぞる――。  
艶めいた声が僕を誘うように濡れた唇から零れる――。  
 
綺麗だ……。  
 
――ぼ・僕はなんてことをっ!!  
いくらなんでもこれは尋常じゃない……きっと何かがあったんだ!  
「――ど…どうしたんです、何があったんですか…っ!」  
「ふふ……ざまあないワケ……低級霊に憑依されたワケ……あっ」  
「どうして……っ。あなた程の人が、そんな低級霊なんかにっ」  
眩しすぎる――引き寄せられてしまう身体から必死に目をそらしつつ訊ねる。  
「つい、ね……同情しちゃったワケ…。霊能者としては失格よね…令子にもきっと笑われるわ。  
でも……好きな人に振り向いてもらえず焦がれ死に……他人に思えなかったワケ…」  
「憑り付かれたら、思いが溢れて、止まらなくなって…身体が熱くて堪らなくて…っ」  
 こんな状態、あなた以外に見せたくなかったから…。だから必死にここまで来たの…」  
エミさん……っ。  
 
「――ど、どうすればその低級霊から開放されるんです?  
どうしたらエミさんは楽になれるんですか…っ?」  
「それは……っ」  
珍しく口ごもり、恥ずかしそうに顔を背ける。…身体をなぞる指は止まらなかったが。  
「なんです…?僕にできることなら言ってください。だからここに来たんでしょう?」  
少しだけ傍に寄り、少し屈んで問いかける。  
「それは…ね、ピート…。好きな人に、身も心も捧げること…好きな人とひとつになること……。  
私の好きな人は……ひとつになりたい人は、ピートだけなワケ……っ」  
恥ずかしさに耐え、頬を染め上げて僕を見る。  
甘い吐息が僕の方にまで漏れてきそうだ――。  
 
――ごくり、と喉が鳴る。  
何だろう、この衝動は。  
祖先の血が騒ぐのか?獲物を目の前にして、自分に従わせるべく身体が熱くなる――。  
 
「ピートの…したいように、して……。私はピートだけのものだから」  
「……………っ!」  
 
神よ……これは人助けですっ。  
迷える霊と、僕に好意を寄せてくれるこの健気で魅力的な女性の二人を救う尊い行為です…。  
――お、お許しくださいっ。  
「エミさん……っ!」  
ぎゅうっ、と抱きしめる。細い――だけど柔らかく身体は熱を帯びて僕に応える…。  
 
――えーとえーと、やっぱりいくら非常事態でも、こーゆー時はやっぱりコレから…。  
「――エ、エミさん……っ、」  
「ん……っ」  
温かく柔らかい…しっとりとした唇の感触が僕を惑わす。  
「ねえピート…触ってぇ…」  
「さっ…さささ触って、って……うわあっ」  
腕をつかまれ、女性の神秘に導かれる。  
そこは暖かく柔らかく、溢れる「想い」でいっぱいだった。  
その感触に、僕の理性が消えてゆく…!  
「…………いきますよ」  
「え……って、きゃあっ!」  
強引に脚をかき開き、露になった花園に僕自身をあてがい、一気に貫いた――!  
「そんな、ピートぉ…っ!…そんな、いきなりぃ……あ、あはぁんっ!」  
僕自身には経験のないことだったのに、  
なぜだろう。どうすればいいか、僕は知っている。  
この忌まわしい血のせいなのか。  
血……血の、匂い。僕と彼女の繋がった場所から、動きに合わせて漂ってくる。  
彼女の…純潔の、証……。  
――コノオンナハ、ワレノモノ――  
獲物を手に入れた達成感と下僕を得た喜びに、僕の身体がかあっと熱くなる。  
よりいっそう硬度を増した僕自身で、より激しく彼女を貫く。  
「ああ……ピート…ピートぉ……っ」  
僕の下で苦痛と快楽に喘ぐ、そんな姿を見るのも僕だけだ。  
他の誰にも渡しはしない――!  
「エミさん………っ!」  
「ピートぉ……っ、――あっ、あはあぁぁぁ………んんっっ!!」  
 
――乱れた呼吸を整え、エミさんをそっと見やる。  
初めて…だったんだよな。  
それなのにあんなに激しくして、大丈夫だったかな…。  
――と、横たわっていた彼女がすう、と立ち上がった。  
『ありがとう……』  
ふう……と霊体が浮かび出てきた。これで本当に成仏できるのかな…。  
こっちを振り向き、晴れやかな笑顔を向ける。  
――ああ、もう大丈夫だ…。  
『彼ったら見かけによらないのね〜。  
 シャイで困ってるって聞いてたのにビックリしちゃったっ。…お幸せに〜♪』  
「こちらこそ、ありがとうなワケ〜♪」  
ニコニコと手を振り合う霊能者と低級霊。ほのぼのとしたいい光景だ…  
…って、ちょっと待てっ!  
「エ、エミさん……?」  
「あらん、ピートぉ♪ほら見て、あなたのおかげで彼女も成仏できたのよ」  
「グル、だったんですね……」  
ううっ。あんなに必死になった僕の立場は……?  
「ごめんねピートぉ…。でもね、低級霊の話はホントなワケ…。  
私がそれに同情したのも、ね」  
消えてゆく彼女をそっと見送りながら小さく呟く。  
「私から彼女に提案したの。好きな人と一体になる喜びを私の身体で味わってみない?…って」  
好きな人……やっぱり、僕のこと、かな…。  
「…まさかあんなに情熱的に愛してくれるなんて思わなかったから  
痛かったしビックリしたけど、…嬉しかったワケ」  
…僕も嫌じゃなかった……でもやっぱり引っかかる。  
 
「…僕は、ハメられたんだろうか……?」  
「――違うわよピートぉ♪ハメてくれたワ・ケ」  
不思議と怒りは湧いてこない。むしろ嬉しかった。  
……これからの関係を暗示してるようで、先行き不安でもあったが。  
 

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