『アンバランス』
「はぁっ…。」
夕暮れ時の誰もいない教室で、彼女は自分の机に座りながら深いため息をついた。
彼女にとってこの教室は自分の家の庭のようなものだった。
彼女の名は愛子。机を媒体とする妖怪である。
過去に美神に改心され、今は生徒としてこの学校に通っている。
だが実際は学校に住み着いていると言っても過言ではないだろう。
妖怪故に彼女には帰る場所も、また帰りを待ってくれる者もいない。
学校に置いてある自分の妖机の中で毎日一人寂しく一日を終える。
殺風景な暗く寂しい部屋、そして今となっては自分一人しかいない妖机の中で…。
愛子はその事で少し悩んではいたが、他に一つ大きな悩みがあった。
彼女はどうやって自分が生まれてきたのか覚えていない。
ただ、生まれてから最低でも30年は経っていることは確かだ。
その間、彼女は自分の霊力で作った学園で他の生徒達と共に暮らしてきた。
ずっと、ずっと、30年以上もの間…。
その間、自分の体が成長する事はなかった。
もしかすると自分はこれ以上成長しないのかもしれない。
自分が最初から身体的、精神的に完成した状態の妖怪だとすれば当然の事だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
それに関して思い当たる節がある。
いつの頃か読んだ本にこんな内容が書かれていた。
『強大な霊力と精神力を兼ね備えた悪魔なら
最初からある程度の力を備えた妖魔を作り出す事が可能である』
そういう内容が記されていた。
多分、自分も何らかの都合上で作られたそのような存在なのだろう。
そう考えるとすごく気が滅入った。
「…妖怪の私が、ここにいてもいいのかな…?」
自然と独り言になってしまう。
声に出すことで何かしら安心できると思ったのかもしれない。
が、その言葉は逆に自らの心を締めあげた。
愛子はふと顔をあげ、夕日が沈み暗くなった空を確認すると
自分の机を降り窓に向かって自分の細い腕を伸ばした。
窓の鍵を閉めながら愛子はボソッとつぶやいた。
「…明日…彼に聞いてみよう。」
愛子の頭には一人の人物が浮かんでいた。